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ニュー・ゲーム

公開済みストーリー・相関図

公開済みストーリーをYouTubeで公開中!!

1章 最高のギャンブルを

2章 ドローイング・デッド

3章 インヴォーク

4章 ニュー・ゲーム-第1話~第2話

相関図

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第4章 ニュー・ゲーム 第3話

○メディーラの私室

  【プレイヤー】と
  メディーラが
  向かい合っている。


「私の新しい目的
  それは……」

メディーラ 
「ザ・ゼノンを潰す事よ」

【プレイヤー】
「ザ・ゼノンを潰す……?」

  メディーラは
  不敵な笑みを浮かべると、
  窓の先のデッキを指して。

メディーラ 
「……そうね
  続きは夜風に当たりながら
  話しましょうか……」

○クイーンメディーラ号・デッキ

  メディーラ私室から
  つながるデッキ。
  夜風が潮の香りを
  運んでくる。
  欄干に肘をつき
  海を眺めながら、
  メディーラは
  静かに語り始める。

メディーラ 
「……私は、
  ザ・ゼノンには
  全てがあると思っていた

緻密な戦略
  予測できない展開
  そして何より
  『命を賭ける』という
  至上のスリル……

私の求める全てが
  ここにある。
  本当にそう思っていたわ」

  メディーラ、眉根を寄せて。

メディーラ 
「けれど、
  この大会には
  致命的な欠陥が
  あった……

ゼノンザードを
  愛していないのよ
  よりにもよって
  主催者がね
彼らにとってザ・ゼノンは
  単なる手段に過ぎないのよ」

【プレイヤー】
「手段? 一体何の……?」

メディーラ 
「おおかた
  コードマンの研究か、
  エレメントの研究……
  そんなところかしら
儲かればそれでいいって
  人達も中には
  いるでしょうね

何にせよ、主催者が
  『外側』の理由で
  大会を好き勝手
  いじくりまわして……

この最高のギャンブルを
  つまらなくしているなんて
  愚の骨頂だわ」

メディーラ 
「だから、こんなザ・ゼノン
  早々に幕を下ろしてやるの」

  メディーラは
  振り返り、
  【プレイヤー】に
  向き合う。

メディーラ 
「……私達が優勝する事でね」

メディーラ 
「どうでもいい欲や利権で
  無様に膨れ上がった
  この大会の息の根を止めるのは
  それが一番手っ取り早いから
  そして――」

  メディーラ、
  瞳に決意を湛えて、

メディーラ 
「『本当のザ・ゼノン』を
  開催するのよ
  私達の手で」

  メディーラの意図を
  感じ取った
  【プレイヤー】が
  確認する。

【プレイヤー】
「純粋なザ・ゼノン、って事?」

メディーラ 
「ええ、その通りよ
  『ゼノンザードを愛する者』の
  ための、世界最高の
  ゼノンザードの大会
それが、『ザ・ゼノン』の
  本来あるべき姿……

私なら、
  ビホルダーなんかよりも
  もっともっと
  スリリングなステージを
  用意してあげられる
その為に
  勝って勝って勝ち続けて……」

  メディーラ、
  挑むように
  【プレイヤー】の瞳を
  じっと見つめて。

メディーラ 
「【プレイヤー】
  ザ・ゼノンを勝ち抜くには
  アナタの力が必要なの。
  協力してくれる……?」

【プレイヤー】
「もちろん」

  悩む間もなく
  返ってきた
  【プレイヤー】の
  答えに、
  安心したように
  笑みをこぼすメディーラ。

メディーラ 
「ありがとう
  アナタならきっと
  そう言ってくれるって
  わかっていたわ」

メディーラ 
「アナタをコンコードに
  選んだ時……
  確率だけでは測れない
  『何か』を感じたの」

メディーラ 
「実際にアナタは私が
  思った通りの、いえ、
  それ以上の
  力の持ち主だったわ
私の目的を果たす為に
  アナタは無くてはならない
  存在……そう、」

メディーラ 
「アナタが、私の切り札よ」

  そう言うと、
  期待と信頼が
  込められた力強い
  視線を
  【プレイヤー】に
  向けるメディーラ。
  【プレイヤー】は
  その眼差しに
  応えるように
  頷いて――

○ザ・ゼノン バトル会場

  翌日、あるバトル会場。

アナウンサー
「勝者、
  メディーラ&
  【プレイヤー】~!!」

  歓声が響く中、
  フィールドを後にする
  メディーラ達。

○バトル会場・控室

  バトル後、控室に
  戻ったメディーラ達の元を
  ミーナが訪ねてくる。


「【プレイヤー】さん
  メディーラさん!
  お疲れ様です!」

ミーナ
「今回のバトルも
  お見事でした!」

  メディーラ、
  「さも当然」
  といった様子で。

メディーラ 
「ありがとう、ミーナ」

メディーラ 
「バトルが終わった
  ばかりだけど
  あまりゆっくりも
  していられないわ。
  船に戻らないと」

ミーナ
「はい、次は
  クイーン・メディーラ号での
  公認トーナメントですね」

メディーラ 
「車を用意させているわ
  ミーナも一緒に
  乗っていく?」

  微笑みつつ同乗を誘う
  メディーラ。
  ミーナは
  遠慮しようとして。

ミーナ
「いえいえそんな、
  どうぞお気遣いなななななな
  なななななななななな
  なななななななななななな」

  突然フリーズするミーナ。
  驚くメディーラ達。

メディーラ 
「み、ミーナ!?」

ミーナ
「ザッ、ザザーッザッ
  ザーーーーーーーーーッ」

  硬直したまま
  ノイズを
  吐き出したかと思うと、

ミーナ
「け……
  消……す……
  魔女を……知る者……
  跡形もなく……」

メディーラ 
「…………!」

  ミーナは
  いきなり
  ガクンッ、と
  くずおれて

ミーナ
「ピ、ガガッ、
  ジーーーーーー…………」

  すぐさま直立し硬直、
  バイザーにエラーコードを
  表示し始める。

ミーナ
「予期シナイエラーガ
  発生シマシタ
  人格プログラムヲ正常ニ
  実行デキマセン
  再起動シテクダサイ」

ミーナ
「予期シナイエラーガ
  発生シマシタ
  人格プログラムヲ正常ニ
  実行デキマセン
  再起動シテクダサイ」

  無感動にメッセージを
  繰り返し続けるミーナ。

メディーラ 
「これは……」

○バトル会場・外

  バトル会場から
  迎えの車が
  停まるロータリーへと
  向かう道すがら
  先程の出来事に
  ついて話している
  メディーラ達。

【プレイヤー】
「ミーナ、大丈夫かな……」

メディーラ 
「どうやら外部からの
  ハッキングを受けたようね」

メディーラ 
「検査をしたエンジニアは
  すぐにでも復旧できると
  言っていたけれど……」

【プレイヤー】
「誰があんなことを……」

  メディーラは一見
  興味がなさそうな様子。

メディーラ 
「さあ、誰でしょうね」

メディーラ 
「ただ、誰にでもできる事では
  ないのは確かよ」

メディーラ 
「ミーナのシステムは
  ビホルダーのネットワークに
  繋がっているはずだから
  プロテクトも固いはず
可能だとしたら内部の者か
  あるいは……」

  思案するメディーラ。

【プレイヤー】
「何かの脅しかな」

メディーラ 
「脅し、ね……
  それにしては要領を得ない
  内容だったわ

脅すのであれば
  要求をきちんと
  伝えなくちゃ。
  そうでしょう?」

  そこまで言うと
  ふう、と息を漏らす
  メディーラ。
  ロータリーには
  迎えの車が
  停まっていて。

メディーラ 
「まあ、考えても
  仕方のない事ね
  行きましょう
  【プレイヤー】」

  車のドアを
  開ける為、先を行く
  【プレイヤー】。
  メディーラは
  【プレイヤー】の
  背を眺めつつ、
  考えを巡らせている様子で

メディーラ 
「魔女を、知る者……」

  不吉な言葉に
  悪い予感が
  ぬぐえないようで――

//END

 

第4章 ニュー・ゲーム 第4話

  メディーラがディーラーを
  務めるテーブルで
  テキサス・ホールデムに
  興じている
  【プレイヤー】と
  上客A。

上客A
「……よし、レイズだ」


「【プレイヤー】
  アナタのアクションよ」

【プレイヤー】
「さらにレイズ」

  【プレイヤー】は
  眉一つ動かさずに
  賭け金を吊り上げる。
  上客もまた不敵に
  笑って。

上客A
「ほう、強気だね
  私はさらに
  レイズさせてもらおう」

【プレイヤー】
「さらにレイズ」

上客A
「まだ吊り上げると
  いうのかい?
  面白い……
  もう一度レイズだ!」

上客A
「さあ、キミは
  どうするんだい?
  フォールドするなら
  今のうちだ」

  揺さぶりをかけるように
  【プレイヤー】を見る
  上客A。
  【プレイヤー】は
  飄々とした風情で
  アクションを宣言する。

【プレイヤー】
「オールイン」

  【プレイヤー】の
  宣言に、思わず瞠目する
  メディーラ。

メディーラ 
「あら……」

上客A
「相当自信があると
  見えるね……」

  上客Aは
  紳士的に頷いたかと
  思うと、一転して
  獣のような勝負師の
  笑みをむき出しにする。

上客A
「だが、この勝負は
  私の勝ちだよ……!
  メディーラ、私も
  オールインだ」

メディーラ 
「では、ショーダウンよ」

  冷静に、上客Aに
  ハンドを公開するよう
  促すメディーラ。
  上客のハンドは
  「A」と「10」。
  場札と組み合わせる。

メディーラ 
「アナタは……
  『A・A・10・10・10』の
  フルハウス」

上客A
「フフッ
  キミの手はどうかな」

  自信満々の上客A。

メディーラ 
「【プレイヤー】の
  ハンドは……」

  ハンドを公開する
  【プレイヤー】
  それは二枚の「A」で。

メディーラ 
「『A・A・A・Q・Q』の
  フルハウス……!」

上客A
「な、なんと!」

メディーラ 
「接戦だったわね
  僅差で【プレイヤー】の
  勝ちよ」

  嫣然とした笑みを
  添えつつ
  チップを
  【プレイヤー】の元へ
  送り出すメディーラ。

○クイーン・メディーラ号 ラウンジ

  飲み物を手に、
  休憩中の
  【プレイヤー】と
  上客A。
  上客Aは先程の
  【プレイヤー】の様子に
  しきりと感心していて

上客A
「いやあ、負けてしまったね
  実に見事な
  賭けっぷりだったよ」

上客A
「以前ご一緒させてもらった
  時は、あんなに
  おっかなびっくり
  プレイしていた
  というのに……」

  出会った頃の
  【プレイヤー】を
  思い返し、
  感慨にふける上客A。
  それから、嫉妬交じりに
  からかうように、

上客A
「メディーラの薫陶の
  賜物かな
  すっかり度胸が
  ついたようだね」

【プレイヤー】
「『命賭け』に比べれば簡単」

上客A
「うん……?」

  【プレイヤー】の
  発言にキョトンとする
  上客A。
  勝手に解釈して。

上客A
「人生という命懸けの
  ギャンブルに比べれば、
  ポーカーなんて
  どうって事ない。
  そんな意味かな?
至言じゃないか。
  メディーラの元で
  得るものはやはり
  多いようだね。
  まったく、羨ましいよ」

上客A
「どうだい、
  【プレイヤー】君
  もうワンゲーム
  付き合っては……」

  と、激しい衝撃。
  腹の底に
  響き渡るような
  重音と共に、
  船が急停止する。
  尻もちをつく上客A。

上客A
「わわっ
  な、なんだ!?」

メディーラ 
「一体何事……!?」

  メディーラが
  船員AIに
  問い合わせる。

QM号船員
「報告します!
  本船は先程、機関部が
  突如停止いたしました!
  現在航行不能!
  原因は不明です!」

メディーラ 
「なんですって……!」

メディーラ 
「ひとまず、お客様への
  アナウンスは私からするわ
  アナタ達は対応を
  お願い……!」

  船員やカジノのスタッフに
  迅速に指示を始める
  メディーラ。
  と、それをあざ笑うような
  声がどこからか響いて。

???
「フフフフフ……
  あはははははははっ!!」

メディーラ 
「……何者なの
  姿を見せなさい」

  船内のホログラム投射機を
  ハックしたのか、
  この事件の犯人――
  クレイのホログラムが
  映し出される。


「お船が突然止まったくらいで
  みっともなく
  慌てちゃって……
  いいザマだわ、
  メディーラ・バラーニ!」

  憎い相手の動揺を
  目にして
  喜悦に歪むクレイの顔。
  メディーラは――
  興味深そうに
  クレイを見ていて。

メディーラ 
「アナタ……
  マックスの部下だったわね。
  名前は確か、
  クレイちゃん、
  だったかしら?」

  クレイ、額に
  青筋を浮かべて。

クレイ
「クレイちゃん、ですって?
  よくそんなナメた口
  利けるわね……!
  自分の立場分かってる?」

メディーラ 
「そうね……
  さしずめ、私と
  マックスが
  仲睦まじくしているのが
  気に入らない。
  だから私に
  嫌がらせをしにきた。
  そんなところかしら」

メディーラ 
「『エレメント・ベット量の
  上限設定』
  ……だったかしら
  あれもアナタの
  仕業でしょう?」

クレイ
「そこまで察しがついていて
  よくもまあ
  そんなにのほほんとして
  いられるわね」

  メディーラ、
  ふっ、と笑んで。

メディーラ 
「あら、女の子から
  憎まれるのなんて
  慣れっこよ」

クレイ
「今からあたしが言うことを
  聞いても
  そんな態度を
  続けられる?」

クレイ
「今、アンタが乗ってる
  チャチな船を
  ビホルダーが所有する
  SLBM
  (潜水艦発射弾道ミサイル)
  が狙ってる」

クレイ
「あたしが
  手元のスイッチを押せば、
  海域ごと蒸発させられるわ」

メディーラ 
「………………!」

クレイ
「アンタ達コードマンが
  そんなことでは死なないのは
  百も承知よ」

クレイ
「素体が吹き飛んでも、
  新しい素体に
  バックアップデータを
  インストールして
  ハイ、元通り……だものね」

クレイ
「でも……
  その船に乗っている
  コンコードや
  客達はどうかしら?」

  メディーラの表情に
  陰りが見え始める。
  
クレイ
「……アンタが
  大事にしているモノ
  全部全部
  ぶち壊してやるわ」

クレイ
「アンタが死ぬのはその後。
  絶望のドツボに
  叩き込んでから
  エレメントを
  搾り取ってやる……!」

  嫉妬と憎悪、
  そしてそれを満たせる
  という愉悦に、
  相貌を崩すクレイ。
  しかしメディーラは……

メディーラ 
「フフッ……」

  と笑みを漏らして。
  激昂するクレイ。

クレイ
「何がおかしいの!?」

メディーラ 
「いいわね、アナタ
  とっても素敵よ……!」

メディーラ 
「私のために
  こんなに面白いゲームを
  用意してくれる
  だなんて……!」

  頬を紅潮させ、
  興奮に身を震わせる
  メディーラ。
  その姿に、
  クレイは自分の
  負の感情も忘れ
  圧倒される。

クレイ
「はあ!?
  アンタ、
  状況わかってんの!?」

メディーラ 
「あら、勿論よ」

メディーラ 
「この船が吹き飛べば
  アナタの勝ち。
  無事だったなら私の勝ち。
  とてもシンプルな
  ゲームだわ」

クレイ
「な、なに言ってるのアンタ
  ゲーム?
  バカじゃないの!?
  あたしが起動スイッチを
  持ってるのよ!
  アンタ達が消し飛ぶのは
  確定しているわ!」

メディーラ 
「そう
  なら押してごらんなさい」

クレイ
「なっ……!?」

  ケロリと言ってのける
  メディーラに、
  絶句するクレイ。
  メディーラはさらに
  追い詰めるように

メディーラ 
「……私の事、憎くて
  たまらないのでしょう?
  だったらほら、
  そのスイッチを押すのよ」

  先の読めない
  極限の状況に
  【プレイヤー】は――

【プレイヤー】
「いいね、
  ゾクゾクする……!!」

  メディーラと全く同じく
  身を震わせる興奮に
  歓喜している。
  その様子にメディーラは
  満足そうに頷いて。

メディーラ 
「フフッ、アナタもすっかり
  こちら側の人間ね……」

メディーラ 
「たまらないでしょう……?
  たったひとつの命(チップ)
  を賭けるこの感覚……!!」

  恍惚の表情を浮かべ、
  その身を両腕で
  かき抱くメディーラ。
  興奮のままに
  クレイを焚き付ける。

メディーラ 
「さあ、押しなさい……!
  ベットは済んでいるわ。
  運命の行く末を
  私に見せて……!!」

クレイ
「このギャンブル狂いが……!
  後悔しても
  もう遅いわよ!!」

  狂気に飲まれまいと、
  自分を奮い立たせ
  クレイはスイッチを
  押すが――

クレイ
「……………………」

メディーラ 
「……………………」

クレイ
「………………あれ?」

メディーラ 
「……フフッ、
  どうやらこの賭け
  私の勝ちのようね」

クレイ
「そんな、あれっ、
  このっ、このっ……!」

  縋り付くように
  何度もスイッチを押す
  クレイ。
  しかし、何の反応もない。

クレイ
「どうして発射しないの!?」

メディーラ 
「そうね……
  初心なクレイちゃんに
  ひとつだけアドバイスを
  あげるわ」

メディーラ 
「企み事をする時は、
  仲間はもっと
  吟味した方がいいわよ」

クレイ
「なっ…………!」

メディーラ 
「……いるんでしょう?
  そろそろ出てきたらどう?」

  柱の陰に声をかける
  メディーラ。
  と、深いため息とともに
  何者かが歩み出てきて

???
「はあ~
  何でもお見通しってわけ?
  気に入らねー……」

  カジノの照明の中に
  躍り出てきたのは
  ヒナリアだった。

メディーラ 
「やっぱり乗っていたわね
  ヒナリア」

【プレイヤー】
「裏で手を組んでいたの?」

  メディーラがヒナリアに
  何らかの依頼をしていた
  ものと考えた
  【プレイヤー】。
  しかしヒナリアは
  呆れつつ頭を振る。


「オイオイ
  暢気な奴だな、オマエ。
  そんなわけねーじゃん」

ヒナリア
「クレイが用意した
  SLBMの発射権限……
  今そいつを握ってるのは
  ヒナなんだぜ?」

  意地悪っぽく笑う
  ヒナリア。
  メディーラは
  やれやれと肩をすくめて、

メディーラ 
「まあ、
  そんなところだろうと
  思っていたわ……」

ヒナリア
「状況はなんら
  変ってないってわけだ。
  今、この船の命運は
  ヒナが預かってる」

ヒナリア
「さあ、ヒナの言うことを
  聞いてもらおうか……?」

//END

 

第4章 ニュー・ゲーム 第5話

○クイーン・メディーラ号 カジノ

  メディーラと
  【プレイヤー】、
  ヒナリアが
  向かい合っている。
  中空に浮かぶ
  クレイのホログラムは、
  状況を飲み込めず、
  ヒナリアを
  睨みつけている。


「さあ、ヒナの言うことを
  聞いてもらおうか……?」


「ヒナリア・ダーケンド……!
  アンタどういうつもり!?」

  ヒナリアは
  クレイの剣幕など
  どこ吹く風で。

ヒナリア
「どうも何も、
  最初からこういうつもり
  なんだけどな」

クレイ
「アンタが、このクソ女を
  苦しめる良い策があるって
  言うから……っ!」

ヒナリア
「おう
  だから、この船の機関部を
  止めるまでは
  やってやっただろ?
  そんでヒナの仕事は
  おしまい

ヒナもちょうど、
  メディーラを問い詰める
  いい方法を探してた
  ところでさー
オマエが持ってるSLBM
  (潜水艦発射弾道ミサイル)
  のアクセス権。
  こいつが
  欲しかったんだよね~

いくらヒナでも
  ひとりで防壁くぐって
  ハックするのは
  メンドーだったからさ」

ヒナリア
「色々ラクさして
  もらいましたー
  あざーす」

クレイ
「最初っから
  そのつもりで……!」

ヒナリア
「だからそう言ってんじゃん」

クレイ
「クソッ、クソクソクソッ!
  アンタ、あたしを
  裏切ってタダで済むと
  思ってるの!?
  覚悟しなさい!」

  ヒナリアをぎろりと
  睨みつけるクレイ。
  ヒナリアは相変わらず
  動じていない様子。

ヒナリア
「あーはいはい
  わかったわかった。
  了解でーす。
  お待ちしておりまーす」

クレイ
「アンタも追い詰めて
  ぶっ殺してやるわ……!
  それも、思いっきり
  屈辱的な方法で……!!」

ヒナリア
「あーもううるせえな
  いいからROMってろよ」

  ヒナリアは
  騒ぎ立てるクレイに
  うんざりしたのか、
  クレイの音声を
  シャットアウト
  しようとする。

クレイ
「あっ、ちょっと、
  待ちなさい!
  まだ話は……!」

  ミュートされる
  クレイの音声。
  それでもなお
  騒ぎ立てる様が
  ホログラムで
  映し出されていたが、
  それも煩わしく
  思ったヒナリアが
  完全にクレイの
  通信を締め出してしまう。

ヒナリア
「ふーーーー
  さて、うるさいモブが
  片付いたところで……」


「あら、お話はもういいの?」

ヒナリア
「ああ、アイツはもう用無し」

  メディーラ、
  からかって。

メディーラ 
「まあ、ダメじゃない
  ヒナちゃん……
  折角できたお友達なんだから
  大事にしてあげなくちゃ」

ヒナリア
「誰がヒナちゃんだ
  ガキ扱いすんじゃねー。
  ったく、調子狂うな……」

ヒナリア
「それにしても、
  ヒナの仕業って
  よくわかったな。
  気取られねーよう
  気は使ったんだけど」

メディーラ 
「フフッ
  いくらアナタの特技が
  ハッキングとはいえ……」

  すっと両腕を
  広げるメディーラ。

メディーラ 
「ここは私の領域よ
  どんな些細な痕跡も
  見逃さないわ」

ヒナリア
「チッ
  やりづれえな」

ヒナリア
「……まあいい、本題だ」

  真剣に、
  メディーラの顔を
  じっと睨みつける
  ヒナリア。

ヒナリア
「……オマエ、
  どこまで知ってる?」

  メディーラは
  あくまで軽い調子で、

メディーラ 
「何の話かしら」

ヒナリア
「…………魔女、だよ」

  「魔女」という単語に
  先日のミーナの件を
  思い出すメディーラ。

メディーラ 
「ミーナをハッキングしたの
  アナタだったのね」

ヒナリア
「クレイの奴の
  宣戦布告に
  乗っかっただけさ
  混線して
  訳わかんねー内容に
  なっちまったけど」

メディーラ 
「ふうん……
  魔女、ねえ……」

ヒナリア
「知ってる事、
  洗いざらい喋って
  もらうぜ」

  ヒナリア、
  【プレイヤー】を見て。

ヒナリア
「おい、オマエは?」

【プレイヤー】
「魔女? なにそれ?」

ヒナリア
「本当に知らねえのか?
  しらばっくれてるんじゃ
  ないよな?」

  メディーラ、
  はっとして。

メディーラ 
「魔女……
  そうね、ひとつ、
  思い当たる事があるわ」

ヒナリア
「本当か……!?」

メディーラ 
「マックスから
  聞いた話なのだけれど……」

  ビホルダー幹部の名に、
  メディーラが
  重要な情報を持つと
  確信するヒナリア。

ヒナリア
「そうか……!
  やっぱりビホルダーが
  噛んでやがるんだな……!」

ヒナリア
「喋ってもらおうじゃねえか」

メディーラ 
「ええ、
  話してあげてもいいわ。
  だけどヒナリア
  アナタ……」

メディーラ 
「ここでのルールを
  知らないの?」

ヒナリア
「は……?」

メディーラ 
「欲しいものは
  賭けで手に入れる。
  それがこの船のルールよ」

  メディーラ、
  まるで駄々をこねるように
  口をすぼめて。

メディーラ 
「私の情報が欲しいなら
  アナタも
  何か賭けてくれなきゃ」

ヒナリア
「おい、オマエ……
  ヒナがSLBMの
  スイッチを持ってるの、
  忘れてるわけじゃ
  ねえだろうな」

ヒナリア
「ヒナが圧倒的に有利なんだ
  こんな状況じゃ、
  賭けにはなんねーぜ?」

  脅しの材料を
  ちらつかせるヒナリア。
  メディーラは
  変わらず笑みを
  浮かべたまま。

メディーラ 
「フフフ……
  ヒナリア……
  アナタ、お喋りに
  時間をかけ過ぎよ」

ヒナリア
「あ?」

メディーラ 
「SLBMのコントロールは
  既にこちらで掌握させて
  もらったわ」

ヒナリア
「…………!」

  システムの制御権を
  確認するヒナリア。
  ヒナリアがクレイに
  接続していた回線を
  通って、
  メディーラがすでに
  SLBMの制御権を
  奪っている事に気付く。
  
ヒナリア
「……ちっ
  この程度の脅しで
  慌てるタマじゃねえとは
  わかってたけど……」

ヒナリア
「こうもあっさり
  コントロール奪われるなんて
  ヒナも形無しっつーか」

メディーラ 
「言ったでしょう
  ここは私の領域だって。
  いくらアナタの得意分野でも
  ここでは私が女王よ」

メディーラ 
「さてと、これで私が
  アナタの言う事を
  聞いてあげる必要は
  なくなったわけだけど……」

  ヒナリア、
  「参りました」と
  両腕を上げて
  ひらひらさせる。

ヒナリア
「はあ……
  わかったよ
  おとなしく退散しときゃ
  いいんだろ?」

  去ろうとするヒナリア。
  しかしメディーラは
  呼び止めて。

メディーラ 
「あら、帰れだなんて
  言ってないわよ」

ヒナリア
「お互いもう用はねえだろ?
  こうなったらもう
  ヒナさっさと帰って
  寝たいんだけど」

メディーラ 
「何を言っているの?
  そんなの
  つまらないじゃない」

ヒナリア
「つまらない、って……?」

メディーラ 
「ヒナリア、
  バトルをしましょう」

  アウロスギアを
  取り出すメディーラ。
  ヒナリアを煽るように
  手招きをする。

ヒナリア
「バトル……?」

メディーラ 
「言ったでしょう?
  欲しいものは賭けで
  手に入れろって」

  ヒナリア、
  メディーラの言動に
  思わず絶句する。

メディーラ 
「アナタは私の情報が欲しい
  私もアナタに
  聞きたい事がある。
  だから、お互いの情報を
  賭けてバトルをするの」

メディーラ 
「ミサイルで脅すだなんて
  野暮なマネよりも
  この方がずっと
  私達に相応しいわ。
  そう思わない?」

  意図せず
  訪れたチャンスに
  ヒナリアは
  ニヤリと笑みを浮かべて。

ヒナリア
「……いいぜ
  その勝負、受けてやるよ」

メディーラ 
「勝った方が
  負けた方から
  情報を得ることができる。
  いいわね?」

ヒナリア
「ああ」

メディーラ 
「フフッ
  ゲーム成立ね」

メディーラ 
「勝者は全てを手に入れる……
  この世界でもっとも明瞭で、
  もっとも美しい
  至上の摂理……!
  今、この瞬間
  私達は真理の体現者と
  なるのよ……!」

  欲しいものの為に戦う。
  そのシンプルな理由と
  闘争心をさらけ出せる
  事の心地よさに
  陶然となるメディーラ。
  【プレイヤー】も
  情報とエレメントを
  賭けたバトルを
  待ち切れない様子。

ヒナリア
「……ワケわかんねー事
  言ってないで
  とっととやろうぜ」

メディーラ 
「ええ、始めましょう
  最高のギャンブルを……!」

  メディーラの声を
  合図に、
  バトルフィールドが
  形作られていって――

//END

 

第4章 ニュー・ゲーム 第5.5話

○クイーン・メディーラ号 カジノ

  ザ・ゼノンの
  バトルフィールドが
  解除される。


「チッ
  負けちまったか……」


「さあ、ヒナリア
  話してもらいましょうか、
  アナタの情報を」

ヒナリア
「あーくそっ
  いいぜ、わかったよ。
  何が聞きたいんだ?」

メディーラ 
「アナタ、どうして
  私のところに来たの?」

  考え込むヒナリア。
  少しして、
  観念したように
  口を開く。

ヒナリア
「……言われたんだよ
  魔女の事調べろって」

メディーラ 
「誰に頼まれたの?」

ヒナリア
「そいつは……
  言えねえ」

ヒナリア
「『なんでオマエの
  ところに来たのか』
  とはカンケーねーし」

  詭弁を弄し
  言い逃れるヒナリア。
  メディーラは
  あえて見逃して。

メディーラ 
「……そうね、まあいいわ
  『私のところに』
  来た理由は?」

ヒナリア
「前々から
  当たりをつけてたんだよ
  オマエなら魔女の事
  知ってるんじゃ
  ないかってな」

メディーラ 
「…………?」

ヒナリア
「オマエ、この間
  探偵オンナとふたりで
  ビホルダーのサーバーから
  エレメントに関するデータを
  ぶっこ抜いたろ?」

  メディーラが
  コンコードのカルテを
  得るべく取った行動。
  それが直接の理由だと
  ヒナリアは語る。

ヒナリア
「その中に
  ヒナが知りたい情報が
  含まれてるかもなって
  思ってさ」

ヒナリア
「他にもまあ、
  ビホルダーの偉いさんと
  仲良いみたいだし
  何か知っててもおかしく
  ねえだろって」

メディーラ 
「そう、なるほどね……」

ヒナリア
「ま、そんだけ。
  じゃあ、ヒナもう
  帰るわ」

  足早に去ろうとする
  ヒナリア。
  それをバトル前と
  同様に呼び止めて。

メディーラ 
「待ちなさい」

ヒナリア
「んだよ」

メディーラ 
「さっきのバトル、
  なかなか楽しかったわ。
  久々にバトルの事だけを
  考えられたから。
  そのお礼に……」

メディーラ 
「特別に教えてあげるわ
  魔女の事」

ヒナリア
「本当かっ!?」

  目を輝かせる
  ヒナリア。
  メディーラは
  穏やかにほほ笑む。

メディーラ 
「ええ」

ヒナリア
「でも、いいのかよ?
  勝った奴だけが
  欲しい物を得られる、
  それがここの
  ルールなんだろ?」

メディーラ 
「確かにそうね
  でもそれは、
  ギャンブラーとしての
  私の矜持……
オーナーとしては
  気風の良いお客様には
  また遊びに来てほしいものよ。
  つまりこれは、
  未来の上客へのサービス、
  といったところね

【プレイヤー】も
  よく聞いて頂戴。
  私が知る魔女の全てを……」

  ごくり、と
  息をのむ【プレイヤー】。

メディーラ 
「私が持っている情報
  それは……」

ヒナリア
「それは……!」

メディーラ 
「実は……」

ヒナリア
「実は……!!」

  じっくりと間を取り――

メディーラ 
「……魔女の事なんて
  なーんにも知らないわ」

ヒナリア
「…………………は?」

ヒナリア
「……はあああっ!?!?」

メディーラ 
「本当に何にも知らないのよ
  魔女? なにそれ?
  って感じだわ」

ヒナリア
「でもオマエっ!
  マックスって奴から
  なんか聞いたって……」

  ヒナリア、ここで
  何かに気付く。

ヒナリア
「あああああっ!」

ヒナリア
「ブラフ、か……っ!」

メディーラ 
「フフッ
  食いついてくれて
  ありがとう」

ヒナリア
「はーあ……
  こんだけドタバタやって
  結局無駄足か……」

  肩を落とすヒナリア。
  ぽつり、と
  深刻に言葉を漏らす。

ヒナリア
「ヒナは……
  魔女の事
  知らなきゃ
  いけないのに……」

  ヒナリアらしくない
  様子に、
  ひっかかりを覚える
  メディーラ。
  ヒナリアを真剣に
  見つめて。

メディーラ 
「引き籠りのアナタを
  そこまで駆り立てる魔女が
  一体何なのか
  興味が湧いてきたわ」

メディーラ 
「他に、魔女に関する情報は?」

  ヒナリア、
  メディーラの真意を
  計りかねているのか、
  最低限の情報だけ
  伝えようとする。

ヒナリア
「……エレメントの高まりと
  関係がある
  言えんのはそれくらいだ」

メディーラ 
「エレメントと関係が……」

メディーラ 
「……わかったわ
  今度聞いておいてあげる
  私が懇意にしている
  ビホルダーの
  お偉いさんにね」

ヒナリア
「……いいのか?」

メディーラ 
「ええ」

  ヒナリア、
  メディーラの厚意を
  訝って、

ヒナリア
「ミサイルで脅して
  情報を引き出そうとした
  相手なんだぞ?
  わかってんのか?」

メディーラ 
「アナタ……
  最初から撃つつもりも
  クレイに撃たせるつもりも
  なかったでしょう?」

ヒナリア
「それは……っ!」

ヒナリア
「……チッ
  そこまでお見通しってか
  感じ悪ぃ」

メディーラ 
「カジノで私と
  駆け引きだなんて
  100年早いわよ」

  メディーラ、
  アウロスギアを
  操作し、
  カジノの会員証を
  ヒナリアに送る。

メディーラ 
「ブラフの勉強は
  ギャンブルに限るわ。
  今度改めてウチに来て?
  みっちり教えてあげる」

ヒナリア
「……別に……
  カジノだったら
  電脳空間でも
  できるし……」

メディーラ 
「バーチャルもいいけど
  やっぱりカジノは
  リアルが一番よ」

ヒナリア
「はあ……
  ホンット調子狂うな……」

  ガリガリと
  頭をかくと、
  不貞腐れたような
  顔になり、

ヒナリア
「一個だけ、ヒントやるよ」

ヒナリア
「……魔女はふたりいる」

ヒナリア
「そんだけ
  じゃな」

  駆け出すヒナリア。
  振り向かずに
  カジノを去る。

メディーラ 
「魔女が、ふたり……?」

  メディーラは、
  ヒナリアが残した言葉に
  首をかしげて

○メディーラの私室

  ツン、と顔を
  そらしている
  メディーラ。
  そんな彼女の機嫌を
  取るかのように、
  周章狼狽しつつ
  言い訳を重ねる
  来客――
  それはマックスで。


「待ってくれメディーラ
  違うんだ、これは……」

メディーラ 
「何が違うというの?
  私達はアナタの部下に
  逆恨みされて、
  危うくとんでもない目に
  遭うところだったのよ?」

  クレイの所業を
  抗議しているらしい。
  マックス自身もクレイを
  扱いかねていることを
  隠そうともせずにいて。

マックス
「いや、何というか
  アイツは特別なんだ。
  俺の部下ではあるんだが
  俺より偉いというか……」

マックス
「あれでもアイツは
  創業者の血縁でね……」

メディーラ 
「ふうん……
  ビホルダーの広報部長とも
  あろうお方が、そんな
  つまらない言い訳を
  するなんてね……」

マックス
「もちろん、クレイの奴には
  厳重注意をしておいた。
  今は謹慎中だ。
  同じことをやらかさないよう
  今後はしっかり管理する」

メディーラ 
「きっとよ?
  なかなかスリリングな
  体験ではあったけど……
  毎度あんな事があっては
  ザ・ゼノンに
  集中出来ないわ」

マックス
「ああ、約束する」

  詰るように
  マックスの目を
  じっと睨むメディーラ。
  と、その視線が横へ
  逸れていき――
  マックスの耳で止まる。
  何かに気付いた様子。

メディーラ 
「……マックス」

マックス
「なんだ?」

メディーラ 
「アナタ……
  そんなピアス
  してたかしら?」

マックス
「これか?
  随分前から
  つけているが……」

メディーラ 
「ちょっと耳を貸して」

  メディーラ、
  マックスの耳元に
  手を伸ばして。

○暗い部屋

  真っ暗な部屋。
  よく見るととても広く、
  置かれている調度品は
  全て最高級のもの。
  大きなベッドの中央に、
  毛布にくるまった人影が。
  毛布の合わせ目からは
  男女の声が
  漏れ聞こえていて。

マックスの声
「ん? ああ……
  って、痛っ、
  いててててててっ
  引っ張るなって
  痛ててててて……」

メディーラの声 
「ちょっと、
  じっとしててよ。
  もう、堪え性のない
  人ね……!」

マックスの声
「やめっ、ちょっ、
  あっ……!」

  バキバキと
  何かを握りつぶすような
  音がしたかと思うと、
  男女の声は
  聞こえなくなってしまう。

  人影は、毛布を
  振り乱しベッドの端に
  叩きつける。
  毛布の中から
  現れたのはクレイで。

  クレイは虚ろな目で
  部屋の角を見たまま、
  怨敵の名前を口にする。


「メディーラ・バラーニ……」

クレイ
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す
  殺す殺す殺す殺す殺す殺す
  殺す殺す殺す殺す殺す殺す
  殺す殺す殺す殺す殺す殺す
  殺す殺す殺す殺す殺す……」

○メディーラの私室

  メディーラが
  マックスの耳から
  もぎ取ったピアスを
  指先で潰している。

マックス
「つっ、
  なんでピアスを
  取ったんだ……」

メディーラ 
「アナタ……
  とんでもない子に
  好かれちゃったわね」

  メディーラは、
  心底哀れ、といった
  目でマックスを見る。

マックス
「は?」

  潰したピアスを示して、

メディーラ 
「盗聴器よ、これ」

マックス
「……マジか……」

  クレイの好意を知り
  利用している気の
  マックスも、その好意が
  些か度を越している事に
  青くなっている。

メディーラ 
「こんな事では
  先が思いやられるわね……」

  度重なる不始末に、
  マックスは慌てて
  収拾を図ろうとして。

マックス
「メディーラ、
  これは、何か違う形で
  埋め合わせをさせてくれ」

メディーラ 
「そうね、じゃあ……」

  メディーラは、
  【プレイヤー】だけが
  気付くような
  ズルい笑みを
  一瞬だけ、口の端に
  浮かべる。

メディーラ 
「アナタ、魔女って
  何の事か知ってる?」

メディーラ 
「アナタの権限で
  魔女の事について
  徹底的に調べてきてほしいの」

メディーラ 
「今回の諸々は
  それでチャラに
  してあげるわ」

マックス
「魔女、だな……
  わかった
  調査してこよう」

メディーラ 
「頼んだわよ、マックス。
  私にベットするんだもの
  相応の働き(コイン)を
  積んでもらわなきゃね」

メディーラ 
「さあ、【プレイヤー】
  次のバトルの時間よ。
  そろそろ向かいましょう」

  私室を出ていく
  メディーラ達。

○ザ・ゼノン バトル会場
  プレイヤー入場ゲート前

メディーラ 
「魔女……
  何の事だか知らないけど
  少なくとも
  ザ・ゼノンに
  不要な存在なのは
  確かだわ

 まったく
  知れば知るほど
  余計な物が
  出てくるわね……」

  呆れるメディーラ。
  【プレイヤー】も
  不服そうな様子。

【プレイヤー】
「バトルの為の
  バトルをしたい」

メディーラ 
「ええ、そうね
  本当のザ・ゼノンは
  もっと熱狂的で、魅惑的で
  何より純粋でなくちゃ……
  その為にも、
  今のつまらない
  ザ・ゼノンは
  とっとと終わらせないとね」

アナウンサーの声
「第1回戦
  間もなく開始です……!」

メディーラ 
「……時間だわ
  行きましょう、
  【プレイヤー】」

メディーラ 
「さあ、今日はどこまで
  レイズできる
  相手かしらね……!」

  新たな夢への決意と
  闘争の悦びを同時に秘め、
  フィールドへと
  歩み出すメディーラと
  【プレイヤー】。
  彼らの先行きを
  祝福するかのように、
  観客の歓声が
  ふたりを包んでいって――

〇ビホルダーグループ本社

  ――その最上階。
  椅子に身を預け、
  宙に浮かぶ映像を
  眺めていた様子の
  男が一人呟く。


「そうか、コードマン達は……
  一つの例外なく、
  向かおうというのか。
  彼女の手の指し示す
  先へと…………」

  タクトを振るうように
  軽やかに手を翻す男。
  主の動きに合わせて
  宙に浮かぶ映像が
  100以上に展開される。
  ひとつひとつの映像に
  映し出されるのは、
  今、この瞬間を
  戦い抜いている
  全てのコンコードと
  コードマン達。

サムラ・ビホルダー
「それこそが我らの
  求めるもの、
  そして同時に何よりも
  忌むべきもの」

  空中モニターが放つ
  光は、ただただ闇の
  中の男を照らし続ける。

サムラ・ビホルダー
「ゼートレートは
  柩に手をかけた。
  あとは開け放つだけ……」

サムラ・ビホルダー
「どうやらお前に
  動いてもらわねば
  ならなくなったようだ――」

  男の声は、そのモニター
  の光も届かぬ
  部屋の奥に投げられる。

サムラ・ビホルダー
「――ザナクロン」


「…………………………」

  絶対王者は
  静かな瞳で、
  モニターに映る
  気高きギャンブラーを
  見据えていた。

//END

 

解説/5章以降の展開

◇賭けに狂えない女

メディーラ・バラーニは、確率計算プログラムが進化して誕生したコードマンだ。
確率計算AIが活躍する分野は多岐にわたる。コードマンに進化したメディーラは、その中でもギャンブルの世界に専念することを選んだ。確率論は賭博の研究を端緒とする学問だ。その影響もあってか、メディーラはギャンブルというものに強い興味を覚えたのだ。
ギャンブルの世界であれば、自分の持つ確率計算の力を存分に振るえるのではないか。
賭けに興じることで、自分の存在意義を見つけられるのではないか――
そういったメディーラの期待は、あっという間に打ち砕かれた。他ならぬ彼女自身の能力によって。
コードマンとなったメディーラにとって、ギャンブルはつまらない「答え合わせ」に過ぎなかった。現実の結果が彼女の計算を凌駕することはなかったのだ。

ギャンブラーとして活動を続けることに疑念を抱き始めていたメディーラであったが、ギャンブルの世界に飛び込んだことは間違いではないと思っていた。
カジノには稀に、確率を越えた力を見せる人間達がいたのである。
凄まじい豪運と巧みな手腕で勝利と栄光をもぎ取っていく、本物の強者達。
彼らはみな貪欲に勝利を求めたが、それ以上に「伸るか反るか」に全てを賭けることを愛していた。次の瞬間には全てを失うかもしれない。あるいは全てを手に入れるかもしれない。この瀬戸際の緊張こそが、彼らが最も欲するものだった。
メディーラがそういった感覚を体験することはついぞできなかった。賭博において、彼女は未来が見えているに等しい。それに失える富も命も最初から持ち合わせてはいない。メディーラは本当の意味で「賭ける」ことができないのだ。
真のギャンブラー達の生き様に感嘆し、憧憬を覚えたメディーラは、ディーラーとして彼らの在り方を見つめ続けることを選ぶ。
いつか「全てを賭ける」ことの狂喜に、身を委ねられる日が来ることを願って……

◇ザ・ゼノンとの出会い

ギャンブラーとしてカジノ業界に飛び込み、ディーラーとして生きることを決めたメディーラ。確率計算AI時代の彼女を起用していたカジノのオーナーに譲られる形で自分のカジノを手に入れた彼女は、瞬く間に業界最大手にのし上がった。

コードマンにしてカジノの女王であるメディーラは一躍時の人となった。だが、彼女は依然として満たされない日々を過ごしていた。
そんなある日、上客の一人――ビホルダーグループ広報部長マックス・アルデマーニが、メディーラにひとつの話を持ち掛ける。
曰く「コードマンだけが味わえる、最高のギャンブルがある」と。
メディーラはこの話――ザ・ゼノンの参戦要請――に是非もなく飛びついた。
マックスはメディーラを担ぎ出すにあたって、あらかじめエレメントの真実を開示していた。ギャンブルの熱狂を求めていたメディーラにとって、それが最も魅力的な情報だとわかっていたからだ。

ザ・ゼノンはメディーラが求めていた通りのものだった。そこには緻密な戦略があり、巧みな駆け引きがあり、そして何より「命を賭ける」という無上の興奮があったのだ。
ただ一点だけ、メディーラの足を引っ張る要素があった。コンコードの存在である。
無作為に選出された候補の中からメディーラ自身が選び出した最初のコンコードは、メディーラが敗退のリスクを説明した時点で、コンコード登用を辞退してしまった。
2人目のコンコードは、エレメント喪失の危険性を承知の上で相棒になったものの、メディーラの強気な賭けに神経をすり減らし、数戦ほど戦ったところで契約を解除してしまった。
二度の失敗を経たメディーラは、エレメントの真実は伏せたまま、実戦と交流の中でコンコードの人となりを判断する方策を考えつく。
ギャンブルに「狂わされる」凡夫はいらない。ギャンブルに「狂っている」者こそ、相棒に相応しい。
ヨルスケの協力を得て、エレメントオールインの状況にコンコードを巻き込み、その反応を見ることにしたメディーラ。だが、彼女の眼鏡にかなう人物はなかなか現れない。そうして契約と破棄を繰り返すメディーラに、いつしか畏怖が込められた二つ名がついて回るようになった。それが『コンコード潰し』である。

◇優しさの代償

ギャンブラーとしては非常に苛烈な姿勢を持つメディーラだが、一個人としては厚情な性質の持ち主だった。

スリルを求める心と、生来の優しさ。この二つはメディーラの行動を煮え切らないものにすることが間々あった。
エレメントの存在は、自身に生と死をもたらし、真の賭博を成立させてくれたものとして受け入れている。だがそれが身内に危険を及ぼすとなれば話は変わってくる。ファビオがセネトのコンコードとなったときも、真実を告げるべきか否か、メディーラは苦悩した。結局メディーラはザ・ゼノンという最高のギャンブルが壊されることを恐れ、ファビオにエレメントの真実を伝えないことを選んだ。セネトがエレメント量を偽装していたことが最大の原因ではあるのだが、メディーラの行動は結果的にファビオの精神崩壊を招いてしまったのだった。

『コンコード潰し』の件にしても、自分の欲望とパートナーの安全との兼ね合いを求めた結果、ああいった多少迂遠な方法で選別するのを選んでいた。
エレメントの真実を公表することがなかったのも、ザ・ゼノン参戦前にマックスと取り交わした、口外禁止の約束を堅く守っているからだった。

メディーラは、自身のこうした性質を「どっちつかず」と内心疎んじていた。だがこれは、他者を自分の欲望の犠牲にしない、まっとうな道義心を持ち合わせているということに他ならない。
メディーラのこういった二面性は、周囲を操って自分の求める物を手に入れつつ、被害を最小に抑える卓越したバランス感覚として、後に昇華していくこととなる。

◇コードマンとのかかわりについて

メディーラのカジノはザ・ゼノンの公認トーナメントが開かれるということもあり、上流階級の人間達やコードマン同士の社交の場として広く知られている。
メディーラ個人としても交友関係が広く、オーナーとしての器量もある為、多くのコードマンと友人・協力関係にある。

メディーラが特に執着を示す人物にシャーロットが挙げられる。
事あるごとに彼女に対して「自分のものにならないか」と誘いをかけるメディーラ。その理由は容姿と性格と能力が好みだから、と実は非常に単純なものだったりする。もっとも、メディーラが望む調査能力と容姿を兼ね備えた「感情を持つ存在」など、シャーロット以外には存在しえない。結果、メディーラはこの世に二つとない存在として、シャーロットの勧誘に余念がないのだった。

ストーリー中で協力関係が描かれたヨルスケとは、あくまでビジネスライクな関係である。コンコード選別をはじめ、メディーラが一芝居打ちたい時にはヨルスケに協力を仰ぐことが多い。ヨルスケも、ビホルダーグループ上層部とパイプを持つメディーラのことは強力な情報源として重宝している。
互いの目的に関しては「夢があるのは良い事だよね」とでもいうような、良く言えばお互いを尊重し合っている、悪く言えば無関心でドライな関係性である。

他にも、同じ経営者としてヒュートラム、ワンダーコールと手を組んだり敵対したり、戦いそれ自体を好むという自分と似たところのあるキィランと親しくなったり、運否天賦を嫌うフィンセラと喧嘩したりなど、コードマンとの交流を5章以降で描く予定があった。

◇5章以降の展開について

ビホルダーの主催するザ・ゼノンを終わらせ、自身が真のザ・ゼノンを開催するという目的を見つけたメディーラ。
5章以降は人脈と人心掌握術を活用して、ビホルダーの中枢に食い込んでいき、影響力を高めていく。
最終的にはビホルダー内の各セクションに徐々に食い込んでいき、マックスを通じてビホルダー副社長・ハロルドとのコネクションを固めることで、サムラ会長を除く社内の主流派をほぼ手中に収めるまでに至る。
マックスを挟んで「恋敵」と一方的に殺意を抱かれているクレイに対しては、「マックスとの仲を応援している」とありきたりな誘い文句から入り、状況を操作し様々な要因を整えることで、最終的には自分のために祖父であるサムラを裏切らせるほどの信頼を勝ち取ることになる。
ビホルダーの権力闘争やコードマン間の関係性も利用し、危険の瀬戸際を華麗に渡りきる、ディーラー/ギャンブラーらしく場を「転がす」という形で、メディーラは躍進を続けていく。

◇物語の結末

メディーラは、ビホルダーグループの権力構造を巧みに操り味方につけ、ザ・ゼノンでも順調に勝利を収めていく。
そして決勝戦でザナクロンを打倒、目的通りザ・ゼノンを自身の優勝でもって終わらせることに成功する。だがその喜びも束の間、エレメントを一身に集めきったメディーラは、魔女ゼートレートに素体を乗っ取られてしまう。
ゼートレートは、ザ・ゼノンに優勝したコードマンの素体と人格を乗っ取り、人類を凌駕した存在となって人類に復讐することが目的だったのだ。

素体の内で対面するメディーラとゼートレート。
偶然を操作し望む結果を手繰り寄せる魔女という存在を、メディーラは快く思っていなかった。ゼートレートの側も、「運に身命を託す」という人間の愚かさを礼賛するメディーラが気に入らないようだった。
人間の愚かさとそこから来る強かさ。メディーラが愛し、ゼートレートが憎んだものは、実は同じものだった。そしてそれ故に二人の見解は絶対に交わらないのだった。

メディーラとゼートレートの問答が平行線をたどる間、現実世界ではコンコードがゼートレートに勝利し、メディーラとの繋がりを断ち切ることに成功する。
魔女から解放され、意識を取り戻したメディーラの前にいたのは、「最高のギャンブル」を体感し狂喜に打ち震えるコンコードだった。
世界の命運と相棒の生死を賭けたゼノンザードという、これ以上はない体験を嬉々として語るコンコード。
メディーラも「私もそっちが良かった」と純粋に羨むのだった。

ビホルダーグループの権力は魔女に由来する技術力を基盤としたものだった。ゼートレートの影響が世界から薄れたことで、ビホルダーはその勢力を大きく落とすこととなった。
メディーラの優勝で一度幕を閉じたザ・ゼノンは、彼女の指揮の元、第2回の開催に向けて準備を進めている。メディーラが企画するザ・ゼノンでも、エレメントを用いた命懸けのバトルが行われる予定だが、そのリスクは大会要項に明記され周知されるし、強制ゼノンザードを使って主催者が参加者を「殺し」に行くということも当然ない。あくまで純粋な競技としてザ・ゼノンを再構築することがメディーラの望みだ。
ザ・ゼノンの本質が命懸けの戦いだと知れ渡った今、参加を希望するコードマンがどれほどいるかはわからない。だがそれは、裏を返せば血沸き肉躍る戦いを何よりも愛する者達だけが集まるということ。
人間の欲望と熱狂を誰よりも肯定するメディーラは、魔女から授かった命を元手に、コードマン達に新しい生き方を提示していくことだろう。

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