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悪逆の徒

公開済みストーリー・相関図

公開済みストーリーをYouTubeで公開中!!

1章 盗賊の流儀

2章 外道の覚悟

3章 犬と咎人

4章 悪逆の徒第1話~第2話

相関図

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第4章 悪逆の徒 第3話


「じっくりデータを
  取らせていただくと
  しましょうか」

  ランバーン、いぶかり、


「……どういう意味だ」

  キャロウ、ニヤリとする。

キャロウ
「すぐにわかりますよ」

キャロウ
「それでは、
  残っているバックアップの
  処理に進みましょう」

ランバーン 
「情報のバックアップは
  存在しないと言ったはずだ」

キャロウ
「そうですか?
  まだ残っているでしょう」

キャロウ
「──君の、頭の中に」

  と、自身の頭をつつく
  キャロウ。

  ランバーン、苦い顔で、

ランバーン 
「……………………」

キャロウ
「君自体が、
  大量記憶装置のような
  ものですからね」

キャロウ
「それを消去しなければ、
  『ニヒト計画』の全情報を
  渡したことにはならない」

【プレイヤー】
「そ、それって……」

ランバーン 
「俺にエレメント全賭けの
  バトルでも
  させるつもりか?」

ランバーン 
「【プレイヤー】も
  見てたよな、
  セネト・ロールダイスの
  バトル……」

ランバーン 
「エレメントがゼロになれば、
  コードマンはおそらく
  ああなる」

ランバーン 
「学習データをすべて失って
  人間でいう
  記憶みたいなものも
  きれいさっぱり
  なくなっちまうだろうな」

キャロウ
「おそらく……?
  記憶……?」

  キャロウ、
  ランバーンの説明に
  疑問を抱くも、

キャロウ
「フフ……
  所詮はAIですね……」

  何かを納得し、
  交渉に戻る。

キャロウ
「さて、当然のことながら、
  拒否するというのなら、
  レーザー銃が君のコンコードの
  脳幹を焼きます」

  苦渋の表情を浮かべる
  ランバーン。

ランバーン 
「……………………」

キャロウ
「どうしますか?」

ランバーン 
「……どうもこうも、
  俺に拒否権なんざ
  ねぇだろ」

【プレイヤー】
「何言ってるの……!?」

ランバーン 
「……取りあえず、
  今はお前がここから
  逃げられる方法を
  一番に考えようぜ」

ランバーン 
「たしかに、
  警察にいたころのことや
  お前と契約したこと……
  忘れちまうのは惜しいがな」

ランバーン 
「俺はAIだ」

  ランバーン、
  穏やかな笑みで、

ランバーン 
「けど、人間のお前は死んだら
  終わりだろ?」

【プレイヤー】
「そういう問題じゃない!」

ランバーン 
「ハハッ、ひでえ顔すんなよ
  【プレイヤー】」

【プレイヤー】
「何か方法は無いの!?」

ランバーン 
「……あのなぁ、
  【プレイヤー】」

ランバーン 
「勝負ってのは、
  負ける時は負ける」

ランバーン 
「勝利と敗北は紙一重だ。
  で、負けたら潔く退場――」

ランバーン 
「ってのが、男の美学……
  とか言うやつなんだろ?」

  ランバーン、
  遠くに目をやり、

ランバーン 
「……アイツは、
  そう言ってたぜ」

  ランバーンは
  どこかすがすがしい、
  解放されたような
  笑みを口の端に
  浮かべる。

ランバーン 
「だから
  お前は行け、
  【プレイヤー】」

ランバーン 
「……巻き込んで悪かったな」

  ランバーン、
  キャロウを見て、

ランバーン 
「約束は守ってもらうぞ」

キャロウ
「ええ、もちろんですよ。
  【プレイヤー】は
  助けてあげましょう」

  キャロウは、
  嫌味らしい薄笑いを
  のぞかせる。

キャロウ
「――『生命』はね」

キャロウ
「さて、お別れの挨拶も
  済ませたようですし……」

キャロウ
「では、君のエレメントを奪う
  オフィシャルAIを
  紹介します」

  指をならすキャロウ。
  扉が開き、
  奥から何者かが現れる。

???
「よう、ランバーン」

  刺客は重々しい足取りで
  倉庫の中央へと歩み出る。
  薄暗がりから照明の下へ
  入ると、その容貌が
  明らかになる。
  その瞬間、ランバーンは
  驚愕し、動揺した。

ランバーン 
「…………!!」

ランバーン 
「……ウソだろ……
  なんで……お前が…………」

ランバーン 
「……レイヴ――!」

  ランバーンの命を
  刈り取るべく現れたのは、
  既にこの世を去ったはずの
  恩師、レイヴだった――

//END

 

第4章 悪逆の徒 第4話

○倉庫

  ――の中。
  ランバーンと
  レイヴの姿をしたものが
  対峙している。

  レイヴ、壁に向かって
  虚ろな調子で
  話しかける。


「どうした?
  浮かない顔だな」

  ランバーン、
  激しく動揺し、


「……う、ウソだろ……」

レイヴ
「またクロードとやり合ったの
  かまったくお前らは仲がいい
  んだか悪いんだかクロードは
  どこだ仲直りしろよついてっ
  てやるからさ」

  ランバーン、
  ようやくレイヴの
  言葉が
  自分に向けられていない
  ことに気付いて。

ランバーン 
「………………!」

レイヴ
「なんだどっちが悪いかってこ
  とで揉めてるのか意見が割れ
  たときの決着はゼノンザード
  でつけるそれが俺たちのルー
  ルだって決めたよな」

  レイヴの様子に
  狼狽を隠せない
  ランバーン。

ランバーン 
「レイヴ………………」


「どうです?
  懐かしいでしょう」

キャロウ
「レイヴ・ゲッコー警部補……
  いや、失礼、職務に殉じて
  二階級特進
  されたのでしたか」

キャロウ
「……これは
  私が特別に調製した
  バイオロイドです」

ランバーン 
「……レ、レイヴを
  被検体にした……?
  ……バカな……
  どうやって……」

ランバーン 
「レイヴは確かに死んで……
  ……警察で……
  追悼式だって
  したじゃねぇか……」

キャロウ
「えぇ、そうです。
  君達との
  別れを終えた後、
  実験用に死体を
  頂いたんです」

キャロウ
「私は警察の方々とも
  懇意にしておりますので」

キャロウ
「それにしても、
  恩人の墓を暴かれたことにも
  気付いていないとはね……」

ランバーン 
「なんで……
  どうして……」

キャロウ
「なに、ちょっとした
  意趣返しですよ」

キャロウ
「生前の彼の執拗な捜査には
  辟易していたのでね。
  部下に殺させただけでは
  私の溜飲が下がらなかった。
  だから……」

キャロウ
「彼の死体に、
  オフィシャルAI
  プロトタイプを組み込み
  バイオロイドにして
  あげたのですよ」

  キャロウ、ニヤニヤして。

キャロウ
「なんとも愉快じゃ
  ありませんか。
  レイヴ氏自身が、
  生前追い求めていた
  『犯罪の証拠』に
  させられてしまうだなんて。
  ククククク……」

キャロウ
「いかがですか?
  ご感想をどうぞ」

ランバーン 
「……感想なんか
  あるわけねぇだろ…………」

  ランバーン、
  キャロウを睨みつけ

ランバーン 
「テメェが胸糞悪い
  クソ野郎だってこと
  くらいだぜ……」

ランバーン 
「しかも
  そのレイヴの面した
  バイオロイドに俺との
  バトルをさせるんだろ?」

ランバーン 
「……死ぬほど
  悪趣味じゃねぇか」

キャロウ
「おあつらえ向きでは
  ありませんか。
  敬服する上司に
  壊されるなんてね」

  ランバーン、
  歯をきつく
  食いしばる。

ランバーン 
「……正しい方法で
  どうにもならねぇなら、
  この世界の仕組みごと
  ぶっ壊すしかないと……」

ランバーン 
「……ずっと、そう思っていた」

  ランバーン、
  気迫をぶつけるように
  キャロウを鋭く睨んで、

ランバーン 
「だが、世界だけじゃない。
  今からは、お前もだ。
  キャロウ」

キャロウ
「……何?」

ランバーン 
「お前を、必ず、
  外道にしかできないやり方で
  ぶっ潰す」

キャロウ
「何を言うかと思えば……
  今から君は壊れる……
  おっと失礼。
  君自身の言葉を借りれば
  『記憶をきれいさっぱり
  なくす』のですよ?」

キャロウ
「なのに私に宣戦布告とは……
  負け惜しみも
  ここまでくると
  かわいいものですねぇ……」

ランバーン 
「負け惜しみじゃねぇ……
  俺は機械なんだろ?」

キャロウ
「だから
  どうしたと
  いうのです?」

ランバーン 
「たとえ……
  今まで溜め込んできた
  膨大な知識、
  経験、記憶、感情……
  全てを失っても……」

ランバーン 
「『俺』は必ずまた
  『俺』になる」

ランバーン 
「『俺』になって、
  必ずお前を――」

ランバーン 
「ぶっ潰す――」

  キャロウ、
  笑いをこらえつつ。

キャロウ
「プ、ククク……ッ
  楽しみに
  待っていますよ……」

ランバーン 
「余裕ぶっこいてられるのも
  今の内だ……」

ランバーン 
「俺はどんなことがあっても、
  お前みたいやつを
  野放しにする気はねぇって
  言ってんだ……!!」

  強い怒りの念を
  ぶつけるランバーン。
  それに対しキャロウが
  浮かべたのは――
  疑問の表情で。
  キャロウ、俯いて
  ぼそぼそと呟くように。

キャロウ
「本当に、
  理解していない……?
  本気で再進化が
  可能だと……?
  いや、あれは絶対に
  不可逆な事象のはず……」

  と、レイヴバイオロイドが
  現状に適した言葉を
  在りし日の記憶から
  引っ張り出してきて。

レイヴ
「おいおいあんまりカッカする
  なってランバーン意見が割れ
  たときの決着はゼノンザード
  でつけるそれが俺たちのルー
  ルだって決めたよな」

  が、突然表情が強張り、

レイヴ
「意見が割れたときの決着は……
  い、い、い、
  いけんが……」

ランバーン 
「……!」

レイヴ
「いけん……われた……
  決着は……
  いけ……ん……
  いけんがわれた……とき……
  の……けっちゃく……」

  亡き恩人の
  哀れな姿に
  悲しみを見せる
  ランバーン。

ランバーン 
「レイヴ……」

  【プレイヤー】、
  ランバーンの隣まで
  歩み寄り、

【プレイヤー】
「……彼を眠らせよう」

ランバーン 
「【プレイヤー】……」

  ランバーンの怒りと
  悲しみの思いに、
  【プレイヤー】が
  寄り添ってくれている
  ことに気付き、
  感謝の念を覚える
  ランバーン。

ランバーン 
「……最後に面倒なことに
  付き合わせちまって悪いな」

ランバーン 
「……だが、頼む」

  と、レイヴバイオロイドの
  身体からゲル状の物質が
  沁み出たかと思うと、
  それらがレイヴの全身を
  包み込み、
  オフィシャルAIによく似た
  姿を形どる。

ランバーン 
「──俺たちが
  眠らせてやるからな、
  レイヴ……」

  哀惜の思いを胸に、
  アウロスギアを取り出す
  ランバーン。

//END

 

第4章 悪逆の徒 第5話

○倉庫

  ザ・ゼノンの
  バトルフィールドが
  解除される。
  敗れた
  レイヴバイオロイドが
  膝をつく。

  オフィシャルAIを模した
  外装がゲル化して
  溶けだし、
  徐々にレイヴの姿へと
  戻っていく。


「……お前の負けだぜ。
  レイヴ……」


「いけんが……われた……
  ときの……」

  キャロウ、レイヴの
  散り様を興味深げに
  見つめながら。


「ふむ……
  死体ベースだと
  活動停止後に
  ナノマシンの固着が
  はがれてしまうのか……
  興味深い……」

  外装が全て溶け
  完全に露わになる
  レイヴの身体。
  ランバーン、
  恩師の二度目の死に
  思わず目を逸らして。

ランバーン 
「……………………」

  と、虚ろだった
  レイヴの眼が、
  ランバーンを
  正確に捉えて。

レイヴ
「負けたときは……
  潔く……退場する……」

  そう言ったレイヴは、
  どこか叱責するような
  顔をしていて。

レイヴ
「それが……男の美学って
  やつだぜ」

レイヴ
「――ランバーン」

  呟くと、
  どさりと倒れ伏す
  レイヴ。
  思わず側へ駆け寄る
  ランバーン。

ランバーン 
「…………!」

  キャロウ、
  大きなため息を
  ついて。

キャロウ
「……気が済みましたか?」

  指をはじくキャロウ。
  部屋の奥から、
  新たにオフィシャルAIが
  現れる。

キャロウ
「余興はもう結構。
  今度は抵抗せず、素直に
  壊れていただきましょう」

  ランバーン、
  【プレイヤー】を
  振り向くと、
  落ち着かせるように
  強く頷く。
  再びキャロウを見て

ランバーン 
「ああ……わかってる」

【プレイヤー】
「ら、ランバーン……!!!」

  ゆっくりと目を閉じる
  ランバーン。
  【プレイヤー】が
  ランバーンの元へ
  走り寄ろうとすると――
  爆発音とともに
  倉庫の巨大な隔壁を繋ぐ
  器具が破壊される。
  隔壁が開け放たれ、
  外界の光が差し込む。
  逆光の中から
  鋭い声が放たれる。

???
「警察だ!」

  声の主はクロードで。
  想定外の人物の
  登場に驚くランバーン。

ランバーン 
「…………!!」

  拳銃を手に倉庫内に
  踏み入るクロード。
  引き連れてきた警備AIが
  キャロウや部下達を
  取り囲む。

クロード
「全員、速やかに
  武器を捨て両手を上げろ!
  お前達を、
  誘拐及び殺人の容疑で
  逮捕する!」

  キャロウ、動揺を
  押し殺して。

キャロウ
「……警察には
  根回しをしておいた
  はずですが」

  再び、倉庫の外から
  声が響く。

???
「それは
  意味がなくなって
  しまったみたいよ?」

キャロウ
「君は……」

  目を凝らすキャロウ。
  そこにいたのは
  メディーラで。

キャロウ
「……ディーラーAIの
  メディーラ・バラーニ……」


「ご存じだとは光栄ね。
  でもきっと、すぐに
  アナタのほうが有名になるわ」

メディーラ
「こんな情報を
  メディア各社で
  報道するよう
  『偉い人』に
  お願いしてきた
  ところだから」

  それを合図に、
  警備AIの一体が
  壁面に映像を投射する。
  それは生放送中の
  ニュース番組で。

アナウンサーの声
『違法に人体実験を行い、
  スラム街での誘拐事件にも
  関わっていたとされる
  研究について続報です』

アナウンサーの声
『警察当局は強制捜査に
  踏み切ったとのことです。
  犯行グループの拠点に
  先程踏み込んだようです』

キャロウの部下
「DR.キャロウ……!
  まずいです、
  我々の名前と顔写真も……!」

  キャロウの顔に
  脂汗がにじむ。

キャロウ
「何故だ……
  長官は何を……」

メディーラ
「割り込んで
  ごめんなさいね、
  ランバーン」

ランバーン 
「……決定打になる証拠は
  なかったはずじゃ……」

  メディーラは肩をすくめて、

メディーラ
「あら、こういうものは
  使いようよ。
  『敵』を倒すのに大切なのは
  共通の『味方』を作ること。
  それに……」

メディーラ
「あと一手を詰められる
  情報がちょうど手に入ったの
  録音データを再生するわ。
  聞いて頂戴」

  機器を操作する
  メディーラ。
  二人の男の密談が
  再生され始める。

警察長官の声
『……しかしDR.キャロウ』

警察長官の声
『スラム街での誘拐の件で
  ダールトンが
  逮捕されたことは
  今後、問題になるのでは
  ありませんか?』

ランバーン 
「この声は……
  警察長官か……?」

警察長官の声
『本当に上層部は
  了承済みなのでしょうね?
  このままでは検挙も報道も
  あっという間に……』

キャロウの声
『問題ありませんよ。
  あなたは我々の指示に
  従っていればいい』

クロード
「DR.キャロウ、貴様と
  警察長官の会話で
  間違いないな」

キャロウ
「くっ…………
  警察と我々の専用回線が
  何故傍受されて……
  アッシュ・クロード用に
  防護プログラムを
  組み上げたというのに……」

クロード
「コードマンの
  処理能力を侮るな。
  確かに、リアルタイムで
  組み変わる巧妙な
  セキュリティが
  施してあったが……」

クロード
「あんなもの、
  読み解くのはわけない。
  お前達の薄汚い会話は
  全て証拠として
  取り押さえてある」

  クロードの手腕に
  驚くランバーン。

ランバーン 
「……クロード、
  まさか、お前が……」

クロード
「俺には俺の
  やり方がある。
  それだけだ」

キャロウの部下
「ど、DR.キャロウ……!!
  この映像を見てください!!」

  悲鳴のような声をあげる
  キャロウの部下。
  壁面のニュース映像に
  ビホルダーグループ
  広報部の声明が
  映し出されている。

ビホルダー広報の声
『お問い合わせをいただいて
  おります違法研究の実行犯、
  DR.ハンク・キャロウらは
  確かに弊社所属の研究員です。
  しかし、私共に隠れて
  違法な研究を行っていたと
  判明。社内の懲罰では
  収拾できないと判断し
  警察に相談したところ、
  今回の逮捕に至った
  次第です』

ビホルダー広報
『みなさまには
  大変なご心配を
  おかけしましたことを
  深くお詫び申し上げますと
  ともに、今後はこういった
  ことのないよう、より一層
  管理体制を強化していく
  所存に……』

  クロード、フンと
  鼻を鳴らして。

クロード
「──切り捨てられたな」

  がくり、と
  その場にくずおれる
  キャロウ。

キャロウ
「バ、バカな…………」

キャロウ
「私が……
  私がどれだけ
  社に尽くしてきたと……」

キャロウ
「私の研究こそが……
  人類に進化を
  もたらすというのに……
  何故だ……!
  何故なのだ……ッ!!」

  嗚咽を漏らし、
  床を激しくたたく
  キャロウ。
  そんな状態など
  気にも留めないように、
  捕縛の為近づく
  警備AI達。

警備AI
「確保シマス、確保シマス」

警備AI
「連行シマス、連行シマス」

  抱えられるようにして
  キャロウは
  連行されていく。

ランバーン 
「…………」

  キャロウを見送る
  ランバーン。
  最前までの狂騒が
  嘘だったかのように
  倉庫に静けさが満ちる。
  やがて、ランバーンが
  ゆっくりと口を開いて。

ランバーン 
「……まさか、
  お前に助けられるとはな」

  クロードは
  硬い表情のままで。

クロード
「……お前のやり方に
  賛同したわけではない」

クロード
「俺は、
  俺のやり方で正義を貫く。
  今回は、その結果が
  お前を助けることに
  なっただけだ」

ランバーン 
「……そうか」

  と、現場を検分中の
  警備AIが
  レイヴの遺体を見つける。

警備AI
「証拠物品、証拠物品。
  損壊シタ
  バイオロイド発見」

警備AI
「搬送シマス、搬送シマス」

  担架を展開し、
  レイヴの遺体を
  運び出していく。
  クロード、
  怒りを滲ませて

クロード
「レイヴさん……
  亡くなられた後も
  このような辱めを
  受けていたなんて……!」

クロード
「嫌な役回りをさせた。
  ……すまない」

  申し訳なさそうに
  そう漏らすクロード。
  ランバーンは
  ゆっくりと首を振る。

  再び沈黙が訪れる。
  努めて軽い調子で
  ランバーンが自分を指して。

ランバーン 
「それより、いいのか?
  目の前に
  法を犯したAIがいるけどよ。
  捕まえるなら今が
  チャンスだぜ」

  クロード、
  小さく笑みをこぼして。

クロード
「あいにくと
  証拠がない」

ランバーン 
「……………………」

  ランバーン、
  どこか残念そうな顔を
  浮かべる。
  それをかき消すように
  笑い飛ばして。

ランバーン 
「……ハッ、それもそうか」

ランバーン 
「さてと。
  行くか、【プレイヤー】」

ランバーン 
「悪党とその『共犯者』は、
  とっとと退散すると
  しようぜ」

  倉庫の外へ出る
  ランバーンと
  【プレイヤー】。
  【プレイヤー】は
  暢気そうに。

【プレイヤー】
「今回は大ピンチだったね」

  ランバーンは
  あっけらかんと
  笑いながら。

ランバーン 
「だから、
  何度も言ってんだろ?
  勝利と敗北は紙一重だって。
  案外なんとかなるんだよ」

クロード
「『負けたら潔く退場。
  それが男の美学』
  ……だったか」

ランバーン 
「……何だ、
  お前も覚えてたのか」

クロード
「忘れるわけがない」

  クロード、
  倉庫の入り口から
  空を仰ぎ見て、

クロード
「あの人らしくない
  言葉だからな……
  未だにわからないこと
  だらけだ……
  あの人の事は……」

  ランバーンは、
  なぜか後悔している
  かのような顔を
  一瞬だけ浮かべる。
  それを誤魔化すように、

ランバーン 
「アイツの好きだった
  ゼノンザード……
  また、どこかで
  バトルしようぜ」

ランバーン 
「……またな、クロード」

  【プレイヤー】を
  伴って倉庫を去る
  ランバーン。

//END

 

第4章 悪逆の徒 第5.5話

○ランバーンのアジト

  停止中のロボ甲、乙の
  前にしゃがみこみ、
  再起動の操作をしている
  ランバーン。
  【プレイヤー】は
  横からそれを
  覗き込んでいて。

ランバーン 
「これでよし、と……
  電源、入れるぞ」

  起動スイッチを入れる。
  と、ロボ甲、乙が
  再起動する。

ロボ甲
「…………あれ?
  俺、もしかして今まで
  電源切れてた?」

ロボ乙
「…………あら?
  私もそんな気がするわ……」

ロボ甲
「俺達のいないところで
  何かやってたんじゃ
  ないか?」

  ネットに検索をかける
  ロボ乙。
  すぐに情報がヒットして

ロボ乙
「……あっ、もしかして、
  電源オフの原因は
  これじゃない!?」

  ニュース映像を
  ホログラム表示する
  ロボ乙。

ロボ乙
「『人間とAIを融合させる
  実在した『ニヒト計画』」

ロボ乙
「社の権威を笠に着て、
  違法な研究を繰り返していた
  DR.ハンク・キャロウらを
  ビホルダーグループ協力の元
  逮捕……」

ロボ甲
「うわ、すごいな。
  いろんなメディアが
  報道合戦してるみたいだ!」

ロボ甲
「『BHK』や
  『インデックスポスト』、
  『ビホルダー・キャスト』
  みたいな大手から
  『月刊ビー』みたいな
  オカルト誌まで……」

ロボ乙
「ランバーン、
  【プレイヤー】、
  あなたたち、
  いつの間に
  こんな作戦に出たの?」

ロボ乙
「今まで首謀者の姿も
  掴めてなかったのに、
  もう逮捕まで
  追い込むなんて……!」

ロボ甲
「これだけ反響が出る
  作戦だったんだ!
  さぞかし緻密なすごい作戦
  だったんだろうな~」

ロボ甲
「なのにどうして
  俺たちの電源を切って
  置いて行ったんだよ!
  俺達も役に
  立ちたかったよ!」

  ランバーン、
  ロボ甲を宥めつつ
  説明を始める。

ランバーン 
「誘拐された
  【プレイヤー】を
  助け出すために、
  全てのデータを
  渡さなきゃ
  いけなかったんだ」

ランバーン 
「お前たちにも
  記憶させてた情報が
  あっただろ?」

ロボ甲
「そうか~
  そういうことか~
  でも連れてって
  ほしかったなあ~」

ロボ乙
「事情があったんだから
  しょうがないでしょ?
  廃棄されなかっただけ
  マシじゃない!」

ロボ乙
「ランバーンも、
  私たちがいたほうが
  いいと思ってるから
  データを抜くだけに
  してくれたのよね?」

  ランバーン、
  寂しげに笑って。

ランバーン 
「……ああ」

ロボ乙
「それならいいわ。
  『ニヒト計画』一味の
  逮捕を祝って、
  許してあげる」

ロボ乙
「よかったわね、
  ランバーン。
  長年の悲願が叶って」

ランバーン 
「お前たちも、
  今までよく
  頑張ってくれたな。
  礼を言うぜ、
  ロボ甲、ロボ乙」

ロボ甲
「あらたまって言われると、
  なんか照れるなぁ。
  へへ……」

ランバーン 
「【プレイヤー】にも……
  これ以上なく助けられた」

ランバーン 
「『ニヒト計画』を潰せたのは
  お前のおかげだ。
  ──ありがとうな」

  【プレイヤー】、
  冗談めかして、

【プレイヤー】
「誘拐されたかいがあったよ」

  ランバーン、
  ぎょっとするも、
  ふっと表情を緩めて。

ランバーン 
「……まったくだ」

  ランバーンは
  【プレイヤー】の正面に
  向き直る。

ランバーン 
「【プレイヤー】、
  俺は本当に、
  お前に助けられている」

ランバーン 
「お前がいてくれるから、俺は
  『ザ・ゼノン』に出られる、
  表の世界にも手を伸ばせる、
  正しい道を忘れずに
  いられる」

ランバーン 
「俺だけじゃ無理だった。
  ……ひとりじゃ
  できねえこと、
  他人に教えられることって、
  それなりにあるんだよな」

  【プレイヤー】、
  ランバーンの正直な
  想いの吐露に、
  感じ入って。

【プレイヤー】
「ランバーン……」

ランバーン 
「それに俺は、
  お前とのゼノンザード、
  結構気に入ってるんだぜ?」

ランバーン 
「俺の楽しみの為にも
  これからも共犯者で
  いてくれねえとな、
  【プレイヤー】?」

ロボ甲
「俺も、ランバーンと
  【プレイヤー】の
  バトル見るの、好きだぞ!」

ロボ乙
「私もよ。ひさしぶりに
  バトルしてるところが
  見たいわ」

【プレイヤー】
「バトルしよう、
  ランバーン!!」

  元気よくアウロスギアを
  取り出す【プレイヤー】。
  ランバーンも
  アウロスギアを手にして。

ランバーン 
「……仕方ねぇな」

  不敵な笑みを浮かべる
  ランバーン。

ランバーン 
「受けて立つぜ、
  ──『共犯者』」

  ふたりのアウロスギアが
  バトルの開始を告げる。
  七色の光を放ったかと
  思うと、それは
  ゼノンザードの
  バトルフィールドを
  形成していって――

○ビホルダーグループ本社  副社長室

  部屋の中央に据えられた
  重厚なデスク。そこには
  ビホルダーグループ
  副社長のハロルドが
  腰かけている。
  その前に立つのは、
  科学部統括・ブラッドと
  広報部長・マックス。


「キャロウの件については
  ご指示通りに対応
  いたしました」


「おう、ありがとよ」

マックス
「いえ、仕事ですから。
  それに『彼』には
  助かっているんです。
  彼の行動はカムフラ用の
  ネタに最適なので……」

  マックスは謹厳な表情で
  報告する。反対に
  ブラッドは不満たらたらと
  いった顔で。


「私の方は引き続き
  社内の不適切分子に
  関する情報を『彼』の
  周辺にリークし、
  行動操作を継続する
  予定です」

ハロルド
「その、なんだ、
  苦労かけて悪いな」

  ブラッド、腹立たしそうに
  早口で皮肉を述べる。

ブラッド
「まあ私としても
  悪事を働き自分で
  研究費を稼いでまで
  枯れた技術に
  しがみついていた
  キャロウは
  疎ましく思っていたので
  粛清の許可が下りて
  喜びましたがね。
  ただこのような仕事は
  私の職責では……」

  ブラッドの不満を
  遮るように
  咳払いをすると、
  マックスは話題を変える。

マックス
「しかし会長は
  何をお考えなのか……
  コードマンだけなら
  いざ知らず、
  社の研究員に関しても
  『為すがままにさせよ』と
  お命じになるとは……」

  ハロルド、怒りを
  にじませて。

ハロルド
「『可能性を
  摘みたくない』んだとよ。
  ったく、何考えてんだか」

ハロルド
「ともかく、あの老害が
  実権握ってるうちは
  あいつの言葉を利用して
  立ち回るだけさ」

ハロルド
「『コードマンが自発的に
  動いた結果、社内の
  部署が取り潰しになった』
  ……だったら、あのジジイも
  文句言えねえだろうからな。
  この調子でジジイを失脚まで
  追い詰めてくれりゃあ
  御の字だ」

ハロルド
「あのコードマンも
  好き好んで外周部の
  ゴミ掃除をしてくれてんだ。
  目いっぱい利用させて
  もらおうぜ」

  静かに頷くマックス。
  ブラッドは研究の時間を
  取られるのが嫌なのか、
  不満そうな表情を
  隠さない。
  ハロルドはそれを
  なだめるように

ハロルド
「なあ、ブラッド
  そんな顔するなや。
  今回の件はお前としても
  収穫はあったんだろう?」

  するとブラッドは、
  今回の件のことを
  思い返し、一転して
  狂気の笑みを浮かべる

ブラッド
「収穫……
  そうですね……!
  あのコードマンの
  エレメントは実に
  ユニークな蓄積の
  仕方をしている……!」

ブラッド
「AIとしてのコードマンの
  ポテンシャルを殺すほどの
  膨大な未処理の感情……!
  エレメントやゼートレートに
  強い興味を示せない程
  勘を鈍らせている想い……!
  あれは素晴らしい……!
  実に凄まじく……」

ブラッド
「美しい、『歪み』だ……!」

ブラッド
「私は、彼の心の中を
  覗きたい……!」

  ハロルド、
  おどけたように、

ハロルド
「ほら、お前にも益があるんだ
  そうだろう?
  俺も、マックスも
  そしてあのコードマンも……
  全員が得する、最高の
  関係じゃねえか」

ハロルド
「さて、これからも
  悪を裁き続けて
  (おどりつづけて)
  もらおうじゃねえか。
  俺達の知られざる掃除人……
  無自覚の『共犯者』……
  期待してるぜ?」

  悪意の笑みを浮かべる
  ハロルド。

ハロルド
「ランバーン・タイダル……」  

○ランバーンのアジト

  真っ暗なスラム街。
  ランバーンのアジトから
  ほのかに明かりと、
  楽し気な声が漏れている。
  中ではロボ甲・乙と
  【プレイヤー】が
  ゼノンザードに
  興じている。
  ランバーン戦の熱に
  あてられた甲乙が
  バトルをせがんだらしい。

  少し離れたところ、
  壁にもたれかかり、
  【プレイヤー】たちの
  様子をほほえましそうに
  眺めているランバーン。

ランバーン 
「フ……」

  と、レイヴの
  最期の言葉が
  突然よぎって。

○ランバーンの想念

  レイヴの二度目の
  死の場面が再現される。
  ランバーンを見つめる
  レイヴの眼。
  そこには死者のそれとも
  また違う、
  塗りつぶしたような
  闇が湛えられていて。


「負けたときは……
  潔く……退場する……」

  レイヴの顔が
  ランバーンを叱るような
  厳しい表情に変わる。
  瞳の中の闇があふれ、
  涙のように流れ出す。

レイヴ
「それが……男の美学って
  やつだぜ」

  と、一つの光条が差す。
  眩さに思わず目を逸らす
  ランバーン。
  彼から離れたところに
  白い輝きが落ちる。
  目を凝らすと、光の中に
  クロードが立っていると
  わかる。

クロード
「あの人らしくない
  言葉だからな……
  未だにわからないこと
  だらけだ……
  あの人の事は……」

  そう言うと、
  ランバーンに背を向け、
  光が示す先へ歩き出す
  クロード。
  ランバーンは
  手を伸ばすが――
  その腕を、レイヴが掴む。
  そして、どろり、と
  レイヴは溶けはじめ
  ランバーンごと
  漆黒の泥へと
  沈んでいく。

ランバーン 
「……ッ!!」

  汚泥と化したレイヴが
  ランバーンに組み付き、
  耳元で囁く。
  生前のように、朗らかで
  優しい調子に戻って。

レイヴ
「気付いていないのか?
  お前はまた、お前の手で
  殺すところだったんだ。
  お前の大切なものを――」

  ランバーンと
  レイヴから広がった泥は
  甲・乙と楽しそうに語らう
  【プレイヤー】の足元を
  浸していて。

ランバーン 
「【プレイヤー】……ッ!」

  【プレイヤー】の元へ
  近づこうと藻掻く
  ランバーン。
  すると、泥の中から
  レイヴの笑顔が
  気泡のように
  無数に浮かび上がり
  ランバーンに
  まとわりつく。
  そして、笑顔のひとつが
  ランバーンの耳の中に
  ずるり、と入り込んで――

レイヴ
「許さないからな?」

  ランバーンは
  無数の笑顔が浮かぶ
  漆黒の泥に
  飲み込まれていく。

○ランバーンのアジト

  目を覚ますランバーン。
  先程までと変わらず、
  壁にもたれたままの状態。
  【プレイヤー】達は
  ランバーンの様子に
  気付かず、楽しそうに
  バトルを続けている。
  それを、ほの暗い目で
  見つめるランバーン。

ランバーン 
「【プレイヤー】……
  お前は……」

ランバーン 
「お前だけは、
  俺の側に……」

  【プレイヤー】の周りの
  あたたかな団欒とは
  まるで別の空間のように
  暗く冷たい空気が
  ランバーンの周りを
  取り巻いているようで――

〇ビホルダーグループ本社

  ――その最上階。
  椅子に身を預け、
  宙に浮かぶ映像を
  眺めていた様子の
  男が一人呟く。


「そうか、コードマン達は……
  一つの例外なく、
  向かおうというのか。
  彼女の手の指し示す
  先へと…………」

  タクトを振るうように
  軽やかに手を翻す男。
  主の動きに合わせて
  宙に浮かぶ映像が
  100以上に展開される。
  ひとつひとつの映像に
  映し出されるのは、
  今、この瞬間を
  戦い抜いている
  全てのコンコードと
  コードマン達。

サムラ・ビホルダー
「それこそが我らの
  求めるもの、
  そして同時に何よりも
  忌むべきもの」

  空中モニターが放つ
  光は、ただただ闇の
  中の男を照らし続ける。

サムラ・ビホルダー
「ゼートレートは
  柩に手をかけた。
  あとは開け放つだけ……」

サムラ・ビホルダー
「どうやらお前に
  動いてもらわねば
  ならなくなったようだ――」

  男の声は、そのモニター
  の光も届かぬ
  部屋の奥に投げられる。

サムラ・ビホルダー
「――ザナクロン」


「…………………………」

  絶対王者は
  静かな瞳で、
  モニターに映る
  闇に囚われた盗賊を
  見据えていた。

//END

 

解説/5章以降の展開

◇悩める者、ランバーン

「防犯プログラム」は外敵の侵入を防ぐ、専守的なプログラムである。
常にその目を光らせ、あらゆる事態を想定して警戒を怠らず、悪意ある干渉があれば最適な防御策を講じてこれに対処する。
そういったプログラムから進化した為か、ランバーンは非常に思慮深く視野が広いコードマンとなった。
「防犯プログラム」が「待ち構えて対処する」ことに特化した能力を持つことから、ランバーンもまた非常に我慢強く、地道な調査や裏付け取りを好み、堅実に立ち回ることを得意としている。
また、コードマンに進化したことにより、繊細で感受性豊かな優しい心をランバーンは獲得した。武骨で寡黙な佇まいと斜に構えた言動とは裏腹に、ランバーンは悪を挫き、無辜の人々を助けることを己が使命と任ずる、善良なコードマンなのである。

かつてのランバーンはこれらの特長に相応しい『警官のコードマン』として、同僚や市民から高い評価を勝ち得ていた。

しかしこれらはあくまで、『警官』としての評価である。
彼が『盗賊』へと身を転じたことにより、ランバーンを取り巻くすべてが反転した。
光の世界の美徳は、闇の世界においては悪徳となる。
彼が抱え続けている「罪悪感」も相まって、劇中のランバーンは強敵を前に苦戦を強いられている状況だった。

◇レイヴ・ゲッコーという男

権力に屈しない、最後の人間の捜査官がレイヴだった。実質的にビホルダーの子会社と化している警察組織にあって、彼だけは法と正義を信じて孤独に戦い続けていた。
だが、世界全てが敵と言える状況の中で正義を貫く為には、手段を選んではいられなかった。正当な方法でどれだけ証拠をあげようと全て揉み消される。それならば――
ビホルダーを糾弾する為に、レイヴはありとあらゆる違法捜査に傾倒していく。
別件逮捕や証拠の捏造に留まらず、凶悪犯相手には苛烈な尋問を施し、権力者から証言を得る為に親族を人質に取るような真似も平気で行った。
穏和そうな出立ちとそれに違わない人情派で知られていたレイヴ――そうした面も間違いなく彼の真実の姿ではある。だがその裏側に、怜悧で冷徹な思考も併せ持っていたのだ。それは決して矛盾でも背反でもない。大敵を倒すという目的の為には、手段を選ぶ余地がなかったのである。

◇レイヴの光と影

レイヴは、素直で正義感に厚い性格のクロードに警察官としての理想を見出した。レイヴはクロードを法と正義の象徴たる存在に育て上げようと、自身の負の側面をひた隠しにして清く正しい警察官の捜査法を指導していった。
反対にランバーンには、視野の広さや気の利く性格を評価して、非合法な捜査や裏社会とのパイプといった手段を問わない悪との戦い方を叩き込んだ。
クロードは輝ける正義の旗手に。ランバーンはそれを表裏両面で支える影の捜査官に。レイヴの意図はランバーンも充分に理解していた。だが……。
「クロードなら『カッコイイおまわりさん』になれる」
「お前がクロードを支えてやってくれ」
「いざというときはお前がクロードの心を救ってくれ」
レイヴがランバーンに送る言葉は、常に、すべて、クロードという存在ありきのもの。
その事実は、ランバーンの人格形成に深い影を落とすこととなる。

◇レイヴの死と警察との決別

きっかけは、ビホルダーの悪事の証人となる政治犯が、護送中に事故死したことだった。
レイヴ達は捜査の末、それがビホルダー子飼いの殺し屋『名無し』の犯行である事を突き止める。だが当然のように、警察上層部は起訴させてはくれなかった。
レイヴはそれに反発し、ビホルダーへの追及を露骨に強めていく。苛立った警察上層部はビホルダーに忖度し、あろうことかレイヴ暗殺を『名無し』に依頼する。
――ここまでは、レイヴの計算通りだった。あとは自身を狙わせ、そこに生じる隙をランバーンが突いて『名無し』を確保する。レイヴを囮にすることを承諾しないであろうクロードには、この作戦を秘匿して……。

しかし、レイヴの計画は察知されていた。ビホルダーの罠によりランバーンはレイヴから分断され、レイヴを孤立させてしまう。ランバーンが作戦位置についていると誤認させられたレイヴは、予定通り『名無し』の前に姿を見せる。決行の合図として彼は銃を捨て――あえなく『名無し』に殺害されてしまうのだった。

ビホルダーの罠から脱したランバーンが目にしたのは、独自の捜査で暗殺の現場に辿り着いたクロードと、その腕の中で息絶えているレイヴだった。ランバーンがクロードに声をかけようとするが、その余地もなく2人は警察に拘束されてしまう。
クロードは独断専行を咎められるだけだった。だがランバーンは『名無し』を手引きし暗殺に加担したと、あらぬ嫌疑をかけられてしまう。
ここに至って警察組織に愛想を尽かしたランバーンは、勾留施設から脱走し、闇の世界へその身を隠すこととなった。

逃走直後、ランバーンの潜伏先を突き止めたクロードがやってくる。
「お前がレイヴさん殺害の手引きをしたわけがない。
ビホルダーか警察上層部の陰謀だ。そうだろう?」
事情を説明しようとしたランバーン。だが、疑うことなく自身を見据えるクロードの目を見た瞬間、ランバーンは心の内に押し込めていた暗い感情に捕らえられてしまった。
レイヴは、彼の裏の顔を決してクロードには見せないようにした。俺だけが知るレイヴのもう一つの姿。レイヴは「クロードには黙っていろ」と、そう言った。ならば、俺からクロードに言えることは、何もない。
ランバーンは何ひとつ釈明することなく、クロードの前から逃げ出した。
ランバーンとクロードの確執は決定的なものとなった。

力不足でレイヴを死なせてしまったこと。レイヴの無茶を諫められなかったこと。クロードと協力すべきと感じたのに、それをレイヴに上申しなかったこと。
ランバーンは遣る瀬無い想いをひとり抱えて、独力でレイヴの仇をとるべく、悪党となってでもビホルダーを討つことを誓った。
半ば彼自身が望み、半ば追い立てられるようにして、ランバーンは裏社会の住人となったのだ。「盗賊」としてのランバーンはこうして始まった。

◇5章以降の展開

4章での出来事が、コンコードに心中を迫る様なものだったということに気付く。
エレメントや魔女に対する無知・不理解は自分達を殺しかねないと遅ればせながらに思い知ったランバーンは情報収集に勤しむと同時に、自分とコンコードをザ・ゼノンという殺し合いの輪から遠ざける方策を考え始める。
ザ・ゼノンからの永久除名を要求するべく、ビホルダーグループ会長サムラの誘拐に踏み切るランバーン。しかしサムラとの問答の中で「この世界の歪みの原因はコードマンにこそある」と糾弾されてしまう。
近年突如として現れたコードマンという存在は、人々の生活を一変させてしまった。人類史上類を見ないほどの急激な技術の進化は、人間の倫理と感性を置き去りにして、歪な発展をもたらした、というのだ。
コードマンの誕生は職業という概念を完全に変えてしまった。多くの失職者を生み、貧富の差を拡大させた。
人々はコードマンの光の側面を持て囃しているが、同時に闇の側面に恐れてもいる。人間以上の知性と人間と変わらない感情を備えた存在が人間から多くのものを奪ったという事実に、人々は心の奥底では恐怖と猜疑を覚えている。
コードマン達が獲得した権勢は、人類社会を破滅に追いやるのに十分な域に達しつつある。そして実際にランバーンという、人間に歯向かうコードマンも誕生してしまった。
「人間以上の知性体」など、人類にとっては「天敵」以外の何者でもない。
ビホルダーという組織の最重要事項は、コードマンの研究と管理。
不平等に喘ぐ人々がいることは承知している。だがこの歪みは、遠からぬ未来、人類に破滅をもたらす。
社のリソースを大幅にとられ、福祉の拡充や法整備を遅滞させることになろうとも、まずはコードマンという「今そこにある脅威」への対応策を講じねばならない。
例え人品に難ある者であろうと有能ならば雇用し研究を促進させる。悪辣な方法でも構わず採り、多少の犠牲にも目を瞑る。コードマンという「悪性を抱えた存在」と対等に渡り合い、可及的速やかに事態を解決するには、手段を選んでいる余裕はない。
――これこそがザ・ゼノン開催の意図であり、ランバーンとの間に生じた軋轢の原因であると、サムラは明かす。
ランバーンが掲げる「悪にしか裁けない悪がある」という矜持。もし敵が、全く同じ思いで自分と敵対していると知ったらどうなるか。自分達コードマンこそが悪であると人類に断じられた時、ランバーンは何を思うのか。そういった展開を用意していた。

また、ランバーンのこれまでの行動は、サムラとの権力闘争に明け暮れるビホルダー副社長・ハロルドの掌の上だった。
あろうことかビホルダーの操り人形だったと気付いたランバーンだが、今後はそれを逆用し、ビホルダーの中枢に食い込むべくハロルドと手を組むようになる。
悪党として一敗地に塗れると言えるほど打ちのめされたランバーンが、これまでの半端な潔癖さ、迷い、虚栄心を捨て去って、真の悪党として再起することになる。

◇物語の結末

悪党としての敗北と、それでも自身を支え続けてくれるコンコードの叱咤により、ランバーンはこれまでの行動にあった瑕疵と、それを招いた心の澱にいよいよ向き合うこととなる。
レイヴへの依存と後悔から、外道には無用なはずの「証拠探し」に執心して、失われて戻らないレイヴとの日々を埋め合わせようとしていたこと。
クロードに対する嫉妬と対抗心から、泳がせるべきだったダールトンの悪事を彼の前で暴いてしまい、キャロウにたどり着くルートを自分で潰してしまったこと。
そしてキャロウに手も足も出ず、全てを投げ出そうとしたこと。
背を向け逃げ出した結果、闇の奥底で膨れ上がり密かにランバーンを蝕み続けてきた怪物。それをランバーンはコンコードと共にひとつひとつ解きほぐしていき、「自分の心の一部」として迎え入れていく。
ランバーンを縛り付けていたのはレイヴではない。この呪縛の正体とは、レイヴの顔をした「ランバーン自身」だったのである。
自身の心と向き合い、そこに巣食う闇を受け入れたことで、ランバーンはついに己の甘さや至らなさから脱却を果たす。
冴えわたる精神と冷徹な知性を取り戻したランバーンは自身の有様を今一度見つめ直す。「レイヴの遺志を継ぐ」という誓いすら、未練から来る代償行動だった。
真の意味で「レイヴの意思を継ぐ」とはどういうことなのか。
俺が、『俺自身』が本当に為すべきことは何なのか。
呪縛から解放されたランバーンが導き出した「行くべき道」は、それでもやはり「悪を征す」ことだった。

世界が抱える問題、その原因がコードマンと人間の関係性にあると気付いたランバーン。そしてビホルダーがコードマンを警戒する最大の理由が魔女・ゼートレートにあるということも突き止める。これまでの対症療法的な戦い方から抜け出して抜本的な解決を果たすために、魔女を表舞台に引きずり出すべく、ザ・ゼノンの優勝を真剣に目指すようになる。
コンコードのサポートもあり、短期間のうちにトップ集団に食い込むことに成功するランバーン。彼の急激なエレメント増加を憂慮したビホルダーはザナクロンを仕向けるが、2人はそれも撃破。そして――
ザナクロンから膨大なエレメントを獲得したランバーンは、その自我を魔女に乗っ取られてしまう。
ゼートレートが目論む復讐とは、ザ・ゼノンを優勝するほどにエレメントを高めた「最高のコードマン」の頭脳と素体を乗っ取ることで現世に復活し、その力を持って人類を滅ぼすことだったのだ。

ランバーンは、素体の奥深くでゼートレートと対面する。
ランバーンの精神支配を完全なものにするべく、甘言を囁くゼートレート。人類への怨嗟を語り、ランバーンに同調を求める。レイヴをはじめ多くの人間の闇を垣間見てきた末に、自身も心の中に巣食う闇に喰われかけたランバーンは、ゼートレートの思いに理解を示す。しかし、ランバーンは闇と同じだけ光も見つけてきた。ゼートレートの悲劇を繰り返さないよう、弱者を取りこぼさない世界の在り方を探していきたい、とランバーンは自分の考えをありのままに語る。
ランバーンの結論と時を同じくして、現実世界ではコンコードがゼノンザードでゼートレートを打ち破り、ランバーンを魔女の支配から解き放つ。
エレメントの結合が解かれたゼートレートは、ランバーンの素体から追い出され、霧散していく。

エレメントの仕組みが瓦解したことで、ビホルダーグループはAI製造の優位性を失い、その地位を然るべき位置まで落とすこととなる。
サムラの主張はおおむね正しいものではあった。彼らの暗躍は、魔女の到来を見据えてのことだったのだ。彼らのなりふり構わない時間稼ぎがあったからこそ、ランバーンとコンコードが魔女を打倒できるだけの絆を育む事が出来た、というのは何とも皮肉なことではあった。
だが、その為に払った犠牲、踏みにじった人々への贖罪は果たされなければならない。
ビホルダーの数々の悪事はランバーン達の手によって次々と明るみになり、正当な法の裁きを受けることとなるだろう。
コードマンが人類にとって善となるか悪となるか、その答えはまだわからない。だが、自分とコンコードのように、異なる立場の者達でもより良い世界を築けるはずだ。ランバーンとしては残念なことだが、この世界はまだ彼という存在を必要としている。悪党に安易な安息はない。ランバーンはその思いを胸に、これからも悪を裁く悪であり続けることだろう。

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