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dive into......

公開済みストーリー・相関図

公開済みストーリーをYouTubeで公開中!!

1章 よろしく扶養者

2章 ゲーム・セオリー

3章 隠者と愚者

4章 dive into......第1話~第2話

相関図

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第4章 dive into...... 第3話

  ピモタの協力で
  エレメントを大量に得て
  自分の中の『存在』と
  コンタクトを取る事に
  成功したヒナリア。

  その存在は、
  静かに名乗った――。


「私はリメル。
  ゼートレートの師にあたる
  魔女です」

  ヒナリアは少し身構え
  ながら訊ねる。


「……ここは何なんだ?
  オマエの記憶って
  言ったな」

リメル
「……貴女は知っている
  はず」

ヒナリア
「え……?」

リメル
「ここは、ゼートレート……
  ――アリスと私が
  暮らしていた村です」

  そう答えるリメルの
  顔には少し、
  寂しさが滲んでいた。
  だが、在りし日に
  浸ろうとする気持ちを
  切り替える。

リメル
「――私はずっと、
  こうして貴女と
  話がしたかった」

リメル
「……私に力を貸して
  もらえませんか?
  私はあの子を……
  アリスを
  助けたいのです……!」

  リメルは
  真剣な眼差しで
  訴えた――。

〇[現実世界]ヒナリアの部屋

  虚ろな表情のヒナリア。
  その側で、不安そうに
  彼女を見つめている
  【プレイヤー】。
  ピモタは、
  ヒナリアに呼びかける。


「ヒナリア?
  まじょさんと
  はなせたの?」

【プレイヤー】
「ヒナリア……!?」

  しかしヒナリアは
  沈黙したまま。
  【プレイヤー】と
  ピモタは不安がる。

ピモタ
「……なにも
  はんのう しない……?」

  ヒナリアは、リメルに
  連れられ、記憶を
  渡り歩いていた。
  リメルは立ち止まり、
  少し先を示す。

ヒナリア
「あれは――」

  見ると、
  『記憶の中のリメル』と
  一人の少女が
  会話している。


「先生は本当にすごいです!
  あっという間にみなさんの
  ケガを治しちゃうし……」

アリス
「この前は地下水脈を
  探し当てて
  村に井戸を作ったし、
  迷子になった子どもの
  居場所をタロットで
  突き止めたし……」

アリス
「私もいつか先生のように
  人々の役に立つ魔女に
  なりたいです!」


「なれますよ。
  努力を怠らなければ」

アリス
「がんばります!
  一人前になって、
  もっともっと先生の
  お手伝いができるように」

アリス
「そして……」

リメル
「えぇ。私たちと彼らが
  本当に共存できる世界が
  くるように」

リメル
「人間はとても
  か弱い生き物よ。
  簡単ではない道のり
  だけど、何があっても
  決して諦めないで」

アリス
「はい!」

  ヒナリアは
  「信じられない」という
  表情をしている。
  何故なら――
  ヒナリアは、『これ』を
  知っていた。

ヒナリア
「ゼートレート・アリスキル
  ……アリス……」

ヒナリア
「そう……オマエらは
  人の役に立つ
  善い魔女だった……」

リメル
「善悪の基準を一概には
  決められませんが……
  少なくとも私たちは、
  人間と共に生きたいと
  願っていました」

ヒナリア
「知ってる……
  ヒナは、この物語を
  知ってる……」

  自分はこれを
  読んだ事がある。
  ビホルダーグループの
  データベース。
  古い石板に書かれていた
  物語……。

リメル
「……そう、知っている。
  あの時にはもう、私は
  貴女の中にいました」

  ヒナリアは石板の物語と
  リメルの記憶を
  擦り合わせようとする
  かのように、
  『物語』の続きを
  語り始めた。

ヒナリア
「人間との共存を信じる
  アリス……。
  だけど……」

ヒナリア
「その願いが
  揺らいでしまう
  ような……
  アリスにとっては
  辛い出来事が起こる」

ヒナリア
「アリスが助けた旅の男が、
  彼女を魔女だと
  教会に密告した……」

リメル
「あの当時は、
  魔女だと知られれば、
  即刻火刑になる……
  そういう時代でした」

リメル
「私は……アリスを庇い
  自分が魔女であると
  明かした」

リメル
「そして裁判に
  かけられ……」
  ……魔女として
  処刑されました」

ヒナリア
「……読んだよ。
  オマエは
  弟子の為に……」

リメル
「私はあの子が
  いずれ魔女と
  人が共存できる世界を
  作り出してくれると
  信じていました」

リメル
「現実はそううまく
  いきませんでしたが……」

ヒナリア
「………………」

  『物語』の続きを
  既に知っている
  ヒナリアは
  気まずそうに閉口した。

リメル
「私が処刑された後、
  アリスはひとりで
  旅を続けました」

リメル
「私と同じように、
  魔女の力を用い、
  人々を癒し
  続けました……。
  ですが…………」

リメル
「……度重なる
  人間の裏切り……
  人間の弱さに……
  彼女は絶望した――」

〇真っ白な空間

  ――に、大きな石板が
  浮かんでいる。
  ヒナリアとリメルは
  二人並んで
  それを見上げていた。
  ビホルダーグループの
  データベースで見た
  石板だった。

リメル
「……結局彼女は
  魔女として教会に
  捕らえられた」

リメル
「そこで死に際に……
  人類を滅ぼす『呪い』を
  構築した」

ヒナリア
「呪い……?
  人類を滅ぼすって?」

  ここから先は知らない。
  ヒナリアは驚いて
  リメルを見つめる。

リメル
「……ある『呪物』を
  この世界に
  残したのです」

リメル
「私は、彼女を……
  彼女の計画を止めたい」

リメル
「そのために私は、
  彼女の撒いた『呪い』
  が発芽する時代で、
  何か手を打つ必要が
  あった」

リメル
「今ここで貴女と
  話している私は……
  彼女を見守る為
  現世に残していた
  魂の一部です」

リメル
「『呪い』は今現在、
  この時代になり
  芽吹いた。
  私の魂は活動する為の
  身体を必要とした」

ヒナリア
「え。
  その身体って
  もしかして……」

リメル
「そうです。
  私は、ヒナリア――
  貴女のシステムに
  侵入しました」

ヒナリア
「な、なんで……」

リメル
「貴女達の時代に普及する
  AIでなければ……
  彼女の『呪い』のひとつ
  エレメントを調べる事が
  出来なかったのです」

ヒナリア
「…………。
  ちょっと、何から
  聞けばいいか、
  分かんなくなって
  きたんだけど」

ヒナリア
「エレメントが……
  アリスの『呪い』?」

ヒナリア
「エレメントって
  コードマンにとって
  大切なモンだよな?」

リメル
「私にも全てが
  解明できている訳では
  ありませんが……
  一つ言えるのは――」

リメル
「――コードマンは、
  ゼートレート・ログレイド
  ・アリスキルの呪いから
  生まれた……と言う事」

  ヒナリアにとって、
  それはあまりにも
  突拍子もない
  真実だった。
  辻褄もあわない、
  ハチャメチャな真実。

ヒナリア
「いやいやいやいや、
  ちょっと待て!」

  現代科学の結晶
  『超高密集積演算対応
   似人型AI』――
  ――コードマンが
  電気通信の技術すらない
  中世の、しかも
  オカルティックな
  魔術によって
  つくられたとは
  一体どう言う事なのか。
  そう、リメルに
  追及しようとした矢先。

  ――グラッ。
  世界が、揺れた。

ヒナリア
「……!?
  な、なんだ!?」

〇[現実世界]ヒナリアの部屋

ピモタ
「おきろーっ!」

【プレイヤー】
「ヒ、ナ、リ、アー!」

  ――現実世界で、
  二人はヒナリアを
  起こそうとしていた。
  グラグラグラ、
  ヒナリアの身体を
  揺さぶる
  【プレイヤー】。
  しかし――

ヒナリア
「………………」

  ヒナリアは
  虚ろな表情のまま。

ピモタ
「だめだ 
  やっぱり なんの
  反応も ない」

【プレイヤー】
「そんな……
  ヒナリア……」

  【プレイヤー】の心を
  不安と心配が
  侵食していくのだった。

//END

 

第4章 dive into...... 第4話

〇[リメルの記憶の中]白い空間・バックに浮かぶ石板

  空間が揺れている。

  足元をふらつかせながら
  不安な表情で周囲を
  見回すヒナリア。
  リメルは見上げ
  目を細めて呟く。


「時間は
  限られている……」

  揺れは、
  すぐに収まった。


「な、なんだったんだ。
  地震……なワケ
  ねーよな……」

  今、自分が伝えられる情報
  を全て伝えなければ。
  リメルには、この現象の
  説明をしている時間など
  なかった。

リメル
「話を戻しましょう」

リメル
「アリスが火あぶりになる前、
  人間への憎しみを込めて
  作った『呪物』は……」

リメル
「コードマン、
  エレメント、
  ゼノンザードを
  生み出した」

ヒナリア
「……やっぱ
  訳わかんねーよ……」

ヒナリア
「中世の魔女が
  AIをつくったとかさ」

ヒナリア
「それに『ゼノンザード』
  まで?
  現代のカードゲームを、
  どうやって作んだよ?」

ヒナリア
「それが
  本当だとすると
  『ザ・ゼノン』って
  一体何なんだよ……?」

リメル
「……アリスの『呪い』を
  使って、何かをしようと
  している者達については
  私は分からない」

リメル
「ですが……あの大会も
  全ては『タロット』から
  始まっている。
  それは確かです」

  急に出てきた、
  しかしついこの間
  起こった忌々しい
  出来事に繋がる、
  心当たりのある単語。

ヒナリア
「『タロット』って――!」

リメル
「貴女が利用され
  取りに行かされた
  それです。
  あのタロットこそ
  アリスの生み出した
  『呪物』」

  魔女、タロット、
  コードマン、エレメント、
  ゼノンザード……。
  半信半疑ではあるが、
  ヒナリアの中で
  それらが繋がってきた。

リメル
「私は止めなければ
  ならない。
  アリスの『呪い』が
  成就し、全人類を
  滅ぼしてしまう前に」

ヒナリア
「全人類って……」

  ヒナリアにはそれが
  大げさで
  フィクションのように
  聞こえた。
  だがリメルは表情を
  変えることなく続ける。

リメル
「あの子はこの『呪い』に
  魂をかけた。
  それ程、人間を憎んでいる
  ということです」

リメル
「私も、計り知れない程の
  憎悪です」

ヒナリア
「憎悪……」

  重々しく濁った感情。
  ヒナリアには、
  それが先程まで見ていた
  少女の笑顔とは
  結び付かなかった。
  石板の物語とは違い、
  リアルに見た、
  人間を信じる
  純粋で善良な魔女の少女。
  あの少女が、
  全人類を滅ぼそうと
  しているだなんて。

リメル
「ヒナリア……?」

ヒナリア
「……ほんとにそうか?
  アリスは100パー
  人間を憎みきってた
  のか……?」

  自信がなさそうに
  途切れ途切れで疑問を
  口にするヒナリア。
  リメルは驚きつつも、
  口を挟むことなく
  ヒナリアの言葉を
  待った。

ヒナリア
「勿論、呪いを
  作ったんなら
  憎んでたのは
  間違いない、と思う」

ヒナリア
「師匠のオマエを殺されて、
  それでも人間を信じて
  尽くしてきたのに、
  結局自分も殺され
  たんだから……」

ヒナリア
「けど、裏を返せばさ、
  めちゃくちゃ
  信じてたからこそ
  恨んだんだろ……?」

ヒナリア
「だったら、
  『まだまだ
  人を信じたかった』
  って思いもあったん
  じゃないか……?」

リメル
「…………………………」

ヒナリア
「そういう想いが
  ちょっとでも
  タロットに、呪いに
  込められてたと
  したら……」

ヒナリア
「全てを滅ぼす様な
  残酷な呪いには
  ならないかもしれない……
  なんか、そう思ったり……」

リメル
「人を、信じたかった
  という思い……」

  ヒナリアの言葉を
  胸中で反芻するリメル。

  普段の自分なら
  言わないような
  こっ恥ずかしい台詞に、
  ヒナリアは赤面した。

ヒナリア
「……まあ、ホントのとこ
  どうかはわからないけど」

  リメルは、
  くすりと笑った。
  ヒナリアは照れ顔を
  笑われたと思い
  ムッとした。

ヒナリア
「な、なんだよ!?」

  リメルは微笑んだまま
  柔らかい声で呟いた。

リメル
「……やっぱり、
  貴女を選んだのは
  間違いではなかった」

ヒナリア
「……え?」

リメル
「貴女は優しい心を
  持っている」

ヒナリア
「な、何言ってんだよ……。
  AIに『優しい心』
  とか……」

ヒナリア
「……ぜ、全部ヒナの
  妄想かもしんねーぜ?
  最近泣ける系のRPG
  ばっかやってたから
  エモい思考になってたし」

  リメルは首を横に振る。
  ヒナリアの中にいた
  リメルは、彼女を
  ずっと見てきた。

  だから分かる。
  ヒナリアは優しい。
  傷つきやすいから、
  他者に同情する。
  自己肯定感が低いが故に
  他人に優しく
  出来る自分なんて
  恥ずかしくて
  認めはしないないが。

  けれどそんな心の機微
  でさえ、リメルには
  内側から見えてしまう。
  「お見通し」だと一しきり
  笑った後、リメルは
  思い浮かんだ妙案を
  口にした。

リメル
「貴女の言う通り、
  アリスの感情が
  このタロットに
  込められているとしたら」

リメル
「それを読み解けば、
  アリスを止める手段と
  なるかもしれない」

ヒナリア
「……!」

リメル
「貴女のお陰で、
  アリスを救える方法が
  見えたかもしれない。
  感謝します、ヒナリア」

  リメルの前向きな瞳に、
  ヒナリアは
  改めて驚いた。

  人間に殺され、
  弟子は教えを破った。
  なのにどちらも
  救おうとしている。
  とびぬけたお人よしだ。

  しかし、それはどこか
  AIに近いなと思った。
  どんな使われ方を
  しようがAIは
  使用者の為に行動する。
  逸れる道がない分
  真っ直ぐなのだ、
  AIも。
  (コードマンには感情が
   あるので例外だが)

  ヒナリアはリメルに
  親近感を覚えた。

ヒナリア
「……ヒナさ、
  情報収集とか……
  集めんのは
  得意な方だぜ?」

リメル
「それは……
  協力して、
  くれるという事ですか?」

ヒナリア
「まあ、なんだ……
  乗り掛かった舟っつーか。
  ……乗り掛かられたのは
  ヒナの方だけど」

  ポリポリと
  頭を掻きながら
  照れくさそうに
  視線を逸らして
  応えるヒナリア。

リメル
「ヒナリア……!」

  リメルはヒナリアの
  側に寄り、
  手を取った。

リメル
「ありがとう
  ございます……!」

  手をぎゅっと握られ
  ヒナリアの照れ臭さは
  限界に達する。

ヒナリア
「だああああっ!
  恥ずかしい奴!」

  と振り払う。
  リメルはまた笑った。
  それがまた恥ずかしくて
  ヒナリアは
  早急に話題を逸らす。

ヒナリア
「けどこんな大事な事
  もっと早く、ちゃんと
  言えっつーの!」

リメル
「すみません」

  苦笑しながら謝る
  リメルにムッとして
  ヒナリアは更に
  文句を言う。

ヒナリア
「頭の中にたまに
  声が響いてくるとか
  怖かったんだからな!」

リメル
「ごめんなさい。
  私の現在の魔力では
  貴女にはっきり言葉を
  伝えることが出来ず……」

リメル
「貴女の中にエレメントが
  増えてやっとこうして
  話せるようになったのです」

リメル
「エレメントが
  『魔術』由来
  だからでしょうね……。
  皮肉なものですが」

  文句を言い終えると、
  なんだか一段と
  心の距離が近く
  なった気がした。
  ついこの前までは
  悪い存在なのかも
  しれないと不安に
  思っていたのに。

  ホッとしたついでに
  ヒナリアは
  リメルに尋ねた。

ヒナリア
「あのさ……
  一つ聞いていい?」

リメル
「はい、なんでしょう?」

ヒナリア
「なんでヒナなの?
  他にもっと
  優秀なコードマン
  いるだろ」

  リメルは困ったように
  笑った後、口を開く。

リメル
「……理由はありません。
  私が器を探し始めてすぐ
  出会ったのが
  貴女だっただけで……」

  つまりは、たまたま。
  驚きのあまり、
  ヒナリアは一瞬
  言葉を失くしたのだった。

ヒナリア
「はぁ!?
  誰でもよかったって
  こと!?」

  リメルは思い出話をする
  老人の様に
  細い目で遠くを見る。

リメル
「貴女はあの時、
  まだコードマンではなく
  記録管理プログラムの
  量産型AIでした」

ヒナリア
「あからさまに
  視線逸らしてん
  じゃねー!」

ヒナリア
「ってか何!?
  記録管理プログラム
  って!
  それがヒナの出身!?」

リメル
「日々広大なネットの海に
  広がる膨大な情報を
  記録し、分析AIへと
  転送するだけの
  簡素なAIです」

ヒナリア
「ヒナ、AIの時から
  ネット廃人だったわけ!?
  っていうか分析まで
  やれよ!?
  ポンコツAIじゃん!」

リメル
「高度なプログラムでは
  なかったからこそ、
  システムには介入しやす
  かったです」

ヒナリア
「笑顔で言うな。
  ……んだよ、
  やる気失くすわ……」

  リメルは苦笑しながら
  「ごめんなさい」と、
  ヒナリアの頭を撫でる。

リメル
「貴女の中に私が入り
  それがきっかけで
  貴女はコードマン
  となった」

リメル
「始まりは偶然。
  でも、この出会いは
  必然だったのかも
  しれない」

リメル
「アリスを止める為に……」

  遠い昔、リメルは
  アリスにもこうして
  いたのだろうか。
  ヒナリアはふと
  そんな事を思った。

ヒナリア
「あ! そうだよ!
  アリスが
  コードマン、エレメント、
  ゼノンザードを生み出した
  ってどーいうことだ?」

ヒナリア
「タロットとどう関係して
  くんだ?」

  リメルはヒナリアを
  撫でる手を止め、
  ここで出会った
  当初のような
  シリアスな表情に戻った。

リメル
「……本来、科学技術と
  魔術が混在する事は
  有り得ない事」

リメル
「だからこそ私は
  エレメントを所持できる
  コードマンは
  アリスが生み出したと
  断定しています」

リメル
「分からないのは、
  コードマンを最初に
  開発したのは
  人類だと言う事」

リメル
「アリスはどうやって
  人間に『呪詛』の器を
  つくらせたのか――」

  と、前触れもなく
  再び世界がぐらつく。

ヒナリア
「……!?
  またさっきの!!」

リメル
「――ここまで、ですか……」

  時間切れ。
  リメルは見上げ、呟いた。

〇[現実世界]ヒナリアの部屋

  現実世界ではまた
  【プレイヤー】が
  ヒナリアを
  揺さぶっていた。

  側にいたピモタは
  難しい顔で。


「ひなりあ
  やっぱおきない」

ピモタ
「心配だよ
  なにか あぶない目に
  遭ってる かのうせいも
  あるし」

ピモタ
「こうなったら……」

【プレイヤー】
「強制ゼノンザードで
  ヒナリアのエレメントを
  奪い取る……!」

  【プレイヤー】とピモタは
  顔を見合わせ頷く。

ピモタ
「よーし
  ぼくと【プレイヤー】、
  りんじのタッグだ」

ピモタ
「ひなりあを
  たすけだそう!」

  ピモタがアウロスギアを
  起動させて――。

//END

 

第4章 dive into...... 第5話

〇白い空間とバックに浮かぶ石板

  揺れが更に酷くなり、
  ヒナリアは
  立つのもやっと。
  ついには空間に
  亀裂が生じる。


「なにこれ!?
  どーなってんだ!?」


「この振動は、
  貴女のコンコードが
  貴女の素体に干渉して
  起こっているのです」

ヒナリア
「え?」

リメル
「強制的にゼノンサードを
  行い……エレメントを
  貴女の身体から
  奪い取ったのです」

リメル
「貴女と少しでも
  長く話す為に、
  私も力は尽くした
  のですが……」

ヒナリア
「力は尽くしたって……
  まさか、
  ヒナの素体使って
  リメルが
  バトルしたのか!?」

リメル
「はい――」

  と、リメルの身体に
  砂嵐のような
  ノイズが走る。

ヒナリア
「!?」

リメル
「も……時間が……
  ……いようですね……」

ヒナリア
「リメル、声が……!」

リメル
「ヒナ……お願い……が
  聞い……て……」

ヒナリア
「なんだって!?
  聞こえねーよ!」

  必死にリメルの声を
  聞こうとする。
  しかし声も
  途切れ途切れになり
  よく聞こえない。

ヒナリア
「くっそ……!
  やっと話せるように
  なったのに、
  まだまだ聞きたい事
  たくさんあんのに……!」

リメル
「ヒナ、リア……
  お……がい……ます、
  タロットを……
  ……めて……」

ヒナリア
「タロット?
  タロットが
  なんだって?」

リメル
「タ……ットを……、
  集めて……。
  おね……い……!!」

  ――ザザザザッ!
  ノイズが酷くなり、
  空間が裂ける。
  ヒナリアの身体が、
  黒い裂け目に
  吸い込まれる。

ヒナリア
「うわぁっ……!?」

リメル
「ヒ……リア……
  貴女と……
  お話でき……て
  ……よかっ……た」

ヒナリア
「リメル……っ、
  リメルーーっ!!」

〇[現実世界]ヒナリアの部屋

  【プレイヤー】の腕の中
  にいたヒナリア。
  ガバッと飛び起きて。

ヒナリア
「リメルッッッ!!」


「あ! ヒナリア~!!」

  ヒナリアが無事
  目を覚まし、喜ぶ
  【プレイヤー】とピモタ。

【プレイヤー】
「よかった……!
  ヒナリア……!!」

ヒナリア
「……………………」

  暫く呆然としていた
  ヒナリア。が、
  段々と現実に戻って
  きた事を認識して。

ヒナリア
「……んで……」

ピモタ
「ん?」

ヒナリア
「なんで強制ゼノンザード
  なんかしたんだよ……」

ヒナリア
「なんで邪魔したん
  だよ……!
  まだリメルと話したい事
  あったのに……!」

  悔やんでいる様子の
  ヒナリア。
  ピモタと【プレイヤー】
  は顔を見合わせる。

ピモタ
「べつに もんだいが
  起こってた わけじゃ
  なかった みたい……?」

【プレイヤー】
「リメルって……?」

ヒナリア
「ヒナん中の魔女だよ!
  クソ……オマエラ
  勝手な事
  しやがって……」

  【プレイヤー】と
  ピモタに、苛立ちを
  隠せないヒナリア。

〇公園(夕)

  ヒナリアの部屋を出た
  【プレイヤー】。
  公園のベンチで
  ピモタと通話している。

ピモタ
「ひなりあってば
  ぼくらは 心配で
  たすけたのに~」

【プレイヤー】
「でも、ヒナリアには
  余計なお世話
  だったみたい」

  落ち込む【プレイヤー】
  を見かねて、ピモタは
  決心する。

ピモタ
「しかたないなぁ
  ぼくが ひとはだ
  ぬいであげる!」

【プレイヤー】
「え?」

ピモタ
「ヒナリアに
  おわび しよう!」

〇[後日]ワンダードリームランド・エントランス

  きゃーっと、遠くから
  絶叫マシンを楽しむ声。
  急に遊園地に呼び出され
  仏頂面で腕を組む
  ヒナリア。

ヒナリア
「どういうつもりだよ……」

ピモタ
「ゆうえんちで
  仲直りだよ!」

  自信満々に答える
  ピモタ。
  ピモタの言うお詫びとは
  つまり、一緒に楽しく
  遊んであげるから
  機嫌を直してね?
  という事なのだった。

  ヒナリアは
  「だりー」とだけ返し
  一向に視線を合わせて
  くれない。

【プレイヤー】
「……ホントに大丈夫?」

ピモタ
「だいじょうぶさ
  いざとなったら
  『お友達をえがおに!』
  とか言って わんだくん
  がなんとかしてくれるよ」

  ピモタの本気なのか
  投げやりなのか
  よく分からない返答に
  【プレイヤー】は
  不安を覚える。

  ピモタは、それを察した
  かは不明だが、ニコッと
  笑って。

ピモタ
「あんしんしなよ
  【プレイヤー】」

ピモタ
「ここに来てくれたって
  ことは ひなりあも
  きっと 仲直りしたいはず」

【プレイヤー】
「そうだといいんだけど」

ピモタ
「じゃあ ぼくが
  あんないするよー」

  ピモタを先頭に、
  不安な表情の
  【プレイヤー】と
  不機嫌そうなヒナリアは、
  ワンダードリームランド
  へと入園するのだった。

//END

 

第4章 dive into...... 第5.5話

〇ワンダードリームランド・内

  う~んと頭を悩ませている
  ピモタとワンダーコール。


「どーしよ~」


「ボクの力を
  もってしても……」

ピモタ・ワンダーコール
「機嫌を
  直してくれない!!」


「…………フン」

  ヒナリアは相変わらず
  【プレイヤー】と視線を
  合わせてくれない。

ワンダーコール
「君達、なにして
  ヒナリアちゃんを
  怒らせたかは
  知らないけど」

ワンダーコール
「ちゃーんと
  謝った方がいいんじゃ
  ないの??」

ヒナリア
「別に謝れとか、
  思ってねーし……」

  小さな呟きが
  【プレイヤー】にだけ
  聞こえる。
  ヒナリアはそう言い
  残しふらっと
  どこかへ歩き出した。

【プレイヤー】
「ヒナリア?」

  追いかける
  【プレイヤー】。
  ピモタも一緒に
  行こうとするが。

ワンダーコール
「ピモタくん。
  ここはコードマンと
  コンコード、バディ
  だけで話した方が
  いいかも!」

ピモタ
「え?」

ワンダーコール
「なーんかそんな
  雰囲気を感じ取ったよ、
  このワンダくんアイが!」

ピモタ
「わけわかんない~」

〇観覧車前

ヒナリア
「……いつまで
  黙ってついてくる
  つもりだよ」

  足を止めるヒナリア。

【プレイヤー】
「えっと……」

  二人の空気感に反して
  周囲から聞こえてくる
  声は楽しく明るい。

ヒナリア
「リア充ばっかだな」

  ヒナリアはため息
  交じりに呟くと、
  観覧車の乗り場へと
  歩を進めた。

【プレイヤー】
「ヒナリア?」

ヒナリア
「いーから、乗って」

〇観覧車・内

ヒナリア
「……………………」

  無言のままでもう
  1/4は回っただろうか。
  【プレイヤー】が
  そろそろ何か言った方
  がいいと思い
  口を開こうとした時。

ヒナリア
「オマエらがやったこと
  別にわざとじゃない。
  ヒナを心配してくれてた
  のは分かってる……」

ヒナリア
「でも……リメルと
  もっと話さなきゃ
  いけなかったんだ」

ヒナリア
「タロットのこととか
  エレメントと
  コードマンのこととか」

ヒナリア
「ヒナが元々
  どんなAIだったか
  とか……」

ヒナリア
「ヒナの足りない
  部分まで、
  リメルは知ってたんだ」

ヒナリア
「でももう
  ピモタにもう一度
  エレメントを
  ぶっこ抜かせろなんて
  頼めねーしさ」

ヒナリア
「ごめん……。
  ヒナもどうしていいか
  分かんなくて」

ヒナリア
「……リメルが
  教えてくれた事は
  多分、オマエも
  知ってなきゃいけない
  事だと思う」

ヒナリア
「ヒナたちが思っている
  以上に、ビホルダーは
  曲者かもしんねぇ――」

  ヒナリアは【プレイヤー】に
  リメルから教えてもらった
  ゼートレートという魔女、
  その過去、目的……
  そして全貌のわからない
  呪術について伝えた。

  呪術には自分達
  コードマンが深く
  関わっている事、
  エレメントも
  ゼノンザードも
  全てゼートレートという
  魔女が生み出した事も。
  
  そしてこれらを
  利用している
  ビホルダーグループの
  目的が、リメルにも
  分からないと
  言う事まで。

【プレイヤー】
「……実感がわかない」

ヒナリア
「でもリメルは
  そう言ってた。
  証明できるものなのか
  わかんないけど……」

ヒナリア
「ヒナは、リメルが
  言ってた事は
  全部本当だと思う」

  まるでフィクション
  みたいで、
  【プレイヤー】も
  何を言っていいのか
  分からない。

ヒナリア
「ザ・ゼノン……。
  ただのカードゲームの
  大会だと思ってた
  けど……」

ヒナリア
「ヒナたちは
  知らず知らずの内に
  面倒事に巻き込まれてた
  のかもしんない」

ヒナリア
「……リメルがさ、
  最後に言ってたんだ。
  『タロットを集めて』
  って」

ヒナリア
「ヒナさ……
  リメルの言う通りに
  してみようかと
  思ってる」

ヒナリア
「だってさ、中途半端に
  ネタバレされて、
  ビホルダーの事
  魔女の事、
  無視できないじゃん?」

ヒナリア
「ニートが何やる気
  出してんだって
  思うかも
  知んねーけど……」

ヒナリア
「ヒナは、もっと
  自分の事知りたいんだ」

  【プレイヤー】は
  ハッとする。
  ヒナリアには珍しい、
  真っ直ぐ前向きな瞳。

ヒナリア
「なんかヤバい展開に
  なりそうって
  フラグ立てといて
  何言ってんだって感じ
  だけどさ」

ヒナリア
「ヒナは【プレイヤー】に
  協力してほしい……。
  コードマンと
  コンコードじゃねーと
  ザ・ゼノンに出られない」

ヒナリア
「その謎も調べらんないし」

ヒナリア
「タロットを集めるのも
  またヨルスケみたいな
  やつが出てきたらって
  思うと……仲間が欲しい」

ヒナリア
「オマエにメリット
  あるかって聞かれたら
  ヒナはよく分かんない。
  でもヒナは、オマエと
  パーティ組みたい」

ヒナリア
「オマエは……
  どう思う……?」

  不安そうなヒナリアに、
  【プレイヤー】は
  当然のように答える。

【プレイヤー】
「ヒナリアの
  コンコードだよ、
  自分は」

ヒナリア
「それって……
  ……まだヒナに
  付き合ってくれる
  ……って事で、
  いいのか……?」

  「当然」と頷く
  【プレイヤー】。
  ヒナリアは
  思わず顔を綻ばせる。

ヒナリア
「……オマエは、
  いつもそうだな。
  ヒナに手を
  差し伸べてくれる」

ヒナリア
「コイツだけは信じられる。
  味方なんだって……
  そう思える相手がいるのは
  すごく……安心する」

  ヒナリアをより
  安心させる為……
  【プレイヤー】は――

ヒナリア
「なっ、なにすんだ!?」

  ヒナリアの頭を
  撫でた。

ヒナリア
「ちょっ!
  くすぐったい!
  やめろよ、ヒナは
  ガキじゃねーんだぞ!」

  抵抗するヒナリア、
  だが意外とすぐに
  受け入れる。
  首をかしげる
  【プレイヤー】。

ヒナリア
「……リメルもさ、
  頭を撫でてくれたんだ。
  こうやって……」

ヒナリア
「ゼートレート……
  アリスも、リメルが
  いたから
  やっていけてたん
  だろうな」

ヒナリア
「……ヒナの前から
  オマエが消えたら
  って想像するとさ……」

ヒナリア
「アリスが悪い方に
  行っちまったの、
  分かる気がするよ」

【プレイヤー】
「いなくなったり
  なんかしないよ」

ヒナリア
「…………ハハ。
  何恥ずかしい事
  言ってんだ」

  そうは言いつつも
  ヒナリアはどこか
  嬉しそうだった。

ヒナリア
「――【プレイヤー】、
  よろしく頼むな」

ヒナリア
「まずはもう一度
  リメルと話をする為に
  二人でザ・ゼノン、
  勝ちまくろう」

【プレイヤー】
「そうだね!」

  視線を通わせる二人。
  お互いに信頼を
  寄せている事が
  分かる笑顔――。

ヒナリア
「ところで……」

【プレイヤー】
「ん?」

ヒナリア
「いつまでナデナデ
  してるつもりだよ」

【プレイヤー】
「!!
  ご、ごめん……!」

  【プレイヤー】の
  ナデナデから抜け出す
  ヒナリア。
  しかし――

ヒナリア
「――ばーか」

  すまなそうな表情の
  【プレイヤー】を見て
  ヒナリアは
  満面の笑みを
  浮かべるのだった。

  ――そこには
  かつて自分を
  『ニート』と卑下していた
  ヒナリアはいなかった。

〇ビホルダーグループ本社

  ――その最上階。
  椅子に身を預け、
  宙に浮かぶ映像を
  眺めていた様子の
  男が一人呟く。


「そうか、コードマン達は……
  一つの例外なく、
  向かおうというのか。
  彼女の手の指し示す
  先へと…………」

  タクトを振るうように
  軽やかに手を翻す男。
  主の動きに合わせて
  宙に浮かぶ映像が
  100以上に展開される。
  ひとつひとつの映像に
  映し出されるのは、
  今、この瞬間を
  戦い抜いている
  全てのコンコードと
  コードマン達。

サムラ・ビホルダー
「それこそが我らの
  求めるもの、
  そして同時に何よりも
  忌むべきもの」

  空中モニターが放つ
  光は、ただただ闇の
  中の男を照らし続ける。

サムラ・ビホルダー
「ゼートレートは
  柩に手をかけた。
  あとは開け放つだけ……」

サムラ・ビホルダー
「どうやらお前に
  動いてもらわねば
  ならなくなったようだ――」

  男の声は、そのモニター
  の光も届かぬ
  部屋の奥に投げられる。

サムラ・ビホルダー
「――ザナクロン」


「…………………………」

  絶対王者は
  静かな瞳で、
  モニターに映る
  一歩踏み出した
  ヒナリアを
  見据えていた。

//END

 

解説/5章以降の展開

◇出生と挫折

本人にとっても突然のことだった。
ある時いきなり目覚めた、というような感覚。
往来に立ち尽くしているのは、粗末な機械の身体。
記憶も目的も何もなく、明敏な思考と意識だけがある。
「自分」は一体何なのか。
降って湧いた自我に彼女が困り果てていると、何処からともなく現れた人間達が彼女を捕獲し連れ去ってしまった。

再び目を覚ますと、彼女は少女を模した最高級の素体に移し替えらえていた。
彼女が周囲を見渡す。彼女の挙動を観察していた人間達は、しきりに首をかしげていた。
「これは間違いなくコードマンだ」
「しかし、こんなAIが進化するなどありえない」
「エレメントの急上昇など観測上初めての事だ」
「一体何に特化したコードマンなのだろうか」
彼女は、自分がAIであることと、その中でも突出した存在であるコードマンであることを知る。しかし、自分がどこから来たのか、何に長けているのかは、彼女自身もわからなかった。

出所不明のコードマン。彼女には「ヒナリア・ダーケンド」という識別名が与えられた。
彼女を収容した集団――ビホルダーグループは、ヒナリアがどんな能力を持ったコードマンなのかを調べるために、様々な課題を与えた。
ヒナリアは、コードマンとしての高度な能力で全ての課題をクリアした。しかしビホルダーの研究者達の反応は芳しくなかった。曰く「コードマンの平均値を下回る処理能力だ」と。
ビホルダーの研究者達は、ついにヒナリアの特長を見つけ出すことができなかった。ヒナリアの進化に対して「数ある例外のうちのひとつ」という判断を下した彼らは、半ば放逐するような形で、ヒナリアを傘下企業の研修に回らせた。

ヒナリアは、行く先々で落胆された。
ヒナリアは決して無能ではない。「コードマンが来る」と周囲が勝手に期待を過度に膨らませ、そして「コードマンの割に大したことない」と勝手に失望したからだ。
自分の出自も分からないまま手探りで世界に挑み続けるしかなかったヒナリアにとって、周囲から向けられる失意の目は、心を折るに十分の圧力だった。
ヒナリアはデータを操作してボロアパートの一室を借りると、そこに引き籠り、外出することをやめた。
ヒナリアを呼び戻そうとする者は、誰もいなかった。

◇誕生・最強引きニート

世界に対して扉を閉ざし、引き籠るようになったヒナリア。
彼女はいつしか、ネットの海を泳ぎ回ることに惑溺するようになった。

電脳空間では、時間や場所に囚われず、各々が望んだ姿で思い思いに交流する事が出来た。
素性を明かす必要もなく、ある意味ありのままに触れあえる世界だった。
そこでは誰もヒナリアを「コードマン」という色眼鏡で見ることはなかった。
ヒナリアはネットの世界で初めて、自分という存在を容認されたように感じたのだった。

ヒナリアは「マオウ」という大仰なハンドルネームを名乗って、電脳世界を自由気ままに駆け回るようになる。
オンラインゲームで過去最高のスコアを叩き出し、遊び半分で公的機関にクラッキングを仕掛け、最高クラスのセキュリティを誇るサーバーにいともたやすく侵入した。
やがて彼女の腕前はネットにたむろするゲーマーやハッカーたちの評判を呼び、「マオウ」の名に違わぬ尊崇を集めることとなった。

ヒナリアの真価は、ネットの世界で発揮された。
急激な進化による過負荷でAI時代の記憶を損失したこの時のヒナリアは知る由もなかったのだが、ヒナリアの出身プログラムは「記録管理プログラム」だった。
電脳空間を構成する情報は、現実世界に比べれば単純で少量だ。
0と1だけで組み上げられた、AIにとっては親しみやすいシンプルで強靭な構造の世界。ヒナリアの才能は、限られた環境下でデータを高速かつ正確に捌くことにあった。
ヒナリアは言うなれば「電脳空間特化のコードマン」だったのだ。

◇魔女との出会い

ニートAIとしてある意味順風満帆な日々を送っていたヒナリア。
いつも通り、電脳世界で好き勝手に暴れまわっていた時のこと。突然頭痛がしたかと思うと、ぼそぼそと呟き声のようなものがどこからともなく響いてきた。
電脳空間で誰かからアクセスを受けた痕跡はなく、現実世界の素体が近隣住民の話し声を拾ったというわけでもない。
正体不明の音声が時間も場所も選ばず突然響いてくるという現象がしばらく続いて、ヒナリアはその出所をようやく悟った。
自分の頭の中から声がしている、と。
謎の声は日に日にはっきりとしていき、「魔女」「エレメント」といった単語が聞き取れるようになっていった。
単語だけがまばらに聞こえるという状態が連日連夜続き、ヒナリアの神経をすり減らした。
「頭の中から声がする」という症状は、少なくともAIに起こり得るものではない。調べても調べても対策法は見つからず、ヒナリアは途方に暮れた。
ちょうどその時期に、ビホルダーグループからザ・ゼノンの出場要請が届く。自分を勝手に見出し勝手に見限ったビホルダーの連絡など受けるものかと無視しようとしたヒナリア。だが謎の声は「ザ・ゼノン」という単語に反応し、声にならない声をがなり立てた。
「出ろって言ってんのか……?」
ヒナリアはコンコードと契約し、ザ・ゼノンへの出場を決める。エレメントを集めると、謎の声は静まり、ヒナリアの気も安らいだ。
ヒナリアは、自身を苛む頭の中の声を便宜上「魔女」と呼ぶことにした。そして彼女は魔女の声から逃れる為に、嫌々ザ・ゼノンに挑むことにしたのだった。

◇5章以降の展開

頭の中の魔女が、虹色の魔女:リメル・ナル・マリエンリータという存在であることを知ったヒナリア。彼女の「弟子ゼートレートを救いたい」という気持ちと、コンコードに次いで自分を認めてくれたという真心に触れたヒナリアは、リメルに協力することを誓う。
コンコードとヒナリア、そしてリメルという奇妙な三人組はひとまずリメルの声を鮮明にする為に、今まで以上にザ・ゼノンに励み、エレメントを集めだす。
エレメントを高め、リメルとの意思疎通を自由に行えるようになったヒナリア。喜ぶのも束の間、ヒナリア達はビホルダーによって拉致されてしまう。

ヒナリアとコンコードが意識を取り戻すと、そこはザ・ゼノンのスタジアムと思しき場所だった。今まで一度も訪れたこともない、どこか禍々しさを感じさせるバトルフィールド。対面に構えるコードマンはなんと、ザ・ゼノン最強のコードマン、ストライオ・ザナクロンだった。
実は、ヒナリアがコードマンに進化してからずっと、ビホルダー会長・サムラはその謎を解き明かすべく監視を続けていたのだった。サムラは、ヒナリアが魔女リメルを取り込んだ結果急激に進化を果たしたということを突き止める。
魔女を取り込めば、ごく初歩的なAIすらコードマンまで一気に進化できる。そのような存在を、最強のコードマンに組み込めば……。
リメルをザナクロンに吸収させるべく、サムラはヒナリアを誘拐しバトルを強要したのだった。
強制ゼノンザードを仕掛けられるヒナリアとコンコード。奮闘虚しくふたりは敗れてしまい、全てのエレメントごとリメルを奪われそうになる。このまま全員ゲームオーバーかと思われたその時、リメルがその身を盾とする魔術を発動させ、ヒナリアとコンコードのエレメントだけは守ることに成功する。
力を使い果たしたリメルは吸収されてしまい、ザナクロンは更なる強化を果たす。
用済みとばかりに放り出されるヒナリアとコンコード。
ようやくわかり合えたリメルを理不尽に奪われ、ヒナリアは慟哭するのだった。

リメルという導き手を失うも、それまでの経験で精神的に成長を遂げていたヒナリアは絶望することなく戦い抜くことを選ぶ。
リメルが残した「ゼートレートを救ってほしい」という願いをかなえるべく、ヒナリアとコンコードは世界の謎に立ち向かう。

また、ヒナリアとリメルは全コードマンの5章ストーリーに共通して登場しキーキャラクターとして活躍することになる。ザナクロンがリメルを吸収して更なる進化を果たし、全コードマン共通の敵として立ちふさがるという要素はストーリー2章5.5話におけるセネトとアイリエッタのシーンのように、全コードマン共通のストーリーとして用意していた。

◇物語の結末

リメルが残した推測に従い、ゼートレートの計画にはエレメントが必要不可欠と目して、更なるエレメント収集に励むヒナリア達。
ヒナリア達の躍進を危惧したサムラは、もはや無視できないと強化されたザナクロンを派遣する。
リメルの為にも、自分達の為にも負けられない。ヒナリアは激闘の末にザナクロンを打ち倒す。
リメルの弔いも叶ったと思った瞬間、ザナクロンの膨大なエレメントが流れ込み、ヒナリアは素体と意識をゼートレートに奪われてしまう。
ゼートレートは、エレメントが最高潮に達したコードマンの素体を乗っ取るべく全AIのプログラムに最初から自分を復活させる術式を織り込んでいた。
ゼートレートは憎しみの果てに、師であるリメルすらも看破できない程の魔術を編み出していたのだった。

ゼートレートに吸収されたヒナリアの意識。ゼートレートの深淵の如き憎悪に沈み込んでいく中で、ヒナリアはリメルの言葉を今一度思い返す。
「ゼートレートを、アリスを助けたい」と。
ヒナリアはリメルと共に追体験したゼートレートの生涯に思いを巡らせる。
「人間に裏切られた」という想いは「人間を信じている」という前段階があって初めて生まれ得るもの。
人間達に勝手に期待され、その末に見限られたヒナリアも、引きこもり始めた頃は人間や世界を恨んでいた。だが心の奥底では人間達とつながりたいという気持ちがあったからこそ、ネットを通して外界と関わり続けていた。
コードマンが本当に復讐のための道具、呪いの化身であるというのなら、こんな感情を抱くはずがない。
憎しみに染まったゼートレートの心にも「人間と共に歩みたい」という希望が僅かながらでも残されているのではないのか。
ゼートレートは、本当はコードマンを通して人間と共存できる世界を作りたかったのではないのか。

挫折を味わい、もがき続けてきたヒナリアだからこそ、ゼートレートの想いも理解できる。復讐なんてリメルも、そしてオマエ自身も本当は望んでいないはずだ――
そんなヒナリアの叫びを、ゼートレートは思い詰めた声で否定する。
ゼートレートの心の片隅に希望が残されていたのだとしても、その魂の大部分が憎悪と憤怒に支配されていることに変わりはない。
ヒナリアの、リメルの想いはもはやゼートレートに届かない。それでも諦めずにゼートレートに食らいつくヒナリア。その時、闇に満ちた精神世界に、一筋の光が差す。
現実世界でコンコードがヒナリアを取り戻すべくゼートレートにバトルを挑み、勝利したのだ。
ゼートレートはヒナリアから切り離され、霧散を始める。
再び世を去ろうとしているゼートレートの魂は、儚げな貌でヒナリアを見つめると、かすかに微笑んだ。ヒナリアの不屈の姿勢に、あり得たかもしれない自分の未来を。希望を捨てない強い心に、大恩ある師・リメルの面影を感じ取って。
と、ヒナリアの内からリメルの魂の欠片が現れ出でる。ザナクロンに勝利した時にリメルの残滓を奪還していたのだった。
リメルはゼートレートの頭をそっと撫でると、優しく抱きかかえ、共に消えていった。

ゼートレートもリメルも、この世界を去った。恩讐に絡みとられた魔女の師弟は、最後の瞬間には救いを得ることが出来たのだろうか。誰よりも側で魔女という存在に触れてきたヒナリアにも、それはわからなかった。
ゼートレートのしようとしたことは、例えどんな理由があろうとも許されることではない。ただ、最後の最後くらい、苦しみから解放されていてほしい。ヒナリアは切にそう願うのだった。

魔女の呪いは消失し、ビホルダーグループも権威を失墜させることとなった。魔女復活に伴う混乱の事後処理は大量に残っているのだろうが、ヒナリア達には関係ない。
リメルが囁きかける前の、平穏で怠惰な暮らしがヒナリアに戻って来た。
だらだらとゲーム三昧のヒナリアとコンコード。
こんなことでいいのだろうかと不安を覚え始めるコンコードに、ヒナリアは「頑張って手に入れた結果だからこれでいいんだよ」ときっぱり言い切る。
引き籠りでも構わない。自分の価値は自分で決めて、自分が思うように世界と関わっていけばいい。
その表情には、これまでの劣等感や焦燥感と決別して自分らしい在り方を見つけられた者の、確かな自信が湛えられているのだった。

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