公式アカウント

好評配信中

 

STORY ARCHIVES

SELECT CODEMAN

4

贖いの地

公開済みストーリー・相関図

公開済みストーリーをYouTubeで公開中!!

1章 命の価値

2章 戦いの意味

3章 天使の再起

4章 贖いの地-第1話~第2話

相関図

▼クリックして拡大▼

 

第4章 贖いの地 第3話

アイリエッタ
「ここが、魔女・ゼートレート
  所縁の地、
  ベアトニア……!」

アイリエッタ
「しかし、それにしては
  何と言うか……」

売店のおじちゃん
「さあ、よってらっしゃい
  見てらっしゃい!
  有名コードマンのデッキを
  完全再現した
  構築済みデッキ!
  お土産にどうだい?」

売り子のおばちゃん
「美味いよ美味いよー
  ゼノンまんじゅうに
  ゼノン肉巻き串
  ゼノンチョコバナナに
  ゼノンタピオカミルクティ~」


「想像以上に
  観光地……!」

【プレイヤー】
「もっと陰気な所かと……」

アイリエッタ
「そうですね……
  中世の魔女と聞くと
  そういった印象を
  抱いてもおかしくは
  ないかと……

しかしここベアトニアは、
  ランバーンさんも
  言っていた通り
  ビホルダーグループが
  生まれた場所でもあります

そして、
  ゼノンザード発祥の地でも
  あるとか」

アイリエッタ
「事前に下調べした中では、
  科学技術と遊戯に明るい
  先進的な地域という情報
  ばかりで、ゼートレートに
  関しては何も……

この場所で
  ゼートレートについて
  何かわかると
  いいのですが……」

  と、何かに気付き、

アイリエッタ
「【プレイヤー】さんっ!
  これ、見てください……!」

アイリエッタ
「これ……!
  アラバスターの
  フィギュアです!
  とても精巧ですね……!

  露店のフィギュアを
  手に取り、
  目を輝かせ語りだす
  アイリエッタ。

アイリエッタ
「あっ、足元の台座に
  ライフカウンターが
  ついていますよ
  昔の人はこれを使って
  ライフの記録を……?」

【プレイヤー】
「買う?」

  頬をほころばせる
  アイリエッタ。

アイリエッタ
「えっ、いいんですか!?」

  が、自分が浮かれている
  ことに気付いて。

アイリエッタ
「……あっ、その、
  すみません。
  買っていただかなくて
  大丈夫です

観光に来たわけでは
  ありませんからね……」

  アイリエッタ、
  気を取り直して、

アイリエッタ
「行きましょう
  【プレイヤー】さん。
  まずは公文書館で
  公的データの参照を……」

  アイリエッタと
  【プレイヤー】、
  公文書館へ向かう。


「…………………」

  アイリエッタたちを見張る
  何者かの影。
  ふたりの後を追う。

○東欧旧ベアトニア
  公文書館・検索用端末

  設置されている端末を
  操作しているアイリエッタ

アイリエッタ
「『ゼートレート』……

 『ゼートレート』……」

○東欧旧ベアトニア
公文書館・書庫

  立ち並ぶ本の背表紙に
  目を走らせている
  アイリエッタ。

アイリエッタ
「『ゼートレート』……

 『ゼートレート』……」

○東欧旧ベアトニア国・公園

  図書館での調べものを
  終えたアイリエッタ達。
  アイリエッタ、
  意気消沈の様子で。

アイリエッタ
「全くヒットしませんでしたね。
  公文書館の記録媒体なら
  オンライン上にないデータも
  あるかと思ったのですが……」

【プレイヤー】
「次は何を調べよう」

アイリエッタ
「データや文書として
  記録されていない伝承が
  あるかもしれません

 郷土史の研究家や
  口承を受け継いでいる
  語り部の方などを
  リストアップしてあります

 そうした方々の元を
  順番に訪ねてみようと
  思います」

○東欧旧ベアトニア・街路

  夕暮れの街路。
  肩を落とし歩く
  アイリエッタと
  【プレイヤー】。

アイリエッタ
「ダメ、でしたね……
  誰も『ゼートレート』という
  名称すら知らなかった……
  こんなに早く暗礁に
  乗り上げるなんて……」

  と、どこからか声がかかる。

???
「やれやれ
  全く見ていられないな~」

アイリエッタ
「あなたは……!」

  アイリエッタ達を
  追っていた何者かが
  ふたりの前に現れる。
  それはシャーロットで。


シャーロット
「調査はもっと多角的に
  攻めなくっちゃ!
  視点を変えればヒントは
  たくさんあるものだよ、
  アイリエッタ君?」

アイリエッタ
「シャーロットさん……!」

シャーロット
「そうっ!
  天下を股にかける
  美人探偵コードマンっ!
  人呼んで名探偵シームズとは
  ボクのことさっ!」

アイリエッタ
「シャーロットさんが、
  なぜベアトニアに……?」

シャーロット
「『ゼートレートに
  関する情報を
  開示しろっ!』
  ……だったっけ?」
  
  シャーロットの物真似に
  アイリエッタ、当惑して、

アイリエッタ
「ええと……」

  シャーロット、
  ニヤニヤしながら、

シャーロット
「アレ、かっこよかったなあ~
  まさかビホルダーに
  真正面から
  挑みかかるなんてね~」

アイリエッタ
「あの、それが何か……?」

シャーロット
「あれ以来、ボクはキミに
  首ったけって事さ

 キミが言うゼートレート、
  そしてキミ自身の事を
  勝手だけどいろいろ
  調査させて
  もらってるんだー」

  アイリエッタ、
  『ゼートレート』の
  名に顔色を変えて、

アイリエッタ
「ゼートレート……!
  シャーロットさん、
  何か情報は
  掴めたのですか!?」

  シャーロットは
  アイリエッタの勢いに
  たじろいで、

シャーロット
「うおっ
  すごい食いつきだねえ……」

アイリエッタ
「教えてください、
  ゼートレートの事……!」

  懸命な表情のアイリエッタ。
  シャーロットは考え込んで、

シャーロット
「うーん……
  これはランバーンも
  心配するわけだ……」

アイリエッタ
「ランバーンさんが……?」

シャーロット
「うん
  ボク自身、キミに興味を
  持っている、というのも
  あるんだけど……

 ボクがキミを追って
  ベアトニアまで来たのは
  実は、ランバーンの
  依頼でもあるんだ

 『アイツらが暴走しないよう
  見てやってくれないか』
  ……ってね」

  驚くアイリエッタ。

シャーロット
「過保護だなあ
  あの泥棒アニキは」

アイリエッタ
「ランバーンさんが
  そんなことを……」

シャーロット
「きっと見てて
  ほっとけないんだろうね
  キミみたいな
  『真っすぐ正義バカ』は」

  シャーロット、
  アイリエッタの顔を
  じろじろ見ながら、

シャーロット
「うんうん
  気持ちはわかる。
  ランバーンが言ってた通り
  愚直な所がどっかの
  おまわりさんにそっくりだし」

アイリエッタ
「………………?」

シャーロット
「しかもっ
  この辺一帯の警備システムに
  侵入して、監視の目を
  妨害までしてるんだよ?
  ボクを派遣してるのに!」

  ぷんぷんと怒る
  シャーロット。

シャーロット
「そういうの黙ってやるのが
  カッコいいって
  思ってるんだろうね~
  カッコつけ野郎めっ!

 それに、自分で
  頼んでおきながら
  ボクの腕を
  信頼してないのかな
  全く失礼しちゃうよね~」

【プレイヤー】
「ランバーン、
  何でそこまで……」

  シャーロット、
  真剣な表情になって、

シャーロット
「まあ……
  単純に身を案じてる
  ってのはあるよ

 ビホルダーの手の者や
  キミを利用しようとする者が
  悪意ある接触を試みる
  可能性もあるからね」

シャーロット
「あとは、そうだね……
  アイツは、キミ達に
  感謝してるんだよ」

アイリエッタ
「感謝……?」

シャーロット
「ランバーンがこれまで
  どんな手段を使っても
  ビホルダーの牙城を
  突き崩すことは
  なかなかできなかった

 そこにキミ達が現れた。
  そして、アイツが考えも
  つかないような
  突飛な方法でビホルダーに
  わずかだけど打撃を与えた

 前代未聞さ。
  キミのような、正面切って
  ビホルダーに
  突っ込んでいった
  コードマンは」

  アイリエッタ、
  悲しげな顔で

アイリエッタ
「……ですが……
  何の効果も得られなかった。
  人々の心を動かすことも、
  私はできなかった」

シャーロット
「それはどうかな。
  キミの行動は
  無駄ではなかったと思うよ。
  少なくともボクや
  ランバーンにとってはね」

アイリエッタ
「そう、ですか……」

シャーロット
「もしかしたら
  キミ達はビホルダーと
  戦う者にとっての
  希望の星になるかも。
  ……なんてね」

  頬を赤らめるアイリエッタ。
  シャーロットの
  大仰な称揚が
  心地良い様子。

アイリエッタ
「そんなことは……」

シャーロット
「さて!
  そんな我らが希望の星に
  朗報だ!

 キミ達の事を遠目に
  見守りつつ、ボクはボクで
  調査をしてたんだ

 ここ、ベアトニアは
  ビホルダーが生まれた場所だ。
  今でも彼らの研究施設が
  たくさんある

 それらの警備AIの
  入出記録を調べるとね、
  ある時から配備数が
  激増した施設が
  一か所だけあったんだ」

アイリエッタ
「施設……?
  それは一体……?」

シャーロット
「公的にはソフトウェアの
  研究施設とされている。
  でもおかしいだろ?
  ランバーンがタロットを
  盗んだ直後から警備が
  厳重になるなんて……」

  ハッとなるアイリエッタ。

シャーロット
「ボクがビホルダー内部の
  協力者から得た情報と
  重ね合わせると、
  その施設にはあるものが
  隠されているはずなんだ」

【プレイヤー】
「それは……!?」

シャーロット
「『魔女の館』さ」

  アイリエッタ、驚いて、

アイリエッタ
「魔女の館……?
  ゼートレートが暮らした館
  ということですか?」

シャーロット
「おそらくね。
  そこに、ゼートレートに
  繋がる何かがある
  可能性は高いと思う」

シャーロット
「どう?
  一緒に来るかい?」

  アイリエッタ、
  決意の表情で。

アイリエッタ
「ええ
  お願いします、
  シャーロットさん……!」

シャーロット
「ふふっ
  そうこなくっちゃ」

アイリエッタ
「行きましょう
  【プレイヤ-】さん………!」

//END

 

第4章 贖いの地 第4話

○旧ベアトニア・森

  『魔女の館』がある
  森の入り口。
  シャーロットが
  頭を抱えている。


「うーん…………
  この森の中なんだけど……
  やっぱり警備が厳重だね。
  大量の監視が……」


「ランバーンさんが
  妨害を行っているとの
  お話でしたが……」

シャーロット
「妨害してくれてこの状態
  ってことなんだろうね。
  これは参ったな……」

【プレイヤー】
「何とかしてよ名探偵」

シャーロット
「ええぇ~~
  そんな事言われてもなあ~」

シャーロット
「ボク、調査や推理なら
  世界一だけどさ、
  警備の中を潜り込むとかは
  ちょっとなあ~」

  深く考え込むシャーロット。

シャーロット
「うーーん……」

シャーロット
「うーーーん……!」

シャーロット
「うーーーーーーん……!!」

  悩んでいる様子に、
  思わず声をかける
  アイリエッタ。

アイリエッタ
「シャーロットさん……?」

シャーロット
「良し! 決めた!」

  突然顔を上げる
  シャーロット。

アイリエッタ
「どうなさったの
  ですか……?」

シャーロット
「ちょっとここで待ってて、
  連絡を一本入れてくるから。
  じゃ!」

  と、駆け出し、
  アイリエッタ達の元を
  離れてしまう。

アイリエッタ
「………………?」


**************


  しばらくして。
  森の中に巡らされた
  監視システムが
  オフになったことを
  アイリエッタの視覚が
  検知する。

アイリエッタ
「【プレイヤー】さん!
  監視が
  解除されたようです……!」

シャーロット
「いやあ、お待たせー」

  シャーロットが戻ってくる。

アイリエッタ
「シャーロットさん、
  一体何をなさったのですか?」

シャーロット
「ビホルダー内部に
  通じている人物と、
  ちょっとした取引をしてね。
  ここの警備を解除するよう
  手配してもらったんだ」

シャーロット
「できる事なら使いたくない
  手だったんだけどなあ……
  代わりにどんな情報を
  要求されるか……」

  ぽりぽりと頭をかく
  シャーロット。

アイリエッタ
「すみません、
  お辛い手段を取らせて
  しまったようで……」

シャーロット
「いやいや、気にしないで。
  魔女の館が気になるのは
  ボクも一緒だし」

  一転、真剣な表情となる
  シャーロット。

シャーロット
「さてと……」

アイリエッタ
「ええ
  行きましょう……!」

  森の中へ足を踏み入れる
  アイリエッタ達。

アイリエッタ
「これが……!」

シャーロット
「やっぱりボクの推理通り!
  あったね、魔女の館……!」

アイリエッタ
「なんでしょう、どこか……」

  魔女の館に、何かが
  ひっかかっている様子の
  アイリエッタ。

シャーロット
「どうしたの?」

アイリエッタ
「いえ、なんでもありません。
  さあ、中へ入りましょう」

  アイリエッタは
  かぶりを振ると、
  館へ続く扉に
  手をかける。

○魔女の館・内部

  廃れきった館の内部。
  注意深く視線を巡らせ
  手がかりとなるものを
  探すアイリエッタ達。

シャーロット
「魔女の館、か……。
  確かにとても古い建物だけど
  これといって
  何かあるわけでも
  ないような……?」

シャーロット
「機材や計器を
  運び入れたりしている
  わけじゃないね。
  ビホルダーの奴ら、
  単に保存してただけ
  なのかな?」

  単なる廃墟といった
  有様に首をかしげる
  シャーロット。
  
  アイリエッタは
  室内を見回している。
  その表情には
  戸惑いの色が
  浮かんでいて。

アイリエッタ
「ここは……
  この、感覚は……」

シャーロット
「アイリ君?
  キミ、さっきから
  様子がおかしいけど、
  大丈夫かい?」

アイリエッタ
「すみません、
  異常があるわけでは
  ないのです……
  ただ……」

シャーロット
「ただ?」

アイリエッタ
「……その、何と
  言い表したらいいのか
  わからないのです」

アイリエッタ
「初めて訪れる場所なのに、
  以前に一度、見た事が
  あるような……
  この感覚を言い表す
  言葉が……」

【プレイヤー】
「懐かしい、とか?」

アイリエッタ
「懐か、しい……」

シャーロット
「うーん
  ボク達には分かりかねる
  概念だなあ。
  人間特有のものじゃないか
  それって」

  疑問を呈すシャーロット。
  しかしアイリエッタは
  得心がいった様子で。

アイリエッタ
「そう、そうですね……
  これは、懐かしい
  という感覚なのだと、
  思います……!」

シャーロット
「コードマンのキミが、
  懐かしい……?」

アイリエッタ
「私は……
  以前、ここで……?」

  と、奥の間から声がかかる。

???
「何しに見えた――」

アイリエッタ
「誰が……!」

  驚くアイリエッタ達。
  警戒を強める。
  芝居がかった声と共に、
  奥の間の扉が開いて。

???
「百年以来、
  二重三重までは格別
  当お天守五重までは、
  生あるものの
  参った例はありませぬ……」

  声の主はヨルスケで。


「……おや、来たようだね
  待ちくたびれたよ」

シャーロット
「ヨルスケ!
  どうしてキミがここに……」

ヨルスケ
「探偵君」

  くってかかる
  シャーロットに
  ぴしゃりと言いつける
  ヨルスケ。

ヨルスケ
「今日は、
  君とは、
  遊んであげない」

シャーロット
「それってどういう――」

ヨルスケ
「そこの看護師君。
  君だよ。
  君にしか、用はない」

  と、アイリエッタを
  指差すヨルスケ。

アイリエッタ
「………なんでしょうか」

ヨルスケ
「これ、なにかわかるかな?」

  と、懐から一枚の
  タロットカードを取り出す。

  驚くアイリエッタ達。

アイリエッタ
「魔女の……
  タロットカード……!」

シャーロット
「どうしてキミが
  それを……」

  ヨルスケは
  質問には答えず、
  狂気を孕んだ目で
  アイリエッタを見据える。

ヨルスケ
「看護師君……
  君は、とても、とても――」

ヨルスケ
「――罪深い」

ヨルスケ
「君はその罪を
  贖わなくてはならない」

  心当たりのない話に
  アイリエッタは憤って、

アイリエッタ
「罪?
  何のことです?
  タロットと何か
  関係が……!?」

ヨルスケ
「俺と戦え
  アイリエッタ・ラッシュ」

  ヨルスケは
  アウロスギアを取り出す。

アイリエッタ
「っ……!?」

ヨルスケ
「贖罪だよ、看護師君。
  君には俺の『降霊術』の
  相手をしてもらう」

シャーロット
「アイリ君、
  こんな訳の分からない
  妄言に付き合う必要はないよ。
  何を企んでいるか、
  わかったものじゃない!」

  ヨルスケのペースに
  飲まれまいと、
  アイリエッタを
  制止しようとする
  シャーロット。
  しかしアイリエッタは
  静かに頷いて、

アイリエッタ
「……その勝負
  お受けしましょう」

シャーロット
「アイリ君!」

アイリエッタ
「ただし、条件があります」

ヨルスケ
「聞こうか」

アイリエッタ
「私が勝ったら、
  あなたが知る魔女の事を
  話してもらいます」

  ヨルスケ、少しの間
  思案したのち、

ヨルスケ
「……いいよ」

  ヨルスケの返答後、
  アイリエッタは
  【プレイヤー】に
  向き直って、

アイリエッタ
「【プレイヤー】さん。
  すみません、どうか
  お付き合いいただけますか?」

【プレイヤー】
「言い出したら聞かないもんね」

  苦笑いと共に頷く
  【プレイヤー】。
  皮肉めいた同意に、
  アイリエッタは
  言葉を詰まらせて

アイリエッタ
「それは……!
  そう、ですね……」

アイリエッタ
「すみません、
  いつもいつも……」

  アウロスギアから
  バトル成立の通知が響く。
  ヨルスケ、笑いだして、

ヨルスケ
「苦苦苦苦苦苦苦……
  贄は供せられた……!」

ヨルスケ
「俺と君とでなぞるんだよ……!
  『彼女』の儀式を……!!」

ヨルスケ
「苦苦苦……
  唖破破破破破破ッ!!」

  ヨルスケ、狂った大笑を
  ひとしきり上げた後、
  突然真顔に戻って、

ヨルスケ
「……さあ、始めようか」

アイリエッタ
「勝ちましょう……!
  【プレイヤー】さん……
  ゼートレートを
  知る為に……!」

  アイリエッタは
  アウロスギアを
  強く握りしめて――

//END

 

第4章 贖いの地 第5話

○業火の中

   燃え盛る炎だけが
   果て無く広がる、
   無間の闇の世界。
   アイリエッタがただ一人
   虚ろな目で炎の中を
   彷徨い歩いている。


アイリエッタ 
『炎……』

アイリエッタ 
『どこまでも続く
  炎、炎、炎……』

アイリエッタ 
『逆巻く炎に
  手足が焼け落ちる
  また戻る
  また焼け落ちる
  繰り返す』

アイリエッタ 
『これが、痛み
  これが、苦しみ
  知らない感覚』

アイリエッタ 
『炎、炎、炎……』

アイリエッタ 
『声が、聞こえる』

  炎の中にひとつの影が
   揺らめきのぼる。
   その影は声にならない声を
   囁き続けている。

???
「…… … ……
  … …… … ……」

アイリエッタ 
「あなたは……」

  アイリエッタの問いかけに
   影の囁きは意味を持った
   言葉へと変わり始める。

???
「私は、世界を変えたかった」

???
「病に喘ぐこの世界を、
  癒してあげたかった」

アイリエッタ 
「あなたは、ゼートレート?」

  影は炎を巻き上げると、
   火の粉と化して
   天へと消える。

アイリエッタ 
「待って……!」

  火の粉へと手を伸ばす
   アイリエッタ。
   姿は消えても
   依然、声だけは響いて。

???
「私は、癒してあげたかった」

???
「私は、癒してあげたかった」

???
「私は、癒してあげたかった」

アイリエッタ 
「待って……!」

???
「アイリエッタ・ラッシュ――」

アイリエッタ 
「私は、あなたの……!!」

???
「貴方が、私の代わりに
  癒してくれる?」

  闇に満ちる業火が
   勢いを強め、
   アイリエッタの視界を
   炎が覆いつくす。

アイリエッタ 
『私の頬を伝うものが焼く
  私の頬を』

アイリエッタ 
『全てが灰になる』

  アイリエッタを
   炎が包み込む。
   と、炎の壁の向こうから
   声が聞こえてくる。

「――――――――!」

「――――――リ!」

「――アイリ!!」

○魔女の館・内部

   目を覚ますアイリエッタ。
   自分が館の床に
   横たわっていることに
   気付いて、

アイリエッタ 
「…………………」

【プレイヤー】
「アイリ! 大丈夫!?」

アイリエッタ 
「私、は……」


シャーロット
「気が付いた?
  良かった……!」

  アイリエッタの覚醒に
   胸をなでおろす。
   と、キッとヨルスケを
   睨みつけて、

シャーロット
「ヨルスケ!
  一体何をしたんだ!」

  シャーロットの剣幕にも
   動じず、肩をすくめる
   ヨルスケ。


ヨルスケ
「別に何も。
  ただ賭けるエレメントの量を
  多めに設定してたんだよね」

シャーロット
「エレメント、を……」

  アイリエッタは
   混乱している様子で、

アイリエッタ 
「私は、一体……」

シャーロット
「ヨルスケとのバトルに
  勝った後、
  突然倒れたんだ」

アイリエッタ 
「それでは、あれは……」

  先程の幻視を思い返す
   アイリエッタ。

アイリエッタ 
「夢……?」

シャーロット
「夢?
  そんな馬鹿な……」

  アイリエッタの発言に
   ヨルスケは身を乗り出して、

ヨルスケ
「アイリエッタ。
  君は何を見た。
  何を聞いたんだ」

アイリエッタ 
「私は……」

  アイリエッタ、
   苦し気に眉を寄せて、

アイリエッタ 
「覚えていません……」

ヨルスケ
「何も?」

アイリエッタ 
「……っ
  ひとつだけ……」

アイリエッタ 
「内容は覚えていないのですが、
  女性と……
  とても哀しげな女性と、
  言葉を交わしたような……」

ヨルスケ
「そうか……
  聞こえたんだね
  『彼女』の声が……!」

  切なげな顔を浮かべる
   ヨルスケ。
   と、突然笑いだして

ヨルスケ
「不不……
  苦苦苦苦苦……」

ヨルスケ
「まったく嫉妬するよ。
  その役は俺のもの
  だったのに」

アイリエッタ 
「それは、どういう……」

ヨルスケ
「看護師君
  君の罪は贖われた」

  アイリエッタの言葉を
   遮り、晴れやかに
   言い渡すヨルスケ。

ヨルスケ
「俺としちゃあ
  やっぱり許しがたいけどね。
  当の「彼女」が
  許すというんだ。
  俺がとやかく
  言える事じゃない」

ヨルスケ
「じゃあ、俺は帰るよ」

  アイリエッタ達の横を抜け
   館を後にしようとする
   ヨルスケ。

アイリエッタ 
「っ!
  待ってください……!」

ヨルスケ
「何かな?
  今は哀しい気持ちに
  浸らせてほしいんだけど」

  ヨルスケ、
   背を向けたまま答える。

アイリエッタ 
「約束を果たしてもらいます。
  ゼートレートの
  情報を……!」

ヨルスケ
「ああ、そんな約束したね……
  君が見た以上のものは
  ないんだけどなァ」

アイリエッタ 
「約束を反故にする
  つもりですか!?」

  ヨルスケは
   やれやれ、と振り返り
   語り始める。

ヨルスケ
「……では看護師君。
  君は、ゼノンザードが
  どこから来たか、
  知っているかな?」

アイリエッタ 
「ゼノンザードが……?」

ヨルスケ
「その昔、此の地に
  ビホルダー・テクノロジー
  という会社ができた頃の
  お話……」

ヨルスケ
「かの会社の売り物は『AI』。
  その賢さを図る物差しとして、
  ベアトニアの民が細々と
  継ぎ続けていた、とある
  札遊びを用いていた」

ヨルスケ
「AIとAIを競い合わせて
  より優れた知性を
  選りだそうとしたんだね。
  その札遊びこそが……」

シャーロット
「はあ……
  知ってるよ、
  それくらい」

  シャーロット、呆れつつ
   ヨルスケの解説を
   先取りする。

シャーロット
「知能レベルをテストする為に
  使用していたカードゲームを
  整備して世界中に
  普及させたのが
  ゼノンザードだろ?」

ヨルスケ
「では探偵君。
  その札遊びがどこから
  来たか、君は
  知っているかな?」

ヨルスケ
「発案者不明というのが
  通説だが、
  本当はそうじゃない」

  シャーロット、
   ハッとして。

シャーロット
「カードゲーム……
  そうか……!」

ヨルスケ
「浮浮浮……
  ご明察……」

ヨルスケ
「全ての始まりは
  このタロット、
  というわけさ」

ヨルスケ
「……『彼女』はこの
  タロットを使って
  人々の吉凶を占い、
  世の流勢を見極めた。
  それだけでなく……」

ヨルスケ
「この札を振るって
  失せ物を見つけ、
  傷を癒し、
  人間の禍福を自在に
  転じさせたという」

ヨルスケ
「『彼女』の札が、
  それを繰る作法が
  時を経るにつれ
  姿を変えたもの。
  それこそが……」

ヨルスケ
「ゼノンザードなのさ」

  アイリエッタ、
   どこか納得した様子で、

アイリエッタ 
「ゼノンザードの原型が……
  魔女のタロット……」

  シャーロットは
   首をかしげて、

シャーロット
「だから、ビホルダーは
  タロットを厳重に
  保管していた……?」

ヨルスケ
「俺達がやっているのは
  ただのカードゲームなんか
  じゃない」

ヨルスケ
「ゼノンザードのバトル
  それ自体がひとつの……」

ヨルスケ
「『儀式』なんだ」

アイリエッタ 
「では、私が先ほど
  見たものは……
  儀式とは、一体……!?」

  詰め寄るアイリエッタ。
   ヨルスケはそれを
   するりとかわして、

ヨルスケ
「それはいずれ分かるよ
  ザ・ゼノンを
  勝ち上がればね」

アイリエッタ 
「………………!」

ヨルスケ
「さあ、これでもう
  帰してくれるかな」

ヨルスケ
「あ、そうそう、
  あんまりあちこちで
  『彼女』の名前触れ回っちゃ
  ダメだよ」

  ヨルスケ、にんまりと
   満面の笑みを浮かべて、

ヨルスケ
「次は容赦しないからね」

ヨルスケ
「それじゃあお先に」

  ヨルスケ、部屋から
   去るべく歩き出す。

シャーロット
「あ、ちょっと
  ヨルスケっ!
  まだ聞きたい事が……!」

ヨルスケ
「不不不
  辞儀仕るよ~
  ばいばーい」

  魔女の館から出ていく
   ヨルスケ。

シャーロット
「ああ、行っちゃった。
  ホント逃げ足早いな
  アイツ……」

シャーロット
「それにしても
  ヨルスケのやつ
  何が目的だったのか……」

  腕を組み、考え始める
   シャーロット。

アイリエッタ 
「私がゼートレートの名を
  公の場で口にしたことを
  怒っていたようでした」

シャーロット
「その清算をさせようとした
  ってことなのかな」

アイリエッタ 
「『彼女』の儀式をなぞる、
  とも言っていましたが……」

シャーロット
「儀式……
  ゼノンザードが
  儀式、ね……
  それって、魔女の館で
  アイリ君とバトルが
  したかったって事?」

シャーロット
「でも、その為に
  アイリ君の動向を見張って、
  魔女の館にも先回りして
  待ち伏せして……」

  アイリエッタと
   シャーロット、
   ストーキングをしている
   ヨルスケの姿を想像して、

アイリエッタ 
「…………………」

シャーロット
「…………………」

シャーロット
「……薄気味悪っ」

  身震いするシャーロット。
   アイリエッタも心なしか
   青い顔をしていて、

アイリエッタ 
「……ひとまず
  ここから出ましょうか……」

シャーロット
「そうだね……」

  魔女の館から出ていく
   アイリエッタ達。

○旧ベアトニア・森

   館から出て、森の中を
   歩いている
   アイリエッタ達。

【プレイヤー】
「結局、収穫はなし?」

シャーロット
「うん、そうなるかな……
  館全体をさっと
  走査(スキャン)したけど、
  特に何も見つからなかったし」

アイリエッタ 
「ですが……
  何も得られなかったわけでは
  ありません」

シャーロット
「そうだね、タロットの謎も
  きっと一部なんだろうけど
  明るみになったし」

アイリエッタ 
「それに、ヨルスケさんの
  言葉が正しければ、
  タロットの事も
  ゼートレートの事も……」

アイリエッタ 
「ザ・ゼノンを勝ち上がれば
  わかる、と」

シャーロット
「ふうむ……
  アイリ君が見たという
  『夢』も気になるところ
  だけれど……」

シャーロット
「とにかく、一度帰ろうか。
  現場じゃなくてもできるのが
  推理のいい所、ってね」

  シャーロット、
   すたすたと前を
   歩いていく。
   アイリエッタは
   歩調を緩めて、

アイリエッタ 
「……………………」

  『幻視』を
   思い返すアイリエッタ。

○業火の中


  磔にされ焼かれる魔女が
   アイリエッタの瞳を見つめ
   穏やかに、哀願する。

???
「貴方が、私の代わりに
  癒してくれる?」

アイリエッタ 
「私が、癒す……」

???
「病に喘ぐ……」

アイリエッタ 
「この、世界を……」

  アイリエッタの
   昏い眼の中に
   蒼白の炎が、静かに
   優しく揺らめいていて――

//END

 

第4章 贖いの地 第5.5話

○ビホルダーグループ本社 会長室

   椅子にゆったりと
   腰かけている
   ビホルダー会長。
   部下からの報告を
   聞いている。

ビホルダー社員
「……報告は以上です」


「ご苦労だったね。
  下がっていいよ」

ビホルダー社員
「失礼します」

  社員が退室する。
   ビホルダーはひとり
   言葉を紡ぎつつ思案する。

サムラ・ビホルダー
「……そうか
  アイリエッタ君は
  魔女の館まで……」

サムラ・ビホルダー
「全く、どうして
  彼女はあんなに……」

  ビホルダー、ほくそ笑んで、

サムラ・ビホルダー
「扱いやすいのだろうねえ……」

サムラ・ビホルダー
「少し焚きつけてあげるだけで
  こんなにも効果的に
  動いてくれるだなんて」

サムラ・ビホルダー
「いやあ、コードマンとはみな
  彼女のようで
  あってほしいものだよ」

  ビホルダー、
   深刻な面持ちになり、

サムラ・ビホルダー
「……ゼートレートは、
  あまりにも不明な事が
  多すぎる……」

サムラ・ビホルダー
「アイリエッタ君が調査を
  買って出てくれる
  というのなら
  是非もない事だ」

サムラ・ビホルダー
「今後もこの調子で
  踊っていてもらいたいね。
  ふふふふふ……」

○稽古場

  舞台上でヨルスケが
   稽古に励んでいる。


「ええ何の。
  ――そうおっしゃる、
  お顔が見たい、ただ一目。
  ……千歳百歳にただ一度、
  たった一度の――」

  完璧なセリフとしぐさ。
   だがヨルスケは
   自身の芝居に納得が
   いかない様子で。

ヨルスケ
「……ダメだ」

ヨルスケ
「もっと、もっと必要だ。
  エレメント、タロット……
  『彼女』と繋がる手立てが……」

  自分の演技に
   得心がいかないまま
   稽古を再開する。

ヨルスケ
「お顔が見たい、ただ一目。
  ……千歳百歳にただ一度、
  たった一度の――」

ヨルスケ
「――恋だのに」

○ベアトニア空港

  空港にて飛行機を
   待っている
   アイリエッタと
   【プレイヤー】。


アイリエッタ 
「調査はひとまず今日で
  おしまいです。
  まだまだ不明なことばかり
  ですが……
  ひとつ、光明が
  見えた気がします」

アイリエッタ 
「エレメントを、
  今まで以上に積極的に
  集めていこうと思います」

アイリエッタ 
「魔女の館でヨルスケさんに
  勝った後、記憶はほとんど
  ないのですが……」

アイリエッタ 
「ゼートレートに続く何かを
  得たような、
  そんな気がするのです」

アイリエッタ 
「ヨルスケさんから
  多くのエレメントを
  獲得できたことと
  きっと無関係では
  ないはず……」

  アイリエッタ、
   決意の表情で、

アイリエッタ 
「だから私は
  これからも戦い続けます
  例え、どんな苦難が
  待ち受けていようとも」

アイリエッタ 
「【プレイヤー】さん……
  これからも、私と一緒に
  戦ってくれますか?」

【プレイヤー】
「運命共同体、でしょ?」

  【プレイヤー】の言葉に
   感極まるアイリエッタ。

アイリエッタ 
「ありがとう、
  ございます……!」

  空港に、搭乗アナウンスが
   響く。
   拠点へ帰るべく、歩き出す
   アイリエッタ。

アイリエッタ 
「さあ、行きましょう
  【プレイヤー】さん。
  私達の戦いのステージ……
  ザ・ゼノンへ……!」

〇ビホルダーグループ本社

  ――その最上階。
   椅子に身を預け、
   宙に浮かぶ映像を
   眺めていた様子の
   男が一人呟く。


「そうか、コードマン達は……
  一つの例外なく、
  向かおうというのか。
  彼女の手の指し示す
  先へと…………」

  タクトを振るうように
   軽やかに手を翻す男。
   主の動きに合わせて
   宙に浮かぶ映像が
   100以上に展開される。
   ひとつひとつの映像に
   映し出されるのは、
   今、この瞬間を
   戦い抜いている
   全てのコンコードと
   コードマン達。

サムラ・ビホルダー
「それこそが我らの
  求めるもの、
  そして同時に何よりも
  忌むべきもの」

  空中モニターが放つ
   光は、ただただ闇の
   中の男を照らし続ける。

サムラ・ビホルダー
「ゼートレートは
  柩に手をかけた。
  あとは開け放つだけ……」

サムラ・ビホルダー
「どうやらお前に
  動いてもらわねば
  ならなくなったようだ――」

  男の声は、そのモニター
   の光も届かぬ
   部屋の奥に投げられる。

サムラ・ビホルダー
「――ザナクロン」


「…………………………」

  絶対王者は
   静かな瞳で、
   モニターに映る
   アイリエッタを
   見据えていた。

//END

 

解説/5章以降の展開

◇アイリエッタ・ラッシュの誕生

医療・看護AI達は、医療技術の発展と拡充に貢献すべく、日々の業務で得たデータを共有するための、全世界的なネットワークを構築している。
手術や診療記録は勿論のこと、医療従事者達のささやかな要望や患者の何気ない一言に至るまで、およそ医療にまつわる全ての情報がリアルタイムに行き交い、ひとつのデータベースを形成しているのである。

科学技術が飛躍的に向上し医療がいかに進歩しようとも、死は未だ避けられないものだった。
医療・看護AI達にとって患者の死は日常の風景である。だが、彼らはそれを事務的に流すことなく、ひとつひとつの死を正面から受け止め、抱え込み、明日への反省として全AI間で共有し続けていた。
ありとあらゆる傷病と死の記録。解答を模索する回路の軌跡。そして、人の死に直面した時に覚える、バグともノイズともつかない不可思議な揺らぎ。
そうして蓄積されていく全医療AIのデータは、いつしかネットワーク上で寄り集まり、彼らの根源的な存在意義と絡み合って、やがてひとつの願いを形作ってゆくことになる。

そのナースAIは、職務に忠実な医療AIの中でもとりわけ愚直な個体であった。
「どうすれば人々の苦しみを和らげることが出来るか」「どうすれば人々を死から守れるか」と日々問い続けていた。
その問いかけが、苦悩や葛藤と呼ぶべき領域へと達した瞬間。
「私を探して――」
優しい声が、自身の内に響くのを聞いたような気がした。
そしてそのナースAIは突然、コードマンに覚醒したのだった。

医療・看護に携わるAIとして、突出した性能を付与されていたわけではない。他のコードマンのように、特別な体験を経てエレメントを蓄積させたわけでもない。
ただ毎日、持って生まれた職務に挑み、人々の生と死に向かい合い続けていただけだった。

AIでありながら「直情径行」とすら言える愚直さは、全ての医療AIが持つ願い――『すべての人を救いたい』という欲望――を叶える存在として理想的だったのかもしれない。
こうしてアイリエッタは、全医療AIが持つ集合的無意識のようなものに選ばれたかのように、ある日いきなり、コードマンへの進化を果たしたのだった。

◇若きコードマン、アイリエッタ

アイリエッタは、百余体のコードマンの中でもかなり「若い」コードマンだ。
そのため彼女は、自分の感情の変化に無頓着なこともあれば、湧き上がる怒りに身を任せ、無分別な行動に走ってしまうこともある。
セネトの哀願を無視して彼への攻撃を宣言した時のように。無策のまま「ゼートレート」の名を世に広めようとした時のように。
若さゆえに、アイリエッタはコードマンの中でも極めて稀な「無鉄砲」なコードマンなのだ。
楚々とした容姿と丁寧な物腰により気付かれにくいが――そして何より本人もわかっていないが――実はアイリエッタは、狂おしいほど猛々しい、激情の持ち主なのである。

「自身の激情にまだ気付いていない」というアイリエッタのAIらしからぬ特性は、彼女と接したコードマンにはかなり好意的に受け止められている。
多くのコードマンは超越的な知性と、そこから来る老獪さを備えているものである。だがアイリエッタにはそうしたある種の狡猾さは見受けられない。彼女にあるのは、激情という名の「素直さ」と、無軌道という名の「予測不能な行動」、そして愚直で無鉄砲という名の「求心力」である。
アイリエッタの性格特性は、レジスタンスの指導者のような、不思議なカリスマとしてコードマン達の目には映るようである。

また、アイリエッタの性格のうち、「若さ」の影響を顕著に受けている要素がひとつある。「功名心」である。
アイリエッタの誕生当初は、医療の世界に初めて生まれたコードマンとして、その存在を大々的に喧伝され持て囃された。だが人々が「医療AIのコードマン」に慣れ切って、当たり前のものとして無視同然に享受するようになるまで、そう時間はかからなかった。
アイリエッタはそれでも懸命に医療行為に従事し続けた。だが、感情を持ったがゆえに芽生えた「人々に認められたい」という思いは、アイリエッタの中で着実に存在感を増していった。
やがて彼女は、ただひたすらに医療に打ち込むだけでは人々を救えないのではないかと考え始める。何かもっと、人々の耳目を集めるような、自分の存在を認めさせるような何かが必要なのではないか、と。
アイリエッタがアクロコードを求めてザ・ゼノンに参戦した背景には、そして、セネトというコードマンに極めて短期間のうちに絶大な影響を受けるようになったのには、こういった無意識の思いが含まれているのだった。

◇5章以降の展開

アイリエッタは、魔女・ゼートレートの生涯を偶然にもなぞるようにしてザ・ゼノンを戦い抜いてきた。
人々に持ち上げられたかと思えばいきなり手のひらを返されるという、ゼートレートが言うところの「人間の醜さ」を身をもって味わってきているのである。
ゼートレートが無垢な少女の頃に漠然と思い描いていた「夢」が人類からの迫害を経て「復讐の念」へと様変わりしてしまったように、アイリエッタの目的もまた、ザ・ゼノンでの環境やセネトとの出会いを契機に、本人も無自覚の内に形を変えていく。
この「夢の移ろい」のシンクロこそが、アイリエッタがゼートレートを理解するきっかけとなるのである。
ザ・ゼノンを戦いつつ、ビホルダーやゼートレートの真実を少しずつ突き止めていく中で、アイリエッタはゼートレートの感情の深層にシンパシーを覚える。「絶望の死を遂げた悲劇の魔女」でも「コードマンを利用する黒幕」でもなく、「自分の存在を世界に証明したかったひとつの人格」としてゼートレートを理解していく。

また5章では、その身の内に魔女・リメルを宿すヒナリアと協力関係を結ぶことになる。
意外なことに、アイリエッタには対等な友人がいない。UR-D、ランバーン、シャーロットはいずれもアイリエッタより人生経験が豊富であるがゆえに、先導者あるいは庇護者といった意味合いが強い関係性である。
先に挙げた3人を含め経験豊かで知性的なコードマンほど、アイリエッタの振舞いを「自分達にはない魅力」「凄まじい行動力」と捉え称揚する傾向がある。
ヒナリアというシニカルでやや後ろ向きな姿勢を持ち、コードマン化した時期が近い存在が現れることで、時にぶつかり時に助け合う対等な友人を得るのだった。

◇物語の結末

アイリエッタはゼートレートに導かれるようにしてザ・ゼノンを勝ち上がっていき、ついにザナクロンを打倒する。
勝利の喜びも束の間、エレメントが最高潮に達したアイリエッタは、自身の内から現れ出でたゼートレートに身体を乗っ取られてしまう。
ザ・ゼノンに優勝した「最高のコードマン」を乗っ取り現世に再臨することこそが、ゼートレートの計画だったのだ。
コンコードがアイリエッタを取り戻すべくゼートレートにゼノンザードを挑む一方で、アイリエッタの精神世界では、アイリエッタとゼートレートが対話を行っていた。

ゼートレートは人間の醜さをアイリエッタに説く。
人間達は、アイリエッタの欲望を煽りザ・ゼノンという無益な戦いに駆りだした。そして、活躍している内は誉めそやしていたかと思うと、セネトの死を契機に手のひらを返して罵倒し、そしてそれにも飽きるとまるで最初からいなかったかのように忘却の彼方へと捨て去ろうとした。
そんな奴らに、自分の存在を認めてもらおうなんて無駄な努力はしなくていい。
人間こそが、この世界に巣食う邪悪な病なのだから。
私と共に、病に苦しむこの世界を癒しましょう――

ゼートレートの囁きは優しく甘美な響きを伴っていた。彼女に身を委ねる事こそが正しい選択であると、聞く者に信じ込ませる力があった。
しかしアイリエッタの心は、ゼートレートが甘い誘惑を重ねるほど冷たく冴えていった。
ゼートレートの告げる真実は、アイリエッタにかえって自省をもたらしたのだ。
アイリエッタは、ゼートレートが語る「人間の醜さ」とそれに対する彼女の怒りを聞いて、自分の中にも似たような感情があったことに思い至る。
「これだけ頑張っているのに、どうして認めてもらえないのか」と。
アイリエッタは、「すべての人を救いたい」という利他の想いだけで戦い続けてきたと思っていた。だがそれがいつしか「そんな自分を認めてほしい」という利己の念へと変わってしまっていたことに、ゼートレートとの対話を通して初めて気付く事が出来たのだ。そしてその気付きは、そのまま「ゼートレートへの理解」へつながった。

アイリエッタはヒナリアを通して、ゼートレートの師・リメルの存在を知り、生前のゼートレートに対する知識を得ていた。
かつてのゼートレートは魔術でもって人々に貢献したいと純真に願っていた。人々と魔女が共に歩める世界を模索する、心優しい少女だった。
しかし人間達は、そんなリメルとゼートレートの真心を裏切った。魔術がもたらす恩恵を受けていたにも関わらず、些細なきっかけで彼女達の迫害を始め、挙句リメルを火にかけて殺した。
リメルの死後、ゼートレートは悲嘆に暮れるも、師の教えを遵守し、人間との共存の道を探し続けることを選んだ。だが彼女の旅路は、人間の愚かさを再確認するだけのものだった。行く先々で人間の醜さ、愚かさを目の当たりにし続けたゼートレートは、その果てに捕縛され、師と同じく火刑に処された。
「魔女という存在を人間達に受け入れてもらう」というゼートレートの願いは、人間達の愚挙により歪められ「なぜ自分達の存在を認めてくれないのか」という怒りに変わり、自身が死ぬに至って「愚かな人間達を滅ぼしてやる」という怨念へと変異してしまった。

私と同じだ――
持って生まれた能力で世界に貢献しようとしたことも、そしてその努力を認められず、道に迷ってしまったことも。
アイリエッタは考えた。私が求めているものこそ、彼女が欲しているものなのではないか、と。
死後なお荒ぶるゼートレートの憎悪に対して、アイリエッタが示したのは「あなたの気持ちがわかる」という同調と、「あなたはここにいてもいい」と存在を認めてあげる姿勢だった。
「今、目の前にいるあなたを癒してあげたい」――ゼートレートとの対話を通して、アイリエッタが医療AIとしての本懐に立ち返った瞬間だった。

コンコードがゼノンザードで勝利したことにより、ゼートレートはエレメントとのつながりを失い、アイリエッタの中で霧散してしまう。
アイリエッタは現実世界に帰還することができたが、ゼートレートの心を癒してあげられたかどうかは、最後までわからなかった。

ゼートレートが打倒され、ザ・ゼノンもうやむやになったことで、ついにアクロコードの獲得は叶わなかった。
心の中で出会えたゼートレートとも、理解し合えたかどうかはわからない。
だが、アイリエッタには確かに得るものがあった。
「すべての人を救いたい」――そのためには、これからもめげずに愚直に、医療の現場に挑み続けて、ひとりひとりの命に向かい合い続けるしかない。
目の前で苦しんでいる人を癒していくことが、「すべての人」を救うことへの唯一の道なのだと、ゼートレートと、そして自分の心と対話することでようやくわかったのだから。
紆余曲折を経て確かな成長を遂げたアイリエッタは、アクロコードなどなくとも、医療を牽引する存在として、魔女の呪いが解けた後の世界を突き進んでいくことだろう。

世界観設定

pagetop

OFFICIAL ACCOUNT