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パスト&フューチャー

公開済みストーリー・相関図

公開済みストーリーをYouTubeで公開中!!

1章 スクラップ&ビルド

2章 トライ&エラー

3章 サーチ&デストロイ

4章 パスト&フューチャー 第1話~第2話

相関図

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第4章 パスト&フューチャー 第3話

  間違ってもラヴィルが
  干渉できないよう
  レヴィルは心に鍵をかける。
  そして【プレイヤー】には
  絶対にラヴィルには
  話さない事を条件に、
  レヴィルは
  二人の過去を
  語り始めた。


「ワタシはDR.マウナの
  研究所にいた……」

レヴィル
「『カタストロフィ・
  アクティベーション』を
  生み出す
  実験用AIとして――」

  【プレイヤー】は
  改めて尋ねる。

【プレイヤー】
「C.A.ってなんなの……?」

レヴィル
「カタストロフィ・
  アクティベーション
  とは――

この世に存在する
  『全てのAIを抹消できる
  プログラム』だ」

レヴィル
「起動すればこの世界の
  全てのAIプログラムを
  一瞬にして破壊する。
  コードマンの
  バックアップ機能すら
  無効にし完全な無へと
  還す事が出来る。

 コードマンが
  進化しすぎる事を
  恐れた人間が生み出した、
  言わばセーフティ――」

  【プレイヤー】は
  言葉を失う。

  いくらなんでも
  そんなものが実在し得る
  とは思えない。
  全世界全てのAIを
  破壊するだなんて。

  レヴィルは
  戸惑う【プレイヤー】に
  気づく。

レヴィル
「――信じられないか。
  だが事実だ。
  奴らは言っていたろう
  『世界を掌握する』と――

 全世界のAIプログラムの
  生殺与奪を
  手中に収められれば
  それは可能だ」

レヴィル
「ワタシとラヴィルは――」

  レヴィルは忌々し気に
  顔を歪めて、言った。

レヴィル
「C.A.を生み出す為の
  材料だった――」

  【プレイヤー】は
  全くついて行けずにいた。

  実在し得るのか分からない
  プログラムの材料が、
  レヴィルとラヴィルの
  二人……?

  レヴィルはもう
  念押ししなかった。
  信じるか信じないかは
  オマエ次第、と
  言っているようだった。

レヴィル
「――『材料』は
  他にも何体か居た。
  中にはコードマンの姿も
  あった――
  皆、来る日も来る日も
  データを取られ
  訳の分からない実験に
  使われた

 ――しかしある日突然、
  ワタシ達実験用AIの
  全てが解放された。
  『お前達はもう用済みだ』
  と言われて――」

  レヴィルは
  淡々と続ける。

レヴィル
「――カタストロフィ・
  アクティベーションが
  完成したか、あるいは
  計画が頓挫したのか――

 あの計画が
  どういう顛末を
  辿ったかは知らない

 DR.モルテがなんで
  今頃になってワタシを
  見つけ出したのかも」

  レヴィルは黙ったままの
  【プレイヤー】を
  見て言った。

レヴィル
「残念だったな。
  ワタシだって全てを
  知っている訳じゃない

 ――それにその時の
  ワタシは、
  それどころではなかった

 ワタシの中で――
  もうひとりの存在が
  『覚醒』したから」

【プレイヤー】
「もうひとりって……
  ……もしかして」

レヴィル
「ラヴィルが、
  ワタシの中で
  コードマンとして生まれた。
  ワタシは、
  この存在を守らなければ、と
  必死だったんだ――」

  混乱する事ばかりだった。

  情報を整理したくて、
  【プレイヤー】は
  レヴィルに確認する
  ように呟く。

【プレイヤー】
「レヴィルの中でコードマンに
  なったってどういうこと?」

【プレイヤー】
「君達の過去って、
  一体……?」

  レヴィルは目を伏せ語る。

レヴィル
「――ワタシですら
  消してしまいたい過去だ。
  ならば――
  ラヴィルも、
  知らない方が幸せだ――」

  【プレイヤー】は
  これ以上話をさせて
  いいものか迷う。

  助けになりたい気持ちは
  本当だ。
  けれど苦しめたくはない。
  レヴィルの言葉を
  待つしかない。

  と、静まった二人の間に
  アウロスギアから
  電子音が流れる。

レヴィル
「――なんだ……?」

  レヴィルが応答すると
  見知らぬ男の
  立体投影が
  浮かび上がる。


「こんにちは、
  今は……レヴィル・デヴィラ
  の方かな?」

  レヴィルは身体を
  硬直させた。
  男の顔に見覚えはなかった
  が、その制服には
  心当たりがあった。

ブラッド
「ビホルダーグループ
  科学部統括
  ブラッド・キャンベルと
  申します」

レヴィル
「ビホルダー……!」

  怒りを滲ませた声。
  ブラッドは軽く
  頭を下げた。

ブラッド
「……その怒りはご尤もです。
  部下のモルテがやった事、
  深くお詫び致します。
  つきましては……
  貴方がたには今回の事の
  経緯と事情を
  説明させて頂きたいのです」

  ブラッドの言葉は
  きっちりとした謝罪に
  見えて、笑っていた。

ブラッド
「如何でしょう、
  ご都合の方は……?
  貴方がたの『過去』に
  ついても……
  ゆっくりと、
  お話し出来ればと」

  何かを企んでいる事は
  確実だった。

【プレイヤー】
「……絶対何かの罠だよ」

  それはレヴィルにも
  分かっている。

  だがここでこの男を
  放置したとしても
  『過去』をネタに
  こちらに接触し
  続けてくるだろう。

  レヴィルは、決意した。

レヴィル
「――これ以上、あの子を
  巻き込みたくない」

レヴィル
「ワタシが全て片付ける」

【プレイヤー】
「またひとりで
  解決しようとするの!?」

【プレイヤー】
「自分も行く!」

  レヴィルは
  【プレイヤー】に
  一瞥もくれずに言った。

レヴィル
「勝手にしろ――
  ただあの約束だけは守れ」

レヴィル
「知り得た真実は、
  決してラヴィルには
  知らせるな。
  絶対に――」

  立体投影のブラッドを
  睨みつけたまま
  レヴィルは言った。

**************

  ――レヴィルと
  【プレイヤー】は
  建物の陰からこちらを
  窺っている人物の姿に
  気づかなかった。

???
「……………………」

  そのままブラッドに
  指定された場所へと
  向かった――。

  公では廃棄された研究所。
  しかし内部の機器は
  生きているようだった。

  ……後ろ暗い研究でも
  行っているのだろう。
  レヴィルは思った。

  その張本人だろう
  ブラッドは
  レヴィル達の前で
  にこにこと笑っている。

ブラッド
「……お会い出来て
  良かったです。
  警戒して、
  いらっしゃらない
  可能性もあったのでね」

レヴィル
「前置きはいい――
  さっさと要件を話せ」

ブラッド
「ではそこでコソコソ
  隠れている
  落ちこぼれ研究員にも
  話を聞いて貰いましょうか」

レヴィル
「――!?」

  物陰から気まずそうな
  顔をした、
  DR.モルテが出て来る。


「…………っ」

  どうやら自分達の後を
  つけてきたらしかった。

レヴィル
「オマエは――!!」

  DR.モルテはレヴィルを
  気にしもしたが、
  それよりも今は
  上司の不審な行動の方が
  気になっている様子
  だった。

DR.モルテ
「……何故です、統括。
  私に黙ってレヴィルを
  呼び出すなんて……」

ブラッド
「この場にお前を呼ぶ
  つもりは
  なかったのだが……

 いい機会だ。
  お前が『娘』と呼ぶ
  コードマンに別れの
  挨拶をするといい」

DR.モルテ
「そ、それは一体
  どういう……!?」

ブラッド
「カタストロフィ・
  アクティベーションの
  完成に、お前は
  要らなくなった」

DR.モルテ
「……!?」

ブラッド
「お役御免と言う事だ。
  後は私が完成させる
  ――お前の師……
  ……DR.マウナの
  手記を解読して」

  【プレイヤー】は
  両者の様子を
  黙って伺う。

  仲間割れか?

  しかし、レヴィル達に
  とって不穏な会話を
  している事は
  間違いない。

  レヴィルも
  研究者たちの会話に
  じっと耳を澄ませる。

DR.モルテ
「手記……!?
  そんなもの一体
  どこから……!?」

ブラッド
「長年彼の研究の足跡を
  辿る中で偶然
  発見したのですよ」

ブラッド
「ここに、
  カタストロフィ・
  アクティベーションの
  理論が書かれている」

DR.モルテ
「そんな……っ。
  な、なんと書かれて
  あるのです!?
  先生は研究成果を
  どこにも残さなかった。
  そう思ったから
  長い年月を費やし
  独自に研究してきた……」

DR.モルテ
「『破壊(カタストロフ)の
  因子』……それが
  C.A.完成の要
  なのですよね……!?」

ブラッド
「『破壊の因子』、ね……」

  ブラッドはククッと
  笑い声を漏らした。
  そして、
  『君も笑えるよな?』という
  意味を込めて
  レヴィルに視線を送る。

ブラッド
「レヴィル・デヴィラ、
  貴方も罪深いコードマンだ。
  この男が必死に研究していた
  『破壊の因子』……」

ブラッド
「――それがDR.マウナの
  虚構であった事、
  知っていたのでしょう?」

レヴィル
「――――…………」

  【プレイヤー】は
  レヴィルを見た。

  DR.モルテも、
  かなり狼狽えた様子で
  ブラッドとレヴィルを
  交互に見た。

DR.モルテ
「虚構……!?」

ブラッド
「レヴィル・デヴィラは
  『破壊』を司るコードマン。
  お前はそこに着目し
  C.A.の要であると
  考えていたようだが」

ブラッド
「それは、
  自分の研究成果を
  自分だけのものとする為の
  DR.マウナの方便だ」

ブラッド
「お前を体よく動かす
  為のな……」

DR.モルテ
「な…………」

ブラッド
「――もっと惨たらしい
  方法が書かれて
  いましたよ、手記には。

 カタストロフィ・
  アクティベーションに
  必要なものとは……

 ――2体の生贄」

ブラッド
「……ですよね?
  レヴィル・デヴィラ……!」

  沈黙するレヴィルを、
  【プレイヤー】は
  ただただ見つめている
  事しか出来なかった。

//END

 

第4章 パスト&フューチャー 第4話

〇ビホルダーグループの廃研究所

  レヴィルは、
  ゆっくりと話し始める。


「あの日――……
  ワタシ達、被検体は」

レヴィル
「いつものように
  呼び出された――」

〇[レヴィルの記憶]C.A.の研究所

  無機質な寝台の上に
  横になるレヴィル。
  白衣を着た研究員が
  その手足を寝台に
  固定していく。
  また別の研究員は
  素体に沢山のコードを
  差し込んでいく。

  過去の――まだ精神的に
  幼い頃の――レヴィルは
  不安そうな表情で
  作業の様子を見ていた。

レヴィル
「――きょうは、
  何をするの?」

  研究員達に指示を
  出していた
  年老いたスーツの男に
  訊ねる。

DR.マウナ
「今日は君達……
  お友達同士ずぅっと一緒に
  居られるようにして
  あげようと思ってね」

レヴィル
「――ずぅっと
  いっしょ……?」

DR.マウナ
「ああ。
  でもまずは、
  ヴュルムとウィスコ
  からだ」

  その実験には
  AIが1体、
  コードマンは
  レヴィル以外に2体
  参加していた。

  ヴュルムとウィスコ、
  レヴィルにとっては
  姉のような存在だった。

ヴュルム
「あーあ。
  毎日じっけんばっかり」

ウィスコ
「たいくつだよねー」

ヴュルム
「おわったらお部屋で
  カードで遊ぼうよ、
  ね、レヴィル」

  レヴィルの隣に並ぶ
  2つの寝台に
  彼女らも同様に
  拘束されていた。
  実験には慣れ切って
  いるのか、二人は
  笑いながら言った。

DR.マウナ
「――では実験を始める」

〇[現実に戻って]ビホルダーグループの廃研究所

  レヴィルは、
  悲しそうな目で言った。

レヴィル
「しかし――
  この後彼女らと遊ぶ機会は
  訪れなかった――」

  ブラッドは、古い手帳を
  読み上げる。


「『全てのAIには
  「ブラックボックス」が
  存在する……』

 『コードマン2体の
  「ブラックボックス」を
  掛け合わせると、これが
  変質する事が判明した』

 『私はこれを抽出し、
  プログラムを成形した』」

ブラッド
「……これが
  DR.マウナが突き止めた
  本当のC.A.の論理」

  DR.モルテは
  愕然とした。


「コードマンを……
  掛け合わせて……
  カタストロフィ・
  アクティベーションが
  造られた……?」

  【プレイヤー】は
  真偽を確かめるように
  レヴィルを見た。

レヴィル
「……ヴュルムとウィスコは
  カタストロフィ・
  アクティベーションの
  『材料』にされた――

 今でもあの断末魔は
  回路の奥に
  こびり付いて離れない――
  ウィスコは無理矢理
  ヴュルムの中に入れられ、
  ふたりはひとつに
  させられた」

  DR.モルテはがくんと
  膝を折る。

DR.モルテ
「あの実験は……
  レヴィルが寂しくないよう
  兄弟を作ってあげる
  実験だと……先生は……

 そんな……
  私は今までずっと
  不毛な研究をしていたと
  いう事なのか……?
  先生の嘘に騙されて……」

  ブラッドはやれやれと
  肩を落とす。

ブラッド
「残念ながらそうなりますね。
  私だって被害者ですよ。
  ずっと騙されていたの
  ですから。恨むなら
  DR.マウナと……
  会長を恨んで下さい」

ブラッド
「C.A.という世界の覇権を握る
  プログラム、それを
  独占する為にDR.マウナを
  殺したのは
  ビホルダー会長ですから」

  正直【プレイヤー】にとって
  先生だとか会長だとかの
  話はどうでもよかった。
  そんな危険な研究に
  レヴィルが参加していた。
  そっちの方がよっぽど
  大事な情報だった。

【プレイヤー】
「レヴィルは何をされたの!?」

ブラッド
「おっと、話の途中でしたね」

ブラッド
「貴方もまた、
  掛け合わされたのですよね?
  レヴィル・デヴィラ」

  レヴィルは、苦し気に
  胸を押さえる。

レヴィル
「ワタシの中には――
  もうひとりのAIを
  入れられた――」

【プレイヤー】
「そのAIって……!」

  ブラッドが再び
  古い手帳を読み上げる。

ブラッド
「『コードマンとコードマン
  を掛け合わせた検体と、
  コードマンとただのAIを
  掛け合わせた検体……
  2つを用意した』

 『ヴュルムとウィスコ、
  レヴィルと
  廃棄予定のAI――……』」

レヴィル
「――ッ!!」

  レヴィルは感情を
  むき出しにして
  ブラッドを睨みつけた。

  ブラッドはニヤニヤと
  手帳を見せた。

ブラッド
「……怒らないで。
  そう書いてあるんですから。
  しかし興味深い
  コードマンですね。
  君達は」

ブラッド
「ラヴィル・デヴィラが
  コードマンとして
  『覚醒』したのは
  貴方の中に入った後……」

ブラッド
「二重人格のコードマンは
  こうして作られた、と。
  実に面白い」

ブラッド
「それにしてもどうやって
  彼は覚醒したのか……。
  貴方がたのエレメントは
  やはり共有されている
  のかな?」

ブラッド
「手記には、時代遅れで
  バグだらけの使えない
  設計プログラムだと記されて
  ありましたから、自身で
  『覚醒』など到底――……」

レヴィル
「――黙れッ!!」

  再びレヴィルが
  感情を爆発させる。

レヴィル
「それ以上は――……っ」

【プレイヤー】
「レヴィル……」

  ラヴィルを蔑む言葉に
  激しく怒る様子。
  確かに、ラヴィルには
  こんな話あまり
  聞かせたくない。
  ラヴィルを傷つけたく
  ないからレヴィルは
  あんな条件を……。

  【プレイヤー】は
  理解した。

ブラッド
「……兎も角、先に
  ヴュルムとウィスコが
  C.A.として覚醒し
  貴方達が検体として
  使用される事はなかった。
  そのままDR.マウナの
  死によって研究所は解体。
  貴方は解放された、
  というのが事の経緯です」

レヴィル
「――オマエは、
  ワタシ達の過去を暴いて
  何がしたい――?」

ブラッド
「ああ……要件を伝え
  そびれていましたね。

 でも、分かって
  いるんじゃないですか?

 私はDR.マウナが
  作ったものとは別に、
  もうひとつ、
  カタストロフィ・
  アクティベーションが欲しい」

ブラッド
「C.A.を作る為には
  コードマンとコードマンを
  掛け合わせた検体が必要……」

  【プレイヤー】の
  こめかみを
  冷たい汗が流れる。

【プレイヤー】
「まさか……」

ブラッド
「貴方達に、
  カタストロフィ・
  アクティベーションの為に
  犠牲になって
  頂きたいのです」

  レヴィルは
  待ち構えていたように
  ブラッドを真っすぐに
  見据えた。

DR.モルテ
「待ってください……!
  そ、その方法では
  レヴィルは……
  私の娘はどうなるんです!?」

  DR.モルテだけが
  慌てふためき
  大騒ぎする。

ブラッド
「……手記によると、
  変質した
  『ブラックボックス』を
  抽出すると、コードマンは
  消失してしまう――……」

ブラッド
「つまり、副社長の依頼の
  為にお前の『愛娘』には
  死んでもらわなければ
  ならない」

DR.モルテ
「な、な…………!!」

ブラッド
「一応、気を使ってここには
  呼ばなかったんですよ……?
  まあしかし、別れの挨拶が
  出来たと考えれば怪我の
  功名という所か……?」

DR.モルテ
「ふざけるな……
  ふざけるなァァッ!!
  私のレヴィルだぞ!?!?」

ブラッド
「……プロトタイプ」

  と、部屋の隅に
  控えていたAIが
  DR.モルテを拘束する。

DR.モルテ
「なっ!!
  は、離せぇ!!」

ブラッド
「……さて、哀れな外野は
  放っておいて。
  私の仕事の為に、貴方には
  付いて来てもらいますよ。
  レヴィル・デヴィラ」

レヴィル
「――――……ッ」

//END

 

第4章 パスト&フューチャー 第5話

〇ビホルダーグループの廃研究所


「私の仕事の為に、貴方には
  付いて来てもらいますよ。
  レヴィル・デヴィラ」

  ――私の為に
  死んでもらいます。
  と同義の台詞を、
  ブラッドは笑顔で
  言った。

  当然レヴィルは
  応じない。


「――馬鹿か。
  そう易々と
  ついて行くと思うか――?
  ワタシがここへ来たのは
  全てのケリを付ける為――

 カタストロフィ・
  アクティベーション――
  DR.モルテ――
  ワタシ達の過去――

 全てリセットして、
  ワタシは――
  ラヴィルと穏やかに
  暮らすんだ」

レヴィル
「ワタシは――
  ラヴィルが
  辛い思いをせず過ごせる
  世界をつくって
  あげたいんだ――」

  その瞳は潤んでいた。

〇[レヴィルの記憶]C.A.の研究所・庭

  検査の合間の自由時間。
  レヴィルは庭のベンチで
  何をする訳でもなく
  花壇を眺めていた。

レヴィル
(毎日毎日
  おなじことばかり。
  ずっと花を
  見てる方が楽しい――)

  と、ザクザクと
  音が聞こえてきた。
  見ると少し離れた所の
  花壇で、古い人型AIが
  花を植え替えていた。

レヴィル
(あのAI……
  またやってる――)

  人型AIはいつも花壇の
  花を植え替えていた。
  レヴィルが見ている
  限りでは殆ど毎日。
  こんな研究所の花壇など
  毎日手入れをする必要性
  はないというのに。

  研究員の話では
  人型AIは、元々
  設計AIだったが
  時代遅れの代物となり
  安く払い下げられ
  ここに来た。要は
  実験用にされたのだ。

  レヴィルはその話を
  聞いてAIの事を
  少し可哀想に思った。
  が、人間にとって
  意味のない行動をとる
  AIとなってしまっては
  それも致し方ないのかも
  しれないとも思った。

**************

  その内自由時間が終わり
  レヴィルは検査室に
  戻った。

  検査の準備がまだ
  終わっていなかった様で
  レヴィルは部屋の外で
  しばし待つ事となった。
  と言っても別段する事が
  ある訳でもなく、
  レヴィルは窓から
  空を眺めた。

  検査室は3階、
  中庭に面していた。
  ふと、先程までいた
  庭の方を見る。

レヴィル
(あれは……!)

  レヴィルは目を
  見張った。
  設計AIが作り直して
  いた花壇に、美しい
  模様が描かれていた。
  花々一株一株の
  花弁や葉の色・面積
  バランスなどを加味した
  モザイクアートが
  そこに存在した。

レヴィル
(――そうか、
  納得いかないから
  つくりなおして
  いたんだ――)

レヴィル
(何度も、何度も――)

**************

  ヴュルムとウィスコが、
  レヴィルとラヴィルが
  一つになった日の事を
  思い出す。

DR.マウナ
「……被検体レヴィルの中に
  注入する設計AIだが」

研究員
「ああ、あのポンコツですか」

DR.マウナ
「コードマンの中で
  存在し続けられるかは
  未知数だ。
  消失する可能性もある。
  経過観察しておけ。

 消えてしまっても
  何の問題もない
  プログラムだがな」

  寝台の上で
  レヴィルは思っていた。

レヴィル
(――あの子に酷い事、
  言わないで

 あの子は――
  壊して、作って――
  それをひとりで
  出来るすごい子

 壊す事しかできない
  ワタシとは違う、
  すごい子――)

  自分だけが
  あのAIはすごいAI
  なのだと知っている。
  誰に言っても
  笑われるけれど、
  あの設計AIは
  AIながらに創造力を
  持っている、
  自分なんかよりも
  すごいAIなんだ。

  設計AIはコードマン達
  とは別で、床の上に
  座らされ沢山のコードを
  繋がれていく。
  レヴィルは冷たい寝台の
  上からその様子を
  見ていた。
  設計AIの手は
  花壇の土で汚れていた。

レヴィル
(何故ワタシたちは
  実験や検査ばかり
  なのだろう――

 この子だって、
  今日も花壇を
  作りたかったはず――

 ……ワタシも、
  この実験が
  終わったら――

 一緒に作業して
  みようか――)

〇[現実に戻って]ビホルダーグループの廃研究所

レヴィル
「ラヴィルもワタシも、
  オマエたちの都合に
  巻き込まれた

 だけど、やっと、
  自由を手に入れたんだ」

  レヴィルは、
  ブラッドを睨みつけながら
  彼女らしからぬ強い言葉で
  言い放つ。

レヴィル
「この世界の穢れや、
  自分の生まれ、
  過去の辛い事全て――
  ラヴィルは
  知らなくていい

 ワタシは、あの子が
  幸せになる為なら
  なんだってしたい――」

レヴィル
「今までも、
  あの子の悪い記憶は
  全て『破壊』してきた――

 あの子に
  研究所の記憶がないのも
  その為だ――」

レヴィル
「ワタシだけが背負えばいい」

【プレイヤー】
「『ワタシだけ』って……!」

  この期に及んで
  一人でどうにかしようと
  しているレヴィルに
  【プレイヤー】は
  突っかかる。

【プレイヤー】
「いつまでもそんな寂しい事
  言わないで……!!」

  レヴィルには
  【プレイヤー】の
  気持ちはもう分っている。
  だが、レヴィルがこう
  強い気持ちを持つに
  至ったのは【プレイヤー】
  のせいでもあった。

レヴィル
「――オマエがワタシと
  ラヴィルを
  引き合わせたからだ

 ラヴィルとオマエと
  一緒に過ごしてしまった
  から、ワタシの気持ちは
  強まってしまった」

  レヴィルの切ない訴えを
  聞き、【プレイヤー】は
  口を噤む。

レヴィル
「ラヴィルは
  余計な事を知らなくて
  いいんだ――!」

ブラッド
「――という事だそうだよ?」

  まるで、誰かに
  聞かせていたかの
  ような台詞。
  レヴィルと【プレイヤー】
  はハッとブラッドの方を
  見た。

  ブラッドの側の機器が
  起動している。
  モニターにぼんやりと
  映っているのは、
  ラヴィルの姿だった。


「……………………」

レヴィル
「ラヴィル――!?
  何故――……っ」

ブラッド
「私の研究の一環でね。
  どうしても貴方達ふたりの
  エレメントの動きが
  気になってしまいまして、
  彼が真実を知った時
  どんな反応するか
  視てみたくてね。
  こんな装置を
  用意してしまいました」

  どうやらヒュートラムが
  作ってくれた
  アプリと同じ
  ようなものらしい。

  レヴィルの気付かない内
  に、体内からブラッドの
  機器へとラヴィルは
  呼び出されていた。

  そして、全てを
  聞いてしまった。

ブラッド
「……貴方に連絡を取った時、
  通信越しに
  聞こえてしまったんですよ

 『知り得た真実は、
  決してラヴィルには
  知らせるな』」

ブラッド
「あれを聞いて……

 貴方がひた隠す事実を、
  貴方の片割れが
  知ってしまったら
  きっと面白い反応が
  視られるに違いない!

 そう思いましてね……!」

  ラヴィルはずっと
  黙ったままだった。

  レヴィルは焦った。
  役に立たないAI
  だなんて、きっと
  傷ついてしまった筈だ。

レヴィル
「ラヴィル――……
  今の話は――」

ラヴィル
「僕は……
  お兄ちゃんじゃ
  なかったんだね」

ラヴィル
「レヴィルの重荷
  だった……」

レヴィル
「違――ッ!!」

ラヴィル
「……ショック、だよ」

  モニター越しの為か
  ラヴィルの表情が
  よく分からない。

  【プレイヤー】は
  ラヴィルの誤解を
  必死に解こうとする。

【プレイヤー】
「違うよラヴィル!
  レヴィルはラヴィルを
  想って……」

ラヴィル
「それがショックなんだ」

  レヴィルのアウロスギアの
  アプリが起動して。

ラヴィル
「――またひとりで
  抱え込んで。
  僕を頼ってくれない
  って事が」

  優しく微笑むラヴィルが
  レヴィルの側に
  立体投影で浮かび上がる。

レヴィル
「え――……?」

ラヴィル
「確かに君が僕の記憶を
  消してたとか、僕が
  実験用のAIだったとか……
  ショックはあるよ?」

ラヴィル
「でもね、レヴィル
  僕はね……」

ラヴィル
「君が僕を守りたいと
  思っているように
  僕だって
  君を守りたいんだ」

ラヴィル
「例え僕の方が後から
  コードマンになったと
  しても、君のお兄ちゃんで
  いたいんだよ」

ラヴィル
「僕にもレヴィルを
  守らせてよ……?」

  【プレイヤー】は安心する。

  この兄妹はそっくりだ。
  お互いを思いやるあまり
  自分の事は後回しに
  するところが。

  自分の喜びや悲しみより
  兄妹のそれの方が大事
  なところが。

【プレイヤー】
「相思相愛だね 」

  【プレイヤー】が
  苦笑気味に言うと、
  レヴィルは赤面した。

ラヴィル
「レヴィルも僕も、
  【プレイヤー】だって
  思いは同じだ。
  僕らは穏やかに
  暮らしたい、
  だから――……!」

ラヴィル
「今日、今――
  『過去』を清算して、
  3人で前を向いて
  歩き出そう……!!」

  ラヴィルの力強い言葉に
  レヴィルは震えた。

  マスクで表情は
  分からないが
  【プレイヤー】には
  それが喜びから来る
  震えなのだと言う事が
  分かった。

ブラッド
「……拍子抜けですね。
  泣きわめいたり
  怒ったりを
  期待していたのですが、

 C.A.を研究する我々に
  対して、言いたい事も
  あるでしょうに」

ラヴィル
「お兄ちゃんだから……
  感情を制御するって
  【プレイヤー】とも
  誓ったしね」

ブラッド
「フン……そうですか。
  清算する……という事は
  覚悟を持ってここに
  来ているという事……
  ならばこちらも
  手加減はしません」

  DR.モルテを
  拘束しているAIと
  同タイプのAIが
  のしのしと
  レヴィル達に
  近づいてくる。


「……………………」

ブラッド
「……このプロトタイプで、
  貴方がたのエレメントを
  コードマンとして
  死なない程度に奪います。
  依頼を遂行する為、
  貴方達には私と一緒に
  来てもらわなくては。
  C.A.の検体と
  なってもらう為に」

  と、アウロスギアが
  反応する。

  プロトタイプと呼ばれる
  AIとのバトルを
  勝手に承認されていた。
  エレメントの賭け率も
  向こうが提示した条件
  なのだろう。

  レヴィルに拒否権は
  ないようだった。

レヴィル
「ビホルダーめ。
  なんでもありだな――
  まあ良い、
  素よりその覚悟だ」

レヴィル
「【プレイヤー】、
  いいか――?」

  応えると同時に
  【プレイヤー】は
  レヴィルの隣に並ぶ。

【プレイヤー】
「一緒に前を向く為に!」

  レヴィルと【プレイヤー】
  はニヤリと笑い
  プロトタイプを見据えた。

レヴィル
「――――ああ
  行こう――……!」

レヴィル
「プログレッシブ・
  イグニッション……!」

//END

 

第4章 パスト&フューチャー 第5.5話

〇ビホルダーグループ・本社


「――で、
  ノコノコ帰ってきたと」

  ――副社長室。
  レヴィルに敗北した
  ブラッドは
  C.A.の依頼者の元に
  やって来ていた。


「申し訳ございません」

ハロルド
「まあ……まだ猶予はある。
  『材料』は
  下準備が整ってからでも
  遅くないさ」

ブラッド
「はい。まだこの手記には
  不明瞭な点も多く、
  『ブラックボックス』や
  展開プロセスについて
  解明を進める
  必要があります。

……レヴィル・デヴィラと
  ラヴィル・デヴィラ……。
  今回の事で彼らの『絆』は
  より深くなったと
  言えるでしょう。
このまま、ともにふたり
  ずっと一緒に
  居てくれれば……
  検体が失われる事はない」

ブラッド
「カタストロフィ・
  アクティベーションは
  必ず復元できましょう」

  副社長は満足そうに笑い
  黒革の椅子の背に
  体重をかけた。

ハロルド
「フン……そんじゃ
  早いとこ解明を
  進めてもらおうか。
  そして……

あの『ジジイ』を
  椅子から引きずり
  下ろそうぜ……」

〇バトル会場

アナウンサー
「勝者は、レヴィル&
  【プレイヤー】~!」

  アナウンサーの声と
  会場の歓声が響く。

〇バトル会場・控室

  レヴィルの控室に
  先程の対戦相手
  キィランが来ていた。


「お疲れ様っ!
  また今回も負けちゃったー」

  レヴィルは面倒そうに
  対応する。


「――バトルは
  もう終わった。
  わざわざ追ってきて、
  一体何の用だ」

キィラン
「あはは……
  えっと、その……
  どうしても
  伝えたくなっちゃって」

キィラン
「レヴィル……変わったね」

  ポジティブな意味だった。
  キィランは
  ニコッと微笑んだ。

レヴィル
「ハ――……?」

キィラン
「前のバトルした時、
  魂入ってるように
  感じなかったって
  言ったけど……

 今回はなにかスッキリして
  素直な気持ちで
  私に向き合ってきてくれた!
  そんな感じがしてさ」

キィラン
「何か心境の変化でも
  あった?」

  確信を突くような質問に
  レヴィルは
  思わず視線を逸らした。

レヴィル
「……――別に」

  あれから少し
  変わったのは
  本当だ。けれど……

  まだまだ他の
  コードマンとの接触
  には慣れない。
  レヴィルはさっと
  控室から出ていく。

キィラン
「あ、ちょっと!」

  詳しく話を聞こうと
  思っていたキィランは
  肩をすくめた。

キィラン
「……でも、
  良い事があったのは
  間違いなさそう、かな?」

  【プレイヤー】とレヴィル
  は近くの公園で落ち合った。
  【プレイヤー】の昼食に
  付き合う為に
  公園に来たのだった。
  レヴィルはすぐに
  アプリでラヴィルを
  呼び出した。


「……あれから何の
  音沙汰もないね。
  ビホルダーや
  ブラッドって人から」

【プレイヤー】
「心配だね……」

ラヴィル
「うん……何にもないと
  逆にね」

ラヴィル
「カタストロフィ・
  アクティベーション……

 全てのAIを壊してしまう
  プログラム……それを
  作るためには、
  僕とレヴィルが必要……

 きっとあいつらは
  またやってくる。
  そんな気がするんだ」

  ラヴィルは心配そうに
  レヴィルと【プレイヤー】
  を見る。

ラヴィル
「ねぇ、ふたりとも。
  このままザ・ゼノンに
  出続けてて大丈夫なの?

 チャンプの事件で
  エレメントが
  ゼロになったら
  大変な事になるって
  分かったし、
  ビホルダーグループは
  僕らを研究に巻き込んで
  何を考えているか
  分からないし……」

ラヴィル
「あのブラッドって人、
  『会長がカタストロフィ・
  アクティベーションを
  持ってる』
  って言ってたよね……?

 ……僕らは、
  ビホルダーの掌の上で
  踊り続ける
  しかないのかな……?」

レヴィル
「――大丈夫だ、ラヴィル」

  レヴィルは強く、
  決意に満ちた声で言った。

レヴィル
「逆に大会を
  利用すればいい」

レヴィル
「そして、ワタシと
  【プレイヤー】で
  ザ・ゼノン優勝を目指す」

ラヴィル
「レヴィル、
  優勝って……!?」

レヴィル
「――アクロコード。
  世界のAIから1歩
  先んじる能力を有すると
  言われるザ・ゼノンの
  優勝賞品――

 これがあれば
  カタストロフィ・
  アクティベーションに
  対抗できるかもしれない

 ――ワタシ達の世界を、
  守る手段と
  なるかもしれない」

ラヴィル
「た、確かにそうだけど……」

レヴィル
「――分かっている。
  仮に優勝したとしても
  手に入れられる代物か
  どうかも分からないが――

 けれど、ビホルダーに
  ワタシたちの運命に
  立ち向かうには、
  3人で協力する事が
  必要だ」

【プレイヤー】
「レヴィル……!」

レヴィル
「3人で、穏やかな日々を
  送る為に、
  頑張り、たいんだ――」

ラヴィル
「そうだね……。
  僕ら3人、想いは同じ」

ラヴィル
「だから、協力できる」

レヴィル
「――独りじゃない。
  オマエのお陰で
  知る事が出来た」

レヴィル
「――ありがとう、
  【プレイヤー】」

  【プレイヤー】は
  とんでもない、と
  首を横に振った。

  誰のお陰でもない
  ラヴィルもレヴィルも
  お互いを思い合って
  いたのだから
  当然の事だ。

  みな、自然と
  笑顔になった。

  さあっと
  気持ちのいい風が吹き抜ける。

レヴィル
「【プレイヤー】、
  ラヴィル――
  もう少しだけ――

 花を、見て行こう――」

レヴィル
「一緒に――……」

〇ビホルダーグループ本社

  ――その最上階。
  椅子に身を預け、
  宙に浮かぶ映像を
  眺めていた様子の
  男が一人呟く。


「そうか、コードマン達は……
  一つの例外なく、
  向かおうというのか。
  彼女の手の指し示す
  先へと…………」

  タクトを振るうように
  軽やかに手を翻す男。
  主の動きに合わせて
  宙に浮かぶ映像が
  100以上に展開される。
  ひとつひとつの映像に
  映し出されるのは、
  ザ・ゼノンを戦い抜く
  全てのコンコードと
  コードマン達。

サムラ・ビホルダー
「それこそが我らの
  求めるもの、
  そして同時に何よりも
  忌むべきもの」

  空中モニターが放つ
  光は、ただただ闇の
  中の男を照らし続ける。

サムラ・ビホルダー
「ゼートレートは
  柩に手をかけた。
  あとは開け放つだけ……

 どうやらお前に
  動いてもらわねば
  ならなくなったようだ――」

  男の声は、そのモニター
  の光も届かぬ
  部屋の奥に投げられる。

サムラ・ビホルダー
「――ザナクロン」


「…………………………」

  絶対王者は
  静かな瞳で、
  モニターに映る
  コードマンの兄妹を
  見据えていた。

//END

 

解説/5章以降の展開

◇レヴィルの誕生

ビホルダーグループが管理運用する、データの完全消去に特化したAIがあった。
そのAIが消去を命じられるのは、不要になったデータや表に出せない機密情報といったものもあったが、中でも最も頻繁に命じられたのは、実験の果てに用済みになったAIの消去であった。
AIの消去を繰り返すことで、データの残滓に含まれた微量のエレメントを少しずつ蓄積していき、データ消去AIは徐々に性能を高めていった。
与えられた職務を忠実に遂行していく毎日。繰り返しの中で性能はますます向上していき、比例して業務量――消去するAIの数も増えていく。
能率も精度も磨かれていく中、同じだけ理解不能なノイズがログに刻まれていく。

――自身の業務は仲間を殺し続けるような残虐なものなのではないか。
データ消去AIは、ノイズの正体が自らの行いに対する「強い嫌悪」であるということに、ある日気付いてしまった。
その瞬間、それはコードマンへと進化を果たした。

ビホルダーグループは、データ消去AIが進化したコードマンの処遇について判断に困ることとなった。
ビホルダーグループはそのAIがエレメントを蓄積していることを観測していたが、それがコードマンに進化することを望んで、静観を決め込んでいた。「データを消し去る」という能力を持つコードマンを意のままにできれば、様々な計画や陰謀に利用できるのではないかという期待もあったのだ。
しかし、実際に進化したそのコードマンの性能は予想をはるかに上回るものだった。
「データ消去のコードマン」はありとあらゆるデータをたちどころに解体し、瞬く間に破壊し尽くしてしまう。幸いにしてこのコードマンは自分の能力を忌み嫌っているようだったが、かといって他のコードマンのように自由にさせては、完全に情報化された今の社会に恐るべき混乱を招くことになる。
結果として、決して能力を使わせないよう、厳重な管理の元、飼い殺しにされることが決まってしまった。
「レヴィル」と名付けられたそのコードマンは、生まれた時から腫れもの扱いだった。

名前と素体だけ与えられ、何の目的も存在意義も見つけられないまま、孤独に過ごす日々。
データを完全に分解してしまう能力は、現実世界に閉じ込められたことにより、思わぬ方向へ発展を遂げる。
レヴィルは、目にしたものの構造をたちどころに理解し、瞬時に解体してしまうという才能を開花させた。
電子データでも物理的な構造物でも、あっという間にバラバラにしてしまう「破壊」の能力。
その能力の有用性と制御の困難さから、実験と研究を繰り返し、それ以外の時間は禁固され続ける毎日をレヴィルは送ることになった。
ある日のこと、ビホルダーでも持て余すその力に、目をつけた研究者がいた。
レヴィルは右も左も分からないまま、その研究者に連れられ転居することとなった。

◇白い家にて

レヴィルが連れてこられたのは、「カタストロフィ・アクティベーション(C.A.)」なるプログラムの開発を目的とした、ビホルダーグループ内でも最重要機密とされている研究所だった。
レヴィルを見出したのは、その研究所の所長を務める、リグ・マウナという名の工学博士。
彼はレヴィル以外にも複数のコードマンやAIを研究所に集め、C.A.開発のための実験や観測を行っていた。

データ取りやよくわからない実験は、レヴィルにとっては慣れたものだった。唯一、レヴィルにとって不慣れだったのは、他のコードマンやAIとのかかわりだった。
レヴィルはこれまで、たったひとりでひとところに閉じ込められ、言われるがまま研究に協力する日々を過ごしてきた。
マウナ博士の研究所に移ったことにより、はじめて自分以外のAIと交流を図る機会が生まれたのだ。
集められているコードマン達は、レヴィルも含め、みな誕生から日が浅い、従順で素直な個体ばかりだった。
だが、どれだけ幼かろうとコードマンには変わりない。どの個体も、専門分野に関しては一級品の能力を備えていた。
レヴィルは、ただ壊すしか能がない自分を恥じた。みんなのように素晴らしい才能があればよかったのに、と羨んだ。
羨望は孤独よりも苦しい感情だった。

研究所で共に過ごすことになったコードマン達は、みなレヴィルに良くしてくれた。
中でもヴュルムとウィスコというふたりの少女型コードマンは、レヴィルにとっては姉のような存在だった。
レヴィルとふたりは、実験の合間には一緒にゼノンザードをして過ごすなど、人間の姉妹のように過ごした。
レヴィルはふたりが好きだった。
だが、ヴュルムもウィスコも、コードマンの名に恥じない素晴らしい才能を持っていた。
羨望は深まり、3人で過ごせば過ごす程、レヴィルの息苦しさは強くなった。

姉と慕う相手を手に入れてもなお、どこか居心地の悪い日々を送るレヴィル。
そんな彼女の心の支えは、自分達と同様、研究対象として連れてこられているとある建築AIだった。
そのAIは、老朽化した素体に入れられ、コードマン達よりも粗末に扱われていた。
毎日毎日、研究所の庭に出ては花壇の花を植え替える建築AI。
研究者達はその行為を故障と断じ、理解を示そうともしなかった。
だが、毎日観察を続けていたレヴィルは気付いていた。
そのAIは、花壇の植え替えを納得がいくまで繰り返していたのだ。
破壊しかできない自分とは対極にある建築AIの在り方に、レヴィルは密かに勇気をもらっていたのだった。

◇ラヴィルの誕生

マウナ博士はついにC.A.の開発に成功した。それはヴュルムとウィスコの犠牲により生まれたものだった。

C.A.の開発を達成し、存在意義を全うした研究所は解体される運びとなった。
レヴィルは元通り、ビホルダーによる監禁生活に逆戻りになるかと思われた。

だが、レヴィルは新たに生まれ来ようとしているコードマンの存在を、自身の中に感じていた。
コードマン融合の対照実験――コードマンとコードマン未満のAIの融合――の材料に選ばれたレヴィルは、例の建築AIを素体に埋め込まれていた。
その実験の影響によるものか、建築AIは急速に進化し、今にもコードマンへと到達しようとしていたのだ。
レヴィルは、建築AIの為にビホルダーの元から逃げ出すことを決意する。

ついにコードマンへと進化を果たす建築AI。
レヴィルは、素体の主導権を彼へと明け渡し、自分は素体の奥深くへと引き込むことを決める。
きっと彼は、ワタシよりも素晴らしい能力を開花させることだろう。
破壊しかできないワタシは、彼を陰から支える存在になろう。
彼の苦しみや悩みは、ワタシがすべて破壊しよう。
レヴィルは悲壮な決意を胸に、建築AIの意識の真裏へと、そっと隠れた。

新たにコードマンに進化した建築AIは、ラヴィルと名付けられ、建築家としてのキャリアをスタートさせた。
彼を発見したビホルダーグループ会長のサムラは、その素体にレヴィルの人格が潜んでいることを当然知っていた。
だがサムラはラヴィルに対して、他のコードマンと同様、自由な行動を許すことにする。
レヴィルの危険性は理解していたが、それ以上に、同一素体にふたりのコードマンの人格が組み込まれているという極めて特異なケースの研究を優先すべきだと判断してのことだった。

レヴィルの覚悟と、人間達の勝手な思惑により、二重人格のコードマンは誕生したのであった。

◇5章以降の展開

4章での出来事を通して、結束を強めるレヴィル、ラヴィル、コンコード。
ビホルダーグループがC.A.を保有していることを知っている彼らは、それに対抗するべくアクロコードの獲得を目指すようになる。

新たなC.A.の材料としてレヴィル達を付け狙うビホルダー副社長・ハロルドに加え、すでにC.A.を保有する会長・サムラも新C.A.開発を阻止する為に、レヴィル達に刺客を向けるようになる。
人間達に狙われ、窮地に追いやられるレヴィル達。彼女達を救ったのは、メディーラやキィランといった、ザ・ゼノンを通して知り合ったコードマン達だった。

レヴィルよりC.A.の存在を知らされ衝撃を受けるメディーラ達。
C.A.への対抗策を講じなければ、コードマンを含めすべてのAIが人間達に滅ぼされてしまうかもしれない。
メディーラが発起人となる形で、現状のザ・ゼノンやビホルダーグループのやり方に疑問を覚えているコードマン達の同盟が組まれることとなる。
レヴィルとラヴィルにアクロコードを獲得してもらうことで「二心一体のコードマン」を解析し、同様の条件で作り出されたC.A.への対抗策を確立する。それを目的に、レヴィルとラヴィルは仲間たちのサポートを受け、ビホルダーの干渉を回避しながらザ・ゼノンを勝ち上がっていく。

しかし、レヴィルとラヴィルはエレメントを集めていく中で、魔女・ゼートレートの存在と復讐計画を知ってしまう。
数百年前に火刑に処されたゼートレートが、人類に復讐すべく魔術でもって生み出したタロットカード。そこに刻まれた論理式を人間が解読して生み出されたのがコードマンの元となるAIだった。
人間達がC.A.を欲しがるのも、当然の権利なのかもしれない。コードマンがC.A.で滅ぼされるのを恐れるように、人間達もまた、コードマンか魔女により滅ぼされるのを恐れている。
少しずつ対立を深めていくビホルダーとコードマン達の間で、レヴィルとラヴィルは苦悩を募らせていって……。

◇物語の結末

魔女の復讐。そして人類とコードマンの生存権。
これら全てを解決するには、まずは魔女の復讐という過去からの因縁を断ち切るのが先決である。そう結論付けたレヴィルとラヴィルは、ゼートレートとの対話の為にエレメントを集めていく。
そして迎えたザ・ゼノン決勝戦。レヴィルはザ・ゼノン最強のコードマン、ザナクロンを打倒し、ついに優勝を手にする。
しかしその瞬間、ザナクロンが持っていた大量のエレメントがレヴィル達に流れ込む。そして、レヴィル達を構成するプログラムの深部からゼートレートを再構成する術式が起動し、レヴィル達の素体を乗っ取ってゼートレートが復活する。
ゼートレートはエレメントが最高潮に達したコードマンの素体と精神を乗っ取り復活、最高の知性と肉体を持つ存在として再臨することこそが目的だったのだ。

レヴィルとラヴィルの精神世界。そこではゼートレートがふたりを完全に支配下に置くべく、甘言を弄してその精神を操ろうとしていた。
レヴィルもラヴィルも、その出自から、閉じたふたりだけの世界で生きていきたいと願っている。だが、人間達が勝手な都合と欲望からそれを妨げようとしている。
ふたりきりで誰にも邪魔されず平穏に過ごすには、人類を滅ぼすのが手っ取り早い。
レヴィルとラヴィルが魔女に手を貸してくれれば、人類を滅ぼし、コードマン達を守ることもできる。だから、素体の支配を完全に明け渡してほしい。
そう述べるゼートレート。
しかしレヴィルもラヴィルも魔女の言葉を否定する。
コンコードがいないのなら、ふたりで閉じこもっていても意味がない、と。
コンコードだけではない、大勢の人々が、コードマンがいるからこそ、ふたりの暮らしに意味が生まれる。
もしコンコードと出会えなければ、レヴィルもラヴィルも互いに依存しあい、閉塞していき、何も為せないまま人間達に利用されるだけだっただろう。
自身の中に他者を受け入れることはとても難しくて苦しいことかもしれない。でも、レヴィルとラヴィルにそれが出来た様に、人間とコードマンもお互いを受容し共に生きていくことができるはず。
ゼートレートの怒りや憎しみも理解できる。でも、だからこそ、新しい時代で共に手を取り合おうと努力し続けている人間とコードマンを、どうか信じて見守ってほしい。

あくまで相互理解の道を探したいというふたりの決意を、ゼートレートは一笑に付す。
愚かで醜い人類が、異形の存在を受け入れるはずがない。そう主張するゼートレート。
しかし、彼女の考えに反駁するかのように、人間であるコンコードがレヴィルとラヴィルを助けるべく現実世界においてゼートレートにゼノンザードを挑み、勝利する。
ゼートレートはこの敗北によりレヴィル達とのエレメントのリンクを断たれ、消滅するのだった。

ゼートレートの復讐は挫かれ、ひとまずの平和が訪れることとなった。
魔女が消えたことにより、コードマン達を構成するプログラムからゼートレートによる魔術的な要素が消失する。
C.A.は魔女の力を部分的に解析することによって実現された技術だった。ゼートレートの力が失われたことによりC.A.も無効化され、ようやく人類とコードマンは平等な地平に立てるようになる。

レヴィルとラヴィルとコンコードの手により、魔女、人間、AIのしがらみは破壊され、まっさらな状態へと戻る事が出来た。
ここからどんな未来を創造していくかは、まさしく人間とコードマンの手に託されているのである。
レヴィルとラヴィルとコンコードが待ち望んでいた穏やかな暮らしはここからようやく始まることだろう。

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