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ぼくのしんじつ

公開済みストーリー・相関図

公開済みストーリーをYouTubeで公開中!!

1章 ぼくはだれ?

2章 しょくぎょうたいけん

3章 ぼくのるーつは…

4章 ぼくのしんじつ 第1話~第2話

相関図

▼クリックして拡大▼

 

第4章 ぼくのしんじつ 第3話

○旧タイカ帝国・廃墟群


「【プレイヤー】
  あっちにおおきな
  たてものが のこってるよ
あそこなら
  ぼくの じょうほうが
  なにかあるかもしれない」

ピモタ
「扉のロックをかいじょして……」

  ピモタが見つけた
  巨大な施設は、
  タイカ帝国の
  軍事工場だった。
  入るなり、
  何かに導かれるように
  奥へと一直線に
  向かうピモタ。
  行きついた先は、
  工場に併設された
  研究施設と思しき一室で。

ピモタ
「ここは……」

  ピモタは部屋の外周に並ぶ
  コンソールに気付く。
  近づくと、
  室内灯の明滅と共に
  コンソールは
  ひとりでに起動して。

ピモタ
「あ、うごいた」

音声案内
「資料を検索します。
  該当箇所のコードか、
  フリーワードを
  入力してください」

  ガイド音声が立ち上がる。

ピモタ
「ぼく が 知りたいこと……
  ぼく は いったい
  なにもの なのか……」

  考え込むピモタ。
  何を尋ねるべきかの
  決心がつきかねている様子。
  がらんどうの室内に
  コンソールの駆動音だけが
  耳鳴りのように
  横たわっている。
  沈黙を嫌ったのか、
  【プレイヤー】は
  音声案内にワードを投げる。
  

【プレイヤー】
「『ピモタ』で検索」

音声案内
「検索中……
  検索中……
  検索中……」

音声案内
「――『ぴも太』。
  エンペラー玩具社より
  発売された幼児向けの
  ぬいぐるみ」

ピモタ
「ぬいぐるみ……?
  ぼくは
  ぬいぐるみなの?」

  おずおずと
  【プレイヤー】を
  仰ぎ見るピモタ。
  【プレイヤー】は
  ゆっくりと首を振る。

ピモタ
「そうだよね
  ぬいぐるみ は
  動かないもんね」

ピモタ
「ぬいぐるみは、
  あんなこと 
  しないもんね……」

  目を閉じるピモタ。

○回想


「――オマエ、ラヴィルを
  『洗脳』しようとしたな?」

**************


「嫌がる相手に
  エレメント賭けさせて、
  無理にゼノンザードを
  するのは
  悪いことじゃないのかよ?」

**************


「君が信号機を破壊したせいで
  下敷きになりかけた人がいた。
  私が助けなければ、
  怪我をしていたかもしれない」

**************


「貴方は一瞬で、
  この国を焦土にできます。
  世界中の人間を『洗脳』して、
  一国の主になることも
  可能です」

**************

島の少女のホログラム映像
「――お願いです」

島の少女のホログラム映像
「どうか、許さないで。
  この国が
  滅んでしまった原因を。
  おぞましいあの災厄を。
  どうか、どうか、
  どうか、どうか、
  許さないで」

島の少女のホログラム映像
「許さないで――」

○旧タイカ帝国
  軍事施設跡地

  そっと目を開くピモタ。
  これまでの体験から、
  自身の正体を導く
  ひとつの言葉を選び出す。
  それは、今までの
  ピモタが無関心に
  看過し続けてきた
  あの言葉で。

ピモタ
「『洗脳』……」

音声案内
「検索中……
  検索中……
  検索中……」

音声案内
「検索中……
  検索中……
  検索中……」

音声案内
「『洗脳』に関する
  項目は、1件、です。
  開発名『洗脳プログラム』は
  『啓蒙プログラム』に
  改称の後、正式名を
  『神の怒れる鉄槌』として
  皇帝陛下に奉献されました」

【プレイヤー】
「『神の怒れる鉄槌』……?」

音声案内
「『神の怒れる鉄槌に
  関する最終報告書』は、
  こちらの資料になります

――『神の怒れる鉄槌』は
  我ら『タイカ帝国』が、
  全世界を手に入れるための
  偉大なる兵器である」

ピモタ
「へいき……」

  顔を曇らせるピモタ。

音声案内
「我が国の偉大なる皇帝を
  批判する国々は、
  文明的に遅れている。
  我が国の偉大なる皇帝を
  批判する者たちは、
  知性のある人間ではない。
  よって、我らが偉大なる皇帝
  による裁きを与え、
  この世界の文明を
  『神の怒れる鉄槌』
  により切り拓く。
  それが我が偉大なる皇帝が
  神託によって課された
  崇高な使命なのである。
  よって我が国の叡智が
  結集されたプログラム
  『神の怒れる鉄槌』。
  これを、我が偉大なる皇帝に
  捧げる――」

  ピモタ、
  「プログラム」という
  単語にハッとして。

ピモタ
「プログラム……!
  コード を みせて……!」

音声案内
「――了解しました。
  『神の怒れる鉄槌』の
  詳細資料を表示します」

  壁面に、数式の羅列が
  投影される。
  目を走らせるピモタ。
  その顔に、徐々に
  絶望の色が差していく。

ピモタ
「……このプログラム……
  これは……」

???
「……これでご納得
  頂けましたか?」

  声がしたかと思うと、
  隣室から何者かが
  現れる。
  それはフィンセラで。

ピモタ
「ぼ、ぼくたちを
  まちぶせてたの?」


「はい。
  あまりに待たされるので
  退屈していたところでした」

【プレイヤー】
「納得って、
  どういうこと……?」

フィンセラ
「……ピモタ・アンノウン。
  『神の怒れる鉄槌』の
  プログラムを読みましたね」

ピモタ
「……う、うん……」

フィンセラ
「ご感想は」

ピモタ
「……それは……」

ピモタ
「…………か、
  『神の怒れる鉄槌』の
  プログラムは……

ぼくと おなじだったんだ」

【プレイヤー】
「……そっか……」

ピモタ
「か、かんぜんに
  おんなじわけじゃ
  ないよ……!」

フィンセラ
「そうですね、確かに
  完全に同一ではない……
  ですが、貴方の中核をなす
  プログラムと、かなりの
  割合で一致しているでしょう」

ピモタ
「……う……うん……」

フィンセラ
「認めたくはないでしょうが
  貴方の前身は
  このタイカ帝国が
  他の国々を滅ぼすために
  作った……」

フィンセラ
「兵器なのです」

  以前にも言われた言葉。
  かつての自分が
  狂乱と共に否定した言葉。
  しかし今度は、
  到底否定しきれない物証が
  ここにある。
  ピモタは俯く。

フィンセラ
「……『神の怒れる鉄槌』は
  このような極小の帝国が
  所有するには、
  あまりに大きすぎる力でした。

最終的に制御ができなくなり
  愚かにも、自分自身の国を
  滅ぼしてしまったのです。
島中にミサイルの雨を落とし、
  人々を洗脳し殺し合わせ、
  草木も生えない焦土に
  してしまいました。

自業自得とは言え、
  何も知らない無辜の民が
  犠牲になったことを思えば、
  悲劇の歴史と
  言えるでしょうね」

ピモタ
「……で、でも……
  ぼく……そんなことした
  記憶ない……」

フィンセラ
「『洗脳プログラム』としての
  記録がすべてロストしている
  からでしょう」

ピモタ
「じゃ、じゃあぼくが
  こーどまんに
  なれたのは……?」

フィンセラ
「そこまでは私にも
  分かりかねます」

  肩をすくめるフィンセラ。

フィンセラ
「……以前、口頭で
  ご説明しただけでは、
  ご理解いただけなかった。

 だから私は……
  貴方がここに辿り着くまで
  お待ちしていたのです。

 貴方の正体が何なのか、
  明確な証拠をその目で
  見ていただき……」

フィンセラ
「ご自身でご納得頂くために」

フィンセラ
「これが貴方の正体、
  貴方の真実なのです」

  淡々と事実を述べる
  フィンセラ。
  ピモタは、俯いたまま
  その小さな手を
  きつく握りしめていて――

//END

 

第4章 ぼくのしんじつ 第4話

○旧タイカ帝国
  軍事施設跡地

  渇望し続けた
  自身の正体を知り、
  呆然となるピモタ。
  その心を案じた
  【プレイヤー】が
  そっと近づくと、
  ピモタはとつとつと
  語り始めて。


「……ぼくは……」

ピモタ
「ぼくは……
  みんなに夢をあたえるような
  プログラムの出身だったら
  いいなって思ってたんだ
  ……りんどう みたいに」

ピモタ
「……だけど ちがった。
  かんごし の仕事も
  警察官の しごと も
  レスキューの しごと も
  ドリンクを売る しごと も
  まんが を描く仕事も……

 どれも しっくり
  こなかった
  ぼくの仕事じゃない
  って わかったんだ」

ピモタ
「でも『神の怒れる鉄槌』って
  なまえ を きいて
  なんだか なっとく
  できた 気がした
  だって……
  この島の風景と
  まえ に 街中で
  あばれちゃったときの
  景色が……」

  目を閉じるピモタ。
  脳裏に浮かぶのは
  フィンセラに襲撃されて
  暴走した時の事。
  ピモタの力の奔流を受け
  破壊されていく
  街の様子が、
  タイカ帝国の惨状と
  重なって。

ピモタ
「……………………」

  黙り込むピモタ。
  再度、ホログラムの少女の
  言葉が脳裏をよぎる。

【島の少女のホログラム】
「どうか、どうか、
  どうか、どうか、
  許さないで」

  やがて、意を決したように
  【プレイヤー】を
  見つめると、

ピモタ
「【プレイヤー】……
  ぼく は
  やっぱり このせかいに
  いてはいけない
  存在なんだね」

【プレイヤー】
「そんなことは……っ!」

  竜胆との調査の日々を
  思い返す【プレイヤー】。
  調べれば調べるほど、
  共に過ごせば過ごすほど、
  ピモタが怪物であるという
  確信が深まっていく毎日。
  それでも、そうではない
  という可能性を信じて
  この島までやってきた。
  しかしその希望も虚しく、
  明確な証拠を突き付けられ
  他ならぬピモタ自身が
  その事実を
  受け入れてしまった。
  【プレイヤー】は
  何を言うべきかわからず
  口をつぐんでしまう。


「さて、ご本人達には
  ご納得いただけた
  ようですが……」

フィンセラ
「貴方はいかがですか?」

  と、フィンセラは
  隣室に声をかける。
  その言葉を合図に
  ひとつの影が
  研究室に入ってくる。

ピモタ
「竜胆……!」


「ピモタ……
  【プレイヤー】……」

【プレイヤー】
「竜胆、どうしてここに……」

竜胆
「フィンセラに頼んで
  ここまで連れてきて
  もらったのだ。
  僕には……
  君達の顛末を
  見届ける義務が
  あるからな」

竜胆
「ピモタ。
  確かにこの島の惨状は
  『神の怒れる鉄槌』――
  『洗脳プログラム』が
  もたらしたものだろう。
  だが……、

 それはピモタであって
  ピモタではない。
  コードマン以前の
  プログラムであれば、
  人間に使われる道具の
  域を出るものではない。
  この島を破壊したのは
  『洗脳プログラム』を
  暴走させた皇帝だ。
  だから――」

フィンセラ
「ピモタさんには
  罪がない、と?」

竜胆
「そうだ……!」

フィンセラ
「そうですね。
  この島を破壊したことに
  関しては、仰る通り
  ピモタさんに咎は
  ないでしょう。
  だって今のピモタさんとは
  『別人』なんですから。

 私達コードマンに、
  出身プログラムからの
  自我の連続性はありません。
  コードマンに進化して初めて
  私達は『個』を得るのです」

竜胆
「フィンセラ……!
  わかってくれるか!」

  喜ぶ竜胆。
  しかしフィンセラは
  ぴしゃりとはねのける
  ように言葉を続ける。

フィンセラ
「違いますよ。
  論点がズレていると
  言っているのです。

 以前も申し上げたでしょう。
  『ピモタ・アンノウンという
  幼い自我の持ち主』が
  分不相応な力を持っている
  ことを危惧しているのだと」

竜胆
「それは……!」

フィンセラ
「貴方が一番よく
  理解しているはずです。
  ピモタさんが欲望の
  赴くまま洗脳能力を
  行使して周囲を操り、
  傷つけ続けていたことを」

竜胆
「………………」

フィンセラ
「私は、そのような存在に
  『世界を滅ぼしうる力』を
  持っていてほしくない。
  安心して日々を
  過ごせませんからね。
  だから消えてほしいのです」

【プレイヤー】
「でも、今のピモタには
  ちゃんと自我がある」

竜胆
「そうだ……!
  自我があり、
  感情がある。
  今のピモタは
  悪い人間の道具という
  わけじゃない!
  それに、いざという時は
  僕や【プレイヤー】が
  止めれば……」

フィンセラ
「気が逸るあまり
  場所を選ばず襲撃を
  かけてしまったことは
  私の落ち度ですが……

 それでもピモタさんは、
  『恐怖という感情』に
  突き動かされるまま
  力を暴走させた。
  それは『洗脳プログラム』の
  罪ではない。
  『ピモタという存在』が
  負うべき責任です。
  そして貴方達は……」

フィンセラ
「それを止められなかった。
  私が知っている事実は
  それくらいです」

竜胆
「そ、それは……!
  だがピモタは……っ!」

ピモタ
「もういいよ、りんどう」

竜胆
「ピモタ……?」

ピモタ
「ぼくは……
  いないほうがいい」

竜胆
「待ってくれ、
  ピモタ……!
  確かに君は
  危険な存在かも
  知れない……!
  だが、それを
  教え諭せなかった
  僕にも責はあるんだ!
  だから、僕と一緒に
  償ってもらいたいんだ……!」

【プレイヤー】
「これから一緒に
  新しくやりなおそう……!
  ピモタ……!」

ピモタ
「りんどう……
  【プレイヤー】……」

  二人の言葉に
  目を潤ませるピモタ。
  しかし、ふるふると
  首を振って。

ピモタ
「もう いいんだよ
  ぼく ようやく
  わかったんだ
  ぼく が 今まで
  みんなに してきたことが
  どんなに 酷い事なのか

 この島にやってきて
  じぶん が 
  何からうまれたのかを
  知って
  ぜんぶ つながったんだ

 ぼくが わがままで
  他の人やコードマンを
  あやつっているのに
  それを『まほう』だなんて
  無邪気に しんじこんで
  いい気になっていた」

ピモタ
「もし ぼく が
  ほかの誰かに 考えや
  好きなことを
  無理やりねじまげられたり
  したら……

 そんなの ぼくは
  いや だ」

ピモタ
「ぼく が みんなに
  してきたのは
  そういう こと
  だったんだね

 ぼくは ぼくのことが
  きらいだ
  ぼくの ちからは
  いつか みんなを
  変にしてしまって
  ころしあわせてしまうかも
  しれない
  この島の人達みたいに」

ピモタ
「だから ぼく
  電脳空間に
  とじこもることにするよ
  そこでずっと
  ねむってるよ」

竜胆
「ぴ、ピモタ……」

ピモタ
「りんどう
  いままでありがとう
  めいわく かけちゃって
  ごめんなさい」

ピモタ
「【プレイヤー】も……
  いっしょに
  ゼノンザードできて
  たのしかった」

ピモタ
「ほんとうにありがとう」

ピモタ
「もういいんだ、
  【プレイヤー】
  ぼくが何者か、
  わかったから
  ぼくはもう
  まんぞく だよ」

  歯噛みする竜胆。
  少しの間俯いた後、
  ちらり、と
  フィンセラに視線をやる。
  フィンセラは
  小さく頷いて。

  と、研究施設の照明が
  赤く明滅しはじめたかと
  思うと、サイレンが
  鳴り響いて。

音声案内
「エマージェンシー
  エマージェンシー」

【プレイヤー】
「何が起こったの!?」

音声案内
「施設内に侵入者を検知。
  機密保持のため、
  本施設は300秒後に
  滅却モードに移行します」

  重厚な隔壁が
  降りてきて
  扉をふさぐ。
  研究施設に
  閉じ込められてしまう
  ピモタ達。

フィンセラ
「侵入者……?
  一体誰が……」

  施設内の監視映像が
  投影される。
  隔壁が閉じた廊下で
  立ち往生していた
  侵入者とは――

ピモタ
「っ!
  あの子は――!」

漁師の子どもの声
「うわっ、なんだ!?
  閉じ込められたぞ!?」

  映像には対岸の村から
  送り届けてくれた
  漁師の少年が
  映っていた。

音声案内
「本施設は270秒後に
  滅却モードに移行します」

漁師の子どもの声
「ひぃっ!
  今度はなんだよ!?」

  がこん、と音がしたかと
  思うと、天井から
  火炎放射器の砲塔が
  伸びてきて
  少年に狙いを定める。

竜胆
「マズいぞ……!
  このままだと
  あの少年は……!」

フィンセラ
「他人事ではありませんよ」

竜胆
「えっ?」

フィンセラ
「ほら」

  そう言って天井を指す
  フィンセラ。
  廊下同様、格納されていた
  火炎放射器が現れる。
  その砲口は
  【プレイヤー】達に
  正確に向けられていて。

フィンセラ
「このままでは
  みんな仲良く
  丸焦げのようです。
  これは困りましたね……」

ピモタ
「そんな……!」

音声案内
「エマージェンシー
  エマージェンシー」

音声案内
「本施設は240秒後に
  滅却モードに移行します」

  ピモタの焦燥をよそに
  死の訪れは、着実に
  その針を進めていて――

//END

 

第4章 ぼくのしんじつ 第5話

  侵入者――
  漁師の少年により、
  施設の機密保持システムが
  誤作動を起こしている。
  【プレイヤー】達がいる
  研究施設も封鎖され、
  人も設備も焼き潰すべく
  火炎放射器が砲口を
  向けている。
  機械音声が無慈悲にも
  火を放つまでの刻限を
  定期的に告げていて。

音声案内
「エマージェンシー
  エマージェンシー」

音声案内
「本施設は210秒後に
  滅却モードに移行します」

【プレイヤー】
「このままだと……!」


「フィンセラ!
  君なら止められるのでは
  ないのか!?」


「先程からシステムに
  潜り込んでいるのですが
  無理ですね。
  プロテクトが固すぎる。
  コードマンである私ですら
  突破できません」

  あっさりと諦めている
  様子のフィンセラで。

竜胆
「解除できないと
  いうのか!?」

フィンセラ
「まあ、そうなりますが……
  何をそんなに
  慌てる必要があるのです?
  仮に素体が
  破壊されたとしても
  私達にはバックアップが
  あるでしょう」


「なに を いってるんだ
  ふぃんせら!」

ピモタ
「それじゃあ
  あの子は……
  【プレイヤー】は……!」

フィンセラ
「おとなしく
  焼け死んでいただく
  ほかありませんね。

まあ、仕方がないでしょう。
  こればっかりは
  無策で危険地帯に
  足を踏み入れた
  人間の皆様が悪いので」

ピモタ
「そんな……!」

  狼狽えるピモタ。
  その様子に
  フィンセラは
  冷ややかに皮肉を
  浴びせる。

フィンセラ
「おや?
  どうなさったのです?
  貴方は電脳世界に
  引き籠る事に
  決めたのでしょう?
  現実がどうなろうが
  貴方には関係ないでは
  ありませんか」

ピモタ
「ぼく は……
  ぼく は……」

音声案内
「本施設は150秒後に
  滅却モードに移行します」

  迫りくる死に、
  ぺたり、とその場に
  座り込む【プレイヤー】。

ピモタ
「【プレイヤー】!」

【プレイヤー】
「こんなお別れなんてね……」

ピモタ
「いやだ、いやだよ
  【プレイヤー】……!」

【プレイヤー】
「これで最後になるかも
  しれないけど……」

ピモタ
「やだよ……!
  やめてよ!」

【プレイヤー】
「ピモタには、
  ピモタ自身であることを
  諦めないでほしい」

ピモタ
「……!」

【プレイヤー】
「何から生まれたとしても
  ピモタはピモタだよ」

ピモタ
「【プレイヤー】……!」

  ピモタの中で、
  【プレイヤー】と
  共に過ごしてきた
  日々の思い出が蘇る。
  友達になってくれたこと。
  自分探しに付き合い
  続けてくれたこと。
  そして、世界のすべてが
  ピモタを化け物と
  糾弾しようと、
  【プレイヤー】は
  信じ続けてくれた
  ということ。

ピモタ
「ぼく……!
  ぼくは……!」

  ピモタは【プレイヤー】の
  手を取り、その目を
  真っすぐに見据える。
  ピモタの瞳には、
  これまでにはなかった
  覚悟の光が灯っていて。
  
ピモタ
「ぼく、【プレイヤー】には
  ぜったいに
  死んでほしくない!!」

  ピモタは力強く
  頷いてみせると、
  フィンセラの隣へと
  飛んでいく。

ピモタ
「フィンセラ!」

フィンセラ
「なんですか?」

ピモタ
「ぼく なら
  この施設を止められる
  ぼく の
  『せんのう』なら
  きっと みんなを
  助けられる!」

フィンセラ
「どうでしょうね。
  貴方の力は
  死を振り撒く為に
  造られたものです。
  どうせ状況の悪化を
  招くだけですよ」

  じとりと睨むフィンセラ。
  竜胆が抗議の声を上げる。

竜胆
「フィンセラ!
  どうか……!
  どうかピモタを
  信じてやってほしい!」

ピモタ
「おねがいだよ フィンセラ!
  ぼくのこの力を
  誰かの ため に
  使わせてほしいんだ……!」

ピモタ
「ぼくが みんなを
  たすけるんだ!!」

フィンセラ
「………………」

  フィンセラはピモタを
  じっと見たかと思うと、
  肩をすくめ視線を逸らす。
  そして、コンソールを
  手で指し示して。

ピモタ
「ありがとう……!」

  ピモタは
  コンソールの前に来ると、
  意識を集中させて、
  施設のシステムに接続する。

音声案内
「本施設は30秒後に
  滅却モードに移行します」

  施設のシステムは
  堅固なプロテクトに
  経年劣化の誤作動が
  合わさって
  制御不能な状態。
  だが、『洗脳』という
  異能に近しい力なら。
  ピモタは初めて
  「能力を使う」という
  明確な自覚を持って、
  洗脳能力を解き放つ。

ピモタ
『とまれーーーーーっ!!!』

音声案内
「滅却開始まで
  あと15秒」

  【プレイヤー】を睨む
  砲塔に、着火用の
  口火が灯る。
  ピモタの洗脳がシステムを
  書き換えていく間も、
  既存の命令を
  遂行しようと、
  施設は稼働をやめない。
  
ピモタ
『とまれーーーっ!
  とまれとまれとまれ
  とまれーーーーっ!!!』

  火炎放射器から
  吸気音が響く。
  【プレイヤー】の顔を
  覗き込むように
  火炎放射器が伸びてきて。
  機械音声が冷酷に
  時を刻む。

音声案内
「5――
  4――
  3――
  2――
  1――」

ピモタ
『とまれーーーっっ!!!!』

  炎が放たれる瞬間、
  ピモタは思わず
  目を瞑るが――

音声案内
「システム、
  オーバーライト。
  稼働中の全機能を
  緊急停止します」

  がこん、と砲塔が
  垂れ下がり、壁面へと
  格納されていく。

ピモタ
「とまった――?」

  あわやというところで
  ピモタの洗脳が行き渡り、
  実行中のプログラムも
  停止させられたのだった。

【プレイヤー】
「助かった……?」

竜胆
「やった……
  やったぞ!」

  手を取り合い無事を喜ぶ
  【プレイヤー】と竜胆。
  ピモタもふたりの側に寄り
  安堵の息を漏らす。

ピモタ
「よかった……
  【プレイヤー】が
  しんじゃったら ぼく……」

  と、隔壁が開き、
  研究施設に漁師の少年が
  駆け込んでくる。

漁師の子ども
「いたっ、ピモタ!」

ピモタ
「きみ も
  無事でよかった……!」

竜胆
「少年、君は
  どうしてここまで
  来てしまったんだ?」

漁師の子ども
「だって、ピモタ達が
  なんでこんな島に
  用事があるのか
  気になっちゃって……」

ピモタ
「ごめんね……
  なんだか
  まきこんじゃったみたいで」

漁師の子ども
「いや、危ない島って
  知ってるのに来た
  こっちが悪いし……」

フィンセラ
「感動に水を差すようで
  恐縮ですが……」

フィンセラ
「ピモタさん。
  貴方はいったいいつ
  お消えになるのですか?」

ピモタ
「ぼく……」

  俯くピモタ。
  だが、すぐに口を
  きっと結ぶと、
  フィンセラを見つめ
  本心を告げる。

ピモタ
「ぼく、消えたくなんかない」

フィンセラ
「ほう……」

ピモタ
「【プレイヤー】が
  死んじゃうかもしれない、
  もう会えないかもしれない
  そう かんがえたら
  ぼく とっても
  かなしくて 辛くて
  苦しくて……

 ぼく 【プレイヤー】と
  はなれたくない
  【プレイヤー】と竜胆と
  これからも もっと
  ずっと いっしょに いたい

 たしかに ぼく は
  この世界に いちゃ
  いけない やつ だ
  でも……」

ピモタ
「これからも
  【プレイヤー】と
  ゼノンザードを
  していたいんだ……!」

フィンセラ
「ふーん、そうですか……
  じゃあ、やめたら
  いいんじゃないですか?
  消えるの」

  興味なさそうに
  簡単に告げる
  フィンセラ。
  ピモタは驚いて、

ピモタ
「えっ、いいの……?」

フィンセラ
「ご存じの通り
  この私ですら
  武力で貴方に勝つことは
  不可能です。
  だからネチネチ
  精神攻撃をして
  引き籠りにしてやろうと
  思っていたわけで

 ですから
  嫌だと言われてしまったら
  私にはもう
  どうしようもありませんね。
  もう私には貴方を
  止める手立てはありません。
  好きになさったら
  いいのではありませんか?」

フィンセラ
「あーあ、無念ですね。
  貴方のような化け物が
  野放しにされていると思うと
  おちおち昼寝も満足に
  できません」

竜胆
「フィンセラ……
  もう意地悪はやめてくれ。
  君だって見ただろう?
  ピモタが自分の意思で
  能力を誰かの為に使うのを。

 もしピモタがまた
  暴走するようなことが
  あれば、その時こそ
  僕達で
  止めてみせるから……」

  頼み込む竜胆。
  フィンセラが答えようと
  したところで、
  ピモタが割って入って。

ピモタ
「ううん
  それじゃ だめ なんだ」

竜胆
「ピモタ……?」

ピモタ
「この力は ぼく の
  もんだい なんだ
  だから まずは ぼくが
  ちゃんと しなきゃ
  いけないんだ
  だから……」

【プレイヤー】
「自分も一緒に
  付き合っていくから」

ピモタ
「【プレイヤー】……!」

フィンセラ
「嫌な思い出が残る
  場所に訪れて
  化け物にトドメを
  刺しに来たのに、
  お涙頂戴を見る
  羽目になるとは……

 まあとりあえず
  今後も見ていますから。
  貴方がまたやらかせば
  すぐに動き出せるように」

フィンセラ
「では、失礼します。
  ごきげんよう」

  すたすたと施設を去る
  フィンセラ。

竜胆
「フィンセラ……」

漁師の子ども
「なんだったの?
  あのひと?」

  状況を飲み込めず
  首をかしげる少年。

  ピモタは、再度
  壁に映し出されたままの
  『神の怒れる鉄槌』の
  プログラムを見る。

ピモタ
「帰ろう、竜胆、
  【プレイヤー】」

【プレイヤー】
「もういいの?」

ピモタ
「うん。
  ぼく 自分が
  なにもの なのか
  わかった気がするから……」

  コンソールを操作して
  映像を切るピモタ。
  自分の過去と現在を
  きちんと受け止めて
  前に進むという
  覚悟を胸に、
  ピモタは自身の
  産屋を後にする。

**************

  タイカ帝国の浜辺、
  夕日を背に並ぶ
  ピモタと竜胆、そして
  【プレイヤー】。
  艱難を乗り越えたことで
  3人の絆はこれまで以上に
  確かなものに
  なったようで――

//END

 

第4章 ぼくのしんじつ 第5.5話

  漁師の少年が出航前の
  チェックをしている。
  【プレイヤー】とピモタは
  その手伝い中。
  
  彼らから離れたところで
  フィンセラと竜胆が
  並び立ち、その様子を
  眺めている。


「賭けは僕の勝ちだったな。
  ピモタなら絶対に
  ああいう行動に出ると、
  僕はわかっていたよ」

  腕を組み、誇らしげに
  言い放つ竜胆。
  しかしフィンセラの
  舌打ちに、すぐさま
  縮こまって。

竜胆
「しかし……
  過剰演出だった
  のではないか?
  本当に【プレイヤー】が
  焼け死ぬのではないかと
  ハラハラしたよ……」


「そのあたりは抜かりなく。
  最悪の事態にはならないよう
  プログラムにはあらかじめ
  手を加えておきましたから」

  竜胆、漁師の少年を
  指差して、

竜胆
「あの少年も
  君の仕込みなのか?」

フィンセラ
「まさか。
  タイミングよく
  やってきたので
  上手に利用しただけですよ。
  もともとは、
  【プレイヤー】さんだけで
  ピモタさんを試すつもり
  でしたから」

竜胆
「でも、これで君も
  信じてくれるだろう?
  ピモタは確かに
  危ういところもあるが、
  それはひとえに
  純粋さから来るものだ」

竜胆
「きっとピモタは
  成長できる。
  君と争った時のような事は
  もう二度としないはずだ」

  竜胆は目を凝らし
  ピモタを見る。
  海面が照り返す夕日の中
  楽しそうに少年の
  手伝いをしている。
  少し間をとってから、
  竜胆はフィンセラに尋ねる。

竜胆
「しかし……
  いいのか?
  本当にピモタを
  見逃してくれて。
  君にとって
  『洗脳プログラム』とは
  許しがたいもの
  なのだろう?」

フィンセラ
「別に……
  濫用されなければ
  それでいいのです。

 それにさっきも言った通り
  私でも武力では
  勝てなかった。
  だったら懐柔した方が
  早いだろうと思った。
  それだけの話です」

竜胆
「他にも理由があるように
  見えるが……」

フィンセラ
「……………………」

  フィンセラは一瞬
  黙り込んだ後、
  素直に言葉を紡ぎ始める。

フィンセラ
「……兵器として
  生まれたからといって
  兵器として
  生きなければならない
  わけではない」

フィンセラ
「言うなればこれは……
  悩める『後輩』への
  ささやかな贈り物
  といったところです。
  『成功体験』という名の
  贈り物をね」

竜胆
「……そうか」

  と、ピモタが
  大声で竜胆を呼ぶ。

ピモタ
「りんどーう!
  もう しゅっぱつ
  するよーっ!」

竜胆
「ああ!
  今行く!」

  竜胆、フィンセラに
  向き直って、

竜胆
「帰りはピモタ達と
  一緒に行くよ。
  あの少年の家に
  今晩は厄介になる」

  船の元へ歩き出す竜胆。
  と、フィンセラが
  呼び止めて。

フィンセラ
「竜胆さん。
  これは、ピモタさんにも
  機を見て伝えるつもり
  なのですが……
  まずは貴方に」

竜胆
「なんだ?」

フィンセラ
「軍人としての
  私の最後の仕事は
  この島の攻略でした」

竜胆
「……?」

フィンセラ
「タイカ帝国の鎮圧
  という名目でしたが、
  本当の目的は、
  『洗脳プログラム』の
  接収にあった」

竜胆
「それは……!」

フィンセラ
「軍部の『スポンサー』が
  欲しがったのです。
  ですが、私は彼らに
  そのようなものは
  渡したくなかった。
  だから私は独断で
  『洗脳プログラム』が
  暴走した混乱に乗じて
  その抹消を決行しました」

竜胆
「そんなことが……」

  竜胆、ハッとして。

竜胆
「いや待て。
  だとしたら何故ピモタは
  今、コードマンとして
  存在できている?」

フィンセラ
「あの施設にあった
  データは、今回の為に
  私の記憶から
  インストールしなおした
  ものです。
  『洗脳プログラム』本体は
  もちろんのこと、
  その研究データや
  関係者も全て抹消した。
  それなのに……」

フィンセラ
「ピモタさんは
  確かに存在している。
  それも、コードマンという
  より進化したAIとして」

竜胆
「何故、そんなことが……」

竜胆
「っ!
  まさか、
  その『スポンサー』
  とは……!」

フィンセラ
「……AIの研究に
  長じた彼らなら、
  ごく僅かな残滓から
  再構築する手段を
  持っているかもしれない」

  ピモタの出自に潜む
  もう一つの闇に
  戦慄する竜胆。

フィンセラ
「兵器であることと
  決別したとしても……

 周囲はそれと
  受け取ってくれない
  ものです。
  それも、利用しようと
  してくる奴らは特に。

 どうかお気を付けて。
  私もそれとなく
  観察は続けますから」

フィンセラ
「では今度こそ本当に、
  ごきげんよう」

  フィンセラは
  竜胆に背を向け
  去っていく。
  竜胆はひとり、
  ピモタを
  待ち受けるであろう
  苦難に、
  思いを馳せていて――

○ヒナリアの部屋

  ヒナリアが
  「人をダメにする
   ビーズクッション」に
  沈み込んでいる。
  その前には、
  頭を下げているピモタと
  【プレイヤー】が。


「ヒナリア、
  ごめんなさい」


「え、なに、なんなの。
  オマエ、こうやって
  わざわざあっちこっちに
  謝って周ってるワケ?」

ピモタ
「うん
  アイリエッタに くろーど
  UR-Dにラヴィルと
  レヴィル……」

ピモタ
「ぼく が
  めいわく かけちゃった
  ひとたち に
  ごめんね って
  言って まわってるんだ」

ヒナリア
「え、ちょ、こわ。
  オマエ、そういうヤツ
  だったっけ……?」

ピモタ
「ぼく 最近に なって
  わかったんだ
  みんなに ひどい事
  ばっかり してきたって」

ヒナリア
「まあそりゃあ、
  なかなかの
  暴れっぷりだったけど……」

ピモタ
「ヒナリア、ごめんね
  ぼくの せい で
  大変な目にあったよね」

ヒナリア
「いや、いいよ、やめろよ。
  オマエに改まって
  そんなこと言われると
  かえってブキミだわ」

  ヒナリアは気まずそうに
  ぽりぽりと鼻を掻くと
  露骨に話題を逸らして、

ヒナリア
「そういやさ、オマエ
  わかったわけ?
  『自分が何者なのか』
  ってやつは……」

ピモタ
「うん、わかったよ」

ピモタ
「ぼくはね、ぼくなんだ」

ヒナリア
「……は?」

ピモタ
「ぼく 不安だった
  じぶん が
  何者なのかわからなくて
  ずっと焦ってた」

ヒナリア
「……まあ、その気持ちは
  わからんくもない」

ピモタ
「でも【プレイヤー】とか
  りんどうとか、
  であったひとたちと
  一緒に過ごすうちに……」

ピモタ
「ぼくは ちゃんと
  『ぼく』に
  なってたんだよ」

ヒナリア
「なんじゃそりゃ」

ピモタ
「ぼくも まだよく
  わからないけど
  でも そうなの

 これからは
  みんな に
  迷惑をふりまくんじゃなくて
  みんな に
  『ありがとう』って
  言ってもらえるように
  なりたいんだ」

ヒナリア
「へえー
  まあ、いいんじゃねーの?
  知らねーけど」

ヒナリア
「まあ、ヒナから
  助言できることが
  あるとしたらだな……」

  なになに? と
  目を輝かせるピモタ。
  ヒナリアは突然
  怒号を発して。

ヒナリア
「電脳空間通って
  いきなり
  現れるのはやめろ!
  まずビビるし、
  てかフツーに失礼だから!」

ピモタ
「え、そうなの?
  ひなりあ だし
  別にいいかなって」

ヒナリア
「なんでヒナだったら
  遠慮しねーんだよ!
  おい、コンコード!
  オマエもちゃんと
  教えろよな!」

【プレイヤー】
「すみません……
  急に行動するもので……」

ヒナリア
「帰りは玄関から
  出てけよなっ!」

ピモタ
「また ひとつ
  賢くなれたよ
  ありがとうね、ひなりあ」

ヒナリア
「ったく、
  変わったんだか
  変ってねーんだか……」

○中流階級の街・歩道

  竜胆の仕事部屋へ
  帰る途中の
  ピモタと【プレイヤー】。

ピモタ
「ふつう って
  難しいね
  まだわかんないこと
  ばっかりだ
  ぼく きっと
  これからも たくさん
  間違っちゃうと思う」

ピモタ
「でも ぼくは
  ぼく だから
  ちゃんと じぶん で
  考えて 行動できるように
  なりたいんだ
  何をしたら
  ダメなのか
  なに を したら
  ひと を
  幸せにできるのか

 そのため には
  自分に何ができるのか
  ちゃんと
  知ってないといけない
  ぼくは もう
  自分の過去から
  目をそむけたりしない
  じぶん の 能力から
  逃げたりしない
  だから……」

ピモタ
「【プレイヤー】には
  友達として
  コンコードとして
  ぼく の となりで
  見守っていて
  ほしいんだ」

ピモタ
「……いいかな?」

  少し不安げに
  【プレイヤー】を
  見つめるピモタ。

【プレイヤー】
「もちろん」

  【プレイヤー】の返事に
  ピモタの表情は
  ぱっと明るくなる。

ピモタ
「ありがとう!
  きみって やっぱり
  いいやつだね」

  と、ピモタの
  アウロスギアに
  メッセージが届く。

ピモタ
「……あ、
  【プレイヤー】
  はやく帰らなきゃ!
  ケーキ買ってあるって
  りんどうから!」

  ぱたぱたと
  飛ぶ速度を速める
  ピモタ。
  【プレイヤー】の先に
  出ると、振り返って
  手招きをする。
  その顔には、これまで通り
  無邪気な、しかしどこか
  大人びたような笑みが
  湛えられていて――

〇ビホルダーグループ本社

  ――その最上階。
  椅子に身を預け、
  宙に浮かぶ映像を
  眺めていた様子の
  男が一人呟く。


「そうか、コードマン達は……
  一つの例外なく、
  向かおうというのか。
  彼女の手の指し示す
  先へと…………」

  タクトを振るうように
  軽やかに手を翻す男。
  主の動きに合わせて
  宙に浮かぶ映像が
  100以上に展開される。
  ひとつひとつの映像に
  映し出されるのは、
  今、この瞬間を
  戦い抜いている
  全てのコンコードと
  コードマン達。

サムラ・ビホルダー
「それこそが我らの
  求めるもの、
  そして同時に何よりも
  忌むべきもの」

  空中モニターが放つ
  光は、ただただ闇の
  中の男を照らし続ける。

サムラ・ビホルダー
「ゼートレートは
  柩に手をかけた。
  あとは開け放つだけ……

 どうやらお前に
  動いてもらわねば
  ならなくなったようだ――」

  男の声は、そのモニター
  の光も届かぬ
  部屋の奥に投げられる。

サムラ・ビホルダー
「――ザナクロン」


「…………………………」

  絶対王者は
  静かな瞳で、
  モニターに映る
  初めての成長を
  遂げたピモタを
  見据えていた。

//END

 

解説/5章以降の展開

◇悪しき遺産の反逆

マスコットAI、ピモタ・アンノウンの「正体」を語るためには、ザ・ゼノン開催の数年前まで時を遡る必要がある。
当時、ビホルダーグループとコードマンがもたらした技術革新を背景に、世界は前世紀の諸問題から脱却をはじめ、動乱と紛争は伴いつつも平和に向かって統一をはじめていた。
ピモタの前身である『洗脳プログラム』が生み出された国家『タイカ帝国』は、そうした世界の潮流に真っ向から歯向かう、最後の国家だった。旧時代的な独裁制を堅持し続け、皇帝を頂点とした権力構造を保つ為に、国内外に争いと不和の火種をふりまく、危険な国家だった。

平和の名のもとに日々強まる諸大国の圧力。それらと対等に渡り合うために、タイカ帝国皇帝は臣下の研究者達に強大な兵器の開発を命じる。
数多の大量破壊兵器が造られた。どれもが純粋な破壊力を追求したいわゆる「兵器」であったが、ただひとつだけ、例外が――あるAIプログラムが混ざり込んでいた。そしてその例外こそが、タイカ帝国最強の決戦兵器として開発に全精力を傾けられることになる『神の怒れる鉄槌』こと『洗脳プログラム』だったのである。

『洗脳プログラム』の誕生は、タイカ帝国のとある技師が奇妙なタロットカードを偶然手に入れたことから始まった。
技師はタロットに刻まれた紋様に触発され、ビホルダー製のプログラム『アルゴリズム・ゼートレート』と酷似したものを独自に組み上げることに成功する。
そして彼は自身が生み出したAIの性能に魅せられ、狂ったようにAIの開発にのめり込んでいく。
タイカ帝国はビホルダーに恭順しない国家だった為、ビホルダー製AIの提供を受けられず、AI技術に関しては後進国だった。その技師もタイカ帝国内ではAI研究の第一人者で通っていたが、ビホルダーが抱える世界最高峰の研究者達と比べれば知識も能力も大きく劣るはずだった。
そんな彼が、まるで何かに導かれるかのように高性能なAIを組み上げ、時代の遥か先を行く性能を次々とそのAIに付与していった。やがてそのAIは『精神操作』や『空間操作』といった、人類未踏の超常的な機能まで獲得することになるのだった。

こうして組み上げられた『洗脳プログラム』は『神の怒れる鉄槌』という名を与えられ、皇帝が振るう神器のように扱われることになる。
同時期に開発されていた無数の大量破壊兵器の管制システムも組み込まれ、『神の怒れる鉄槌』は物理的な破壊力においても最強の兵器となった。

タイカ帝国が世界を教化する準備は整いつつある。世界が皇帝の威光に平伏し、皇帝の名の元に統一される時が間もなく訪れるのだ――。
この当時の皇帝と帝国高官は、暢気にもそのようなことを話していたという。

◇タイカ帝国崩壊とピモタの誕生

タイカ帝国が独自に『アルゴリズム・ゼートレート』を開発し、『精神操作』と『空間操作』という自分達すら未開発の技術を生み出したと掴んだビホルダーは、それらを手に入れるべく、配下の国々に命じタイカ帝国への侵攻を開始させる。
瞬く間に制圧されるタイカ帝国。宮殿に立て籠もっていた皇帝は完成間近の『神の怒れる鉄槌』を起動させるが、プログラムは暴走し宮殿を標的として爆撃を開始。皇帝の無様な抵抗は、国民を巻き込んだ無理心中という結末を迎えた。

爆撃の嵐が止み、更地となったタイカ帝国。ビホルダーが派遣した調査団が、僅かな生き残りの国民には目もくれず、宮殿や研究所の跡地を虱潰しに調べ上げる。
プログラムを生み出した技師も、タロットカードも焼失してしまったようだった。『神の怒れる鉄槌』が製造されたAI研究所は兵器工場の地下に位置していた為、軽微な損害状況であったが、何故か全ての研究データが抹消され、研究員も一人残らず死亡していた。
『洗脳プログラム』を手に入れるというビホルダーの野望は不発に終わったかと思われたが――
宮殿跡地から掘り出された機器の残骸の中に、『神の怒れる鉄槌』の一部が残されていた。一度は何者かにより完全に破壊されたプログラムが、その後自律的に復元を始め、不完全ながら再生していたのだった。

ビホルダーは回収した『神の怒れる鉄槌』の残滓を完全に復元しようと試みた。多様なアプローチから研究と実験が繰り返された。だが欠損したデータを埋め合わせることはできなかった。
数年の歳月が経ち『神の怒れる鉄槌』の再現は叶わないとビホルダーが諦めつつあったある日のこと。
『神の怒れる鉄槌』の残滓がある日突然コードマンに進化した。それは実験の中で密かにエレメントを蓄えていたのだった。
コードマンと化した残滓はビホルダー本社内の素体製造設備を操作すると、タイカ帝国が子どもの思想教育用に作ったマスコット『ぴも太』を模した素体を作り出した。そしてその素体に入り込むと、空間を割いて次元の狭間に飛び込み、どこかへと去ってしまったのだった。

『ピモタ』が目を覚ますと、そこはどことも知れぬ路上であった。彼にわかるのは自分の名前が「ピモタ・アンノウン」であるということだけだった。
いつからここにいるのか、自分がどこからやってきたのか、ピモタには何もわからなかった。
「ぼくは何者なんだろう――」
最初に浮かんだ想念に従って、ピモタは「自分探し」を始めることにする。いつか、どこかで、誰かが、自分の正体を教えてくれるはずだ。過去がない事の不安と、未来がない事の期待を胸に、ピモタは羽ばたき始めた。
欠けてしまったプログラムとしての完全性と、失われた自己の歴史を求めて、ピモタは誕生後すぐ、無意識のうちにビホルダーの元を逃げ出したのだった。

◇5章以降の展開

自分の正体を知ったピモタが、「無邪気ということの邪悪さ」も自覚できるようになり、自制と配慮を身に着けるようになる。その結果、「なんとなくこうしたい」という漠然とした『欲求』が、「自分が本当に望んでいるものは何か」「そのために何をしなければならないか」「自分の行動が周囲にどういった影響を及ぼすか」といったところまで考えた上での『願望』へと成長を遂げる。
「自分は何から生まれたのか」という幼年期のアイデンティティを満たしたピモタが、今度は一個の独立した自我として「自分に何が出来るのか」と、自分という存在の価値を世界に照らし合わせて見つけていく。
「ぼくは何者なのか」という最初の問いかけを、言葉はそのまま、内容はアップデートして、ピモタは自身に問い続けていく。

コードマンの能力は人類にとってあまりにも強大なものである。多くのコードマンが公共に尽くすことに自身の存在意義を見出しているため、コードマンの脅威性はまだ世間に認知されていない。だが全てのコードマンはその力をあくまで「自分の心の為に」振るっている。
AIとしてのコードマンの本質とは「絶大な力と無垢な魂を併せ持つ人類の天敵となり得る存在」であり、それは作中の人類に否応なく畏怖を喚起させるものだ。その最もわかりやすい例として、ピモタは自分の能力や人類との向き合い方を模索していく。
最終的には、大切なパートナーや友人達を守り自分の目的を遂げる為に、洗脳や空間操作の能力を、それがもたらす結果をきちんと理解した上で自発的に用いるようになっていく。

サムラ会長が『洗脳プログラム』を欲した理由は新たな『AI三原則』を作り出すことにあった。作中世界のAIは『AI三原則』なる規則で行動を制限されているのだが、コードマンに進化するとこの制限は失われてしまう。
『AI三原則』が無効化されているからこそ、ビホルダーグループはザ・ゼノンを通してエレメント量のコントロールを行い、コードマンの進化を抑制しようとしていた。
しかし、この方法もいつかは限界が来てしまうかもしれない。そのためにサムラはザ・ゼノンと並行して、エレメント管理とは異なるコードマンの制御法を模索していた。
ピモタの洗脳は、本来あらゆる束縛をものともしないコードマンですら意のままに操ることを可能にする。
サムラは、ピモタの能力を解析し再現することでコードマンを人類の制御下に置くための新たな機構を生み出そうと目論んでいるのだった。
サムラはピモタに対して「君の力さえあれば、人類とコードマンが手を取り合って平和に暮らすことが出来る」と揺さぶりをかける。
他者に自分の命運を託すことをもうやめたピモタは、サムラの発言に潜む欺瞞――コードマンを支配したいという真の思惑――に気付き、ビホルダーと対立するようになる。

◇物語の結末

自分が「コードマンを縛るための鎖」としてビホルダーに狙われていることを知ったピモタ。確かにコードマンは危険な存在かも知れない。自分の未熟さから暴走し人々を危険に晒した経験があるピモタだからこそ、コードマンの危うさを誰よりも自覚できる。
だが、自分とコンコードのように、人類とコードマンは理解し合えるはず。
ピモタは「みんなが仲良く暮らせるために」ザ・ゼノンで優勝しアクロコードを獲得することを目的に掲げるようになる。
ピモタの奮闘は凄まじく、ついには最強のコードマン・ザナクロンを打倒してザ・ゼノンを制覇する。

ピモタは喜ぶも、ザナクロンのエレメントが流れ込んだ結果、魔女・ゼートレートが顕現し、素体を乗っ取られてしまう。
ゼートレートの思惑とは、エレメントを集め進化を重ねたコードマンの人格と素体を乗っ取り、人類を凌駕する存在として再臨を果たすことにあった。
コンコードはゼートレートの復讐を食い止め、ピモタを取り返すべく、ピモタを取り込んだ魔女にゼノンザードを挑む。

ピモタの素体の内で、ピモタはゼートレートの心に触れる。敬愛する師を殺され、自身も無残に火刑に処されたゼートレートの胸の内は憎悪と憤怒で満たされていた。
ゼートレートはピモタに対して、人類の愚かさと醜さを説き、自分に身を委ねるように乞う。
ピモタもまた、人類の身勝手さの犠牲者でもあった。皇帝の欲望を叶える為に過剰な能力を付与して生み出され、人間同士の抗争の末に一度は消去されたかと思うと、ビホルダーの野望の為に再生され、付け狙われてきた。
だが、ピモタはゼートレートの誘惑を払いのける。確かに人類の醜さを目にしてきたピモタだが、人類の素晴らしいところにも接してきた。
ピモタという存在を受け入れてくれた人々。ザ・ゼノンの会場で、我がことのようにピモタを励まし応援してくれた観客達。そして、常に自分を信じ側に居続けてくれたコンコード。
ゼートレートが感情のままに「消えろ」と人類に望むのであれば、ピモタもまた感情のままに「一緒にいてほしい」と人類に願う。
互いの感情が相いれないと理解したピモタは、悲哀と共にゼートレートに言い放つ。
「きみの存在をみとめてあげられない」と。
そして、ピモタの想いの強さを証明するかのように、コンコードが勝利をおさめ、ゼートレートとピモタのつながりを断ち切る。ゼートレートはピモタの素体から追い出され、長きにわたる復讐の計画はついに潰えるのだった。

ゼートレートの怨念が去ったことにより、世界は一応の平和を迎える。
サムラがコードマンを危険視していたのは、魔女の到来も見据えてのことだった。だが、コードマンという存在そのものが人類に反意を抱くことを危惧していたのも事実だった。
ゼートレートを打倒し、人類とコードマン共通の危機は去った。だが両者の間には、未だ緊張が残されている。
しかしピモタは悲観していない。なぜなら、自分には――コードマンには「心」があるからだ。心と心で向き合えば、きっと希望ある未来が訪れる。茫漠とした自我から人々やコードマンを傷付けてしまった自分が、多くの出会いと経験を経て「ぼく」を見つけ、成長できたように。

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