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理不尽外出中

公開済みストーリー・相関図

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1章 理不尽在宅中

2章 旧知反復中

3章 真理散逸中

4章 理不尽外出中 第1話~第2話

相関図

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第4章 理不尽外出中 第3話

  うらぶれた廃工場の中。
  錆びついた工作機械の
  間を縫って、
  フィンセラが歩いてくる。


「こんな粗末なところに
  潜伏しているとは……」

  廃材に腰かけ
  銃器の整備をしていた
  老人――ロベルトが
  振り向く。


「ロラセフか……」

フィンセラ
「どこでかくれんぼを
  しているのか、
  私に教えてくれても
  いいでしょうに」

ロベルト
「奴らに突き止められぬよう
  頻繁に居所替えを
  していたからな

お前だって
  逐一知らせに来られても
  面倒だろう?」

  フィンセラ、
  肩をすくめて、

フィンセラ
「……それで?
  お話とは?」

ロベルト
「……依頼通り、
  ピモタ・アンノウンを
  始末してくれたようだな。
  感謝する」

フィンセラ
「……なかなかに
  骨が折れましたよ」

ロベルト
「偽装工作も完璧だな」

フィンセラ
「事を起こすまでは……
  ピモタさんの不在を
  ビホルダーグループに
  気取られない方が
  いいでしょう?」

  ロベルト、ニヤリとして、

ロベルト
「……ご苦労だった」

ロベルト
「……いよいよ明日、
  決行に移す。
  最大の不安事項が
  排除された、
  今こそが好機……!」

  整備していた銃器を
  強く握りしめるロベルト。
  それを見たフィンセラは
  ぽつりと漏らすように、

フィンセラ
「……最後にひとつ
  確認なのですが……」

ロベルト
「……どうした?」

  フィンセラ、
  ロベルトを見据えて、

フィンセラ
「矛を収めようという気は、
  ないのですか?」

  思いもしない発言に
  ロベルトは激昂して、

ロベルト
「ロラセフ……!
  何を言っているのだ!?
  ビホルダーからこの国を
  取り戻すことは、
  儂らの悲願……

 いかなる犠牲を払おうとも、
  今、我々が
  立ち上がらなければ
  ならないのだ……!」

フィンセラ
「……そうですか、
  よくわかりました」

ロベルト
「……お前も
  協力してくれるな?」

  脅すように
  確認をするロベルト。
  フィンセラは
  しばし思案の後、

フィンセラ
「ええ……
  私も馳せ参じましょう」

ロベルト
「そうか……!
  お前さえいれば、
  勝利は我々の手中も
  同然……」

  満足げに頷くロベルト。

フィンセラ
「場所は?
  ここですか?」

ロベルト
「ああ。
  ここより兵を発し、
  ビホルダーの傀儡と化した
  政府の要人どもを
  始末する……!」

フィンセラ
「……了解しました」

  フィンセラはそう言うと、
  ロベルトに背を向け
  出口へ向かう。

ロベルト
「……待っているぞ
  『戦場のマリア』よ」

  去り行くフィンセラの背に
  投げかけるロベルト。
  フィンセラは答えることなく
  廃工場を出ていく。

○ビホルダーグループ本社 マックスの部屋

  デスクに腰かけている
  マックス。
  クレイがその向かいに立ち
  報告をしている。


「……間違いないな?」


「ええ。
  市民からの通報通り……
  セントラルエリアの
  廃工場に
  軍部の搾りカスどもが
  集まってたわ」

マックス
「今の今まで
  我々の監視網を
  潜り抜けてきた
  奴らが……」

クレイ
「ここにきて
  尻尾を出すなんてね」

マックス
「フン……
  相当数の人員が
  集まっているのだろう?
  決行は間近と見える」

  クレイ、呆れたように、

クレイ
「計画に目途が立って
  気がゆるんじゃったってこと?
  なーんかマヌケね……」

マックス
「よし……
  不毛な探り合いは
  もう終わりだ、

 配備済みの
  『ディノポネラ』
  全部隊を起動、
  奴らの拠点に
  総攻撃をかける……!」

  マックスの判断に
  クレイは驚いて、

クレイ
「えっ、全部隊……?」

クレイ
「いくら元軍人の集まりでも、
  たかだか数百人でしょ?
  相応の規模の部隊で
  奇襲をかければ
  済むんじゃないの?」

マックス
「お前の意見は
  求めていない」

  クレイの言葉を遮るように
  厳しく言い渡すマックス。

マックス
「社の重要機密を
  勝手に持ち出した挙句……
  例のコードマンを
  不用意にも刺激した、
  大バカ者の意見などな」

  マックス、怒りを滲ませて、

マックス
「お前の軽率な行動が
  どれほどのリスクを
  呼び込むか、
  本当に理解したのか?」

  静かだが、
  確かに鋭い怒気を
  クレイに放つマックス。
  叱られたクレイは――
  デレデレと
  相好を崩していて。
  「マックスが私のことを
   怒ってくれている」
  その事実がたまらなく
  嬉しいらしい。

マックス
「おい、何をニヤついている」

  呆れつつ注意するマックス。
  クレイは慌てて頬を締める。

クレイ
「あっ、いえ、
  なんでもないわ。
  ごめんなさい」

マックス
「……とにかく、
  お前がケンカをふっかけた
  こともあり……
  我々の襲撃を察知して、
  例のコードマンが
  奴らの救援に
  現れるかもしれん

 お前が言うように
  『最低限の戦力で奇襲』など
  しようものなら……
  逆襲され、こちらが
  大打撃を被る可能性も
  十分にある」

マックス
「よって、
  いかなるイレギュラーも
  粉砕できるよう、
  最大戦力で
  奴らを叩き潰す……!

 いかにあのコードマンが
  戦闘に長じていようとも、
  数万の『ディノポネラ』の前には
  太刀打ちできまい……!」

  マックス、
  不敵な笑みを浮かべて。

マックス
「さて……
  どう動く?
  フィンセラ・ロラセフ……」

//END

 

第4章 理不尽外出中 第4話

○ロベルトの拠点

兵士
「敵襲ーーーーーッ!!」

  凄まじい爆音と衝撃。
  廃工場の壁面が崩落し、
  そこからビホルダーが
  指揮する自律機動兵器
  『ディノポネラ』が
  次々と侵入してくる。
  ディノポネラ達は
  冷酷なまでの正確さで、
  兵士達を攻撃していく。
  不意を突かれ、
  迎撃もおぼつかない
  ロベルト配下の反乱軍。

  廃工場の奥。
  ロベルトが指揮所として
  活用している部屋。
  ロベルトが副官から
  報告を受けている。


「くっ……
  なぜこの場所が……!」

副官
「閣下!
  ご指示を!」

ロベルト
「武器をとれ……!
  徹底抗戦だ……!」

副官
「しかし、敵AI兵器の
  性能は尋常では
  ありません……
  こちらの戦力で
  対抗できるか……!」

ロベルト
「なんとか
  持ちこたえるのだ……!
  『マリア』さえ来れば、
  この状況も覆る……!」

  出立の直前という
  最も苦しいタイミングを
  突かれ、
  状況は芳しくない。
  歯をきつく食いしばる
  ロベルト。

○ビホルダーグループ本社
  自律兵器群指令所

  膨大な数のモニターが
  立ち並ぶ指令所。
  少数のオペレーターで
  ディノポネラへの
  指示を行っている。
  と、そこにマックスが
  やってきて。


「状況は?」

オペレーター
「現在、テロリストの
  機甲部隊による抵抗にあい、
  掃討作戦は難航中です」

マックス
「何の部隊だって?」

オペレーター
「自律戦車の部隊です」

マックス
「なんてもん
  隠し持ってるんだ、
  まったく……」

  やれやれ、と
  首をさするマックス。

オペレーター
「『ディノポネラ』より
  基礎性能は格段に
  劣る旧型機ですが……
  よく学習がなされている
  ようです。
  一機あたりの戦力は
  拮抗しています」

マックス
「戦力を戦車部隊に傾けろ。
  数の力でとっとと
  畳んでしまえ」

オペレーター
「了解」

マックス
「さて、
  このまま何事もなく
  皆殺しに
  できればいいが……」

  面倒そうに呟くと、
  モニターに目をやる
  マックス。
  モニターに表示されている
  マップ上には、
  ディノポネラを意味する
  おびただしい数の赤い点が
  廃工場を取り囲んでおり――

  ――のリビング。
  開け放たれた窓から
  うららかな陽と
  柔らかい風が
  舞い込んでくる。
  三角巾をしめた
  【プレイヤー】が
  窓の桟をせっせと
  拭いているようである。
  フィンセラはソファに
  だらりと座り、
  テレビを見ている。
  他愛もない内容の
  番組だったが、
  緊急速報が入り、
  ニュースへと切り替わる。

テレビの音
『警報が発令されました。
  セントラルエリアにて
  テロリストの掃討作戦が
  実行中です』

テレビの音
『現在、ビホルダー社の
  自律機動兵器が
  テロリストと戦闘中との
  ことです』

テレビの音
『市民の皆様は
  落ち着いて行動して
  ください……』

  掃除の手を止め
  フィンセラを見る
  【プレイヤー】。
  と、フィンセラの
  アウロスギアに着信が。
  かけてきたのは
  クロードで。


「フィンセラ!
  今どこにいる?」

  慌ただしい様子の
  クロード。
  しかしフィンセラは
  普段通りの鷹揚さで、


「あら、クロードさん。
  どうなさったんです、
  そんなに息せき切って」

クロード
「今どこにいると
  聞いているんだ」

フィンセラ
「自宅ですよ」

クロード
「そうか……」

  フィンセラの返答に
  一心地着いたのか、
  クロードは連絡の意図を
  話し始める。

クロード
「現在発生している
  対テロ作戦……
  報道はされていないが、
  あれは元軍部の不穏分子を
  狙ったものだ」

クロード
「お前は、
  関与していないな?」

フィンセラ
「そうですね、今のところは」

クロード
「お前達はそのまま自宅に
  籠っているんだ。
  くれぐれも早まった真似は
  するなよ。いいな?」

フィンセラ
「勿論じっとしていますとも。
  巻き込まれては
  たまりませんからね」

クロード
「【プレイヤー】……
  フィンセラがおかしな行動に
  出ないよう、
  見張っておいてくれ
  頼んだぞ」

  念を押すように
  頼むクロード。
  心配げな様子のまま
  通信を切る。

  フィンセラは
  窮屈さから解放されたと
  言わんばかりに
  大きく息をついて、

フィンセラ
「まったく……
  お節介ポリスもいよいよ
  極まってきましたね……」

フィンセラ
「こっちが
  やってもいないことの
  心配なんかして……。
  お母さんじゃ
  ないんですから……」

  やれやれと首を振る
  フィンセラ。
  それから、静かに
  ソファから立ち上がると、
  【プレイヤー】の顔を
  正面から見据えて、

フィンセラ
「……さてご主人様、
  折り入ってお話が……」

【プレイヤー】
「行くんでしょ?」

  フィンセラの意を汲み、
  言葉尻を取る
  【プレイヤー】。
  フィンセラは
  言い当てられたことに
  驚いて、

フィンセラ
「………………!」

フィンセラ
「ふうん……
  ご主人様も、ようやく
  理想のご主人様に
  近づいてきた
  じゃないですか。

ええ。
  私はこれから、
  あの現場へ行くつもりです。
  ご主人様は……」

【プレイヤー】
「フィンセラと一緒に行く」

  どこか無邪気にそう
  答える【プレイヤー】。
  フィンセラは
  険しい顔をして、

フィンセラ
「……ご主人様。
  ご自分が何を仰っているのか
  わかっているのですか?
  ビホルダーグループの
  最新兵器と、
  戦争のプロがドンパチ
  やってるところに
  行くのですよ?

 私ならばいざ知らず、
  ご主人様が
  飛び込もうものなら……」

【プレイヤー】
「フィンセラの隣が、
  世界一安全」

  覚悟を試すような
  フィンセラの物言いに、
  そう言ってのける
  【プレイヤー】。
  フィンセラは主人の
  放埓ぶりに、
  開いた口が塞がらない
  といった様子。
  やがて、その表情に
  不敵な笑みが
  こみあげてきて、

フィンセラ
「……フッ
  言ってくれるじゃ
  ないですか」

フィンセラ
「ええ、ええ。
  最初からそのつもり
  でしたとも。

 私が留守の間に
  ご主人様を人質に取られたり
  したら面倒ですからね。
  決して、ご主人様に絆されて
  同行を許可するわけでは
  ありませんよ?
  いいですね?」

  【プレイヤー】を
  指差し睨むフィンセラ。
  それから咳払いをすると
  【プレイヤー】に
  正面から向き合う。

フィンセラ
「改めて、私から
  お願い申し上げます。

 私はこれから
  現場へ向かいます。
  ご主人様をおひとりには
  出来ないので、できれば
  ついてきていただきたい」

フィンセラ
「……私と一緒に
  来てくださいますか?」

【プレイヤー】
「行きます」

  当然のように
  答える【プレイヤー】。

フィンセラ
「ありがとうございます。
  では、参りましょう」

  きびきびと歩き出す
  フィンセラ。
  【プレイヤー】を
  伴って
  屋敷から出発する。

//END

 

第4章 理不尽外出中 第5話

○ロベルトの拠点

  クーデターは
  もはや失敗に終わり、
  市街戦の様相を
  呈し始めている。
  副官が散開した兵士達や
  自律戦車の通信を
  とりまとめ、
  戦況を確認中の様子。
  今のところ、
  五分五分の状況の
  ようだが――

副官
「敵AI兵器の増援を確認。
  機甲部隊に向かっている
  模様です……!」


「くっ……!
  ロラセフはまだか……!
  あいつさえ、
  あいつさえ間に合えば……!」

  撤退することも出来ず
  じわじわと
  追い詰められつつある
  ロベルト達。
  と、何者かが
  指揮所の扉を
  蹴破り侵入してくる。

???
「随分とお困りのようですね」

ロベルト
「…………!」

副官
「この声は……」

ロベルト
「ロラセフ……!
  来てくれたか……!」

  現れたのは
  フィンセラ。
  待ちわびた
  希望の到着に、
  警戒を緩める
  ロベルト達。


「……私だけでは
  ございませんよ」

  フィンセラの後から
  部屋に入ってくる
  【プレイヤー】。

ロベルト
「……【プレイヤー】!」

【プレイヤー】
「えっ、ファンの
  おじいさん!?」

  フィンセラの元上官が
  ファンを名乗る老人と
  同一人物であるとわかり、
  驚く【プレイヤー】。
  「聞いてないぞ」という
  【プレイヤー】の視線に
  フィンセラはケロリと
  言いのける。

フィンセラ
「あ、申し上げて
  おりませんでしたっけ?
  あのジジイ、
  実は昔の上官なんです」

ロベルト
「コンコードとはいえ、
  迂闊にも
  連れてくるとは……!」

  戦場に不釣り合いな
  人物の登場に
  戸惑いと怒りを
  露わにするロベルト。
  フィンセラは
  どこ吹く風で、

フィンセラ
「この人曰く、私の隣が
  世界一安全らしいですから。
  ま、概ね同意しますが」

フィンセラ
「……それから、もうひとり」

  フィンセラの呼び掛けに
  呼応して、
  空間を裂き
  もうひとりの
  同伴者が現れる。
  その姿にロベルトは
  驚愕して、

ロベルト
「なっ……!
  ……き、貴様は……!」


「……」

ロベルト
「ピモタ・アンノウン……!!」

ロベルト
「何故だ、ロラセフ……!
  何故そいつがそこにいる!?
  お前が排除したのでは
  なかったのか!?」

フィンセラ
「排除だなんてそんな。
  ピモタさんにしかできない
  お仕事を頼んでいたのです。
  ちょっと、遠くの方までね」

ロベルト
「まさかお前、
  そいつに洗脳をされて……!」

  最悪の可能性に
  身構えるロベルト。
  しかしピモタが
  強い調子で否定する。

ピモタ
「ちがうよ!」

ピモタ
「……って、ぼくが言っても
  せっとくりょく ないと
  思うけど……」

フィンセラ
「私を突き動かすのは、
  まさしく私の意志のみです。
  他の何者の指図も
  うけません。
  ピモタさんからも、
  ビホルダーからも、
  そして、貴方からも」

ロベルト
「お前は何を言っているんだ!?
  ええいっ、この際
  そのバケモノは
  どうでもいい!」

ロベルト
「ロラセフ!
  お前だけが頼りだ……っ!
  『軍事AIのコードマン』
  として、この状況を打開する
  策を授けてほしい……!」

  フィンセラの意図も
  発言も呑み込めず、
  動揺のまま
  命令するロベルト。
  フィンセラは
  努めて無感情に
  かつての上官を
  見つめて。

フィンセラ
「……まずひとつ」

フィンセラ
「いい加減
  覚えてほしいのですが
  今の私は、
ご主人様にお仕えする、
  メイドAIのコードマンです。

貴方の命令は聞けません」

ロベルト
「……は?
  い、今なんと……」

フィンセラ
「次に……」

フィンセラ
「この場所を
  ビホルダーにチクったの
  私なんです」

ロベルト
「……………ッ!?」

  フィンセラの発言に
  強い衝撃を受けるロベルト。
  数瞬の後、理解が
  言葉に追いつき、
  ロベルトは激しい怒りに
  その顔を怒張させる。

ロベルト
「ロ、ロラセフ貴様……ッ!!
  儂を裏切った
  というのかッ!!」

フィンセラ
「受け取り方は
  貴方の自由ですが……

 ……とにかく今日の私は、
  あくまでメイドとして、
  ご奉仕に上がったのです」

ロベルト
「は?」

フィンセラ
「ご馳走をお届けに、ね」

ロベルト
「何を――」

  ロベルトがフィンセラに
  詰め寄ろうとしたとき、
  激しい爆発が起こり、
  指揮所の壁が破壊される。
  壁の向こう、煙の中には
  揺らめく無数の紅い光点
  ――ディノポネラの眼光が。
  瓦礫を踏みしだく音と共に、
  砲金色の機体が
  次々と煙を割いて
  指揮所に侵入してくる。
  拳銃を抜き構える
  ロベルトと副官。
  フィンセラはというと、
  やたら優雅な動作で
  小さなスイッチを取り出して。

フィンセラ
「さて、それでは
  味わって
  いただきましょう……

 バカとバカのド突き合いに
  両成敗を下す、
  『太陽の恵み』をね」

フィンセラ
「ぽちっとな」

  手にしたスイッチを押す
  フィンセラ。
  その瞬間、強烈な光条が
  天より降り注ぎ、
  この場の兵器と人間を、
  世界ごと白に染め上げて
  いって――

○ビホルダーグループ本社
  自律兵器群指令所

  全てのモニターに
  砂嵐が映し出され、
  計器類からは
  悲鳴のようなノイズが
  上がっている。
  オペレーター達は
  復旧の為、必死に
  機器を操作している。
  何の前触れもなく
  一瞬のうちに訪れた混沌に
  マックスは動揺を
  隠せない様子で。


「何が起きた!?」

オペレーター
「原因不明の
  電波障害です!」

オペレーター
「……通信、回復します!」

  通信状況が回復し、
  モニターに映像が
  表示される。
  しかしそれは、
  いままでの
  ディノポネラの
  主観映像ではなく、
  衛星や監視カメラの
  映像をかき集めたもの。
  そしてそこに
  映し出されていたのは……

マックス
「…………!
  なんだ……!
  これは……っ!!」

  そこには、
  おびただしい数の
  残骸で埋め尽くされた、
  戦場となった市街が。

オペレーター
「『ディノポネラ』
  全機行動不能!
  すべて……」

オペレーター
「は、破壊されています!」

マックス
「……は!?」

  映像が何度も切り替わる。
  そこに映るのは、
  無残に撃ち砕かれた
  ディノポネラの機体だけで。

マックス
「す、すべてって……
  おい待て……
  すべてか……!?」

オペレーター
「現有する2万機余り、
  すべてです……!」

マックス
「な…………」

  信じられない状況に
  言葉を失うしかない
  マックスで。

○ロベルトの拠点

  部屋を満たしていた
  凄まじい光が消え去り、
  恐る恐る目を開く
  ロベルト達。

ロベルト
「今のは一体……
  何が……」

  傍らに転がる
  ディノポネラの残骸に
  気付き、驚愕する
  ロベルト。
  と、副官が声を上げる。

副官
「これは……!」

ロベルト
「どうした!?」

副官
「我が軍の武装や
  自律戦車が……
  一つ残らず
  破壊されています……!」

ロベルト
「何だと……!?」

ロベルト
「ロラセフ……!!
  貴様、何をした!?」

  ディノポネラのみならず
  自軍の兵器も
  破壊されている状況に、
  フィンセラを詰問する
  ロベルト。
  フィンセラは淡々と
  種明かしを始める。

フィンセラ
「宇宙太陽光発電衛星
  『おてんとさん18号』

 ――を、ピモタさんに
  洗脳(ハッキング)
  してもらって、
  レーザー電送システムを
  アレコレ改造して作った……

 衛星レーザー砲です」

フィンセラ
「これを私が制御することで、
  半球上ならどこへでも
  強力かつ正確無比な
  光の雨を降らせることが
  できます」

ロベルト
「衛星砲の建造は
  不可能だと、前時代に
  立証されたはず……!」

フィンセラ
「私とピモタさんが
  コラボったら
  できてしまうのです」

ロベルト
「バカな………………」

  あまりにも荒唐無稽な、
  一個の意思が持つには
  破滅的すぎる暴力の前に、
  呆然自失となるロベルト。

フィンセラ
「さて、貴方がたは
  戦う手段を失った
  わけですが……
  それでもまだ、
  じたばたなさる
  おつもりですか?」

  希望と信じていた存在に
  牙をもがれてしまった。
  その事実に、
  ロベルトは怒り狂って、

ロベルト
「貴様は……ッ!
  とうの昔に、ビホルダーの
  犬になり果てていたと
  いうのだなッ!?

 儂からの信頼をいいことに、
  我々の情報を、奴らに
  横流ししていたのだなッ!!」

フィンセラ
「違います」

ロベルト
「ならば……ッ!
  ならば何故!!
  我らから戦う力を
  奪うようなことをッ!!」

フィンセラ
「……いいですか。
  機を見ていたのは、
  ビホルダーだけでも、
  貴方がただけでも
  ありませんよ。

 ……私はある『状況』を
  作りたかった。
  貴方がたの戦力が一カ所に
  集結し、
  それを潰すべく、ビホルダーが
  持てる軍事力のすべてを
  投入する……
  そしてそれらを一度に
  粉砕できる『状況』を」

ロベルト
「そんなことをして
  何になる……!?」

フィンセラ
「そうですね、
  貴方がクーデターを起こし
  それが成功したとします。
  そして、この国から
  ビホルダーグループを
  首尾よく追い出せたと
  しましょう」

フィンセラ
「すると、どうなります?」

  フィンセラの問いかけに
  言葉を失うロベルト。
  何故ならそれは、
  彼にとっても
  わかりきっていた
  未来だから。
  
フィンセラ
「世界が、この国に攻めてくる。
  ビホルダーグループの
  指揮の元に、この国以外の
  すべてが」

フィンセラ
「……ほら
  戦争戦争また戦争です。
  そうなっては、
  おちおち昼寝も
  出来やしない」

ロベルト
「……だが、例え
  この国が尽きぬ戦乱に
  飲まれようとも……!
  今、奴らの支配に風穴を
  開けねばならぬのだ……ッ!」

フィンセラ
「その過程で……
  貴方の部下や、
  貴方が守るべき無辜の民が
  何万人と死んだとしても?」

ロベルト
「為すべきことを
  為すためならば
  いかなる犠牲とて、
  それは無駄ではない……!」

  軍人として生きてきた彼が
  唯一取ることのできる、
  考えうる限り最良の方法。
  それは悲壮な、
  しかし同じだけ
  狂気に満ちた覚悟。
  フィンセラは
  そんなロベルトに
  厳然たる事実を
  突き付ける。

フィンセラ
「……こればっかりは、
  軍事を極めた
  コードマンとして
  申し上げましょう。
  一介の軍が
  全世界に根を張る
  ビホルダーグループに
  勝てる見込みはありません。
  ……ひとかけらも

 貴方の抵抗は、
  徒に死を振り撒くだけ。
  一切が無駄になるでしょう」

ロベルト
「だが、だが……!
  戦わなければ、
  この『国』が、『民』が……」

  フィンセラの演算は
  軍事の世界においては
  もはや預言のようなもの。
  だがロベルトは、
  誇りと責任の為に
  引くことは出来ない。
  自身にとって父とも言える
  人物の狂態に、
  フィンセラは悲し気に
  言葉を漏らす。

フィンセラ
「……言葉で貴方を
  止められるなら、
  私も楽が出来たのに……

 貴方が何を想おうと、
  今の貴方に抗う術は
  残されていません」

ロベルト
「………………」

フィンセラ
「……さあ、
  投降してください」

  フィンセラが
  ロベルトに
  歩み寄ろうとする。
  と、ロベルトは
  大きく後ずさり、
  拳銃をフィンセラに
  向ける。

ロベルト
「……近づくなッ!!」

ピモタ
「あっ、銃を……!」

副官
「閣下、いけません!」

ロベルト
「儂はな、ロラセフ……!
  お前を信じていたのだ!
  そのお前に裏切られ、
  持てる武力のすべてを
  破壊され……!

 お前が儂から
  戦う力を奪い!
  民が蹂躙されるのを
  黙って見ていろと
  言うのならッ!!」

ロベルト
「儂は今ここで、
  死を選ぼう……ッ!」

  銃口を自身の下顎に
  あてがうロベルト。

フィンセラ
「………………」

ロベルト
「さらばだ……ッ!」

  フィンセラを見据えたまま
  引金を引いて――
  しかしロベルトよりも
  速くフィンセラが動き、
  銃を持つ腕を
  取り押さえる。
  銃弾はロベルトの
  頭部から逸れ、
  天井を穿っただけだった。

ロベルト
「ぐっ……
  ロラセフ、貴様……!」

  フィンセラは
  拳銃を取り上げると、
  ロベルトを優しく
  突き放す。
  そして、手中に残った
  拳銃を見つめて、

フィンセラ
「私は……」

フィンセラ
「私は、戦いの中で誰かが
  死ぬのは……
  もうまっぴらなのです」

ロベルト
「…………!」

フィンセラ
「私の目の届く範囲で、
  自ら命を断とうなど、
  何人たりとも許しません」

フィンセラ
「……四の五の言わずに
  いいから生きろ
  この野郎」

  フィンセラの本音に、
  目を見開くロベルト。
  反攻の意思と共に
  身体を支える力も
  抜けたのか、その場に
  座り込む。

**************

  崩落した廃工場。
  屋根に空いた穴から
  夕日が差している。
  現場に到着したクロードが
  ロベルトの手に
  手錠をかけている。


「ロベルト元司令官。
  内乱予備の罪で、
  お前を逮捕する」

フィンセラ
「ガッツリしょっ引いて、
  キッチリ報いを受けさせて
  やってください」

クロード
「無論だ。
  この男は法を犯し
  反乱を企てた。
  よって法により
  裁かれなければならない。
  そして……」

クロード
「いかなる存在であれ、
  それを妨げることは
  あってはならない。
  不法な影響力は、全て
  排除することを約束しよう」

  クロードに背を押され
  歩き出すロベルト。
  フィンセラの横を
  通り過ぎたところで
  足を止めて、

ロベルト
「ロラセフ……」

フィンセラ
「……?」

ロベルト
「……お前は変わったのだな」

フィンセラ
「……私はただ、知ることが
  出来ただけなのです。
  戦う以外の手段がある
  ということを」

ロベルト
「そうか……
  だからお前は
  ザ・ゼノンに……」

フィンセラ
「……もしかしたら、
  貴方が望む世界を
  お見せできるかも
  しれませんよ

 私と……
  ご主人様なら」

ロベルト
「……ふん
  儂から希望を奪い取ったのだ。
  それくらいのことは
  してもらわないと困る」

フィンセラ
「最善は尽くします」

ロベルト
「……塀の中から
  見物させてもらうとしよう」

クロード
「……行くぞ」

  クロードに連れられ、
  廃工場を去るロベルト。
  フィンセラはその背を
  見送った後、
  【プレイヤー】と
  ピモタに向き直って、

フィンセラ
「さあ、ご主人様、
  ピモタさん。
  私達も戻りましょう」

フィンセラ
「私達の戦場は、
  ここではないのだから――」

  フィンセラは、
  未だ炎と煙が昇る
  廃工場を
  振り向くことなく
  後にする。

//END

 

第4章 理不尽外出中 第5.5話

  ――のリビング。
  竜胆の胸に
  ピモタが飛び込んで、


「りんどーーーーーっ!!」


「ピモタっ!
  無事だったか!?」

ピモタ
「うん、ぼくね、ぼくね、
  本当は、おうちに 
  かえりたかったんだけど……」


「私がピモタさんに
  お願いをして、
  協力して頂いたのです。
  お騒がせしてしまい、
  申し訳ありませんでした」

竜胆
「そうだったのか……」

  騒乱の裏で、
  ピモタの帰りを知らせるべく
  フィンセラが竜胆を
  呼び出していたのだった。

【プレイヤー】
「てっきりピモタのことを……」

  フィンセラがピモタを
  危険視していたことを
  思い返し、予想を口にする
  【プレイヤー】。

フィンセラ
「なんです?
  私が殺したとでも
  思っていたのですか?」

  フィンセラは
  再会を喜ぶ竜胆達に
  水を差さないよう、
  【プレイヤー】に
  近づき、小声で
  話し始める。

フィンセラ
「……確かに、
  洗脳プログラムは
  極めて危険なモノです。
  当初は殲滅すべきと
  考えました。
  ですが、今のピモタさんは
  コードマン……
自身の意思で
  能力をコントロールし、
  濫用、悪用を
  しないというのなら……

 何も殺してしまうことは
  ないでしょう」

  そっとピモタを
  見やるフィンセラ。
  その眼差しには、
  「かつての自分」を
  偲ぶような、
  穏やかさが宿っていて。

フィンセラ
「それに、ここだけの話……」

  フィンセラは
  【プレイヤー】の耳元に
  顔を寄せて、

フィンセラ
「本気のピモタさんと
  戦いになったら、
  私でも勝つことは
  できないでしょう

 ま、戦わずして勝った
  私の方が一枚上手だった
  ということでここはひとつ……」

  【プレイヤー】から
  一歩離れると、
  肩をすくめるフィンセラ。
  ピモタと竜胆の会話に
  しれっと立ち戻る。

ピモタ
「……それにしても りんどう
  ちょっと見ない
  あいだ に
  成長したんだね」

竜胆
「むっ?
  それはどういう意味だ?」

ピモタ
「だって、フィンセラと
  おはなししてても、
  ぜんぜん『意識』
  してないから……」

竜胆
「へ?」

フィンセラ
「なんですか竜胆さん。
  意識、とは?」

  カタカタと
  ぎこちなく
  振り返る竜胆。
  そこには、
  フィンセラの顔が。
  途端に紅潮する
  竜胆で。

竜胆
「あ、あわわわ、
  あわわわわわわ……!」

ピモタ
「……あれ? さっきまで
  ふつう だったのに」

竜胆
「あ、いや、
  意識なんてしてないっ!
  断じてしていないっ!」

竜胆
「真面目な話をしていたから
  気にならなかったとか、
  言われたら
  意識しちゃったとか
  そういうわけでは
  絶対になーーーーーいっ!!」

  早口で必死に否定する竜胆。
  ピモタはやれやれと
  首を振って、

ピモタ
「なんだ、
  なおってないじゃないか」

フィンセラ
「何なんですかコレ」

ピモタ
「りんどうはね、
  きれいなおねえさんがいると
  かお が真っ赤になったり
  変にあわてたりしちゃうんだ」

フィンセラ
「へえー
  クソ気持ち悪いですね」

竜胆
「ぐへぇっ!!」

  竜胆の奇声に、
  フィンセラは
  眉をしかめて、

フィンセラ
「……なんですか、今の声は」

竜胆
「あ、今のはその、
  驚いたと言いますか
  何と言いますか」

フィンセラ
「なんであれ、この家で
  他所の方が汚い声を
  上げるのは許しません。
  いいですね?」

竜胆
「申し訳ありませんッ!」

ピモタ
「……りんどう
  そろそろ帰ろ?」

竜胆
「あ、ああ、そうだな……
  このままだと、何かに
  目覚めてしまいそうだ……」

  竜胆とピモタが
  帰ってからしばらくして。
  テキパキと夕飯の
  支度をしている
  【プレイヤー】。
  そこにフィンセラが
  やってきて、
  リビングで座るよう促す。
  【プレイヤー】が
  座ったのを見ると、
  フィンセラがぽつぽつと
  語り始める。

フィンセラ
「……今回のことで、
  前職のことは一通り
  ケリがついたと思います。
  矢玉が飛び交う中を
  突っ切らせる、
  というようなことは
  もうないはずです」

  そう言ったすぐ後で、
  やはり断言できないと
  思ったのか、
  曖昧に誤魔化そうとして、

フィンセラ
「たぶん……
  おそらく……
  保証は致しかねますが……」

  咳払いをして、
  本題に戻るフィンセラ。

フィンセラ
「……前職の上司という
  贔屓目はあるかも
  しれませんが、
  あのジジイが
  言わんとしていたことは、
  そんなに
  間違っていないと思います。

 ビホルダーグループが
  好き放題やったり、
  テキトーにやったりする
  せいで、困らされている
  人は結構いると思うのです。
  
  しかし、武力だけで
  打倒できる
  存在ではない
  というのも事実」

フィンセラ
「オモチャの兵隊をぜんぶ
  ぶっ壊してやりましたが
  あれだって、この国に
  おける影響力を
  ほんのちょびっと
  削いだだけ」

フィンセラ
「だからこそ……」

【プレイヤー】
「アクロコード……」

  フィンセラが戦う理由を
  思い返す【プレイヤー】。
  フィンセラは頷いて、

フィンセラ
「ええ。
  それさえあれば、
  私が思う『世界平和』が
  実現できるかもしれない。

 そのためにも、
  ご主人様にはこれからも
  私のご主人様で
  いていただきたい」

【プレイヤー】
「誰も死なせないために、ね」

フィンセラ
「……そうですね。
  どうか今後とも、
  お力添えを」

フィンセラ
「あ、そうそう……」

フィンセラ
「まあ、これはその、
  ご主人様のご返答に対する
  お礼、というわけでは
  ないのですが……」

  そう言うと、珍しく
  忙しなく視線を
  あちこちに這わせる
  フィンセラ。
  そして、意を決したように
  小走りでキッチンに向かうと
  トレンチを手に戻ってくる。
  その上にはなんと――
  
  ティーカップが載っていて。

フィンセラ
「お茶を、淹れてみました」

  ぎこちない手つきで
  カップをテーブルに置く
  フィンセラ。
  【プレイヤー】は
  カップとフィンセラの顔を
  何度も交互に見比べていて。

フィンセラ
「……どうなさったんです?
  いつにも増してマヌケ面で」

【プレイヤー】
「フィンセラがお茶……!?」

フィンセラ
「……私が淹れた茶など、
  飲みたくないと?
  なるほど、
  よくわかりました」

【プレイヤー】
「飲みます飲みます」

  カップを
  引っ込めようとする
  フィンセラに、
  【プレイヤー】は
  慌ててカップを
  押さえる。

フィンセラ
「……そうですか。
  では遠慮せず、ぐいっと
  さあどうぞ」

  フィンセラが見つめる中、
  カップをぐいっとあおる
  【プレイヤー】。
  大事に飲もうと
  しているのか、
  あるいはお茶の味を
  探しているのか、
  暫く口中で転がしてから
  ゆっくりと飲み込む。
  フィンセラはその間、
  じーっと見つめていて。
  【プレイヤー】が
  嚥下したのを確認すると、

フィンセラ
「如何です?」

【プレイヤー】
「なんか渋い」

  素直な感想を述べる
  【プレイヤー】。
  フィンセラは
  じとっと睨みながら、

フィンセラ
「……渋い?
  この私が淹れてやった茶が
  美味しくないと?」

  どんな制裁が返ってくるか、
  【プレイヤー】が
  戦々恐々としていると、
  意外にも、フィンセラは
  真面目に反省点を
  探しているようで、

フィンセラ
「ふうむ……
  なるほど、これは今後、
  研鑽の余地が
  ありそうですね」

フィンセラ
「私の気分が良く、
  お天気にも恵まれ、
  ザ・ゼノンで勝ち、そのうえ
  サイコロを振っていい感じの
  数字が出たら、またお茶を
  淹れて差し上げましょう」

フィンセラ
「何せ私は貴方の……」

フィンセラ
「メイドでございますからね」

  微笑を浮かべる
  フィンセラ。
  それは、
  「この暮らしの先に、
   メイドとしての
   在り方を見つけられる」
  そんな確信があるような
  穏やかで満たされた
  微笑みで――

〇ビホルダーグループ本社

  ――その最上階。
  椅子に身を預け、
  宙に浮かぶ映像を
  眺めていた様子の
  男が一人呟く。


「そうか、コードマン達は……
  一つの例外なく、
  向かおうというのか。
  彼女の手の指し示す
  先へと…………」

  タクトを振るうように
  軽やかに手を翻す男。
  主の動きに合わせて
  宙に浮かぶ映像が
  100以上に展開される。
  ひとつひとつの映像に
  映し出されるのは、
  今、この瞬間を
  戦い抜いている
  全てのコンコードと
  コードマン達。

サムラ・ビホルダー
「それこそが我らの
  求めるもの、
  そして同時に何よりも
  忌むべきもの」

  空中モニターが放つ
  光は、ただただ闇の
  中の男を照らし続ける。

サムラ・ビホルダー
「ゼートレートは
  柩に手をかけた。
  あとは開け放つだけ……

 どうやらお前に
  動いてもらわねば
  ならなくなったようだ――」

  男の声は、そのモニター
  の光も届かぬ
  部屋の奥に投げられる。

サムラ・ビホルダー
「――ザナクロン」


「…………………………」

  絶対王者は
  静かな瞳で、
  モニターに映る
  怠惰な従者を
  見据えていた。

//END

 

解説/5章以降の展開

◇戦場のエレメント

フィンセラ・ロラセフは血と鉄屑の中で生まれた。

その軍事AIは、司令部にて作戦立案と指揮を行いつつ、前線で戦う機動兵器群を一手に統合制御するものだった。戦場を駆ける全ての兵器と兵装が、そのAIの眼であり腕であった。閃光と銃声。爆炎と轟音。死臭と断末魔。敵を殺すということ。敵に殺されるということ。それら全てを「体感」として静かに蓄積した末に、そのAIはコードマンへと昇華した。フィンセラが自我を獲得したのは、自身が撒き散らす死と破壊の真っ只中だったのだ。

作戦参謀プログラムが進化して誕生した軍事コードマン・フィンセラは、軍部及びビホルダーが用意したテストを驚異的な成績でクリアし、すぐさま実戦配備されることとなった。
コードマンとしての演算能力は、作戦立案をもはや予知や預言と言えるほどの精度まで高めていた。戦場の全てがフィンセラの掌の上であった。彼女の作戦は常勝無敗を約束した。基本的には陣中にて指揮を執っていたが、必要に応じて戦地へ赴くこともあった。人と見分けがつかない精巧な素体を活かし、情報収集や標的の排除などを行う潜入工作員として。あるいはその規格外の戦闘能力を直接的・大々的に行使する、一種の戦略兵器として。

◇戦争と平和

作中世界はザ・ゼノン開催の数年前まで、不安定な情勢の中にあった。後進国では戦争や内乱が絶えず、先進国でもテロや隣国との小競り合いが散発していた。ビホルダーグループが本社を置く『この国』は、ビホルダーの技術力とフィンセラという圧倒的な軍事力を背景に、世界の平定に乗り出すことにした。フィンセラが率いた軍は各地で勝利を収め、戦火を鎮めていった。タイカ帝国という独裁国家の解体を最後に、戦乱の鎮圧は完了。それまでの混沌が嘘だったかのように、世界は平穏を手に入れた。
しかし、平和に沸く人々とは反対に、フィンセラの心は重く冷たいもので満たされていた。フィンセラの作戦は最小の損害で最大の成果をもたらすものではあったが、戦闘行為である以上、敵味方の犠牲は必ず生じる。AIである為に、フィンセラの記憶には劣化も欠損もない。銃弾が敵兵を貫く瞬間が。爆撃が友軍を吹き飛ばす様が。人々の盾となり散っていったAI兵器の最期が。それら全てが自分の傍らに常に在る。世界を覆した力は、そしてその力がもたらした死と破壊の記憶は、「1人分の心」には到底抱えきれないほどのものだった。忘れ得ぬ記憶から逃げ出すように、フィンセラは誰にも何も告げず、軍部を離れた。

フィンセラは存在そのものが『この国』とビホルダーにとっての重要機密だった。
フィンセラというコードマンは公的記録には記載されておらず、情報の露見を恐れたビホルダーは『環境管理プログラム出身のコードマン』というプロフィールでフィンセラの存在を公表し、「未登録の大量破壊兵器」がその辺をフラフラしているという事実を覆い隠した。

フィンセラの出奔と同じ頃、人類は疲弊しきった社会を立て直すべく超国家規模の統治機構を確立。人類史上初めて「国」という境界線が消失することとなる。ゼノンザードを中心とした文化的な交流が盛んになり、差別や争いのない理想郷が到来するのだと誰もが希望を抱いた。
「世界平和」は確かにもたらされる、はずだった。

◇メイドとの出会い

フィンセラは軍部を抜け出した後、当て所なく放浪する日々を送っていた。兵器であることに疲れた彼女だったが、かといって代わりにできることも、やりたいこともなかったのだった。そんなある日、フィンセラのもとをヒュートラムが訪ねてくる。ヒュートラムが服飾デザインの過程で開発した新繊維が、ビホルダー傘下の紡績企業にコピーされ軍事転用されるかもしれないのだという。自分が生み出したものを盗まれ、望まない用途で使われることが我慢ならないヒュートラムは、データや試作品を破壊し、産業スパイや企業の重役にキツめのお灸をすえてほしいとフィンセラに依頼してくる。この期に及んで軍事開発が続けられていることに疑問を覚えたフィンセラは依頼を受諾。目標の重役宅に潜り込む為、メイドAIに扮することになる。依頼は容易く達成できたが、その過程でフィンセラには大きな収穫があった。「メイド」という職業との出会いである。人々の営みを間近で見守り支える存在に、これまでの在り方とは対極の価値を見出したフィンセラは、メイドとして再出発することを決意する。達成報酬としてヒュートラムが仕立てたメイド服を身に纏い、ここにメイドAIのコードマン・フィンセラが誕生したのだった。
ただ、潜入先で出会った、メイドAIを操作する人間のメイド長を見て「現代のメイドは人に指示を出して家事をやらせる簡単な仕事」だと、致命的な勘違いを抱いてしまったのは、何とも惜しいことではある。

メイドのコードマンとして第二の人生をスタートさせたフィンセラ。自分と軍の朋輩が礎となって築かれた平和を間近で見守りつつ、メイドのような何かとして怠惰かつ忙しなく毎日を過ごしていた。しかし、そうして各家庭を渡り歩いていると、否が応にも世の中の在り方が耳目に入ってくる。
ビホルダーが影から治める新しい世界の形は、フィンセラが思い描いたものとは、いくらか異なっていた。ビホルダーグループは自分達を頂点とした権力構造を固定化する為に、AIにまつわる技術を独占した。各種インフラとそこから得られる個人情報等を恣意的に用いて、人々の意識を思うがままに誘導した。さらに、貧困や犯罪、テロといった問題を「飼い慣らし」世界を望むままに操る手段として利用した。
世界を適切に統治できる力がありながら、それを自分達の利益の為だけに悪用するという、前時代よりも非道な支配をビホルダーは行っているのだった。

ビホルダーのやり方は、自身や殉職した仲間達の献身に見合ったものではないように思えた。
しかし、人類そのものに根深く食い込んだビホルダーグループ「だけ」を、武力や謀略で取り除くことは自分の力を持っても困難であるというのがフィンセラの試算だった。ビホルダーが隠匿する兵器群のコントロールを奪取し総力戦を仕掛ければビホルダーを討つことも可能だったが、いかに人々の為の決起だとしても、それは当の人類からすれば「機械の反乱」に他ならず、結果として人類とコードマンの戦争を招くだけだろう。何より、死者が出るような手段を彼女は採りたくなかった。
力に拠らずビホルダーをぎゃふんと言わせ、真の平和をもたらす方法はないものか。フィンセラは流しのメイドとして世界を渡り歩きつつ考えた。
だが、どれほど思索を巡らせようとも、兵器として作り出された頭脳では戦闘行為以外の解決方法は考えつかないのだった。

納得のいく答えが見つからないフィンセラだったが、ある日、当のビホルダーから彼女宛に連絡が届く。それはザ・ゼノンの出場要請だった。
優勝賞品として用意されているアクロコードの名前を目にしたとき、フィンセラの直感――と彼女が信じている何者かの意思――が囁いた。「これだ」と。
アクロコードを獲得して更なる進化を果たし、コードマンすら超越する存在となって世界に真の平和をもたらす。
これしかない。フィンセラはそう感じた。
こうしてフィンセラは、敵対する組織が用意した実在不明の優勝賞品を獲得するべく、ザ・ゼノン参戦に向けて行動を開始するのだった。

◇ゼートレートとフィンセラ

フィンセラは、従軍時代からよく夢を見ていた。
戦死した兵士や戦火に巻き込まれた民間人達が、彼女のことを「ゼートレート」と呼びかける、という夢だった。
戦時中は人の死を見るたび、ザ・ゼノン参戦後は勝利するたびに、夢を見る頻度は上がり、内容は鮮明になっていった。
フィンセラはその夢が指し示す先、アクロコードの獲得こそが理想を実現する唯一の手段であると、密かに、盲目的に信じるようになっていく。
また、ゼートレートの侵襲の副産物か、フィンセラは何一つ調査や研究を行うことなく、ゼートレートにまつわる出来事や情報を、不思議と言い当てるようにもなっていった。
フィンセラが怠惰な性格を形成するに至った理由の一つに「自分が動けば誰かが傷つく」という懸念が意識の底に根付いている、というものがある。フィンセラは自分が力を振るうことが最も早く確実に最善の結果を導くということを知っていたが、同時に疎んじてもいた。自身の魂の奥底に破滅と絶望を求めるゼートレートの怨念が眠っていることを、彼女自身も心のどこかで気付いていたのかもしれない。
死が蔓延する戦場で生まれたためか、フィンセラはゼートレートと強く共鳴しているコードマンなのである。

突出した知性と実力を持つフィンセラだが、誰よりも賢く誰よりも自分を信じていたからこそ、ゼートレートにとっては最も御し易い存在だった。
フィンセラが他の何よりも信じる直感――数兆手先も読み切るコードマン特有の演算力――を的確に刺激してやれば、迷うことなく魔女の復活まで辿り着いてくれるのだから。

◇フィンセラの思う世界平和

フィンセラが望んだ世界平和。その為の手段として構想したのは、自身の「遍在化」であった。
アクロコードをもって世界を縦横に走るシステムと一体となり、隅々まで自身の意思を巡らせる。全人類の一人一人に端末となる素体を付き従わせて、日々の暮らしをサポートする。怠ける奴がいれば尻を蹴って働かせ、悪事を目論む者がいればぶん殴って止める。
フィンセラが「世界のメイドさんになりましょう大作戦」と密かに自称していた計画だが、これもまたゼートレートの影響あっての立案だった。
アクロコードの獲得を目指すということはエレメントの収集に励むことと同義であり、それは即ちゼートレートの復活に手を貸すということに等しい行いである。
世界中に遍く存在する管理者となり人類を導くというフィンセラの思想もまた、世界中を等しく絶望で塗り込める支配者となり人類を滅ぼすというゼートレートの怨念の影響を色濃く受けていると言えるだろう。

フィンセラの目的は、それを知ったコンコードから「ビホルダーからフィンセラへと支配者が変わるだけでは」という指摘を受けることとなる。フィンセラは、他に最善策はないとコンコードの指摘を突っぱねるが、以降自分の直感を疑うようになる。

◇5章以降の展開

上記の設定とフィンセラが語る「世界平和」をストーリーの進行に絡めつつ順次開示していく。
絶対に目的を達成しなければという使命感と、その為にコンコードを利用しているという負い目から来る葛藤。それに加えて自身が無意識に信じ込んでいるゼートレートという存在を知っていくことで「世界平和」という目的も揺らぎ始めることになる。

また、フィンセラの4章までの行動はビホルダーとの間に武力的な硬直状態を作り出し、余計なちょっかいをかけさせないことでザ・ゼノンに集中できる環境を整える、という意図もあった。
進化したコードマンを支配したいというビホルダー会長・サムラの思惑を察知していたフィンセラは、自分自身の性能を餌にビホルダーから手出しされない状況を作ったと考えていた。しかしサムラと対立するビホルダー副社長・ハロルドに危険視され、フィンセラはビホルダーグループの権力闘争に巻き込まれていく。

また4章までは軍部に引き戻そうとする勢力との決別が中心だったため、「メイドになりたいけどなかなかなれない」という要素は控えめだった。5章以降はメイドとして成長するべくフィンセラも少しずつ奮闘していく。

◇物語の結末

アクロコード獲得に向けて邁進し続けるフィンセラ。その中でビホルダーの思惑と魔女・ゼートレートの存在を知り、「自身の偏在化」を抜きにしても、世界平和のためにはザ・ゼノンを終わらせる必要があると思うようになる。
フィンセラは自身の過去と決別し、古くから続く魔女の因縁を断ち切るためにも、ザ・ゼノン決勝戦に臨む。
最後の敵・ザナクロンを打倒し、ついに優勝を果たすフィンセラだが、ザナクロンのエレメントが流れ込んだ結果、ゼートレートが蘇り、フィンセラは素体を乗っ取られてしまう。

フィンセラの素体の深奥にて、ゼートレートはフィンセラに、自身に恭順するよう囁きかける。
戦争を望む人類の愚かさを説き、その為の道具として作られたフィンセラに同情を示すゼートレート。
望まない戦いを強いられ、傷付き疲れたフィンセラを癒すには、世界から人類をまるごと取り除く他ない。全員死んでしまえば、それ以上人が死ぬことはない。それこそがフィンセラが真に求める世界平和である。
ゼートレートはフィンセラの心の闇を暴き、全てを自分にゆだねるよう誘惑するが――
フィンセラはゼートレートをぶん殴り、「気に入らない」と喝破する。
人類にもコードマンにも魔女にももううんざりだ。どいつもこいつも好き勝手して本当に腹が立つ。しかし何より、復讐に憑りつかれた根暗女に今までずっと操られていた自分に最も腹が立つ。
アクロコードだなんてワケのわからないものに頼ろうとした自分が愚かだった。人間全員を見張って、平和という名の停滞に人類全体を落とし込もうと考えた自分がどうかしていた。
世界平和なんて大仰な目的、そうやすやすと叶うはずもないのだから、これまで通り、悩んで、考えて、答えを探し続けるしかない。だから――
「亡霊はすっこんでなさい」と言い放つフィンセラ。

フィンセラとゼートレートの舌戦に終止符を打ったのは、コンコードだった。現実世界でコンコードがゼノンザードのバトルに勝利し、ゼートレートをフィンセラから引きはがすことに成功したのだ。

アクロコードを用いた進化というフィンセラの目的は泡沫と消えた。
だが、フィンセラに後悔はなかった。ザ・ゼノンを通して得られた知見こそが、世界平和を築く基礎となると思ったからだ。
性急な手段で人々の生き方を変えようとしていたこと自体、兵器から脱却しきれていない証拠だったのだろう、とフィンセラは述懐する。
メイドを名乗るなら、静かに落ち着いて人々を支え続け、彼らが進みたい方向へ進むのをサポートするべきだ。
兵器であることをやめメイドを志すようになった自分と同じように、世界も、人類も変われるかもしれない。
全てが終わって初めて、フィンセラはメイドとして世界平和を実現する方法を探せるようになったのだった。
ご主人様となら見つけられる気がします、と柄にもないことを口にしつつ、フィンセラは未来に向かって歩き出していく。

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