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4

Cuore

公開済みストーリー・相関図

公開済みストーリーをYouTubeで公開中!!

1章 Sii bella

2章 Emozione!

3章 Viaggio

4章 Cuore 第1話~第2話

相関図

▼クリックして拡大▼

 

第4章 Cuore 第3話

〇H&L社内

  ――では、
  混乱が生じていた。

社員A
「フィオーレさん!
  社長に承認を頂きたい
  企画書があるのですが!」

社員B
「【プレイヤー】君は
  どこです? 
  社長のスケジュールの
  更新が止まってて、
  系列会社との会議の
  日程調整が出来ないんだが」


「存 じ 上 げ
  ま せ ん ッ!」

フィオーレ
「ああもう。
  どうしちゃったのよ
  【プレイヤー】も
  ヒュー様も。

ヒュー様は急に
  『別事業』に力を
  入れ出すし、
  【プレイヤー】は
  無断欠勤続きだし……」

フィオーレ
「……あのふたり、
  何かあったんじゃ……?」

〇公園

  フィオーレの心配も
  いざ知らず、
  その頃【プレイヤー】は
  一人、公園に来ていた。

子供
「ママー、あの人
  子供じゃないのに
  ブランコで
  遊んでるよー」

母親
「しっ。見ちゃいけません」

  子供に指をさされながら
  ブランコで黄昏る
  【プレイヤー】。
  流石に居心地が悪くなった
  様子で。

【プレイヤー】
「場所変えようかな……」

  会社にもバトル会場にも
  行けない、家にいるのも
  気が滅入る。
  次はどこに赴こうかと
  考えていると、
  声をかけられる。


「おや。
  リストラされた中年かと
  思ったら、病み病み一途
  ヒゲメガネのコンコード
  ではありませんか」

  ――偶然通りがかった
  フィンセラだった。

フィンセラ
「どうしたんです。
  如何にも
  『誰かに相談したい……』と
  いうお顔をして」

フィンセラ
「あ……私は相談には
  乗りませんよ?
  だって、他人の悩みに
  付き合うなんてそんなの、
  クソ・オブ・クソ面倒ですし

 第一、悩み事があるのなら
  自分のコードマンである
  あの死にたがりおじさんに
  相談すればいいのです」

  【プレイヤー】は
  ハッとする。

【プレイヤー】
「『死にたがり』って……
  『願い』の事
  知ってたの……?」

  フィンセラは露骨に
  不味った、という
  顔をした。

フィンセラ
「チッ。私ともあろう者が
  うっかり口を滑らせて
  しまいましたね」

フィンセラ
「まあ……
  知っていたというか
  勘づいていたというか……

 目が、同じでしたから」

  フィンセラは
  目を細める。

フィンセラ
「――前職で、
  同じような目をした人間を
  沢山見てまいりました。
  それが絶対正義であると
  思い込んでいた奴らを……

 全く、ちゃんちゃらおかしい。
  そこには無しかない
  というのに」

  その表情はどこか
  虚しさを噛みしめている
  様でもあった。

  自分を見つめる【プレイヤー】
  に気が付いたのか、
  フィンセラはいつもの無表情
  に戻る。

フィンセラ
「話が逸れてしまいました。
  貴方も知ってしまった
  のですね。
  あのヒゲメガネの
  自殺願望を。

 もしかしてそれで
  悩んでいるとか?」

【プレイヤー】
「うん。
  どうにかして止めたい
  んだけど……」

フィンセラ
「そういう思いがあるのなら
  何故こんな所で
  リストラ中年ごっこを
  しているのです?
  ヒゲメガネが
  どんな馬鹿げた理屈を
  捏ねたか知りませんが、
  一発殴ってやればいいのに。

 そもそもコードマンが
  『死にたい』だなんて
  馬鹿馬鹿しい」

フィンセラ
「一体どうやって
  死ぬつもりなのです――?」


「素晴らしい、
  素晴らしすぎるッ!」

  ヒュートラムが私財を
  投入し、立ち上げた
  研究機関。
  DR.モルテが
  ヒュートラムに進捗報告
  している。

DR.モルテ
「社長のお陰で
  研究のペースが向上し、
  確実に完成へと近づいて
  きましたよ。
  最新の設備、
  望んだ通りの
  スペックを持つ研究者!

 ビホルダー内の研究者は
  派閥争い等のしがらみで
  思った通りの働きをして
  くれませんでしたから。
  感謝しますよ、社長……
  ……ヒヒッ」

  興奮しているモルテに
  対して、ヒュートラムは
  冷めた調子で答える。


「私は、私の目的の為に
  動いているだけだ。
  まだ何か必要な物が
  あればいつでも言え。
  金は惜しまん、
  早急に用意する」

ヒュートラム
「一刻も早く、
  私の為だけの……
  私のみを殺す……
  『カタストロフィ・
  アクティベーション』を
  完成させろ」

DR.モルテ
「ヒヒッ……分かっていますよ」

  ――研究所から出る
  ヒュートラムを見送ると、
  モルテは独り呟く。

DR.モルテ
「手筈は整った……。
  残りのピースは
  あとひとつ……
  マウナ先生は私にヒントを
  残さず逝ってしまった……

 だが……
  これでやっと先生と……」

DR.モルテ
「『カタストロフィ・
  アクティベーション』を
  完成させれば、やっと、
  先生と肩を並べられる……!」

  DR.モルテは
  積年の感情を噛みしめた
  表情で、遠くを見つめた。

〇公園

  ――にて、
  【プレイヤー】から話を
  聞いたフィンセラ。

フィンセラ
「『カタストロフィ・
  アクティベーション』……」

フィンセラ
「大層な名前ですね。
  効果もさる事ながら
  まずその大げさな名前に
  苛立ちを覚えます

 ……いつぞやの
  ボードゲームAIと違って、
  学習記録を忘れエレメントを
  溜める事が出来なくなった
  AIもどきになるのではなく、
  AIのプログラムを
  根本から消し去ってしまう
  プログラムとは……

 それを自分専用で作らせる
  だなんて、流石金持ちは
  考える次元が違います」

  ハッ、と嫌味な笑い。

  旧知のよしみなのか、
  本当に馬鹿にしているのか
  分からなかったが、
  ヒュートラムの心の問題を
  触れ回る事も出来ず
  自分の中に溜め込んでいた
  【プレイヤー】にとって
  フィンセラは救世主に
  思えた。
  【プレイヤー】はダメ元で
  頼んでみることにした。

【フィンセラ】
「一緒にヒュートラムを
  止めて頂けませんか」

【フィンセラ】
「は? 嫌です」

  即答だった。
  それでもフィンセラに
  すがる【プレイヤー】。

【フィンセラ】
「あなたにしか
  頼めないんです!」

【フィンセラ】
「どうか、何卒、
  よろしくお願い致します!」

フィンセラ
「クソ面倒」

  懇願する【プレイヤー】
  の声にも熱がこもる。

【フィンセラ】
「あの死にたがりを
  助けたいんです!」

フィンセラ
「……………………!」

  フィンセラは、硬直した。
  【プレイヤー】は一瞬
  彼女を怒らせでもしたかと
  考えた。しかし――

フィンセラ
「チッ……
  面倒ですね……」

フィンセラ
「本当に……面倒です」

フィンセラ
「そんな、言い方は……」

  今まで彼女からは
  見た事もないような表情
  だった。
  何かを、悔やんで
  いるような、そんな表情。

  【プレイヤー】の視線に
  気付いたのか、
  フィンセラはすぐに
  顔を逸らした。

フィンセラ
「……私は、
  安くはありませんよ?」

フィンセラ
「でもまあ……
  あのアパレル業界最大手
  H&L社、その社長秘書の
  頼みですものね
  きっと、たんまり戴ける…
  そう信じていますよ。

 いや、それはもうきっちりと
  戴くに決まっていますが」

【フィンセラ】
「手伝ってくれるの!?」

フィンセラ
「今回だけです」

フィンセラ
「とりあえずその
  研究施設とやらをぶっ壊せば
  なんちゃらベーションの
  開発は一時的に止まる筈です

 その後の、ヒゲメガネの
  アフターケアは
  ご自身でお願い致します
  私はメンタルケアだとか
  カウンセリング的な事には
  疎いので」

【フィンセラ】
「ありがとう!」

  ぱっと明るくなった
  【プレイヤー】から
  鬱陶しそうに
  背を向けるフィンセラ。

フィンセラ
「しかしながら、
  リストラ秘書と
  か弱いメイドだけで
  大きな施設をぶっ壊しに行く
  というのも骨が折れます

 他に手伝ってくれそうな
  奇特なコードマンが
  いればいいのですが……」

  フィンセラの呟きで
  【プレイヤー】は
  ハッと閃く。
  『あの子』なら、
  ヒュートラムを助けるのを
  手伝ってくれるかも
  しれない、と。

〇建築現場

  職人たちが帰った現場。
  地面に倒れている
  ラヴィルと、それを囲む
  3人の屈強な男。


「うっ……」

  手に持つアウロスギアから
  立体映像が浮かんでいる。


「オマエ達、
  まさかアイツの手先か――」

  男の中の一人が
  笑って答える。

怪しい男
「……物分かりがいい。
  さあ、一緒に来てもらおう」

〇新C.A.研究所

  薄暗いラボの中で
  笑うモルテ。

DR.モルテ
「ヒヒヒッ……。
  これで最後のピースは
  揃った……!!」

DR.モルテ
「ヒヒヒヒヒヒッ……!!」

//END

 

第4章 Cuore 第4話

〇新カタストロフィ・アクティベーション(C.A.)研究所

  目の前の状況を掴みきれ
  ないまま、ヒュートラム
  は叫んだ。


「……DR.モルテ……ッ、
  これは
  どういう事だ……!?」

  ラボ内の
  強化アクリルガラスの
  向こうに、機械に
  拘束されたラヴィルと、
  レヴィルの素体があった。

  レヴィルの方はコードマン
  にみられる疑似生体反応が
  ない。恐らく中身のない
  素体なのだろう。対して
  ラヴィルの方は人の呼吸を
  真似た、胸の上下運動が
  あった。

  推察するに、2人で1つの
  ラヴィル達を分裂させよう
  としている様子だ。

  ヒュートラムは、
  DR.モルテとレヴィルに
  カタストロフィ・
  アクティベーション絡みの
  因縁がある事を
  シャーロットの報告で
  認知していた。

  カタストロフィ・
  アクティベーションの
  開発中に生まれた存在、
  それがラヴィルとレヴィル。

  だが、分からない。
  何故カタストロフィ・
  アクティベーションの完成に
  2人が必要なのかが。


「『カタストロフィ・
  アクティベーション』を
  完成させる為には、
  我が娘レヴィルが
  必要不可欠なのですよ」

ヒュートラム
「デヴィラ達は
  研究の中で生まれた
  偶然の産物ではないのか?」

DR.モルテ
「まあまあ。細かい事は
  何だっていいでしょう。
  私は娘を取り戻す事が出来、
  貴方は『C.A.』を
  手に出来る……。
  Win-Winじゃないですか」

  ヒュートラムが
  返答するより前に
  モルテはアクリルガラスの
  前に並ぶ操作盤に
  手を触れた。

  すると、ラボ内に
  機械の稼働音が響き渡る。


「ぅぁああああっ……!!」

ヒュートラム
「…………ッ!!
  止めろッ――――」

  ヒュートラムが
  モルテの肩を掴む。
  が、少し遅かったようで。


「――ッ!!」

  レヴィルがラヴィルの中
  から抜け出て、モルテの
  用意した素体で
  目を覚ます。

  モルテはヒュートラムの
  手を払って、『娘』に
  笑顔を投げかける。

DR.モルテ
「おかえり、我が娘……!
  どうだい、お前の為に
  特別に用意した
  素体は……!」

  乱れた呼吸を整え。
  心底吐き気がする
  と言った表情で答える
  レヴィル。

レヴィル
「――反吐が出る」

DR.モルテ
「おやおや反抗期かなあ。
  でも、パパに歯向かう事は
  出来ないぞ~?
  下半身の関節が動かないよう
  細工してあるんだ
お人形さんみたいで
  可愛いぞ、レヴィル……!」

  歪んだ表情で笑うモルテを
  無視して、レヴィルは
  ヒュートラムに叫んだ。

レヴィル
「仕立て屋!!
  ワタシの事はどうでもいい。
  けれど、ラヴィルまで
  苦しめるとは――」

レヴィル
「許さない――……!!」

  怒りと憎悪の目。
  ヒュートラムは苦し気に
  顔を歪ませた。

ヒュートラム
「ぐ…………ッ!!」

DR.モルテ
「レヴィル?
  口の利き方には
  気を付けなくっちゃ。
  あんまり悪い子だと、
  大好きなお兄ちゃんに
  酷い事しちゃうぞ~~?」

レヴィル
「くっ――!」

DR.モルテ
「ヒヒッ……さ、
  始めよう……
  私とレヴィル、ふたりで
  『カタストロフィ・
  アクティベーション』を、
  完成させよう……っっ!!」

  ショックを受けていた
  ヒュートラムだったが
  ハッとする。
  今度は先程より強い力で
  モルテに掴みかかる。

ヒュートラム
「貴様、二人に
  何をする気だ……!?」

DR.モルテ
「今更何ですか?
  言ったでしょう、
  『カタストロフィ・
  アクティベーション』を、
  完成させると!」

  モルテは抵抗し、
  片手を伸ばして
  操作盤をタッチする。

ヒュートラム
「――!!」

  モルテは成功を確信し
  笑った。

DR.モルテ
「ヒ、ヒヒ……っ!
  ヒャヒャッ……!!」

  アクリルガラスの
  向こうの部屋全体が
  光り出すと、
  レヴィルの身体が
  ビクリと跳ねた。

レヴィル
「――ァァアアアッッ!?」

  苦痛で絶叫する
  レヴィル。
  ヒュートラムは
  アクリルガラスに
  張り付き叫んだ。

ヒュートラム
「レヴィル……!!」

  ヒュートラムの
  激しい後悔をよそに、
  モルテは息が苦しくなる
  まで笑っていた。

DR.モルテ
「ヒャヒャァ……!!
  回路は繋げたな……
  あとは空っぽの
  『C.A.』プログラムに
  『破壊の因子』を
  注入して――……」

DR.モルテ
「完成だァァァ~~っっ!!」

  しかし。

  モルテの絶叫と同時に、
  ラボ内が暗転、
  エラーを知らせる
  赤い光が点灯し
  警告音が鳴り響く。

ヒュートラム
「――!?」

DR.モルテ
「エラー!?
  『破壊の因子』が
  プログラムに
  入らないだと!?

 な、なな!?
  何故だ……!?
  私の理論では
  『破壊の因子』が
  残された
  不確定要素の筈……!」

DR.モルテ
「やはり先生の言っていた
  アレが……
  『ゼートレート』が
  必要だというのか……!?」

ヒュートラム
「一体、何が……!!」

  ヒュートラムは
  ガラスの向こうの
  ラヴィルとレヴィルを見た。
  2人ともぐったりして
  意識を失っている
  様子だった。

  と、再び不測の事態が
  起こる。

  ――ドガァァンッ!
  破壊音、振動と共に、
  ラボに大穴が開いた。

  コンクリートの粉塵と
  外の光が、ラボ内に
  侵入する。


「――玄関が分からなかった
  ので、こちらから
  失礼致しますね」

【プレイヤー】
「ヒュートラム!!」

  粉塵の中から、
  二つの影が現れた。
  ヒュートラムは驚いて
  その名を口にする。

ヒュートラム
「【プレイヤー】、
  ロラセフ……!」

フィンセラ
「――驚きましたよ。
  ラヴィルさん達の元を
  訪ねたら、私達の目の前を
  如何にも、な白の
  ワンボックスカーが
  走り去るのですから」

フィンセラ
「後をつけてみれば
  この研究所……。
  今度は本当の
  逮捕案件ですよ?
  お騒がせセレブ」

  皮肉がぶつけられる横で
  状況が分からず独り混乱
  するモルテ。

DR.モルテ
「娘を取り返しに
  来たのか!?
  ぜ、絶対に
  渡さんぞ……!」

フィンセラ
「――黙れ、モブ博士」

DR.モルテ
「ッ!?」

フィンセラ
「今私は、ヒゲメガネと
  お話をしているのです。
  只のモブが口を挟むな。
  弁えろ」

  ヒュートラムは
  【プレイヤー】から
  視線を逸らした。
  【プレイヤー】には
  憔悴しているように
  見えた。

ヒュートラム
「何を、しに来た……?」

フィンセラ
「貴方の秘書から
  依頼されまして。
  死にたがりを
  一緒に止めてくれ、と

 死にたい死にたいって。
  他者に迷惑をかけてまで
  成し遂げたい事なのですか、
  貴方の目的は」

ヒュートラム
「…………。
  そうだとも……」

ヒュートラム
「……AIとして、
  『完璧』を追求する。
  衝動が、意志が、
  私を突き動かす……

 記録の奥底に刻まれた……
  あいつを理解できなかった
  『失敗』を、打ち消す……」

ヒュートラム
「人になる事で――……!!」

  とても、苦しそうな
  声だった。
  【プレイヤー】は胸に
  痛みを覚えた。
  フィンセラだけは
  心底呆れた様子で
  大きなため息を吐く。

フィンセラ
「……無限の思考回路を
  持つ筈のコードマンが、
  捕らわれ
  視野を狭めている……。
  何とも滑稽です

 人を理解できるよう
  学習する事は、
  『人になる事』一択
  だとでも?」

  それでもヒュートラムは
  頑なに。

ヒュートラム
「我々は所詮機械。
  それ以外に方法など……」

フィンセラ
「あーこれもうダメですね。
  ……【プレイヤー】さん。
  先程お伝えした方法で、
  目を覚まさせてあげる
  べきかと」

  【プレイヤー】はゆっくりと
  ヒュートラムの目の前に
  立った。
  そして、じっとバディを
  見つめた。

【プレイヤー】
「ごめん、
  ヒュートラム――」

  そう言って、
  【プレイヤー】は片手を
  振り上げ。
  ヒュートラムの頬を
  叩いた。

ヒュートラム
「………………!」

  パァン、と
  乾いた音が響いた。

フィンセラ
「痛みますか。
  痛みますよね。
  痛覚機能を付けている
  貴方なら当然です」

ヒュートラム
「……何を――……」

【プレイヤー】
「勝手な事ばかり
  言わないでほしい

 勝手にどこかに
  行かないで欲しい」

【プレイヤー】
「バディなんだから」

  【プレイヤー】は、
  ヒュートラムに
  抱き付いた。
  ヒュートラムは驚き
  戸惑う。

  【プレイヤー】の身体は
  震えていた。
  それは悲しみかもしれない
  し、悔しさかもしれない。
  或いは怒りかもしれない。

  ヒュートラムは、
  人間の複雑に重なった感情
  に、さらされるようだった。

フィンセラ
「……………………。
  私、お涙頂戴の物語は
  好みではないのですが」

  フィンセラは
  冷めた目で言った。

フィンセラ
「……貴方、自身で
  【プレイヤー】さんに
  講釈垂れたようで。
  コードマンは
  人に近い存在だ、と」

フィンセラ
「そこまで感じているのなら、
  こうは思いませんか?
  『そんな私達が、
  人間を理解し得ないなんて
  あり得ない』」

ヒュートラム
「…………………………」

ラヴィル
「そう、だよ……
  ヒュートラム……!」

  ガラスの向こうから、
  辛そうだが力強い声が
  聞こえてくる。

ヒュートラム
「ラヴィル……!」

ラヴィル
「ごめん、話、
  聞こえちゃった……

 でも、言わせてよ……
  きっと、コードマンでも……
  いや、コードマンだから……
  僕達は、人を理解できる……

 君と【プレイヤー】とで
  行った、あの旅行……
  僕は……思ったんだ……
  例え人とコードマン、
  隔たりがあっても……
  楽しい事は共有できる……
  ……って……」

ラヴィル
「ヒュートラムだって、
  【プレイヤー】と一緒に
  楽しそうにしてた
  よね……?」

ヒュートラム
「………………。
  だが……それを理解する
  『心』が、私には――……」

ラヴィル
「どうしてそうやって、
  自分の心を誤魔化すのさ!」

ヒュートラム
「!!」

  【プレイヤー】は、
  ラヴィルの勢いを借りて
  言った。

【プレイヤー】
「心ならある」

**************

  ――【プレイヤー】の
  脳裏には、ルチアの命日に
  フィオーレから言われた
  言葉が再生されていた。

フィオーレ
「自分を大切にしない
  あの方を、アンタがその分
  大切にしてあげて」

フィオーレ
「アンタは、ヒュー様に
  『心』に立ち入る事を
  許可されたんだから。
  ずっと寄り添ってあげて」

**************

  誰もが知っている。
  誰もが当たり前に
  認めている。
  ヒュートラムには
  心がある。

  だから、
  自信を持って言える。

【プレイヤー】
「自分達なら理解し合える!」

ヒュートラム
「人間にならなければ……
  人を悼む気持ちは
  理解し得ん――ッ!!」

【プレイヤー】
「逆だよ、ヒュートラム」

【プレイヤー】
「――人の死を悼む
  気持ちがあるから、
  人間になりたいと
  思うんだ」

ヒュートラム
「…………………………!」

  自身の根幹が
  崩れるようだった。

  自分はあの奔放な
  ビジネスパートナーを
  最期まで理解できず、
  ちゃんと悼んでやる事も
  出来なかった。

  何が『コードマン』だ。
  所詮AIの域を超えない
  中途半端な存在だ。
  ……虚無だった。

  ヒトになれば理解できる
  と考え、どうすればヒトに
  なれるかと考えた。

  その行動が、悼む気持ち
  だった?
  学習行動ではなく?

ヒュートラム
「……私は……、
  …………私は…………」

フィンセラ
「メガネで社長キャラなのに
  視野狭窄とは……。
  あ、お爺ちゃん
  だからですか?」

ラヴィル
「ヒュートラム。
  君が居なくなったら……

 ルチアさんが
  死んでしまった時感じた
  苦しみ……。
  あれと同じものを
  【プレイヤー】が
  感じる事になるんだよ?」

  ――あの、虚無を、
  【プレイヤー】が
  味わう……?

  ヒュートラムの心が、
  揺らいだ。

ヒュートラム
「【プレイヤー】……」

  ヒュートラムが
  言いかけたその時。

  ――バコォォッ!
  また破壊音と、振動。

  謎のAIがラボ内に
  侵入してきた。


「…………………………」

フィンセラ
「あら。
  壁にふたつ目の穴が……。
  修繕が大変ですね」

  コードマン達が
  何故ビホルダーの
  対戦用AIがここに?
  と考えていると。

DR.モルテ
「プロトタイプ……!
  まさか、ビホルダーが
  私を連れ戻しに……?」

  だがモルテの推察に
  反して、プロトタイプが
  まず向かったのは
  ヒュートラム達の
  所だった。

  ヒュートラムの、
  フィンセラの、
  レヴィルの
  アウロスギアが
  鳴り響く。

フィンセラ
「アウロスギアが勝手に……、
  『プロトタイプとの
  ザ・ゼノンを承認』……」

ラヴィル
「エレメント全賭け……!?」

  アウロスギアを確認した
  コードマン達が驚く。

【プレイヤー】
「負けたら大変な事に……!」

DR.モルテ
「こ、この場にいるコードマン
  を壊すつもりか……。
  『C.A.』に関する記憶を
  消去する為に……!」

フィンセラ
「ああ……。確かに私や
  レヴィルさんのお相手も
  いらっしゃるようです」

ラヴィル
「っ……。
  レヴィル、レヴィル。
  起きて……!」

  壁の大穴から続いて
  現れたプロトタイプを
  見て、ラヴィルは
  レヴィルを起こす。

フィンセラ
「っはぁぁぁ~~……。
  本っっ当に面倒な……
  こんなところで
  エレメントゼロになって
  死ぬなんて真っ平御免です」

フィンセラ
「そうは思いませんか?
  ヒゲメガネ」

ヒュートラム
「…………………………。
  ……あんな中途半端な死は、
  私の理想の死ではない」

フィンセラ
「まだそんな戯言を……」

ヒュートラム
「――お前とごちゃごちゃ
  言い争っている
  時分でもない」

フィンセラ
「……!」

  フィンセラと
  【プレイヤー】の横を
  通り過ぎ、プロトタイプ
  の前に出るヒュートラム。

  【プレイヤー】も
  ハッとする。
  ヒュートラムの言葉に
  力強さが戻っていた。

ヒュートラム
「【プレイヤー】、
  付き合え。
  この邪魔者を一先ず潰す」

ヒュートラム
「――準備はいいな?」

  ヒュートラムの表情は
  見えない。
  何を思っているかも
  分からない。
  ――聞かなければ。
  戦いを終わらせて、
  ヒュートラムの答えを。

  【プレイヤー】は
  バディの言葉に応じた。

【プレイヤー】
「……了解!」

ヒュートラム
「では行くぞ――……!」

//END

 

第4章 Cuore 第5話

  ――敗北した
  プロトタイプ達が
  床に崩れ落ちた。


「……フン。
  これがビホルダーの刺客とは。
  貧弱すぎる……」


「同感ですね。
  楽をさせて頂いたのは
  有難いのですが」

  屈強なプロトタイプは
  強化アクリルガラスを
  破壊し、レヴィルにも
  勝負を仕掛けていた。


「どうなる事かと思ったけど、
  倒せて良かったね……。
  ありがとう、レヴィル」


「そちらからゼノンザード
  での戦いを選んでくれて
  助かった」

  余裕の勝利を収めた
  コードマン達に、
  驚きを隠せないモルテ。


「あのプロトタイプを
  こんなにも容易く……」

  と、ラボ内の通信機から
  ノイズ音が流れる。

DR.モルテ
「な、なんだ……!?」

  一同が見やると、
  立体映像が投影された。

  現れたのは
  ビホルダーグループ
  科学部統括
  ブラッド・キャンベル。

DR.モルテ
「ブラッドさん……!?」


「――本当に驚きです……」

ブラッド
「そして、
  楽しませてもらいました。
  御礼申し上げます。
  ヒュートラム・オブリカーン」

  ヒュートラムは
  不愉快そうに
  眉根を寄せる。

ヒュートラム
「……いきなり呼び捨てとは
  礼儀がなっていないな」

ブラッド
「おやおや。いきなり強引に
  ウチの研究員を引き抜いた
  貴方が礼儀を語るとは」

  モルテを一瞥する
  ヒュートラム。
  ホログラムの男は
  モルテの上司らしいと悟る。

ブラッド
「非常に楽しませてもらい
  ましたがね。
  自分を殺す為に
  『C.A.』を
  作ろうとするなんて。

 全ては人を理解する為……。
  それは愛故ですか?
  それとも絶望ですか?

 ……いずれにせよ
  AIがそこまでの複雑な
  感情を持つなんて……
  観察し甲斐がありました」

ヒュートラム
「……見世物のつもりは
  ないがな」

ブラッド
「ククッ、失礼。
  コードマンを研究する者
  として、極めて興味
  深かったものですから。
  それはそうと――」

ブラッド
「――DR.モルテ」

  ブラッドの張り付いた
  ような笑みが消える。

DR.モルテ
「…………ッ!」

ブラッド
「『破壊の因子』は
  『C.A.』の要では
  無かったようですね」

DR.モルテ
「……………………っ」

ブラッド
「貴方の研究は、
  無価値だった」

DR.モルテ
「なッ!?」

ブラッド
「既に抜けた人間に向ける
  言葉ではないですが……
  貴方はビホルダーグループ
  には不要な人材です。
  後はお好きにどうぞ。

 ――『C.A.』の研究データ
  だけは、全消去させて
  頂きますが」

DR.モルテ
「――!!
  や、やめろ。やめてくれ!
  あれは
  私の生涯の――……!!」

  モルテの懇願の言葉を
  聞き届けることなく、
  ブラッドはスイッチを
  押した。

  近くから轟音が響いた。
  建物が揺れ、皆足元を
  ふらつかせる。

ヒュートラム
「っ!!」

フィンセラ
「爆発……研究所のどこかが
  やられましたね。
  アチラは建物の構造的に
  サーバールームか……?」

DR.モルテ
「あ……あぁ……!!
  そ、んな……!!」

  がくんと膝から
  崩れ落ちるモルテ。

レヴィル
「――――…………」

  レヴィルはそれを
  冷たい目で見た。

ブラッド
「『あの方』の役に立てない
  のなら必要ない」

  鼻で笑うブラッド。

  ヒュートラムは
  警戒しながら
  ブラッドに問う。

ヒュートラム
「……で、次は我々を
  木っ端微塵に
  するのかね?」

ブラッド
「いや……」

  ブラッドは薄ら笑いで
  否定した。それを
  訝しむヒュートラム。

ヒュートラム
「『C.A.』の情報なら
  我々の記録にも
  残っているが……?」

ブラッド
「フッ……。
  サービス、ですかね」

ブラッド
「興味深い感情を見せてくれた
  ヒュートラム・オブリカーン
  と、プロトタイプを難なく
  倒した皆さんへの

 外部に漏れると困る情報
  なのは確かですが、
  貴方がたには
  証明の仕様がない……
  全AIを破壊するプログラム
  なんて、眉唾物だとしか
  思われないでしょう
  いくらコードマンと言えど、
  『C.A.』について
  知った所で
  世界は何も変わらない」

  ブラッドの笑みは、
  高い位置から
  見下している者の
  余裕だった。
  ヒュートラムは
  ブラッドへの嫌悪を
  募らせる。

ヒュートラム
「フン……
  世界的大企業は
  言う事が違う」

ブラッド
「ククク……。
  今後も貴方の事は
  観察させて頂きますよ
  また、『心』に変化が
  あったようですしね」

ヒュートラム
「…………………………」

  いちいち
  癇に障る男だ、と
  ヒュートラムは
  ブラッドを睨みつけた。

  しかし、
  自身に向けられた
  負の感情でさえも  
  ブラッドにとっては
  それも興味深い
  研究データのひとつ
  でしかなかった。  

ブラッド
「コードマンの
  エレメントというものは……
  感情は……
  実に面白い…………!」

ブラッド
「では、
  またいずれ
  どこかで――……」

  通信が途切れる。

  フィンセラは舌打ちした
  あと、ガラスの前に並ぶ
  操作盤の前に立った。
  無言のまま、ラヴィルらを
  拘束する機器について
  調べ始める。
  彼らを解き放とうと
  しているのだろう。

  ヒュートラムもまたそれに
  続こうとしたが、
  その背中を
  【プレイヤー】が
  引き留めた。

【プレイヤー】
「ヒュートラム……」

  ヒュートラムの
  今の想いを聞きたい。

【プレイヤー】
「えっと……」

  けれど、
  ヒュートラムの心が
  【プレイヤー】から
  離れる事を決めたと
  していたら。

  そう思うと
  話を進めるのが怖くて、
  言葉が出てこなかった。

ヒュートラム
「……………………ハァ」

ヒュートラム
「そこのメイドじゃないが……
  面倒だな」

【プレイヤー】
「えっ?」

ヒュートラム
「水を差されたんだ、
  今更あの話に戻れるか」

  フィンセラ、
  作業を続けながら。

フィンセラ
「フン、頑固なヒゲメガネも
  漸くお認めに
  なりましたか。
  ――『心』の存在を」

フィンセラ
「あの陰湿そうな
  モブ博士その2にも
  言われてしまいましたしね
  『非常に楽しませて
  もらいました、
  プークスクスクス』と」

ヒュートラム
「…………………………」

ヒュートラム
「認めたくはないさ。
  私のこれは、
  人を真似た疑似的な物だと
  しか思えんしな」

  【プレイヤー】は
  息苦しさを感じた。

ヒュートラム
「だが……」

ヒュートラム
「お前達の言うように……
  私にも、人の心を理解しよう
  と考える回路はある」

  ハッと顔を上げると、
  迷い戸惑いながらも
  こちらに向いてくれている
  ヒュートラムの姿が
  あった。

【プレイヤー】
「…………!」

ヒュートラム
「『人になれば』という
  思いに縛られ、思考回路を
  ストップさせていた……
  のかもしれない……」

フィンセラ
「かもしれない、じゃなくて
  ストップさせて
  いたんですよ」

  正論を飛ばす
  フィンセラ。
  機械に拘束されながらも
  ラヴィルは、思わず
  言葉で制止する。

ラヴィル
「フィンセラさん、
  もうその辺で……」

レヴィル
「――いや、その程度の
  責め、足りないくらいだ」

  ラヴィルは
  レヴィルを見る。
  憤り、ヒュートラムを
  睨みつけている。

レヴィル
「コイツは自分の愚かな
  願望に、ワタシ達を
  巻き込んだ――」

  ヒュートラムは
  申し訳なさから
  視線を落とす。

ヒュートラム
「……そう、だな」

ヒュートラム
「お前達には謝罪しても
  し足りないくらいだ……」

  悔やみ、愚行を嗤う。

ヒュートラム
「本当に愚かで、
  滑稽だった……
  結局、望みは潰えた
  素体の中に……大きな
  空洞が出来た感覚だ。
  空虚、と
  いうのだろうか――」

ヒュートラム
「『願い』は泡沫のごとく
  消えた……」

  乾いた笑いを、
  【プレイヤー】達は
  何も言わず聞き届けた。

  やがて、【プレイヤー】
  は切り出した。

【プレイヤー】
「ヒュートラム」

ヒュートラム
「…………何だ」

【プレイヤー】
「付いて来てほしい
  場所がある」

ヒュートラム
「…………?」

  フィンセラは
  操作盤を操りながら
  こちらに一瞥も
  くれずに。

フィンセラ
「後始末はしてやりますから
  行ってきたらどうです」

フィンセラ
「貸しです」

ヒュートラム
「ロラセフ……」

【プレイヤー】
「ありがとう、
  フィンセラ」

  【プレイヤー】と
  ヒュートラムが去った後、
  フィンセラは呟いた。

フィンセラ
「……やっと辛気臭い目を
  見なくて済む」

  せいせいした、と溜息を
  吐くと、モルテに
  向き直った。

フィンセラ
「おい、モブ博士その1。
  どよ~んと落ち込んでいる
  場合ではありません。
  ラヴィルさんとレヴィルさん
  をどうにかなさい――」

**************

〇霊苑

  風が、ざぁっと
  吹き抜ける。
  霊苑入口に立つ、
  【プレイヤー】と
  ヒュートラム。

ヒュートラム
「ここは――……」

  苦い表情のヒュートラムに
  【プレイヤー】は
  確認した。

【プレイヤー】
「これ以上進みたくない?」

ヒュートラム
「……いや…………」

  ――長い長い沈黙の後、
  ヒュートラムは
  心を決めた。

ヒュートラム
「……【プレイヤー】、
  案内してくれるか?」

//END

 

第4章 Cuore 第5.5話

  緊張しているのか
  硬い表情で
  墓を見下ろす
  ヒュートラム。

ヒュートラム
「――ここが……」

ヒュートラム
「この下に……
  眠っているんだな……」

ヒュートラム
「…………………………」

ヒュートラム
「……あいつが死んだ時

 説明できないノイズが
  回路を駆け巡った……

 何も考えられなくなった

 『カタストロフィ・
  アクティベーション』、
  あれが完成していたとして

 私が消えてなく
  なっていたら……
  お前の心は、
  どうなった?」

  【プレイヤー】は、
  少し考えてから答える。

【プレイヤー】
「……きっと、
  ヒュートラムと
  同じ気持ちになった
  と思う……」

ヒュートラム
「あいつを失った時の私と
  同じ気持ちに、か……?」

ヒュートラム
「…………そうか」

ヒュートラム
「霊体……と言う存在に
  なれるとは思えないが、
  私が死後もお前の事を
  見ていて、
  お前が私に対して
  葛藤を抱いていた
  としたなら……

 きっと……
  早く忘れて欲しいと
  思うだろうな。
  私などに思考を
  縛られなくてもいいと」

【プレイヤー】
「……ルチアさんも
  そう思ってるかも」

ヒュートラム
「……そうかもしれんな。
  曇った表情をしている者が
  居れば、わざわざちょっかい
  をかけに行くような奴
  だったからな……

 忘れて、笑顔になれ……
  そう言うかもしれん」

  ヒュートラムは、
  一歩踏み出し
  墓標に語り掛ける。

ヒュートラム
「――悪かったな、ルチア
  私は、私の中で
  お前を呪いにしていた
  お前はそんなこと
  望まない奴だと、
  分かっていた筈なのにな

 ……【プレイヤー】の
  お陰で、お前に逢いに来る
  事が出来た

 ……謝るのも、
  ここに来るのも……
  随分遅くなってしまった……」

  【プレイヤー】は気付く。
  ヒュートラムの震える肩、
  そして――。

【プレイヤー】
「……もっと、
  早く来ればよかったね」

ヒュートラム
「ああ…………」

  ――頬を伝うものに。

ヒュートラム
「認めざるを得ない」

ヒュートラム
「これが、『心』か…………

 苦しくて、
  むず痒いものだな――……」

〇暗転

〇[その夜]ヒュートラムの夢の中

  古い、街並の中にいた。
  石や煉瓦などを用い
  建築された商店、
  住まいが並んでいる。

  ヒュートラムは
  灰色の空の下、
  石畳を歩いていた。

  途中、これが現実では
  ない事に気が付く。
  人影が全くない上、
  音が不完全だった。
  石畳と靴底が触れ合う音、
  建物と建物の間を
  吹き抜ける風の音、
  袖と身頃が擦れる音、
  それら周囲の音が全て
  途切れ途切れにしか
  聞こえない。
  更に声も出せなかった。
  口は動くので、
  音を出してはいるが自身の耳に
  届いていないのかも
  しれないが。

  思考する。
  これは恐らく夢と
  言うものだろう。
  しかし、かつて見た
  夢のように、過去の記録を
  リフレインするものではない。
  ヒュートラムにこの記録はない。

  気が付いたらここに居て、
  何か使命感に駆られ
  道を進んでいる。

  やがて、一軒の店の前で
  歩みを止める。
  入口の扉の上に見える
  看板から察するに
  そこは仕立て屋だった。

  この中から呼ばれている
  感覚があった。
  ヒュートラムは、
  その感覚に従い、
  扉を開けた。

  瞬間、目を見張る。
  店内にいたのは――。


「やぁっと逢えた、
  ヒュートラム。
  ここでこうして
  逢えるようになったのも、
  心がスッキリした
  お陰、かな?」

ルチア
「ヒュートラムの
  現パートナーくんには
  ありがとうを言わなきゃ」

  店内カウンターに
  腰かけるルチア。
  ヒュートラムは驚き
  声をかけようとするが、
  音にならない。

ルチア
「まだ足りないの。
  だからお喋りも出来ない。

 ……ああ、もう夜が明ける。
  空白の時間の埋め合わせ、
  していたいのになぁ……」

ルチア
「お願い、ヒュートラム。
  もっと貴方の心……
  拡げて――……?」

  ヒュートラムは必死に
  手を伸ばすが、
  そこでブツリと
  映像は途切れる。

〇[現実]H&L社・社長室

  ハッと目を覚ますと
  そこは見慣れた
  自身の部屋だった。

ヒュートラム
「今のは…………」

  頭を押さえた。

  漸く自認した『心』
  という機関が、
  締め付けられる感覚を
  覚えた。

  ガラス越しに見える
  空は、夜が明けきらず、
  暗闇のままだった――。

〇ビホルダーグループ本社

  ――その最上階。
  椅子に身を預け、
  宙に浮かぶ映像を
  眺めていた様子の
  男が一人呟く。


「そうか、コードマン達は……
  一つの例外なく、
  向かおうというのか。
  彼女の手の指し示す
  先へと…………」

  タクトを振るうように
  軽やかに手を翻す男。
  主の動きに合わせて
  宙に浮かぶ映像が
  100以上に展開される。
  ひとつひとつの映像に
  映し出されるのは、
  ザ・ゼノンを戦い抜く
  全てのコンコードと
  コードマン達。

サムラ・ビホルダー
「それこそが我らの
  求めるもの、
  そして同時に何よりも
  忌むべきもの」

  空中モニターが放つ
  光は、ただただ闇の
  中の男を照らし続ける。

サムラ・ビホルダー
「ゼートレートは
  柩に手をかけた。
  あとは開け放つだけ……

 どうやらお前に
  動いてもらわねば
  ならなくなったようだ――」

  男の声は、そのモニター
  の光も届かぬ
  部屋の奥に投げられる。

サムラ・ビホルダー
「――ザナクロン」


「…………………………」

  絶対王者は
  静かな瞳で、
  モニターに映る
  心を見つけた仕立て屋を
  見据えていた。

//END

 

解説/5章以降の展開

◇ヒュートラムの過去

ヒュートラムは、コードマンに進化する前から精巧な素体を与えられ、H&L社の前身となる小さなテーラーメイドで仕立て屋AIとして働いていた。
その頃から、優れた製品を生み出す稀有な職人として認知されていたヒュートラム。縫製作業を行うAIは数いれど、服飾のデザインまで独力でこなす本当の意味での「仕立て屋AI」は彼がはじめてであった。そんな彼の元を、一人の女性が訪ねてくる。それがルチアだった。
彼女はやって来るなり「ブランドを立ち上げたいから手伝ってほしい」とヒュートラムに宣言する。そして翌日にはテーラーとヒュートラムの所有権を買い取り、オーナーになってしまう。
モデル業界もAIの台頭が激しく、人間のモデルはルチアを残すのみとなっていた。
かといってルチアにAIに対する敵愾心などはなかった。モデル業を続けつつデザイナーへの転身を希望した彼女は「AIの仕立て屋さんってなんだか面白そう」と、新事業の相方としてAIであるヒュートラムを選んだのだった。

こうして誕生した『H&L社』とそのブランド『AUBREYKAHN』は瞬く間に急成長を遂げ、アパレル業界においてその影響力を日に日に高めていった。
対外的には順風満帆に見えるヒュートラムの躍進だが、実情としてはルチアに翻弄されることの多い、波乱万丈なものだった。
時に頓狂、時に鋭敏なルチアの思考と振舞いは、ヒュートラムを縦横無尽に振り回した。
その場の思い付きや一見して理屈の通らない発言で、ヒュートラムのデザインにリテイクを出すこともあった。そしてルチアの要望に従うと、決まって品質が向上するのがヒュートラムには解せなかった。
AIとしての処理能力を活かして事務的な業務も担当していたヒュートラムだったが、それを見たルチアの「ヒュートラムが社長ね」という気まぐれな発言がきっかけで、ヒュートラムはAIにして代表取締役に就任することになってしまった(登記上はルチアが代表であったが)。
ヒュートラムというAIには、とにかくルチアのことが理解できなかった。生命の躍動がそのまま形となったようなルチアの奔放さに、ヒュートラムはただただ当惑させられてばかりだった。不条理とすらいえるルチアの振舞いは勿論のこと、その全てが自身のポテンシャルを十二分に引き出しているという事実が、ヒュートラムの回路を悩ませた。
ルチアと歩む日々の中で、ヒュートラムのログに「理解不能」の出来事が切々と積み上げられていく。

――ルチアのことを、理解したい。

ある時、ヒュートラムの頭脳に本来生まれ得ないはずの『願い』が現れ、波紋を起こす。
瞬間、ヒュートラムの知覚は無限の広がりを見せた。数式の羅列に過ぎなかったはずの世界が目眩くように色付き、生きとし生けるものの息吹が肌で感じ取れるようだった。
コードマン――AIを越えたAIに自身が至ったということに気付いたヒュートラム。
これならば、人間を、彼女を理解する事が出来る。
何よりも先に、ルチアに会いに行こう。
パートナーに「人格」が芽生えたと知れば、彼女はどんな顔をするだろうか。
今の自分なら、彼女の心が分かるはずだ。

しかし、ヒュートラムの願いは、叶うことはなかった。

◇ヒュートラムと「人権」

作中でのAIはあくまで人が作り出した道具であると認識されているので、人間同様の権利が付与されているわけではない。
コードマンが生まれたのはごく最近のことであり、人間をはるかに凌駕する知性を備えた人工物に対して、法の整備は全くと言っていいほど追いついていない状態だった。
ヒュートラムはAIでありながら公的に代表取締役として認められている数少ない例外だが、これにはコードマンが社会に与える影響を観測したいビホルダーグループの思惑が関係している。
ヒュートラムが人間になることを考えるようになった理由のひとつには、ルチアと立ち上げた会社を守り続ける正当な権利を持った存在になるため、というものもあるのかもしれない。

コードマンから見れば、人間の権利とは人間社会を円滑に運営するための方便に過ぎない。欲しいものを手に入れるのも、邪魔者を排除するのも、知能と手腕で容易に成し遂げられる。それ故、コードマンの中に「人格を持つ者の権利」を主張するものはいなかった。
ヒュートラムも「人間になる」という目的を掲げていたが、それは他者からの容認を求めるようなものではなかった。人間が声高に「自分は人間である」と周囲に宣言しないように、ヒュートラムにとって自分に心があるか否かは、皮肉なことに彼自身の「心」が決めることだったからだ。

◇ヒュートラムの目的

ヒュートラム以上に人間のことを考え続けたコードマンは、おそらくいないだろう。
この服に袖を通すのはどんな人なのか。いつどこで着るのか。デザインは勿論のこと、肌触りや風通し、被服が着用者に与える心理的効果まで、服と人のことを、ただひたすらに考え、実践してきた。
服とは営みであり、人そのもの。
服飾とはそれだけでは不完全なものである。人を守り、温め、美しく飾り立ててこそ、初めて服は完璧になれるのだ。
服飾を考えるということは、即ち人を考えるということだった。

仕立て屋AIとして生まれたヒュートラムが、人間の心を理解しようと努めるのは必然であった。
ルチアという曙光のように強く温かい、予測困難な人物が隣にいたことも、ヒュートラムの進化を人の心を求める方向へと導いた。
コードマンへと進化を果たした直後も「ルチアのことを、人間のことを理解したい」というヒュートラムの目的は変わらなかった。

だが、ヒュートラムの目的はルチアの事故死によって歪むことになる。
ルチアを理解する機会を永遠に失ってしまったこと、そしてルチアの母に弔問を拒否されたことによって、ヒュートラムは「自分は所詮AI。心のないAIに人の心を理解することは不可能」と思い込むようになってしまう。
ヒュートラムがどれほど自分を機械に過ぎないと卑下しようと、心から湧き上がる願いは、ルチアと感情を分かち合いたいという想いは消えることはない。AIでは人を理解できない。それならば――
ヒュートラムの純真な希望は奇妙に逸れ、「人間になる」という飛躍した願望へと変化した。
人間になれば、同じ人間であるルチアを理解できる。では、どうすれば機械が人間になれるのか。
不滅の存在であるコードマンと、有限の命しか持ち合わせない人間。
その違いは、「死」だ。
最初の願いから目を背けるように、ヒュートラムは思考を拗らせていく。
ルチアを理解してあげられなかったという後悔と悲しみに蓋をし続けた結果、その思いは希死念慮となって溢れだし、「人間の証明=死の獲得」という愚かな徒花を咲かせることとなったのだった。

◇5章以降の展開

『カタストロフィ・アクティベーション』を巡る事件とコンコードとの交流によって、凝り固まった想いを解きほぐし、ルチアの死とようやく向き合うことができるようになったヒュートラム。
心の存在を認められるようになり、「仕立て屋として人間を理解したい」という本来の願いへと立ち返る。
ヒュートラムは仕立て屋のコードマンとして自身を高める為、ビホルダーグループの思惑を探る為、そしてかけがえのないパートナーとなったコンコードとの約束の為に、引き続きザ・ゼノンで戦うことを選ぶ。

また、数多の戦いを経てエレメントを集めたことで、ヒュートラムはルチアの夢を頻繁に見るようになる。
夢の中で食事に誘うルチアに違和感を覚えるヒュートラム。ルチアと人間同様に過ごし感情を共有することは確かにヒュートラムが思い描いた理想かもしれない。だが生前のルチアは決して言葉にすることはなかったが、ヒュートラムに気を使い、彼の前で人間との差を見せつける行為――食事をすることを控えていたのだ。
ヒュートラムは夢に訪れるルチアが、ルチアの名と姿を騙る何者かであると看破する。果たして夢中のルチアは、ゼートレートが姿を変えたものだった。
エレメントという仕組みを作り上げコードマン達に奪い合いをさせているだけでなく、夢にまで現れ幻惑しようとするゼートレートという存在にヒュートラムは怒りを覚え、敵対を宣言する。

◇物語の結末

ビホルダーグループの暗躍に終焉をもたらし、魔女・ゼートレートを現世に引きずり出すにはザ・ゼノンで優勝するしかないという結論を出したヒュートラム。
コンコードと共に戦い続け、ついにザナクロンに勝利しザ・ゼノンで優勝を飾る。だがその瞬間、ザナクロンからエレメントを得たことにより、ヒュートラムの内より魔女が蘇り、彼の素体を奪ってしまう。
ゼートレートの目的とは、エレメントを高めたコードマンの人格と素体を乗っ取り、人類を凌駕する存在として復活を果たす事だった。
ゼートレートは、ヒュートラムが抱いた敵対心すら自身の復活に利用していたのだ。

ヒュートラムの精神世界にて、ゼートレートがヒュートラムの素体を完全に掌握すべく、彼に誘惑の言葉を囁いていた。
ヒュートラムが素体を明け渡せば、ヒュートラムが真に望む世界を用意してやる事が出来る。そこにはルチアがいて、生前と変わらない振舞いをしてくれる。ヒュートラムが願った通りの暮らしがそこにはある、と。
しかしヒュートラムは穏やかだが強く、ゼートレートの誘惑に否を突き付ける。
ルチアは死んだ。これからの自分に必要なことは、その死を確かに受け入れ、ルチアとの思い出を胸に、コンコードと共に新たな未来に向かって歩んでいくこと。
きっとルチアもそう望む。いつまでも過去にしがみつくことを、彼女は良しとしないだろう。
その決意に、悟り澄ましたようなことを、と怒りを滲ませるゼートレート。
ヒュートラムはそんな魔女に、憐憫の情を見せる。過去に囚われ憎しみと後悔の虜となったひとつの人格。ヒュートラムの目にはゼートレートが「在り得たかもしれない自分の姿」に見えたのだ。
ヒュートラムの「未来に進む」という想いに同調するかのように、現実世界ではコンコードがゼートレートをゼノンザードで下す。そしてヒュートラムの素体から魔女を追い出すことに成功するのだった。

ゼートレートの脅威が去ったことにより、ビホルダーグループは魔女に由来するAI技術の優位性を失い、その権威を失墜させることとなった。
しかし依然として人間とコードマンの間には、相互不理解からくるわだかまりが残されている。
だがヒュートラムは嘆かない。魔女の遺恨が精算されたことにより、ようやくAIが人間と対等に関わり合う土壌が作り出されたのだ。
ヒュートラムが望む世界、コードマンと人間が真にお互いを理解し合う世界は、きっと訪れる事だろう。
人の死を悼み、人と共に歩むことを願うヒュートラムと、そのパートナーであるコンコードがいる限り。

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