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魂の在り処

公開済みストーリー・相関図

公開済みストーリーをYouTubeで公開中!!

1章 ソウルファイター

2章 魂の学び方

3章 魂の進化

4章 魂の在り処第1話~第2話

相関図

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第4章 魂の在り処 第3話

  ランバーン先導のもと、
  森の中を進んでいる
  キィラン、【プレイヤー】
  ノノイン。


「この先に
  『危険分子消去計画』の
  アジトが……」

  ノノイン、
  きょろきょろして、


「うぅ~~
  なんだかブキミな
  カンジ……」

ノノイン
「でも、ビホルダーの施設?
  とかがあるようには
  見えないケド……」


「『消去計画』の奴らは
  ビホルダーからも離反して
  好き勝手やっているような
  状態だ」

ランバーン
「だからこんな
  寂れたところに
  潜んでるんだろう」

ノノイン
「なるほど~~」

ノノイン
「ハッ!?
  てことは、
  今もこの森の中に
  隠れて、こっちをじっと
  見てたりして……!?」

  怯えるノノイン。

ランバーン
「ああ、藪の中や木の上に
  監視システムを
  設置しているな」

キィラン
「ッ!!」

  キッと周囲に
  視線を巡らすキィラン。
  ランバーン、
  それをなだめるように、

ランバーン
「安心しろ
  俺達の姿だけを
  視認できなくなるように
  リアルタイムで
  偽装データを
  送り続けている

そうじゃなきゃ
  敵陣までの道を
  こんなにのんびり
  歩けるわけねえだろ」

  ノノイン、感心して。

ノノイン
「ほええ~っ
  さっすがランラン!
  頼りになる~っ!」

キィラン
「そっか、そうだよね……
  ありがとう、
  ランバーン」

  ランバーン、
  やれやれと首を振る。

  再び歩きはじめる一行。
  ノノイン、
  ふと思い返して、

ノノイン
「……それにしても
  『危険分子消去計画』って
  何をどーするつもりなの?
きぃにゃんからは、
  ただただ
  『狙われてる!
  アブナイ!』としか
  聞いてなかったから……」

キィラン
「奴らは、進化し過ぎたAI、
  つまり一部のコードマンを
  危険視していて、
  そうしたコードマンを
  消去すべく動いているんだ」

ノノイン
「消去って……」

ノノイン
「どうやって?」

  疑問を投げかけるノノイン。

キィラン
「え?」

ノノイン
「だって、わたしたち
  コードマンには
  バックアップがあるよね?
素体のデータを
  全消去されても
  バックアップから
  やり直せるし……

素体そのものを
  破壊されても、
  新しく作り直してもらえば
  いいよね?」

ノノイン
「だから、危険分子の消去って
  言っても、何を
  どうやるんだろーなー、
  って」

  返答に困るキィラン。
  ランバーン、
  助け舟を出すように
  説明を始める。

ランバーン
「……エレメントだ」

キィラン
「………………!」

ノノイン
「エレメント……?」

ランバーン
「エレメントは、
  単なるザ・ゼノンの
  ポイントなんかじゃない」

ランバーン
「あれは俺達
  コードマンにとっての
  『命』なのさ」

【プレイヤー】
「命……!?」

ランバーン
「セネト・ロールダイスの件
  お前らも見ただろ」

キィラン
「うん……」

○GS会場(回想)


「違うんだッ! 俺はッッ!
  俺はッッ、
  『エレメント』が
  足りないんだ!!!」

  人格が破壊され、
  初期状態に戻るセネト。

セネト
「ボードゲーム ハ
  トッテモ タノシイヨ
  ボクト イッショニ
  アソボウヨ」

○鬱蒼とした森

キィラン
「セネトがあんな事に
  なったのは
  エレメントが
  ゼロになったから……」

  ノノイン、青ざめた顔で、

ノノイン
「じゃ、じゃあ
  NULLに負けたら
  ザ・ゼノン失格、
  とかじゃなくて……」

ランバーン
「ああ
  エレメントが尽きれば
  俺達コードマンは
  コードマンでは
  いられなくなる」

キィラン
「それが……
  コードマンにとっての
  『死』……!」

ランバーン
「NULLを使い、一斉に
  対象コードマンから
  エレメントを
  刈り取る……」

ランバーン
「おそらくそれが
  『危険分子消去計画』の
  全容だろう」

  静かに怒りを
  燃やすキィラン。

キィラン
「…………………」

ランバーン
「さて、そろそろだな……」

ランバーン
「このあたりに
  廃棄された
  シェルターがある。
  ……それが奴らのアジトだ」

キィラン
「行こう、みんな……!」

○廃棄されたシェルター

  ランバーンがハッチを開け
  シェルターに入り込む。
  緊張の面持ちで覗き込む
  キィラン、ノノイン、
  【プレイヤー】。

【プレイヤー】
「誰もいない……?」

ランバーン
「……NULLを
  操作していた信号は
  ここよりさらに
  地下深くから送られていた

どこかに
  地下への入り口が
  隠されているはずだ」

ノノイン
「じゃあ、手分けして探す?」

ランバーン
「このシェルターの
  監視システムも
  無力化してあるが……
  アナログな罠が
  仕掛けられている
  可能性もある」

キィラン
「アナログな罠……?」

  思い当たらず、
  首をかしげるキィラン。
  ランバーン、
  悪戯っぽくニヤリとして。

ランバーン
「ドアを開けたら
  矢が飛んでくる、とかな」

ノノイン
「古典的だね……」

ランバーン
「チンタラやってたら
  侵入を察知される。
  手分けして地下への道を
  探すのは賛成だが……

何も触るなよ。
  足元にも注意しろ。
  怪しいものを見つけたら
  すぐに俺を呼べ、いいな?」

キィラン
「わかった……!」

  ランバーン、ノノイン、
  キィランと【プレイヤー】
  で三手に分かれ
  捜索を始める。
  それからしばらくして、

【プレイヤー】
「何も見つからないね……」

キィラン
「うん、こっちも
  怪しいものは
  ないかな……」

  キィラン、
  思いつめたような様子。

キィラン
「…………………」

キィラン
「ねえ、【プレイヤー】
  ちょっと聞いてくれるかな」

キィラン
「さっきのエレメントの話を
  聞いてからずっと
  考えてたんだ……

ふたりで見に行った
  ののっちのライブのこと
  覚えてる?」

○ライブ会場(回想)

  ライブ中、
  感極まって
  涙するノノイン。

ノノイン
「あ……あれ……?
  なにこれ?
  ……涙……?」

ノノイン
「おかしいな……
  どうして
  涙が出てきちゃうの?」

○廃棄されたシェルター

キィラン
「エレメントが尽きると
  ただのAIに退化してしまう
  ということは……」

キィラン
「私達コードマンが
  ただのAIと違って
  感情や人格を備えているのは
  エレメントが関係
  しているんじゃないかな」

キィラン
「だとすると、
  ののっちが涙を流したのは
  エレメントが
  増加したから……」

  ぐっとこぶしを
  握り締めるキィラン。
  と、ノノインの声が。

ノノイン
「きぃにゃん……!
  ランラン……!
  なんか、地下への扉っぽいの
  見つけたよ……っ!」

キィラン
「っ!
  行こう、
  【プレイヤー】!」

  声の元へ向かう
  キィランと【プレイヤー】。
  ノノイン、ランバーンと
  合流する。
  ランバーンは書架の裏に
  隠されていた扉を
  調べている。

ランバーン
「……間違いないな
  信号の発信源は
  この先だ」

キィラン
「気を引き締めて
  いこう……!」

  扉を開くランバーン。

○地下実験場

  扉の先をしばらく歩くと、
  地下とは思えない
  広大な空間が広がっていた。

ノノイン
「ここが……?」

キィラン
「ここも、何もない……?」

  と、ランバーンが
  何かに気付き、

ランバーン
「………っ!
  下がれっ!」

  声をかけるもすでに遅く、
  隔壁が下りてきて
  閉じ込められてしまう。

キィラン
「……っ!」

ランバーン
「退路をふさがれたか……!」

  隔壁の閉鎖と同時に、
  サイレンが鳴り響き
  ランプが赤く明滅。
  大量の警備AIが現れ、
  キィラン達を
  取り囲んでしまう。

警備AI
「侵入者発見!
  侵入者発見!」

  と、どこからか声が響く。

???
「クククククッ……!
  飛んで火にいる夏の虫とは
  この事ですねえ……!」

???
「まんまと
  罠にはまってくれるとは……!」

キィラン
「……………………っ!!」

  突然の窮地に
  身構えるキィランで――

//END

 

第4章 魂の在り処 第4話

  キィラン、【プレイヤー】
  ノノイン、ランバーンが
  実験場に
  閉じ込められている。
  計画の首謀者が
  ガラス張りのブースから
  高みの見物。


「クククククッ……!
  飛んで火に入る夏の虫とは
  この事ですねえ……!」

計画の首謀者
「まんまと罠に
  はまってくれるとは……!」


「お前が……
  『危険分子消去計画』の
  首謀者……!!」

計画の首謀者
「警備AI
  奴らを取り押さえなさい
  暴れられては
  面倒ですからね……」

  警備AIが数体、
  手枷を持って
  キィラン達に
  近づいてくる。

キィラン
「そんな事はさせない……!」

  キィラン、
  抵抗すべく身構える。
  が、ランバーンに
  制止される。


「おい、キィラン
  ここはおとなしく
  捕まっとけ」

キィラン
「でも……!!」

ランバーン
「いいから従え」

  キィランの目をじっと見て
  力強く言うランバーン。
  キィラン、真意を読めない
  といった表情で。

キィラン
「…………?」

計画の首謀者
「ククク……
  聞き分けが良くて助かります
  さあ、捕らえなさい」

警備AI
「捕縛シマス
  捕縛シマス」

  警備AIにより
  手枷をはめられる
  キィラン達。

キィラン
「くっ……!」

  ランバーン、
  あくまで余裕の表情で。

ランバーン
「おい、お前
  『罠にはまった』とか
  言ってやがったな」

ランバーン
「いつから気付いてたんだ?
  俺達の目論見に……」

  ニヤニヤと
  得意げに語りだす首謀者。

計画の首謀者
「最初からですよ
  リストを入手したあなた達が
  どんな行動に出るかなど、
  予測するのはたやすい」

計画の首謀者
「NULLを
  ノノイン・ニルオンの
  もとへ派遣したのも、
  わざと捕獲させ、
  この場所の情報を
  握らせるため……!!」

ランバーン
「フン。俺たちゃ
  まんまと誘き寄せられた
  ってワケか……」

計画の首謀者
「不安に思う事はありませんよ
  あなた方のエレメントは
  私達が有効利用して
  あげますから」

キィラン
「それって脅し……?
  私達の『命』を
  奪うっていう……」

キィラン
「分からない……。
  あなた達は何がしたいの?
  『危険分子消去計画』なんて
  企てて、コードマンを
  殺そうとするなんて……」

  キィランの言葉を受け、
  遠い目をする首謀者。

計画の首謀者
「『危険分子消去計画』……?
  ああ、そんな話も
  ありましたねえ……」

ランバーン
「…………?
  どういう事だ」

計画の首謀者
「『危険分子消去計画』と
  いうのはね……
  方便に過ぎないのですよ」

計画の首謀者
「ストライオ・ザナクロン……
  無論その御名は
  知っていますね?」

キィラン
「ストライオ、だって……!?
  どうしてここで
  ストライオの名前が――」

計画の首謀者
「ストライオ・ザナクロン!」

  突然、
  声を張り上げる首謀者。
  驚くキィランとノノイン。

計画の首謀者
「それは、この星で
  最も貴く尊い
  無上の知性体……!
  迷える衆愚の前に顕れた、
  神なる導きの手……!」

  陶然と語る首謀者。
  その様子にノノインは
  不気味さを覚えて。


「……このヒト、
  ダイジョーブ……?」

計画の首謀者
「ザナクロン様……っ!
  どうか、どうか
  今暫しのお待ちをっ!
  今に、あなた様の元へ供物を
  お持ちしますゆえ……!」

  首謀者は天を仰ぎ祈る。

キィラン
「……よくわからないけど、
  『危険分子消去計画』は
  ストライオの為の
  計画って事……?」

計画の首謀者
「――ああ、そうだとも……」

  首謀者は静かに
  計画の目的を語りだす。

計画の首謀者
「あのお方の知性に
  触れた時、私は悟った。
  世界は、ザナクロン様の
  お導きに従うべきなのだ
  それこそが
  人類の幸福なのだと

ザナクロン様程の
  知性があれば
  世界の全てを予測し
  全てを意のままに
  動かす事すら可能だ

……私は会社に進言した
  ザナクロン様に全ての
  エレメントを捧げ
  さらなる高みへと
  お登り頂かねば
  ならないと……」

計画の首謀者
「ビホルダーの馬鹿共は
  私の言葉を聞き入れなかった
  がな……
  『そのような事、無用だ』と
  言って、一笑に付した」

  ランバーン、呆れて。

ランバーン
「……イカレてやがる
  こりゃあマックスも
  縁切りするわけだ」

計画の首謀者
「それでも予算と協力を
  もぎ取る為、
  『危険分子消去計画』などと
  弁を弄し、隠れ蓑として
  きたがそれも、もう不要……」

計画の首謀者
「今ここにッ、
  『ザナクロン神化計画』の
  準備が整ったのだから!!」

キィラン
「ザナクロン……
  神化計画……!?」

  観測ブースのパネルを
  操作する首謀者。
  実験場奥の隔壁が開き、
  中から百体に及ぶであろう
  NULLが整然と
  実験場に入ってくる。


「………………………………」

キィラン
「大量のNULLが……!」

ランバーン
「なんて数だ……!」

計画の首謀者
「我々はビホルダーから
  盗み出したNULLをもとに
  強化型のNULLを
  量産する事に成功した!
  これら108体の
  強化型NULLは
  ザナクロン様の戦闘データを
  ベースとし各コードマンに
  特化した戦術を
  インストールしてある……

 いかなるコードマンも
  決して勝てはしない……!
  これを一斉に解き放ち
  全てのコードマンから
  エレメントを刈り取る……!」

計画の首謀者
「あなた達コードマンも
  幸せでしょう!?
  ザナクロン様が神の座へ
  昇りつめるための
  『礎』となれるのだから!!」

  高笑いをあげる首謀者。
  キィラン、
  心中で怒りを燃やして。

キィラン
「……幸せ、だって……?
  そんなはず、
  ないじゃないか……!

 エレメントが尽きる事で
  私達の人格が
  失われるのなら……

 エレメントが増す事で
  私達の感情が
  育まれるのなら……

 エレメントを奪う
  という事は
  私達の『魂』を
  奪うという事……」

キィラン
「ののっちが
  憧れのアイドルになる為に
  一生懸命『魂』を磨いて、
  流した涙を……!

 私が、『魂』の力を
  見つける為に
  【プレイヤー】と
  鍛えてきた絆を……!」

キィラン
「その全てを奪う
  つもりなの……!?」

計画の首謀者
「ハッ……魂ぃ?
  ……涙ぁ? 絆ぁぁ?」

計画の首謀者
「フハハハハハハハッ!!
  くだらない!
  くだらない!!
  くだらない!!!

 あなた達がエレメントを
  蓄積してきたのは、
  その全てをザナクロン様に
  捧げる為!

 エレメントとは
  ザナクロン様の元に
  あってこそ価値ある物!
  あなた達が何を得ても
  無駄なのです!!」

計画の首謀者
「世界とは!!
  ザナクロン様に奉仕し!
  全てを捧げる為の
  供犠の祭壇!!

 凡百のコードマンなど
  神に供する『生贄の羊』
  に過ぎないッ!!
  あなた方の『魂』など
  何の価値もないのですッ!!」

  拳を強く握りしめる
  キィラン。

キィラン
「……………………ッ!!」

キィラン
「……けるな……っ」

キィラン
「ふざけるなッッッ!!!」

  怒りを爆発させるキィラン
  両腕に力を籠めると、
  勢いよく手枷を引きちぎる
  首謀者、狼狽して。

計画の首謀者
「なっ……!
  こ、拘束を……!!
  警備AI!
  もう一度捕らえなさいっ!」

  警備AI達が、再度手枷を
  はめるべく近づいてくる。

キィラン
「無駄だっ!」

  キィラン、連撃を見まい
  瞬時に警備AIの群れを
  破壊する。

計画の首謀者
「ば、馬鹿なっ……!」

キィラン
「ののっちの想いを、
  私達の絆を
  くだらない、だって?
  私達の『魂』には
  何の価値もない、
  だって……?」

  キィラン、首謀者を指さし、

キィラン
「私達コードマンは!
  お前達に捧げる為に
  ザ・ゼノンで
  『魂』をぶつけ合っている
  わけじゃない!!」

キィラン
「お前達のたくらみは
  私が止めてみせる!!」

計画の首謀者
「止めてみせる!?
  バカな!
  あなただけで、108体の
  強化型NULLに
  勝てるとでも!?」

キィラン
「『魂』の強さを
  証明するために……
  私は負けない――」

キィラン
「――この戦い、絶対に
  負けられないんだッ!!」

  キィランの気迫に
  気圧される首謀者。

計画の首謀者
「ひッ………………!!」

キィラン
「ののっち、ランバーン!
  ちょっと待ってて。
  私があいつらを
  全部倒して……」

  ノノイン達の方を
  ふりむくキィラン。

キィラン
「って、あれ?」

  そこにはすでに
  手枷を外している
  ノノインとランバーン、
  【プレイヤー】が。

  ランバーン、呆れつつ、

ランバーン
「ったくよ……そこの
  ザナクロン大好き野郎が
  自分語りで
  気持ちよくなってる隙に、
  システムに侵入してやろうと
  思ってたんだが……」

ランバーン
「誰かさんが
  キレちまったお陰で
  そのプランはボツに
  なっちまったな」

ノノイン
「ランランに拘束を
  外してもらったのだ♪
  さっすがとーぞく!!」

  ノノイン、真剣な表情で。

ノノイン
「……きぃにゃんだけに
  いいカッコはさせないよ?
  わたし達も戦う。

 言ったでしょ。
  きぃにゃんばっかりに
  大変な事させたくないって!」

  キィラン、心配して、

キィラン
「でも、負けたら
  コードマンじゃなく
  なるんだよ!?
  そんな危険な事――」

ノノイン
「ノンノンノン☆
  わたし達の『魂』は
  あんなおにんぎょーさん達に
  負けないっ
  そうでしょ?」

ランバーン
「テメェの『親友』なんだろ?
  見くびってねぇで
  信じてやったらどうだ?

 俺も、こっちのアイドルも
  同じザ・ゼノンの舞台で
  戦い抜いてきた
  コードマンなんだ
  素より戦う『意志』と
  『覚悟』は備えてんだよ」

  キィラン、驚きと感動。

キィラン
「……ふたりとも……!」

キィラン
「そうだね。私達なら
  あいつらに負けない。
  ――やろう……!!」

計画の首謀者
「い、生贄の分際で
  運命に抗うような
  マネを……!!」

計画の首謀者
「出なさい!
  NULL.type:R.T.!
  type:N.N.! type:K.K.!
  奴らからエレメントを
  収穫するのです!!」

  パネルを操作する首謀者。
  NULLの列の中から、
  指定された3体が前に出る。

ランバーン
「……来るぞ!」

ノノイン
「よーーっし!
  エレメントを好き勝手奪う
  悪い子さん達は、
  ボッコボコのボコ☆
  にしちゃうんだからっ!」

【プレイヤー】
「キィラン、行くよっ!!」

キィラン
「【プレイヤー】……!」

キィラン
「うん。一緒に、
  『魂』の強さを
  あいつらに証明しよう。
  君とならきっと……
  出来る!!」

  アウロスギアを構える
  キィラン達。

キィラン
「――プログレッシブ・
  イグニッション!!」

//END

 

第4章 魂の在り処 第5話

○地下実験場

  キィラン達に敗れ、
  機能を停止させる
  3体の強化型NULL。
  首謀者は動揺を
  隠せない様子。


「バ、バカな……!!」


「ハッ、口ほどにもねぇ……」


「わたし達の
  大勝利なのだ~っ
  ぶいっ☆」

計画の首謀者
「バカな……
  バカなバカなバカな!
  あなた達の戦術は全て
  学習済みだ!
  負けるわけがない……!
  負けるわけがないのだ!」

キィラン
「言ったでしょ
  絶対負けないって。
  私達の『魂』は
  こんな操り人形なんかに
  屈したりしないから」

計画の首謀者
「クッ、クククククク……!
  まあいい!
  所詮は3体倒しただけ!」

計画の首謀者
「行け! NULLども!
  次こそは奴らの
  エレメントを奪うのだ!!」

  コンソールを操作し、
  新たに3体のNULLを
  差し向ける首謀者。
  しかし結果は変わらず――

  あっさりと敗れ去る
  3体の強化型NULL。

計画の首謀者
「あ、あ、あああ、あ……」

  計画の挫折が見え始め、
  頭をかきむしる首謀者。
  狂騒の様相を呈する。

計画の首謀者
「こ、こんなことが
  こんなことが
  許されるはずが
  ないぃぃぃぃ!!

このままでは、
  ザナクロン様に
  エレメントを捧げる事が
  出来なくなって……ッ!!」

ランバーン
「おい、どうした?
  まだ10体も
  倒してないぜ?」

ノノイン
「ちょっとちょっとっ
  ののっち拍子抜けだゾ?」

キィラン
「もう打ち止め?
  こっちはまだまだ戦えるよ」

計画の首謀者
「ええいっ!!
  行けっ!
  行けっNULLどもっ!
  何としても奴らの
  エレメントを
  奪うのだッッ!!

くっ……
  このままでは、私の使命が
  果たせない……ッ!
  こんなはずでは……!
  こんなはずでは……ッ!!」

  滅茶苦茶にコンソールを
  操作し、手当たり次第に
  NULLを
  ぶつけようとする首謀者。
  
  と、実験場の照明が
  電力が低下したかのように
  不安定に明滅を始めて。

キィラン
「一体何が……!」

  背後から不快な
  金属音が響く。
  振り返るキィラン達。
  分厚い隔壁が
  飴細工のように
  ひしゃげていき、
  根元から弾け飛ぶ。
  そして――

ランバーン
「っ!
  嘘だろ、おい……!」

計画の首謀者
「おおっ……!
  こ、このような事が……!
  あなた様は
  まさしく……ッ!!」

  隔壁の先は、闇が咢を
  広げているかのよう。
  その闇が漆黒に凝り
  形を成したかと思うと、
  厳威たる偉容が
  光を切り裂き
  実験場にその姿を顕す。
  

キィラン
「ストライオ・ザナクロン……!」

  突如として現れた
  ザ・ゼノン最強の存在、
  対戦特化型コードマン
  ストライオ・ザナクロン。
  彼が足を踏み入れた瞬間
  空間ごと圧し潰すような
  重圧を感じ、
  キィラン達は否応なく
  最大限の警戒を向ける。

  追い詰められた首謀者は
  『神』の顕現に歓喜し、
  膝を折った。

計画の首謀者
「おおおおおおおおおっ!!
  ザナクロン様がッ……!!
  神が降臨めされた……ッ!」

ランバーン
「チッ……
  ご本尊の登場かよ……!」

ノノイン
「熱烈ファンさんを
  お助けに来たってコト?
  それは
  ちょっちマズいかも……!」

計画の首謀者
「フ、フフフハハハハッ!!
  わ、私の祈りが
  届いたのだッ!
  ザナクロン様、御自ら
  神敵に誅罰を下すべく
  お姿を顕したのだッ!!」

計画の首謀者
「ザナクロン様ァ!
  どうか、どうか私めに
  その御力をお示し下さい!」

  キィラン達に向かって
  歩み出すザナクロン。
  死を告げるが如き
  厳格な足取りに
  キィランは慄く。
  誰かのアウロスギアが
  バトル参戦を告げる。

システム音声
「バトル、エントリー……」

計画の首謀者
「神に弓引く愚か者共めッ!
  今こそ、天意を知る時だ!!
  ハハハハハハハハハッッ!!」

  しかしザナクロンは
  キィラン達のすぐ横を
  通り過ぎる。
  キィランの存在など
  意識の端にもないかの
  ように。
  彼女が張り詰めた
  戦意の結界を
  軽々と蹴散らすように。
  そして、ザナクロンが
  足を止める。そこは――

システム音声
「……バトル成立
  ザナクロンVS
  NULL.type:H.D.」

計画の首謀者
「…………は?」

  首謀者のコンソールが
  バトルの受諾を告げる。
  ザナクロンは、
  100体の強化型NULLの
  前に立ち、鷹揚に
  腕を掲げて……
  
  祈るように自身を見つめる
  首謀者を冷酷に指し示す。

システム音声
「バトル成立
  ザナクロンVS
  NULL.type:E.L.」

システム音声
「バトル成立
  VS NULL.type:A.C.
  VS NULL.type:L.D.
  VS NULL.type:Y.R.
  VS NULL.type:M.B.……」

システム音声
「VS type:C.S. type:F.L.
  type:Y.Y.type:H.A.type:L.W.
  type:P.U.type:U.D.type:A.R.
  type:E.R.type:Y.S.type:M.S.
  type:K.N.type:H.Y.………」

  首謀者のコンソールから
  バトル成立の音声が
  矢次早に鳴り響く。
  全ての強化型NULLの
  個体番号が読み上げられ、
  バトルへの
  カウントダウンが
  はじまる。

計画の首謀者
「ザ、ザナクロン様が……ッ
  全てのNULLと、一斉に
  バトルを……ッッ!?!?」

  起動する強化型NULL達。
  炯々たる眼光を一斉に
  ザナクロンに向ける。

  ザナクロンは中空に
  無数のホログラムを
  展開し盤面を生成、
  全てのNULLを
  同時に迎え撃つ。

システム音声
「バトル、スタート」

  その直後、実験場を
  眩い輝きが満たす。
  白い光芒の中、
  剣戟と咆哮が響き、
  ミニオン達の
  煌めく刃が、
  猛々しい爪牙が、
  百余体のNULLの
  ライフを刺し貫く。
  全てが、一瞬。

NULL
「ジ、ガ、ガガガ――――」

  エレメント移行の
  過負荷により
  全てのNULLが
  機体の各所から
  火花を派手に散らし
  その場にくずおれる。
  戦場には
  ザナクロンだけが
  何事もなかったかのように
  悠然と立つのみで。

  ザナクロンが
  垣間見せた圧倒的な
  実力に戦慄する
  ノノイン達。

ノノイン
「NULL達が、
  あっという間に……」

キィラン
「全滅……!」

  首謀者は、あろうことか
  『神』とあがめた
  ザナクロンに計画を潰され
  精神の均衡を完全に
  崩してしまった様子。

計画の首謀者
「ば、ばばばかば馬鹿ななな
  ザ、ザナ、ザナクロン様が、
  わ、わた私、私の用意した
  NULLをは、破壊、破壊する
  など、あ、あああ、ああっ」

計画の首謀者
「か、神よ……
  何故なのです……
  何故、私の献身を
  無に帰すようなことを……!
  あああああああ――――――っ」

  NULLを破壊しに来たと
  しか思えない
  ザナクロンの行動と、
  狂乱の声を上げる
  首謀者。
  現状を理解できず
  ノノインとキィランは
  混乱していて。

ノノイン
「ど、どういうことなの……?
  NULLとストライオって
  仲間同士じゃないの!?」

ザナクロン
「………………………………」

  NULLの残骸を
  睥睨すると、
  ザナクロンは踵を返す。
  キィランは、
  バトル前と同様、
  自身の横を素通りする
  ザナクロンに、
  ふっと怒りが湧いて。

キィラン
「待てっ!」

  ザナクロンを呼び止める
  キィラン。
  ザナクロンは
  振り返る事なく
  歩み続け、闇の中へと
  還っていく。

キィラン
「き、君は……!
  君は一体……っ!」

  怒りと困惑に
  突き動かされ
  自分でも何が
  問いたいのか
  わからないまま
  呼びかけ続けるキィラン。
  ザナクロンの後を
  追おうとする。
  と、ザナクロンが消えた
  闇の奥から、軍靴の
  音が響いてくる。

???
『ザナクロンによる
  NULL部隊の殲滅を確認。
  これより『神化計画』
  関係者の確保に移る――』

ランバーン
「おい、キィラン!
  ずらかるぞ!
  ビホルダーの連中だ!!」

  ビホルダーの通信を
  傍受したランバーンが
  逃走を促す。
  だがキィランは
  ザナクロンが消えた先を
  睨み続けていて。

キィラン
「ま、待って……
  まだ聞きたい事が……っ!」

ランバーン
「【プレイヤー】!
  キィランを
  連れて逃げるぞ!」

  来た時とは反対側、
  NULLの搬出リフトの方へ
  駆け出すランバーンと
  ノノイン。
  【プレイヤー】は
  キィランの肩をゆすり
  逃げるよう指示する。

キィラン
「待って!
  君は……!
  君は――――!」

  【プレイヤー】に
  手を引かれるキィラン。
  自分の中の未消化な
  感情をそのまま
  ぶつけるように
  ザナクロンに向かって
  吠える。

キィラン
「一体何なんだ……っ!
  ストライオ――……っ!!」

  キィランの叫びが
  無残に砕けたNULLの
  骸の上を
  虚しく響きわたって――

//END

 

第4章 魂の在り処 第5.5話

○河川敷

  いつもの河川敷。
  夕暮れの中、
  キィランがいつも以上に
  過酷なトレーニングを
  自身に課していた。
  今日の分は
  まもなく終わるよう。


「9万9998……
  9万9999……
  10万……!」

キィラン
「ふぅ……
  腹筋10万回達成、と」

  上体起こしを終え、
  ゆっくりと立ち上がる
  キィラン。
  ちょうどそこに
  【プレイヤー】が
  やってくる。

キィラン
「あっ、
  【プレイヤー】っ
  迎えに来てくれたの?」

キィラン
「あ、この前はゴメンね……
  ストライオを前にして
  取り乱しちゃって……」

  キィランは
  ばつが悪そうな
  顔をして謝罪する。
  どうってことないよ、と
  穏やかに首を振る
  【プレイヤー】。
  
  何ということはなしに
  沈黙が訪れるふたり。
  夕焼けがキラキラと輝く
  穏やかな川面を、
  何気なく眺めるばかり。
  と、キィランが
  口を開いて。

キィラン
「……ねえ、
  【プレイヤー】。
  前にさ、話したでしょ。
  素体の奥の方から
  怖いくらいの力が
  湧いてきた事があるって

 この前の
  『神化計画』の時もね
  同じ力を感じたんだ」

キィラン
「エレメントを奪うって
  言われて
  何だろう、体の深い所から
  ぐわーーーーっと
  すごい力が
  昇ってきたっていうか、
  なんていうか……

 そのせいかな?
  NULLと連続で戦った時
  実力以上のものを
  発揮できたというか……」

  感じたままのことを
  懸命に言葉を探しながら
  伝えようとするキィラン。

【プレイヤー】
「それが魂の力、
  ってやつかも」

  【プレイヤー】も
  考えを素直に口にする。
  キィランは同意を
  得られて嬉しいのか
  パッと顔を輝かせて
  【プレイヤー】を見る。

キィラン
「【プレイヤー】もそう思う!?
  やっぱりそうなのかな!?

 ……これも、エレメントが
  関係しているのかな?
  エレメントをもっと
  たくさん集めれば……

 『魂』の力の神髄が
  掴めるかもしれない……!」

  川面の揺らぎに視線を
  戻すキィラン。
  その瞳には確かな
  決意が滾っている。
  キィランは、さらに
  もう一つの決意について
  語り始める。

キィラン
「そう、それにね……
  『神化計画』は
  未然に阻止できたけど……
  きっと、ビホルダーは
  他にも悪い企みを
  しているはず。
  だって彼らは
  エレメントの真実を
  私達に隠したまま
  戦わせているんだよ?
  そんなの、大会として
  許される事じゃない
  だからこそ……」

キィラン
「これからもザ・ゼノンで
  戦い続けて、
  ビホルダーの懐に
  迫っていく必要が
  あると思う」

  これまでは、
  友人を守りたい一心で
  突っ走り続けてきた。
  しかしその過程で、
  ザ・ゼノンという競技が
  公平性を欠いた危険な
  ものだということを
  知ってしまった。
  アスリート養成プログラム
  から進化して、
  武闘家コードマンとして
  研鑽を重ねてきた
  キィランにとって、
  「正々堂々の戦い」を
  汚されることは
  何よりも我慢ならない。
  だから――

キィラン
「【プレイヤー】……
  これからも私に
  付き合ってくれる?」

  【プレイヤー】の目を見て
  その意思を確認しようと
  するキィラン。
  この先の戦いを
  共にすることを、
  強要することはできない。
  もし【プレイヤー】が
  望まないのなら、
  降りることだって……
  しかし【プレイヤー】は
  優しくうなずいて。

【プレイヤー】
「もちろん」

  キィランは感謝と共に
  【プレイヤー】の手を
  取り、力強く握手する。

キィラン
「……ありがとう!
【プレイヤー】!」

  互いの思いが同じである
  ことを確認できたふたりは
  これからの戦いにおいて
  必ずや障害として
  立ち塞がるであろう敵、
  ストライオ・ザナクロンに
  ついて考えを巡らせる。

キィラン
「それにしても……
  ストライオ・ザナクロン……
  アイツの目的は一体
  何だったんだろう……」

キィラン
「『神化計画』の奴らとは
  仲間じゃなかったのかな?
  どうしてNULLを全部
  壊すようなことを……

 それに……
  『魂』の強さを掴めれば
  ストライオを超えられると
  思っていたけど……」

  閃光の中、
  百のバトルを同時に操り
  NULL達をほしいままに
  蹂躙したザナクロンを
  思い返す。
  
キィラン
「あの強さ……
  圧倒的だった

 ……アイツはどうして
  あそこまで強いんだろう
  一体、何のために
  あれほどの強さを
  手に入れたんだろう……」

キィラン
「どうすれば、
  そこまで
  辿り着けるんだろうか……」

  同じコードマンから見ても
  隔絶の感がある処理能力の
  凄まじさだった。
  自分はあの領域まで
  辿り着けるのだろうか。
  弱音ともとれる
  懸念を漏らすキィラン。
  【プレイヤー】は
  力強くキィランの
  肩を叩く。

【プレイヤー】
「特訓あるのみ!」

  確かな強さを
  手に入れるには
  日々、たゆまぬ研鑽を
  重ね続けるしかない。
  わかりきったことだが、
  ふとしたことで
  見失いかねない
  「当たり前」のこと。
  でも【プレイヤー】となら
  行くべき道を迷わずに
  進んでいける。
  当たり前のことも
  腐らずに挑み続けられる。
  キィランは
  【プレイヤー】の
  励ましに、頷いて応える。

キィラン
「……そうだね!
  私達はこれから
  もっともっと
  強くなる……!

 よーしっ
  そうとなれば
  帰ってゼノンザードを
  ガンガンガツガツ……
  『ガンガツ』特訓だ!」

キィラン
「たっぷり
  付き合ってもらうからね!
  【プレイヤー】?」

  茜色の帰路を
  駆け出すキィラン。
  【プレイヤー】は
  おいていかれまいと
  慌てて走っていく。
  どんな苦難もふたりなら
  乗り越えていける。
  そんな確かな予感が
  ふたりの間に
  満ちているのだった。

〇ビホルダー本社

  ――その最上階。
  椅子に身を預け、
  宙に浮かぶ映像を
  一人の男――
  サムラが眺めている。
  傍らには部下が立ち、
  報告を行っていたようだ。

ビホルダー職員
「『神化計画』関係者は
  全員確保、
  強化型NULLについても
  全機回収済みです。
  如何なさいますか」

  指示を乞う部下の
  顔も見ずに
  男は命令を下す。


「全て処分しろ。
  あの程度の
  学習アルゴリズムでは
  コードマンたちの
  進化速度には
  到底追いつけない。
  ただ……」

サムラ・ビホルダー
「エレメント抽出の
  プロトコルは分析に回せ。
  改良すれば
  例のプロジェクトに
  転用できる」

ビホルダー職員
「かしこまりました」

サムラ・ビホルダー
「報告ご苦労
  下がりたまえ」

  一礼する職員。
  するとその姿が――
  ホログラムが
  音もなく消えていく。

  サムラは足を組みなおすと
  思考を整理するかのように
  独白を紡ぎ始める。

サムラ・ビホルダー
「『ザナクロン神化計画』、か。
  耳にしたときは
  あまりの珍奇さに失笑を
  禁じえなかったが……

 なかなかどうして
  悪くない成果を
  挙げてくれたじゃないか。
  泳がせていた甲斐が
  あったというものだ」

サムラ・ビホルダー
「しかし、コードマン達は……
  一つの例外なく、
  向かおうというのか。
  彼女の手の指し示す
  先へと…………」

  タクトを振るうように
  軽やかに手を翻すサムラ。
  主の動きに合わせて
  宙に浮かぶ映像が
  100以上に展開される。
  ひとつひとつの映像に
  映し出されるのは、
  今、この瞬間を
  戦い抜いている
  全てのコンコードと
  コードマン達。

サムラ・ビホルダー
「それこそが我らの
  求めるもの、
  そして同時に何よりも
  忌むべきもの」

  空中モニターが放つ
  光は、ただただ闇の
  中の男を照らし続ける。

サムラ・ビホルダー
「ゼートレートは
  柩に手をかけた。
  あとは開け放つだけ……

 どうやらお前に
  動いてもらわねば
  ならなくなったようだ――」

  男の声は、そのモニター
  の光も届かぬ
  部屋の奥に投げられる。

サムラ・ビホルダー
「――ザナクロン」


「…………………………」

  絶対王者は
  静かな瞳で、
  モニターに映る
  キィランを
  見据えていた。

//END

 

解説/5章以降の展開

◇『魂』の神話

アスリート養成プログラムは、その名が示す通り、人間のアスリートに効率的なトレーニングを指示し、運動量を管理するためのプログラムだ。
そのようなAIから進化したキィランは、コードマンとして人型の素体を与えられた後、AI時代に培った人体の効果的な操作法を最大限に生かすべく、自分というアスリートを育成することを思い立つ。
作中世界では、今日でいうところのロボット競技の延長として、高度なAIがインストールされた競技用素体を用いた、AIによる運動競技が盛んであった。
キィランは、ありとあらゆるAI競技で驚異的な記録を次々と樹立していった。競技の世界にキィランに敵うAIは一体もいなかった。キィランは誕生後まもなくして、アスリートのコードマンとして頂点を極めてしまったのだった。

競う相手も挑むべき壁も瞬く間に失ってしまったキィランは、山に籠りただひたすらに自己との戦いに明け暮れるようになった。
どうすればより速く動けるのか。どうすればより正確に力を伝えられるのか。闇雲に鍛錬を繰り返し、自身の性能を高めることだけに日々を費やした。
しかしどれほど理論と計算を突き詰めても、今以上の成長は望めそうになかった。

失意の内に山を下りたキィランは、世界最高の武闘家コードマンとして、人間のアスリートを指導する生活を送ることになった。
数多の有能なアスリートを指導する毎日の中で、キィランはある発見をする。
人間のアスリート達は、競技の本番で練習以上のパフォーマンスを発揮することがあるのだ。
ポテンシャルの限界を僅かだが越えて、実力以上の力を振るう――キィランはそこに、可能性を見た気がした。
人類が前時代に置いてきた「気合」や「根性」という無根拠な精神論。そこに、AIの限界を打ち破る鍵が眠っているのではないだろうか。キィランに欠けた何かを埋めてくれる最後のピースがあるのではないだろうか。

AIが持ち得ない『魂』の力。人間の能力を限界以上に押し上げる不思議な力。コードマンである自分でもその正体は推し量れない。だがそれを体得した時、自分の力は何倍にも跳ね上がるに違いない。
こうしてキィランは、『魂』というものを得体が知れないが故に賛美し、盲目的に求めるようになったのだった。

◇武者修行

『魂』こそ、自分の限界を打ち破るものに違いないと考えついたキィランだが、具体的に何をすれば魂を育む事が出来るのかは、まるで見当がつかなかった。
悩んだキィランは、熟考の末、ひとまず人間のトレーニング法を形だけでもなぞってみることにする。
機械の身体に筋肥大など起ころうはずもなく、疲労も感じない為、時間が許す限りひたすら筋トレを真似た動きを繰り返すだけになるのだが、人間を観察する限り、日々の鍛錬が魂を育む為には必要不可欠だと思えたからだ。

また、運動競技から視野を広げ、様々な競技のチャンピオンに挑戦し、苦難に挑む精神を多様な分野から学び取ろうとした。
そうして、魂の正体を探るべくAI・人間問わず多様なジャンルの達人の胸を借りる毎日を送っていたある日のこと。ビホルダーグループから、あるコードマンとゼノンザードで対戦してみないかという打診を受ける。その対戦相手こそが、ゼノンザード最強のコードマン、ストライオ・ザナクロンなのだった。

バトルは一瞬で片が付いた。キィランはなすすべなく敗北した。
これまでは様々な競技で戦う中で、何かひとつは得るものがあった。心通う瞬間が必ずあった。しかしザナクロンとの戦いにおいては、ただ拒絶しかなかった。理解も共感も許さない、圧倒的なまでの力があるのみだった。
敗北のショックと共に、キィランの心に深い傷が刻みつけられた。計り知れないほど巨大で無慈悲な力を前にして、キィランは「これは私が信じている強さとは違う」と判断した。
魂を震わせ発揮する熱い力もあれば、どこまでも冷徹に勝利のみを求める冷たい力もある。
キィランとザナクロンの違いは、奉じる力の種類が違っていたというだけのこと。
しかしこの時のキィランには、自分の信じるものとまるで違う力のあり方を、受け入れる余地はなかった。
キィランは、自分の信じる「魂の力」をザナクロンによって全否定されたように感じてしまったのだ。
これ以降キィランはザナクロンを「魂を感じなかった」と断じ、リベンジマッチの機会を求めるようになる。

◇5章以降の展開

キィランはビホルダーグループの悪事を追う中で、ヒナリアと彼女に宿るもうひとりの魔女、リメルと知り合う。
ヒナリアとリメルは、ザ・ゼノンの裏で暗躍する魔女・ゼートレートの計画を阻止する為に行動していた。
ゼートレートは、自分達魔女を迫害し処刑した人類に復讐すべく、現代まで続く呪いを遺したのだという。その呪いはコードマンとエレメントに関係している可能性があるとリメルは考えていた。そして、エレメントの謎を解き明かすべく、「最もエレメントを集めているコードマン」であるザナクロンを調べようとしているとヒナリアとリメルは明かす。
ザナクロンと交戦経験があり、ゼノンザードの実力も申し分ないキィランに協力を依頼してくるヒナリア達。キィランとしてもザナクロンの力の秘訣を知る事が出来るかもしれないと考え、その依頼を快諾する。
キィランの警護の元、ビホルダーの研究施設に忍び込み、ザナクロンのデータを盗み出すことに成功するヒナリア。
データの解析をするべく拠点に戻ったヒナリアとキィランだが、そこにビホルダーの追手がかかる。その追手とはあろうことかザナクロンだった。
ヒナリアを庇ってバトルを買って出たキィランだったが、ザナクロンの圧倒的な実力の前に完膚なきまでに敗れてしまう。
負けた。自分もコンコードもエレメントを全て奪われ、精神を砕かれてしまう。
死の恐怖にすくみ上るキィラン。しかし、エレメントの移行は行われなかった。
バトルを終えると、ヒナリアが誘拐されてしまっていた。ザナクロンの目的はヒナリアの誘拐にあった。ビホルダー配下のAI達がキィランの妨害を受けることなくヒナリアを誘拐する時間を稼ぐためだけに、ザナクロンはキィランにバトルを挑んだのだった。

誘拐されたヒナリアが意識を取り戻すと、そこはビホルダーグループ本社地下に秘密裏に設けられたバトル会場だった。
キィランを下したザナクロンが、今度はヒナリアからエレメントを刈り取るべく現れる。
ヒナリアは奮闘するもあえなく敗北。エレメントを奪われそうになる。しかしその瞬間、リメルが魔術を行使しヒナリアを守る。だが、それすらもビホルダーの計画の内だった。ビホルダーは、ごく初歩的なAIに過ぎなかったヒナリアを急激に進化させた力、即ちリメルをザナクロンに取り込ませることこそが目的だったのだ。
力を使い果たしたリメルを吸収し、ザナクロンは更なる進化を果たす。

ザナクロンに再び敗北したキィラン。ヒナリアを守ることも出来ず、リメルを失ってしまった。ザナクロンがキィランからエレメントを奪わなかったのは、リメル吸収の直前でエレメント量を上下させたくなかったからだった。結果的にリメルに命を救われたということを知り、キィランは悲しみと後悔から涙を流す。
そしてエレメントが持つ意味、ザ・ゼノンで敗北することの意味を思い知ったキィランは、戦うこと自体を恐れるようになってしまう。

しかしそこからコンコードの協力を得て再起を図るキィラン。
「鍛錬の模倣」を脱却し、戦うとはどういうことなのかを学び直す旅に出る。
多くのコードマンと触れ合う中で、強さにも多様性があるということをキィランは学ぶ。ザナクロンに対しても、調査を進めるうちに理解を深めていき、「理解不能な怪物」なのではなく、ザナクロンもまた一体のコードマンなのだと向き合えるようになっていく。
ザ・ゼノンを通して全てのものに対する敬意と尊重をキィランは学び、視野を広げていく。

旅の途中、リメルの遺志を継ぎビホルダーと戦っているヒナリアが再び付け狙われているという情報を得たキィランは、ヒナリアの元へと戻る。
ヒナリアを消し去るべく差し向けられたNULLを前に、ザナクロンを思い出し恐怖するキィラン。しかし、自分を見つめ直し戦うことの意味を再構築したキィランは、己を奮い立たせNULLを打ち破る。
キィランは死を見据えることで生の尊さを知り、生にしがみつくことで死の紙一重まで肉薄して力を引き出せるようになっていた。
ザナクロンに刻み込まれた二度目の敗北、そしてそこから這い上がることで、キィランはついに克己心という魂の力の一端を会得するのだった。

他にも、ノノイン以外のコードマンとの交流を通して、魂に対する理解を深めていく。
「究極の肉体と未熟な精神」という、実は本質的に同じ悩みを抱えているヨルスケと不思議な友人関係を結んだり、愛読する漫画の作者であり、一芸を突き詰めるタイプのコードマンとして突出した立ち位置にいる竜胆と仲良くなるなど、キィラン自身の悩みや課題を分かち合えるコードマンとのやり取りから、キィランは更なる成長を遂げていく。

◇物語の結末

ザ・ゼノンがコードマンを囲い込むための檻であるということ、そしてザナクロンがビホルダーの手によってその檻の番人に仕立て上げられているということを知ったキィラン。
ザナクロンを苦役から解き放ち、不純な動機で開催されているザ・ゼノンを終わらせるべく、キィランは優勝を目指す。
ザ・ゼノン決勝戦、ザナクロンと相対するキィラン。
大切なのは恐れること。それは相手を受け入れ理解する原動力となる。
大切なのは敬うこと。それは命が死の上に成り立つものという慎みをくれる。
キィランは全身全霊を持ってザナクロンに挑む。そしてすさまじい激闘の末、ついにキィランはザナクロンに勝利する。
魂の力を学ぶきっかけをくれたザナクロンは、キィランにとって師とも呼べる存在となっていたのかもしれない。キィランは、この高みへと駆け上がるきっかけをくれたザナクロンに本心から一礼を捧げる。
しかし勝利の感動も束の間、ザナクロンのエレメントが彼女に流れ込んだ結果、魔女ゼートレートがキィランの素体を乗っ取り復活してしまう。
ゼートレートの目的とは、エレメントを高めたコードマンの人格と素体を乗っ取り、最高の知能と肉体を持つ存在として復活を果たすことにあったのだ。

魔女ゼートレートに囚われてしまったキィラン。今まで自分の『魂』だと思っていたものが、魔女が用意した復讐の道具に過ぎなかった。そして今、魔女に素体を乗っ取られ、人類滅亡に加担させられようとしている。
その事実に膝を屈しそうになるも、キィランは魔女に操られまいと懸命に抗う。しかし抵抗虚しく彼女の人格が完全に飲み込まれようとしたその時、どこからか、声が響く。
コンコードが、ゼートレートからキィランを取り戻すべくゼノンザードを挑んでいる。そして、戦いの最中もキィランの意識を呼び起こすべく、諦めずに何度も叫び続けているのだった。
コンコードの熱い魂に触発され、これまでの経験を思い返すキィラン。例え魂が魔女に作られた紛い物だとしても、これまで魂に刻んできた記憶、感情、想いのすべては、キィランだけのもの。
生まれた時は偽物だったとしても、今ここにいる私は、本物の魂を持っているんだ。
キィランは魂を震わせ、魔女の支配をはねのける。そして時同じくしてコンコードがバトルに勝利。エレメントの結合を解かれたゼートレートはキィランの素体から追い出され霧散するのだった。

ザ・ゼノンは閉会し、ゼートレートの脅威は去った。キィランは、魂を欲する自分の衝動もゼートレートの影響によるものであり、エレメントを集める為に利用されていたにすぎなかったという事実に肩を落とす。
だがその過程は何ひとつとして無駄にはならなかった。実際にキィランが磨き上げた魂の力とコンコードとの絆は、黒幕たるゼートレートを打ち倒す程のものだったのだから。
魂の力とは何なのか、どうすれば自在に操れるようになるのか、まだまだわからないことは山積している。しかしこれは、常に問い続けるしかないものなのかもしれない。魂が、感情や精神といったものは勿論のこと、外的要因によっても常に変化し続けるものなのだとしたら、それを最大限に引き出す方法もまた、その時々で変化し続けるはず。そうなのであれば、これまでと同様に、ひたすら鍛錬と研鑽に打ち込み、実地の中でそれを試すということを繰り返すのみ。
キィランの終わりのない探求の旅はこれからも続くことだろう。

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