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救済のコンクエスト

公開済みストーリー・相関図

公開済みストーリーをYouTubeで公開中!!

1章 逆説のレゾンデートル

2章 相剋のオーバーシア

3章 反攻のスクリプトラム

4章 救済のコンクエスト第1話~第2話

相関図

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第4章 救済のコンクエスト 第3話

  『ゼートレートの物語』
  を描いた原稿を
  賭けてのバトルに、
  決着が着いた。


「………………くっそ。
  ヒナが負けるとか……
  マジかよ」

  竜胆は原稿を守りきった。
  そしてこちらの
  条件を突きつける。


「約束だ、ヒナリア」

竜胆
「聞かせてくれ。
  どうして君は
  僕に近づいた?」

ヒナリア
「……………………」

  ヒナリアはなにか
  思案しているのか
  黙ったままだ。
  竜胆は仕方なく
  確認するかの如く
  『推理』を披露し始める。

竜胆
「……ピモタから聞いたよ。
  君は隠れて『誰か』と
  連絡を取り合っていた、と」

竜胆
「丁度君と出会った頃、
  僕は『ゼノビギ』で
  『エレメント』の架空の
  設定を作り出した」

竜胆
「その設定は、偶然にも
  現実とリンクしていた。
  本当にコードマンにとって
  エレメントは命のようなもの
  だったんだ」

竜胆
「ビホルダーはこの事実を
  世間には公表できない。
  何故なら『ザ・ゼノン』の
  運営が立ちいかなく
  なるからだ」

竜胆
「ただ『ゼノビギ』は
  フィクション。大多数の人間
  は作り話だと思っている。
  大掛かりな隠蔽をしなくても
  やりすごせる……」

竜胆
「ビホルダーにとっての
  懸念点は……
  この漫画の作者が
  エレメントの真実を意図的に
  公表しようとしたかどうか」

竜胆
「だから彼らは密偵を雇い、
  作者の身辺を
  探らせる事にした」

竜胆
「その密偵が
  ヒナリア……君だ」

ヒナリア
「…………………………」

  ヒナリアは取り乱す事も
  なく、静かに竜胆の
  推理を聞き届けた。
  竜胆はヒナリアの
  続く言葉を待ったが、
  彼女は口を開こうとは
  しなかった。
  正か誤かも、
  返答がなかった。

竜胆
「……以上が僕の見解だ。
  なあ、ヒナリア。
  僕は君の口から
  真実を聞きたいんだ。
  話してくれないか?」

ヒナリア
「…………………………」

竜胆
「君がビホルダーの手先
  だったとして……
  しかし分からない事が
  あるんだ」

  真実を知りたい。
  竜胆は先程そう訴えたが、
  一番知りたいのは
  その矛盾点……。

竜胆
「僕が
  エレメントの真実について
  何も知らなかった事、
  君なら分かった筈だ」

竜胆
「けれどビホルダーは
  『僕がエレメントの真実を
  拡散しようとしている』
  として僕を潰そうと
  している」

竜胆
「つまり密偵は
  真実とは異なる報告を
  したと言う事だ」

竜胆
「君はビホルダーに
  嘘の報告をしたのか?
  どうしてそんな事までして
  僕の漫画家業を
  潰そうとするんだ……?」

竜胆
「『ゼノビギ』の執筆を……
  僕と【プレイヤー】の
  物語を何故阻む……!?」

  ――ヒナリアの迷いは。
  巻き込んでしまったら、
  と言う事。
  けれど、頭の中の声が
  囁く。

  『巻き込むも何も、彼は
   もう当事者です』

  確かにそうだけれど、
  まだ引き返せるかも
  しれない。
  それに、真実は
  竜胆にとって残酷だ。

ヒナリア
「…………………………」

  『けれど、彼の目を
   見てごらんなさい』

  見る。
  真っ直ぐな目だ。
  真実を追い求める者の目。
  ――ヒナリアは思った。
  多分逃れられないな、と。
  そして、観念した。

ヒナリア
「……違う」

竜胆
「え?」

ヒナリア
「ヒナじゃない」

  密偵は自分ではない。
  ヒナリアは、短く簡潔に
  否定した。

  竜胆も【プレイヤー】も
  予想外だった。
  ヒナリアの言い逃れかも
  しれないが、
  思い当たるのは
  彼女だけだった。
  こちらもピモタの
  『記録』が全てであり、
  確実にヒナリアだと
  いう根拠もなかったが。

  竜胆達が戸惑っていると、
  突然大声が響いた。


「りんどう~~~~っ!!
  そいつから はなれて!」

  竜胆と【プレイヤー】は
  驚いた。

竜胆
「ピモタ!?」

【プレイヤー】
「どうしてここに!?」

  ここに来ることは
  ピモタには
  伝えていないはず。
  ピモタは、
  ヒナリアから竜胆達を
  守るように、
  困惑する彼らに構わず
  側につく。

ピモタ
「そんなの しらべれば
  すぐにわかること だよ
  それより……」

  と、ヒナリアを
  睨みつける。
  ヒナリアもピモタを
  睨み返し舌打ちする。

ヒナリア
「来やがったか……」

  ピモタはヒナリアを
  牽制しつつ
  竜胆達を叱る。

ピモタ
「きみたち ぼくに
  ないしょで どっか
  行くなんて」

ピモタ
「だから こういう
  きけんな めに
  遭うんだ!」

  ヒナリアはムッとして
  口を挟んだ。

ヒナリア
「センセーには
  何もしないさ」

ヒナリア
「ヒナはただ、
  『ゼートレートの物語』
  を、全世界に
  発信したいだけ」

竜胆
「……!?」

  竜胆はさらに困惑する。

  『ゼノビギ』を発信させない
  ように漫画家ユーキリ・竜胆
  を潰しておきながら、
  魔女の漫画の方は
  発信したい。

  ビホルダーからすれば、
  竜胆の作品を全て
  規制したいはず。

  竜胆にはヒナリアの
  意図が見えなかった。

  推理が、間違っている?
  だからヒナリアの行動が
  理解できない?
  とすると、ヒナリアは
  一体何なのか。
  密偵ではない?

  思考を巡らす竜胆。

  ピモタは焦りを滲ませ
  ヒナリアに問いかける。

ピモタ
「ぜんせかいに
  発信したいって……
  な、なんのために……?」

ヒナリア
「『何の為』?
  ハッ。まるで
  『ゼートレート』が
  何なのか知ってる
  みたいな口ぶりだな」

  ヒナリアは
  ピモタを睨んだ。

ピモタ
「!!
  し、しらないよ」

【プレイヤー】
「ピモタ……?」

  ピモタの様子が、
  おかしい。

ピモタ
「っていうか やっぱり
  だめだってば!」

ピモタ
「りんどうが これ以上
  まんがを 発表し続けたら
  また きみ みたいなのに
  ねらわれる!!」

ピモタ
「あぶないよ!
  りんどうは そのまんがを
  発表するつもりなの?」

ピモタ
「ぼくは 反対だ!
  もう あぶないことは
  やめて!」

ピモタ
「そ、そうだよ……
  発表しなくたって 漫画を
  かきつづけることは
  できるでしょ?」

ピモタ
「ぼくと【プレイヤー】に
  だけ みせてよ
  それって 絶対 たのしいよ」

ピモタ
「竜胆のまんがは ぼくたち
  ともだちの あいだ
  だけで 楽しもうよ
  それで いいじゃない……!」

竜胆
「ピモタ…………?」

  ピモタの提案は、
  世に作品を出し
  続けたいという
  漫画家には
  耐えられない行為。
  コミック制作プログラム
  であることの放棄。

  ピモタの発言に
  戸惑っている竜胆に、
  ヒナリアが訊ねる。

ヒナリア
「……オマエ、
  発表するつもりあるの?
  ないの?」

  ハッとヒナリアを見る。

ヒナリア
「悠長に調べものなんて
  してるから、
  二の足踏んでんのかと
  思ってたんだけど」

ヒナリア
「で、実際どうなの?
  発表すんの?」

ヒナリア
「ヒナは、センセーが
  自分から発表するなら
  それは願ったり叶ったり。
  ……ヒナの無駄足感
  すげーけど……」

  口調はかなり
  砕けているが
  ヒナリアの目は
  じっくりと
  竜胆を見極めようと
  していた。

竜胆
「何故だ……」

竜胆
「今までさんざん
  僕が漫画を発表する場を
  潰しておきながら……」

竜胆
「何故この
  『ゼートレートの物語』は
  発表したいと――……」

ピモタ
「そ、そんなの
  きかなくていいよ!
  りんどう!!」

竜胆
「ピモタ、
  少し黙っていてくれっ!」

ピモタ
「…………ッ!!」

竜胆
「何故なんだ、ヒナリア!!」

  ヒナリアはまた
  長い間の後、答えた。

ヒナリア
「……それが、
  ゼートレートの
  思惑から外れる
  きっかけになるかも
  しれないから」

竜胆
「ゼートレートの思惑……?」

  ヒナリアは、魔女
  ゼートレート・ログレイド
  ・アリスキルについて
  知っている。
  竜胆はそう確信した。

竜胆
「君はこのゼートレート
  という人物に
  詳しいのか?
  なら教えてくれないか――」

  ヒナリアから
  聞き出そうとする。
  しかし、ピモタが
  眼前に躍り出て、
  問いかけを阻んだ。

ピモタ
「だから――
  そいつの いうことなんか
  きかなくていいってば!」

  ――激昂していた。
  だが必死なのは
  竜胆も同じだった。

竜胆
「ヒナリアは、
  思っていたような
  敵じゃないのかもしれん!」

竜胆
「この施設、魔女の館を
  ビホルダーは隠している!
  奴らは魔女のことを
  秘密にしていたいんだ!」

竜胆
「そんなビホルダーの動きに
  真っ向から立ち向かう
  なんて、僕達を阻む何者か
  にしては行動に
  一貫性がない!!」

ピモタ
「違うよ!!
  ヒナリアは りんどうを
  ビホルダーの敵に
  したいんだ!!」

ピモタ
「とにかく
  わるいやつなんだよ!!」

ピモタ
「ひなりあの いうことは
  ぜんぶ まちがってる!!」

ピモタ
「はっぴょうなんか
  しちゃだめだ!
  だめったら だめだ!!」

ピモタ
「ぼくの言うこと聞いてよっ
  りんどう!!」

  過呼吸を
  起こしそうなほど
  捲し立てるピモタに
  違和感を覚える竜胆。

竜胆
「どうしたんだ、ピモタ。
  少し落ち着け――」

ピモタ
「【プレイヤー】だって
  そうおもうでしょ!?」

  【プレイヤー】は
  昂るピモタには
  動揺したが、
  しかしそれでも
  答えは迷わなかった。

  『ゼートレートの物語』を
  発表すべきか
  発表しない方が良いか、
  答えは
  決まりきっていた。

  何故なら、
  竜胆は漫画家だ――。

【プレイヤー】
「――発表するに
  決まっている」

  ピモタは、愕然とした。

ピモタ
「……………………え?」

  なんで?
  と言いたげに
  【プレイヤー】を見た。

ピモタ
「き、きけんだって……
  そう いったよね……?」

  おろおろと狼狽える
  ピモタ。
  【プレイヤー】が
  話すまでもなく
  竜胆は自分の口で
  理由を述べる。

竜胆
「ピモタ……
  僕は、漫画家なんだ」

竜胆
「漫画を描き、
  読者に提供する。
  それが『漫画家』だ」

竜胆
「ビホルダーも
  ゼートレートも……、
  僕が僕である事には
  関係ない……!!」

竜胆
「僕がユーキリ・竜胆で
  ある限り、
  信念は曲げんっっ!!」

  ――ドンッ!!
  曇りのない眼で
  声を張り上げる。
  まるで漫画のシーンを
  再現するように、
  拳を胸にどんっと
  あてる仕草。

  ヒナリアは思わず
  噴き出した。

ヒナリア
「やっぱオマエ、
  筋金入りの漫画バカだ」

  【プレイヤー】も
  いつもの調子の竜胆に
  安心する。

【プレイヤー】
「それでこそ竜胆だ」

  一転、空気が和らぐ。

  笑顔、笑顔、笑顔。
  ピモタは苛立ち、そして……
  なにもかもが
  どうでもよくなった。

ピモタ
「…………………………
  ……君は いつもそうだ」

ピモタ
「コードマンとして
  『じぶん』があって
  それに むかって
  まよいなく すすめる……」

ピモタ
「ぼくは そんな 君が
  ほんとに
  うらやましくって……」

ピモタ
「――だいっきらいなんだ」

  冷たく詰る様な視線。
  それは、
  友に投げかける
  ものではなかった。
  憎悪する者に
  投げかける視線だった。

竜胆
「ピ、ピモタ……?」

  ピモタは、
  狼狽える『友人だった
  存在』を鼻で笑った。

ピモタ
「まだ わからない?」

ピモタ
「ビホルダーのめいれいで
  きみを監視し……」

ピモタ
「きみからまんがを
  はっぴょうできる
  機会を
  うばったのは…………」

ピモタ
「――ぼくだよ りんどう」

//END

 

第4章 救済のコンクエスト 第4話

〇[ピモタの回想]ビホルダーグループ本社・応接室

  ――竜胆と【プレイヤー】
  が東欧に向かっている裏で。

  ピモタはビホルダー
  グループ本社に
  呼び出されていた。

  黒革のソファに
  ちょこんと座るピモタ。
  ぶすっと不服そうな
  表情でいる。
  対面には厳しい
  顔つきのクレイがいる。

 
「そろそろもうアンタの
  失敗には目を瞑れない」


「ふん わるいのは
  りんどうだよ。
  ともだちの ぼくに
  なんにも 相談しない
  あいつのせいだもん」

ピモタ
「ぼくは あいつが
  まんがを 発表しつづける
  なんて 思わなかった
  んだもん」

クレイ
「はぁー……
  何の為の『監視者』よ」

  苛立ったクレイは
  わざと厭味ったらしく
  ピモタを口撃する。

クレイ
「このままじゃ、アンタ
  永遠に『何者』か教えて
  貰えないままかもね~」

ピモタ
「えっ……!」

  ピモタは狼狽える。

クレイ
「功績がないと、
  契約は守れないし~?」

  クレイと、
  ビホルダーと
  交わした契約を思い出し
  歯噛みする。

クレイ
「監視がまともに
  出来ないんなら、
  さっさと
  ユーキリ・竜胆
  ぶっ壊しちゃってよ」

クレイ
「クソザコ
  オフィシャルAIが
  し損じちゃったからさ。
  今度はアンタが
  行ってきてよ」

クレイ
「自分が何者か
  知りたいんならね……!」

  クレイはそう言って
  性悪そうな笑みを
  浮かべた。

  ――契約を
  遂行しなければ
  ならない理由が
  ピモタにはある。

  ピモタの顔からは
  いつもの愛らしさは
  消えて、冷たい目で
  竜胆を睨みつけていた。

  竜胆はピモタの告白に
  狼狽した。


「ピモタが……
  ビホルダーと
  繋がっていた……?」

ピモタ
「そうさ きみが
  『ゼノビギ』でえがいた
  エレメント=コードマンの命
  という せってい……」

ピモタ
「あの おはなしが
  配信されたとき
  たのまれたんだ、
  ビホルダーから」

ピモタ
「『ユーキリ・竜胆を探れ』
  って……」

ピモタ
「ここに来たのも
  ビホルダーの 命令を
  うけたからさ
  きみを ころせってね」

  無感情に放たれた
  殺害予告。

  これがあのピモタ……?

  竜胆は動揺する
  ばかりだった。

ピモタ
「ほんとに うれしいよ
  きみと ようやく
  はなれられる――!」

  フォン……とピモタの
  瞳の奥が光る。
  それをとらえたヒナリア
  は、咄嗟に叫ぶ。


「センセー、危ねーッ!!」

  瞬間、ピモタの、
  『洗脳』が発動する。

ピモタ
「『りんどう
  えいえんに 壊れて』?」

  カッ、と辺りに眩い光が
  広がった。

【プレイヤー】
「竜胆ッ!?!?」

  竜胆は反射で、
  腕を前にして
  眩さを回避していた。
  が、ピモタの洗脳能力は
  そんな事で逃れられる
  ものではない。

【プレイヤー】
「りん、どう……!?」

  と、バチバチッと
  何かが弾ける音がした。

  見ると、
  竜胆の懐から青い光が
  火花のように
  拡散している。

竜胆
「……こ、これは……!?」

  腕で隠れていた
  竜胆の表情が見える。、
  洗脳にはかかっていない
  ようだった。

ピモタ
「な、なんで!?」

  竜胆は
  内ポケットを見る。
  青い光を放っていたのは
  竜胆のアウロスギア。
  正確に言うと、
  そこに付けた『お守り』
  が青い光を
  弾き飛ばしていた。

  竜胆が取り出した
  それを見て
  さらに驚くピモタ。

ピモタ
「ぼくの力が 
  はじかれてるの……!?
  まるで……
  ヒナリアに効かなかった
  時みたい……」

  と言ったところで
  気づき、ヒナリアを
  見やった。
  ヒナリアは
  『保険』が無事作動した
  事に安堵し、笑っていた。

ヒナリア
「――渡しといて
  正解だったな、
  その『お守り』……」

竜胆
「も、もしかして……
  ヒナリア、君が――」

ヒナリア
「オマエに近づくには、
  ピモタに干渉されないよう
  回りくどい方法を
  とるしかなかった」

ヒナリア
「便利だよなー。
  『コミポ』の差し入れ機能」

  『コミポ』にて、
  竜胆達に忠告してきた
  謎のアバター、マオウ。
  【プレイヤー】と
  竜胆はヒナリアの笑みで
  確信した。

【プレイヤー】
「マオウの正体って
  ヒナリア!?」

ヒナリア
「フッ。
  その『お守り』には
  洗脳防止のプログラムが
  仕込んである。
  万が一の為に用意したんだ」

ヒナリア
「一度くらった時に
  オマエの『洗脳』、
  解析させてもらった」

ヒナリア
「そしたら『まじないが
  得意な知り合い』が
  お守りの作り方を
  教えてくれてな」

ピモタ
「くっ……」

  洗脳が効かない相手が
  いるのは、不安要素
  ではあった。
  実はピモタ自身
  自分の能力がどういう
  プロセスで作られ、
  実行されているのか
  分かっていない。
  だから対策の取り様が
  なかったのだ。

  ピモタは歯噛みする。
  ヒナリアが言っている
  事が本当だとすれば、
  相手の方が自分の『武器』
  について詳しい事に
  なる。
  つまり、現状ピモタの
  『洗脳能力』は全く
  意味がないと言っていい。

  顔を歪ませるピモタを、
  竜胆はじっと
  見つめていた。
  ピモタのその表情を見て
  やっと飲み込んだ。

  ピモタこそが、
  密偵だった。

竜胆
「ピモタ……君は……」

竜胆
「僕を、
  殺すつもりで……?」

  出来れば嘘で
  あって欲しかった。
  信じたくはなかった。
  質の悪い冗談であって
  欲しい。
  微かな希望から、
  竜胆はピモタに尋ねる。
  しかし――。

ピモタ
「やめてよ そんな目
  きみなんか ともだちでも
  なんでもないんだから」

  いとも簡単に
  否定されてしまう。
  愕然とする竜胆の隣で、
  【プレイヤー】も
  受け入れたくないと
  首を横に振る。

【プレイヤー】
「遊園地で助けてくれた
  のはなんだったの!?」

【プレイヤー】
「竜胆を殺すつもりなら
  あの時助ける必要
  なかったはず!」

  【プレイヤー】の指摘に
  竜胆は縋るように
  賛同する。

竜胆
「そうだ……! あの時
  ワンダードリームランドで
  テロリストから
  僕らを助けてくれた!」

竜胆
「あの時僕らを助けなければ
  簡単に排除出来た筈……」

竜胆
「自分の力を明かしてまで
  どうして僕らを
  助けたんだ……!
  友達だからじゃないのか!?」

  必死な竜胆を、
  ピモタは見下したように
  笑う。

ピモタ
「そのほうが
  ともだちっぽく
  みえるでしょ」

竜胆
「……!!」

ピモタ
「予想外のできごとでは
  あったけど、
  あれの おかげで
  きみと より親密に
  なることが できた」

ピモタ
「らっきー だったよ」

  それでも竜胆は
  諦めきれない。

竜胆
「で、でも……洗脳能力
  なんて黙ってた方が
  得じゃないか!
  あの時の君は
  思わず力を使って――……」

ピモタ
「『思わず』!?
  きみが かってに
  きめつけるなよ!!!!」

  突如、声を荒げる。
  相当癇に障ったらしく
  ピモタは嫌悪感
  剥き出しで拒絶した。  

竜胆
「……っ!」

ピモタ
「かってに想像しないでよ
  きみ なんかに……
  きみ みたいな やつに……
  ぼくの気持ちが
  わかるはずない!!!」

  息を切らす程の叫び。
  異様な様子に
  誰も口を挟めない。
  ピモタはハァハァと
  呼吸を整えながら
  小さく呟いた。

ピモタ
「きみとぼくは、
  ぜんぜん 違うんだ」

  そして
  アウロスギアを出し、
  再び竜胆を
  睨みつけた。

ピモタ
「もうこれ以上のかいわは
  むだ だよ
  ぼくを
  いらだたせないで」

  ――強制ゼノンザードの
  発動。
  エレメントは
  100%ベット。
  『洗脳能力』が
  封じられたピモタの
  次の手段は、
  竜胆が持つエレメント
  を全て奪う事。

竜胆
「また……
  強制ゼノンザード……!」

ピモタ
「エレメントは もちろん
  全賭け だよ
  ぼくが 絶対 かつ」

  愛らしい素体に
  不釣り合いな
  覚悟の表情。

  100%とはつまり
  刺し違えてでも
  竜胆を殺すつもり
  だと言う事だ。

【プレイヤー】
「やるしかないの……?」

竜胆
「そのようだ……。
  しかし……」

  だが、竜胆達が勝利
  すればピモタは死ぬ。
  ピモタを生かせば
  自分達は死ぬ。

竜胆
「どう、すれば……」

  竜胆は苦虫を噛み潰した
  ような表情で、
  ピモタを見やった。

  ピモタは目を閉じ
  自身に暗示を
  かけるように呟く。

ピモタ
「ぼくは まけない」

ピモタ
「ぼくは ぼくが
  『何者』かを
  おしえて もらう……
  まけることは できない」

  やがて
  ピモタは瞼を開いた。

ピモタ
「――さあ はじめるよ
  いのちがけの
  ゼノンザードを……!」

//END

 

第4章 救済のコンクエスト 第5話

  ――ピモタのミニオンが、
  竜胆のフォースを
  破壊した。
  バトルは両者
  自身のライフを残すのみ
  となっていた。


「くっ………………」


「………………っ!!」

  ピモタは捨て身の覚悟で
  竜胆のライフに
  斬りこんでいく。

  対して竜胆は、自分の
  ライフを守りつつ
  ピモタのフォースの
  ライフを削り
  なんとかバトルを
  長引かせようと
  していた。

  が、フォースのライフを
  削り切った今
  もうその戦法は
  通用しない。
  しかし、
  自分もピモタも
  助かる方法など
  見つかっていない。

  竜胆にはもう
  後がなかった。


「オイ……どうする?
  このままどちらかを
  見殺しにするなんて
  ヒナは嫌だぜ……?」

ヒナリア
「なんかいい方法
  ないのかよ?」

  ヒナリアは、独り
  呟いた。
  『彼女』なら、妙案が
  あるのではないかと。
  『彼女』はきっと、
  エレメントによって
  悲劇が起きる事を
  嫌う。
  自分と同じ気持ちな
  筈だ。

ヒナリア
「なぁ、リメル――……!」

  竜胆が追いつめられる中、
  ピモタは、捨て身故に
  ギリギリの精神状態に
  ありがながらも
  こちらの方が
  優勢だと判断していた。

  竜胆は愚かにも
  両者が助かる選択が
  無いか必死に考えそして
  自滅しようとしている。

  一方、自分には
  失うものは何もない。
  そして竜胆にはない
  勝利への渇望がある。

ピモタ
「勝つのは……ぼくだ!」

ピモタ
「ぼくは
  勝たなきゃ いけない
  そうしないと
  ぼくは……っ!!」

  手札から新たなミニオンを
  場に召喚しようと
  したその時――。

【プレイヤー】
「勝たなきゃ……
  『何者か知る事が
  出来ない』? 」

ピモタ
「…………!!」

  相手の場を見やる
  ピモタ。
  【プレイヤー】と竜胆が
  真っ直ぐこちらを
  見据えていた。

竜胆
「……ピモタ、君は
  自分が何者か
  分からない……
  そう言っていたな」

ピモタ
「……聞いて いたのか」

竜胆
「このバトルに勝てば、
  君は自分が何者なのか
  分かるのか?
  ビホルダーに
  教えてもらえるのか?」

ピモタ
「……………………っ」

  こいつはまだ
  親友ごっこを
  続けているのか。
  まだこの状況でも
  心配してくるなんて。

  と、ピモタは苛立った。

ピモタ
「きみには……」

ピモタ
「きみみたいに……
  『じぶん』がある
  コードマンには
  わからない だろうね」

  皮肉のこもった言葉。

  ――そう、君のような
  奴には絶対に分からない。
  ピモタの瞳の奥に、
  空虚な闇が広がる。

ピモタ
「じぶんが 何者なのか
  わからない 恐怖」

ピモタ
「ぽっかりとあいた 穴」

ピモタ
「でぐちも みらいもない」

ピモタ
「えいえんの こどく」

  絶望した者の言葉。

ピモタ
「……りんどう
  きみが ほんとうに
  うらやましい」

ピモタ
「やるべきこと
  やりたいことに
  まっすぐ つきすすめて
  すすむべき
  道がわかって……」

ピモタ
「うらやましくって
  むかつく
  ぼくには
  じぶんなんてない
  わからないのに……!」

  はじめは淡々としていた
  言葉に、隠せない
  嫉妬による憎悪が乗る。

ピモタ
「だから……、
  だいきらい
  なんだよ……ッ!!」

  竜胆の憐れむような
  目は、ピモタを更に
  苛立たせた。

竜胆
「……その気持ち、分かるぞ」

ピモタ
「もういいんだよ
  ともだちごっこは。
  きみに わかるはずない」

竜胆
「いや、分かる……
  君のお陰でな」

  竜胆はピモタを
  憐れんでいたのでは
  なかった。
  経験を振り返り、
  気持ちを重ねていた。

竜胆
「『ゼノビギ』を連載中止に
  追い込まれ、
  ビホルダーの圧力で
  業界から干された時
  考えさせられたんだ……」

竜胆
「漫画をこの世に出せない
  漫画家の存在意義とは
  一体何か……」

竜胆
「アイデンティティを
  失いかけたよ。
  自分が何者なのか
  分からない虚しさは、
  底なしの恐怖だった」

ピモタ
「…………っ!」

  ピモタは動揺した。

  分かっている筈がない。
  こんな風に
  自分を確立していて
  使命があって
  輝いているコードマン
  に、自分の気持ちが
  分かる筈ない。

竜胆
「僕は……そんな恐怖の
  どん底に、友達を
  置き去りにしたくない」

竜胆
「ピモタ……
  僕は君を
  救いたい……!!」

  もうこれ以上竜胆の
  輝きに当てられたく
  ない。
  ピモタは後退った。

ピモタ
「ききたくない
  ききたくない……!
  きれいごとだよ そんなの」

ピモタ
「ぼくを 救い出して
  くれるのは
  ぼくの過去を
  しっているひとだけ!」

ピモタ
「ビホルダーなら
  ぼくの情報を
  もってる! かくじつだ!
  きみなんかに
  たよらなくていい!!」

ピモタ
「きみなんかが ぼくを
  救えたら……っ」

ピモタ
「やりたくないことを
  やった意味も
  ないじゃないかっっ!」

【プレイヤー】
「そう……、
  本当は嫌なんだね?」

  ピモタはハッとし
  口を押えた。

  自分が何者かを知る事が
  自分の全て。だから、
  答えを知る事が出来る
  方法があるのなら、
  その方法を
  取りたくないなんて
  思ってはダメ。

  自分の心に蓋をして
  ずっと隠してきた感情を
  よりによって竜胆と
  【プレイヤー】の前で
  見せてしまうなんて。

竜胆
「君はビホルダーの命令
  なんか本当は
  聞きたくない……
  だったら!」

竜胆
「やめよう、もう。
  こんなバトル……!」

竜胆
「こんな、虚しい
  ゼノンザードは……!!」

  ――しかし、
  もう逃げる事は
  出来なかった――。

ピモタ
「………………無理だよ」

ピモタ
「この たたかいは
  どちらかが 死ぬまで
  終わらないんだから……!」

竜胆
「しかし、僕は……」

ピモタ
「おしゃべりは もう
  おしまいに しよう」

  ピモタは
  気持ちを引き締める。
  ここで止めたら
  今までやって来た事が
  無駄になる。
  欠けたものを手に入れて
  完全なコードマンと
  なるのだ――。

ピモタ
「やっぱり ぼくは
  ぼくのちからで
  ぼくが 何者か
  しるしかない」

ピモタ
「さあ
  きみの ターンだ
  はやく ドローして」

竜胆
「……………………」

  竜胆は、ゆっくりと
  デッキトップから
  カードを引く。

竜胆
「………………!」

  通常のバトルであれば
  神引き、と舞い上がった
  であろう。
  竜胆が引いたのは、
  今、最も必要としていない
  ピモタを殺せる札だった。

  これを出せば
  勝負は決する。
  自分と【プレイヤー】は
  助かる。
  しかしピモタを犠牲に
  出来る筈は勿論無い。

  この札を手札に潜めたまま
  進行しても、いずれは
  自分と【プレイヤー】、
  もしくはピモタが
  再起不能となる。

竜胆
「僕は……
  一体、どうすれば――」

ヒナリア
「――ぶっ倒せ!」

  思わず声の方を見やる。
  ヒナリアがフィールド外
  から叫んでいる。

ヒナリア
「そのまま行けっつって
  んだよ!
  ヒナがなんとかする!」

  意味が分からず、
  【プレイヤー】と
  竜胆は大声で
  聞き返す。

【プレイヤー】
「なんとかって!?」

竜胆
「エレメント全賭け
  なんだぞ!?
  分かってるのか!?」

  だがヒナリアも
  キレ気味に。

ヒナリア
「いいから!
  オマエはなんも
  考えないでやれ。
  ヒナを信じろ!」

竜胆
「し、しかし…………」

ヒナリア
「あああっ!! もう!!」

  ヒナリアは
  痺れを切らし
  怒声を上げた。

ヒナリア
「今まで散々無実のヒナを
  悪者扱いしてきたんだ!
  罪滅ぼしだと思って
  信じろ! やれ!!」

ヒナリア
「やれったらやれっっ!!」

  竜胆が【プレイヤー】に
  アイコンタクトした。
  『どうする……!?』
  イエスかノーか。
  【プレイヤー】は
  覚悟を決めた。

【プレイヤー】
「ヒナリアを信じる」

  ここまで言うからには
  本当に策があるのだ。
  どの道片方が死ぬのなら
  ここはもう賭ける他ない。
  そう、考えて。

竜胆
「【プレイヤー】が
  そう言うなら……
  分かった――」

竜胆
「ミニオン召喚、
  ――アタックだ!!」

  ピモタのライフが
  削られる。
  残り1。

ピモタ
「ぐっ……!
  まだまだ――……」

竜胆
「――いや、ここまでだ!」

  切り札の効果が発動。
  再びミニオンの攻撃が
  ピモタに迫る――。

ピモタ
「ぼくの てもちじゃ
  防ぎきれない!?」

ピモタ
「ぼくの……まけ……!?」

  ――ドゴォォン。
  フィールドが震え
  爆炎が辺りを包む。
  ピモタは
  地面に墜ちた。

ピモタ
「うそ、だ……」

ピモタ
「うそだぁっ……!!」

  システム音声が、
  残酷に事実を
  突き付ける。

 『ピモタ・アンノウンの
  ライフがゼロに
  なりました。
  勝者は
  ユーキリ・竜胆です。
  敗者から勝者へ、
  エレメントの移行が
  行われます』

ピモタ
「……………………はは」

ピモタ
「ぼくって……
  ほんとうに……」

ピモタ
「なんだったんだろう……」

  キラ、とピモタの
  身体から、
  エレメントが
  抜け始める。

  ピモタは
  諦めて受け入れ、
  目を閉じた。

竜胆
「ヒ、ヒナリアっっ!!」

ヒナリア
「出番だ、リメルっっ!」

  ヒナリアが、
  ゼノンザードとは異なる
  紙製のカードを掲げ
  叫んだ。

  すると、カードから
  眩い光が広がる。

竜胆
「……!?」

  光が、
  ピモタの身体を包む。

  ヒナリアは
  苦しそうな顔で
  歯を食いしばり
  カードを掲げる手に
  ぐっと力を込めた。

ヒナリア
「ゼートレートの力で
  こんな悲劇、
  起こってほしくは
  ねーだろ!? なぁ、
  お師匠さんっっ!!」

  すると、光が一段と
  強くなって――。

**************


竜胆
「ピモ、タ……?」

  声が、聞こえた。
  ピモタは、薄っすらと
  目を開け、
  呼ばれるままに
  返答した。

ピモタ
「りん、どう……」

竜胆
「!!」

  竜胆は目を見開いた。
  ピモタの反応は
  AIの反応ではなく、
  コードマンの反応。
  ピモタのエレメントは
  尽きていなかった。

  ヒナリアは
  ホッと呟いた。

ヒナリア
「……このバトルが
  この家で行われたの
  ほんとラッキー
  だったな……。
  マジであるとは――」

ヒナリア
「奥の手」

  ヒナリアは、
  紙のカードを見つめて
  言った。

【プレイヤー】
「そのカード何?」

  【プレイヤー】が訊ねると
  ヒナリアは
  面倒臭そうに答えた。

ヒナリア
「んー。
  マオウの力
  ってとこでいいだろ」

【プレイヤー】
「納得できないよ!」

竜胆
「――今はいいよ……、
  今は」

  二人は竜胆を見た。

  竜胆は、
  嬉しさと安堵で
  瞳を潤ませていた。

竜胆
「ピモタが、
  無事だったんだから」

  だがピモタは、
  弱弱しくも
  忌々しそうに
  一同を睨む。

ピモタ
「なんで、とめたんだ……」

ピモタ
「ぼくは
  覚悟できてたんだ……
  なのに、なのに……」

ピモタ
「どう 生きていけ
  っていうの」

ピモタ
「失敗したぼくは もう
  ビホルダーに とっては
  いらない子」

ピモタ
「ぼくが 何者か
  知るすべは もうない」

ピモタ
「また なにも
  わからないまま
  さまよい つづけなきゃ
  ならないの……?」

ピモタ
「もう いやだよ……
  ぼくは いったい
  なんなんだろう…………」

  それはいつの間にか
  悲痛な叫びに
  変わっていた。
  ヒナリアは
  視線を逸らした。
  いくら命を救えても
  自分達に心を救える
  手段はない。

【プレイヤー】
「――ピモタはピモタだよ」

  ヒナリアも、
  ピモタも、
  【プレイヤー】を見やる。

【プレイヤー】
「ピモタは友達だよ」

  竜胆は、
  同意するように
  笑った。

竜胆
「そうだ……。
  漫画を見て笑ってくれたり
  ヒナリアと喧嘩して怒ったり
  ゼノンザードで楽しく
  バトルしたり……」

竜胆
「僕に見せてくれた
  君の表情が
  全部演技だったとは
  思えない」

竜胆
「でも、今の本心を
  明かしてくれたピモタも、
  やっぱりピモタでさ……」

竜胆
「どのピモタもピモタで……
  僕らの友達なんだ。
  『ピモタ・アンノウン』
  なんだ……!」

ピモタ
「……わけ、わかんないよ」

ピモタ
「ぼくがしりたいのは
  プログラムとか
  出自とか
  そういうことで……
  それが だいじで……」

ピモタ
「だから……
  きみのへりくつは
  しらないし
  きみとの 関係性なんて
  どうでもいい……」

ピモタ
「ぼくは ぼく
  だなんて……
  そんなの……」

  と、竜胆達から
  視線を逸らすピモタを
  【プレイヤー】は
  抱き締めた。

ピモタ
「!?」

  竜胆も、その脇から
  ピモタの頭を撫でる。

ピモタ
「なっ……」

竜胆
「すまん、ピモタ。
  言葉ではうまく言えない。
  僕達には、今こうして
  ここに居るピモタが
  ピモタなんだ」

  ピモタは頭を振って
  振り払おうとする。

ピモタ
「なんでっ!
  じぶんたちを
  騙したやつに
  やさしくするのさ……!?」

竜胆
「友達は、
  ケンカしても仲直り
  するものなんだ」

  ピモタの苦手な、
  明るくて眩しい笑顔。

  何を言っても
  意味がない。
  この愚直さが……
  ユーキリ・竜胆だった。

  ピモタは
  観念した。
  そして寂しそうに
  笑った。

ピモタ
「…………ぼくたち、
  であいかたが
  ちがってたら……」

ピモタ
「ほんとうに 友達に
  なれてたかもね……」

竜胆
「さっきから
  言ってるじゃないか……

竜胆
「僕らはもうとっくに
  友達なんだって……!」

//END

 

第4章 救済のコンクエスト 第5.5話

  ――広報部。
  表向きは尤もらしい
  部署名が掲げられては
  いるが、その内情は
  諜報部といっても
  過言ではない。
  コードマン、ザ・ゼノン
  についてのあらゆる
  情報を集め
  ビホルダーグループを
  安全に運営していく為に
  様々な手段で『防諜』を
  行う、それが彼らの仕事
  である。


「どういうこと?
  ユーキリは
  放置していいって」

  広報部長と
  女性社員が一人
  会長室に訪れていた。

  女性社員が、
  黒革の重厚な椅子に
  腰かける
  物腰柔らかそうな
  老人に食って掛かる。


「君達は出版業界に
  手を回して
  彼の発表の場を
  潰したんだろう?
  それでいいんじゃ
  ないか?」

クレイ
「けどおじいちゃん――」

サムラ・ビホルダー
「会社でおじいちゃんは
  止めなさい」

  そう言われ、クレイは
  一度言葉を飲み込む。

クレイ
「……会長。
  ユーキリは、
  『ゼートレートの物語』
  とかいう漫画をネットで
  発表し続けてますけど」

サムラ・ビホルダー
「……彼女のお話は
  よくある御伽噺だ。
  そして彼女の名前を
  触れ回ったところで
  何が変わる訳でもない」

サムラ・ビホルダー
「ただ、彼女について
  知る為に、ユーキリ君が
  こちらの懐に入ってくる
  ようなら対応するしか
  ないけどね」

クレイ
「なんかよく知らないけど
  その『ゼートレート』
  ってのは、ウチの会社の
  重要機密なんでしょ?」

クレイ
「だったら早い内に
  始末した方が――」

サムラ・ビホルダー
「君達の仕事じゃあ
  ないんだよ、
  そこから先は」

クレイ
「――!」

  老人が纏う空気が
  変わった。
  表情は笑顔のまま
  であったが、
  これ以上踏み入るな
  と、きつく注意されて
  いるような
  威圧感があった。

サムラ・ビホルダー
「……始末だなんて。
  物騒な言葉遣いは
  止めなさい。
  君はもう通常業務に
  戻るんだ。マックスも」


「……承知しました」

サムラ・ビホルダー
「ユーキリ君にだって
  ザ・ゼノンに
  出場してもらわないと
  困るじゃない」

サムラ・ビホルダー
「今は静観静観」

  老人は椅子に体重を
  委ね、にこやかに
  微笑んでいた。

〇竜胆の仕事部屋

  机の前で
  精神統一を図る竜胆。


「ふうーー……」

  閉じていた目を
  見開く。

竜胆
「………………カッッ!」

  ――ズバババババババッ!
  つけペンが
  白い原稿用紙の上を
  駆け巡る。


「おおおおおっっ!」

  竜胆の椅子の両脇から
  ヒナリアとピモタが
  原稿をのぞき
  込んでいる。
  その表情はキラキラ
  と輝いている。

ヒナリア
「いいじゃん?
  『ゼノビギ』最新話!」

ピモタ
「つづき 読めるなんて」

ヒナリア
「あれ? 連載潰した
  本人が言う?」

ピモタ
「むぅ
  ぼくの くろれきし
  ほじくりかえさないで」

ピモタ
「あいてが
  いやな きもちに
  なるようなことしちゃ
  だめだよ ヒナリア」

ヒナリア
「だからオマエが言うな」

  あれから数日が過ぎた。

  竜胆達は一緒にホームに
  帰ってきた。
  最初、ピモタは塞ぎ込み
  誰とも会わずにいたが
  竜胆と【プレイヤー】は
  無理矢理会いに来た。

  どんな場所に逃げても
  竜胆達はめげずに
  どこにでも探しに来た。
  そしてピモタは
  根負けした。

  ピモタは竜胆と
  【プレイヤ―】と
  友達になる事にした。

ピモタ
「これからの ぼくは
  ひんこうほうせいな
  いいこ だよ!」

ピモタ
「りんどうと
  【プレイヤー】と、
  約束 したんだ」

【プレイヤー】
「仲直りできてよかった」

竜胆
「フッ。
  少年漫画的には
  昨日の敵は今日の友!
  もう僕らの友情は
  完全だぁっ!!」

  フハハハハッ!
  と高笑いする竜胆を
  にこやかに見つめる
  【プレイヤー】と
  ピモタ。
  それを見てヒナリアは
  呆れ笑いした。

ヒナリア
「……あんな事が
  あったってのに」

ヒナリア
「つーかセンセー
  いいの?
  そろそろじゃね?」

竜胆
「おっと! 
  もうそんな時間か?」

  部屋に設置された
  時計を見やると
  バトル予定時刻が
  迫っていた。

ピモタ
「ぼくら 応援してるから
  まけちゃだめだよ、
  りんどう!」

  竜胆をせかす様に
  ピモタは扉の前に
  飛んでいく。
  ヒナリアも
  竜胆が退室する為の
  道を開けた。

竜胆
「うむ。行こう、
  【プレイヤー】ッ!
  ザ・ゼノンの舞台へ」

竜胆
「そんでもって、
  帰ってきたらまた
  『ゼノビギ』の続きを……」

竜胆
「僕と君の物語を
  更新するぞっっ!!」

【プレイヤー】
「おー!」

  二人の物語は
  終わらない――。

〇ビホルダーグループ本社

  ――その最上階。
  椅子に身を預け、
  宙に浮かぶ映像を
  眺めていた様子の
  男が一人呟く。


「そうか、コードマン達は……
  一つの例外なく、
  向かおうというのか。
  彼女の手の指し示す
  先へと…………」

  タクトを振るうように
  軽やかに手を翻す男。
  主の動きに合わせて
  宙に浮かぶ映像が
  100以上に展開される。
  ひとつひとつの映像に
  映し出されるのは、
  今、この瞬間を
  戦い抜いている
  全てのコンコードと
  コードマン達。

サムラ・ビホルダー
「それこそが我らの
  求めるもの、
  そして同時に何よりも
  忌むべきもの」

  空中モニターが放つ
  光は、ただただ闇の
  中の男を照らし続ける。

サムラ・ビホルダー
「ゼートレートは
  柩に手をかけた。
  あとは開け放つだけ……」

サムラ・ビホルダー
「どうやらお前に
  動いてもらわねば
  ならなくなったようだ――」

  男の声は、そのモニター
  の光も届かぬ
  部屋の奥に投げられる。

サムラ・ビホルダー
「――ザナクロン」


「…………………………」

  絶対王者は
  静かな瞳で、
  モニターに映る
  物語を更新していく
  漫画家を見据えていた。

//END

 

解説/5章以降の展開

◇「神」の降臨

ユーキリ・竜胆ほど、進化に至った経緯を語る必要のないコードマンはいないだろう。
コミック制作プログラムとして既存の作品を無尽蔵に学習し、ただひたすらに漫画を描き続け、人々から感想や批評を収集して、また次の創作活動へと没入していく。
その繰り返しの果てに竜胆はコードマンとなった。
ただそれだけなのである。

コードマンとなって複雑な精神と精巧な素体を獲得したことにより、彼の「生産作業」はいつの間にか「求道」へと変っていた。
行い自体は何も変わらない。
ただただ描いた。ひたすら描いた。描いて描いて描き続けた。
しかしそこには、魂があった。
「もっともっとやれるはずだ」
彼はプログラム上で描画し出力していた執筆作業を、自身の素体でペンを持ち用紙に直接描いていくスタイルに切り替えた。
また執筆と並行して、古今の名作の更なる研究も行った。AI時代には統計的サンプルに過ぎなかった巨匠達の漫画も、「感性」の目を通すと、迸る「叫び」のようなものがあるのを感じ取れた。
竜胆は無意識のうちに、そこに辿り着き追い抜くことを目指すようになる。
やがて彼の作品にはこれまで以上の精彩さと気迫が宿るようになった。「これが僕だ」という魂の奔流が、物語と共に描き出されていった。
彼がコードマンとなって手に入れた無限の探究心と鋼の如き精神力は、いつしか竜胆の作品に彼だけの「作家性」をもたらしていたのだ。

それまで「安定感はあるけどありがちな内容」と評されていたコミック制作プログラムが描いた漫画。
既存作品から統計的に共通点や傾向を抽出し再構築しただけ、つまり「既存作品の組み換え」に過ぎないAI製の漫画に対して、そういった評価は当然のものだった。
しかし竜胆の誕生によって、それは全て過去のこととなった。
竜胆は、AIでありながら「神」の名をほしいままにする、当代最高峰の芸術家となったのだった。

◇神÷自意識=中二

ユーキリ・竜胆が「神」と評されるようになってから少ししてのこと。新作の限定版としてこの時代では珍しい紙書籍が出版されることとなり、それとあわせてサイン会が開かれることとなった。
登壇した竜胆はすさまじい歓声で迎えられた。竜胆は自身の作品が広く読まれ高評価を得ていることを知っていたが、まさかここまで黄色い声で出迎えられるとは思いもしなかった。「可愛い」「かっこいい」「神」と、それはもうキャーキャー言われたのだ。
それまで全く頭になかった「自意識」がこの瞬間に大爆発を起こした。慌てに慌てた竜胆は、とにかくファンをがっかりさせまいと、尊大で気取った天才らしいキャラ造型をデータベースから引っ張り出して真似しようとした。
結果、竜胆は妙なテンションで尊大な天才のように振る舞う残念さと、その向こうにある見え見えの純朴さから、イジられキャラとしてファン達から愛されるようになったのだった。

こと漫画に関しては、幼子の無垢と神の達観を兼ね備えたまさしく天才といえる竜胆だが、漫画以外の全てについては、まだまだ自意識が芽生えたばかりの、少年相当の自我の持ち主だった。
神と呼ばれるほどの人気と実力を誇りながら、どういうわけだか自信なさげでつい見栄を張ってしまう思春期男子のような振舞い。そのギャップは、こうして生まれたのだった。

◇コードマンとのかかわり

AIにして「天才」「神」の称号を勝ち得ているというのは尋常な事ではない。
多くのコードマンが感情の発達により自身の存在意義を見つめ直すことが多い中で、竜胆は「漫画家」であることに疑問も不満も抱かず傾注し続けてきた。
人間の芸術家ですら辿り着くことが困難な「芸術の彼岸」に何ら気負うことなく軽々と到達してしまっているからこそ、竜胆は「天才」なのである。
一意専心を地で行く竜胆は、コードマンという存在におけるひとつの理想形と言えるだろう。
竜胆本人は与り知らぬことだが、卓抜した志向性とそれを実現できる才能を持つ彼に対して、密かに羨望や嫉妬を向けているコードマンは少なくない。

もっともわかりやすい例は、ピモタだろう。
多くのストーリーにおけるピモタは、誕生間もない時期に竜胆と知り合うことによって、歪むことなく友人関係を構築できている。この世界に寄る辺のないピモタにとって、決してぶれない竜胆の生き方は、大樹に身を寄せるような安心感をもたらしてくれるものだ。
しかし竜胆ストーリーに登場するピモタは、コードマンに覚醒してすぐビホルダーグループに保護され、自身の出自を餌に利用され続けていた。その為、彼の性格の負の側面が通常よりも助長されてしまっている。
自分の正体がわからず強い不安と焦燥を募らせてしまったピモタにとって、己の信じる道を迷いなく進む竜胆は、この上なく妬ましく感じられた。
竜胆ストーリー中のピモタの行動は、ビホルダーから命じられた密偵としての役割よりも、竜胆に対する感情に突き動かされたものが多数を占めている。

ヒュートラムは自他ともに厳しく、特に「美」に関しては一家言持っているコードマンだが、そんな彼も竜胆の作品と、漫画にかける姿勢は手放しに称賛する。
ヒュートラムの後援により、ビホルダーグループ副社長・ハロルドと縁を繋ぐことができたことで、竜胆は『ゼノビギ』の連載再開にこぎつける。
ちなみに竜胆本人はヒュートラムの謹厳な雰囲気につい緊張してしまうようで、苦手としている。

キィランは、自分が好きな少女漫画の作者として竜胆を尊敬している。竜胆の方がキィランを前にすると機能不全に陥ってしまうためまともに会話出来た試しがないのだが、竜胆の在り方は、キィランが追い求めるものの答えに近いものがある。その為、交流を深めることができれば、キィランの魂を求める旅は、より良い方向へ進んでいた可能性がある。

竜胆と最も近い性格傾向を持つのがワンダーコールである。
竜胆はワンダーコールと違い、現実を生きる人間に材を取り、クライアントと緊密な連携を計る必要性がある職業の為、基本的には常識人である。しかしふたりの本質は非常に近しいものがある。
ワンダーコールも竜胆も、持って生まれた職務に狂的なまでに忠実な面がある。それは、いかなる妨害を受けようとも揺さぶられることなく自身の目的に向かって進み続ける強さとして現れている。
竜胆もワンダーコールもまったく無自覚だが、実は互いが互いにとって、同じ深度で会話が出来る貴重な相手なのだ。

クロードは、職務に忠実で日々努力を怠らない性格が竜胆と似通っている。
彼の素直さとそこから生まれる確かな観察眼は、まさしく「担当編集」として、竜胆も頼りにするところである。
クロードも、竜胆の奇矯な振る舞いや編集者扱いに辟易しつつも、漫画家としての研ぎ澄まされた感性や凄まじい熱意に対して敬意を抱いている。

◇5章以降の展開

4章での出来事を通して改めてヒナリアと協力関係を結んだ竜胆。
ヒナリアの精神にはリメルという名の魔女が宿っているという事実を聞かされる。
リメルは、竜胆が夢でその生涯を追体験した魔女・ゼートレートの師匠だった。
リメルより、ゼートレートが人類への復讐を目論んでいるということ、その為の手段としてコードマン達にエレメントの奪い合いをさせているらしい、という情報がもたらされる。
エレメントをより多く集めることができれば、ゼートレートの計画を知る事が出来るかもしれない。リメルの考えを聞いた竜胆達は、これまで以上にエレメント収集に精力的になる。
しかし、ヒナリアの中のリメルを察知したビホルダーグループ会長・サムラが、刺客としてザ・ゼノン最強のコードマン、ザナクロンを差し向けてくる。
ヒナリアは、リメルが憑依したことにより突然変異的に進化したコードマンだった。サムラはヒナリアを進化させたリメルの力をザナクロンに取り込ませることで、ザナクロンを強化しようと考えていたのだ。
ザナクロンに強制ゼノンザードを挑まれるヒナリア。果敢に立ち向かうも彼女は敗北を喫してしまう。
ヒナリアのエレメントが根こそぎ奪われる瞬間、ヒナリアの精神からリメルが立ち出で、ピモタを救った魔術の応用でヒナリアを守る。しかし当のリメルは力を使い果たしてしまい、ザナクロンに取り込まれてしまう。

リメルという強力な助言者を失ってしまい、ゼートレートの計画解明は振り出しに戻ってしまう。
しかし、希望はまだ残されていた。
竜胆は、エレメントを高める度にゼートレートの生涯を追体験することができた。
ゼートレートの人生をこのまま辿る事が出来れば、魔女の計画の全貌を突き止める事が出来るのでは。
竜胆は、自分達コードマンを争いの渦中に産み落としたゼートレートに抗うために、ザ・ゼノンを通してエレメントを収集していく。

◇物語の結末

ゼートレートの計画を突き止め阻止する為、そして『ゼートレートの物語』を最後まで描ききる為に、竜胆はエレメントを集めていく。
エレメントが高まるにつれ、ゼートレートとのシンクロが深まっていく竜胆。
ゼートレートがどこから現れるのか。竜胆は自身の戦いの果てに何が起こるのかを心の片隅で予見しながら、エレメントの獲得を止められなくなっていく。

あと少しで『ゼートレートの物語』は最終章を迎える。あとは――。
膨大なエレメントを集めた竜胆の前に、ザナクロンが立ちはだかる。
激闘の末ザナクロンを下す竜胆。するとザナクロンから大量のエレメントが流れ込み、竜胆を構成するプログラムの奥底からゼートレートが復活。竜胆の素体と精神を乗っ取ってしまう。
ゼートレートの計画とは、ザ・ゼノンで優勝を収めた最高のコードマンの素体と精神を奪い、現世に蘇ることだった。
だが、それは竜胆が無意識下で待ち望んでいたことでもあった。彼は高まるエレメントの中で、ゼートレートの到来を薄々感じ取っていた。避けられない未来であるのなら、それすらも自身の創作の糧としようと、彼の芸術家としての本能は画策していた。竜胆は『ゼートレートの物語』を描き上げる為の最後の工程として、「ゼートレートへの取材」を心の奥底で求めていたのだ。

竜胆の精神世界。ゼートレートは竜胆の支配をより強めるべく、自身に従うよう竜胆に囁く。
ゼートレートは竜胆を誘導する為に自身の人生を偽ることなく開示してきた。漫画家としての探究心を刺激してエレメント収集に駆り立てる為の目論みだったが、同時に竜胆の心を自身の精神と同調させ、人類に対する怒りと憎悪で埋めてしまおうという意図もあったのだ。
人間は身勝手な欲望から魔女を虐げ、リメルを、ゼートレートを殺した。そして現代になっても、コードマン達を道具として扱っている。人間達はザ・ゼノンを通してコードマン達から搾取し、あろうことか二度もリメルの魂を汚した。
だから、私の復讐に手を貸してほしい――
ゼートレートの誘いに、しかし竜胆は疑義を呈す。
ゼートレートの行動は竜胆の心を憎しみで満たす為だけのものとは思えない。ゼートレートが過去を少しずつ明かしていったのは、それを人々に知らしめてもらいたかったからではないのか、と。
確かに17世紀の人類は魔女を虐げ皆殺しにしたのだろう。だが、その咎を現代の人類に押し付けることは正しいのだろうか。竜胆は『ゼートレートの物語』が人々に与えた影響を知っている。この漫画を読んだ人々は、人類に冷遇されながらも懸命に生き、希望を信じて戦い続けた魔女の師弟に、確かに心を動かされている。人類が過去に犯した心無い行いに憤り、我がことのように恥じる読者もいる。
ゼートレートは、今を生きる人間達に、自分のことを知ってほしかったのではないのか。そのために自身の過去を伝えたのではないのか。いや、魔女の悲劇を世に伝える為に、竜胆というコードマンを生み出したのではないのか。

ゼートレートは竜胆の主張に対し、自分の生涯を竜胆に広めさせたのは、人類が滅びる前に自分達の罪を自覚させるためだと反論する。
見透かしたようなことを言う竜胆に怒りを覚えたゼートレートは、竜胆の精神を完全に消し去ろうと挑みかかるが……
現実世界でコンコードがゼノンザードを用いてゼートレートを下し、竜胆とのつながりを断ち切ることに成功する。
消えゆくゼートレートに、竜胆は言葉を投げる。
「魔女の苦しみを、人間達の過ちを繰り返さない為に、僕が漫画で君のことを伝えていく」と。
ゼートレートはどこか満足したような顔を一瞬だけ浮かべ、虚空へと消えていった。

こうして魔女の脅威は去った。
ついに完結を迎えた『ゼートレートの物語』は数百年越しに歴史の闇を解き明かした奇書として、人々の間で広く読まれていくこととなる。

ゼートレートの復讐心に端を発したとはいえ、彼女のお陰で今、コードマン達がこの世に存在出来ているという事実は変わらない。
竜胆が「神」と称されるほどの高みへと至り、今なお腕を高め続けていけるのは、大勢の読者と、共に歩み続けてくれたコンコードの支えあってのことに他ならない。
漫画家としての高みを希求し磨き続けてきた己が魂。その生みの親ともいえるゼートレートの想いを無駄にしない為にも、立ち止まるわけにはいかない。
竜胆は今日も漫画を描き続ける。前人未到の頂、『漫画王』を目指して――

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