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正義 -バレット-

公開済みストーリー・相関図

公開済みストーリーをYouTubeで公開中!!

1章 相棒-バディ-

2章 遭遇-クラッシュ-

3章 激情-レイジ-

4章 正義-バレット-第1話~第2話

相関図

▼クリックして拡大▼

 

第4章 正義-バレット-第3話

  捨て置かれて久しい廃倉庫。
  そこに『名無し』が
  入ってくる。
  と、それを検知した装置が
  中空にブラッドの
  ホログラムを投射する。


「来ましたね……
  待っていましたよ
  『名無し』」


「ホログラムとはいえ、
  幹部クラスがオレと
  直接やり取りしたいなんて
  よっぽど大事な
  依頼なのかな?」

ブラッド
「フフ……
  特別重要な任務でしてね
  仕事の成果をすぐさま、
  自分の目で確認したいの
  ですよ」

『名無し』
「すぐさま、
  自分の目で、ね……
  隣室かどこかから
  モニターしてるのかな?」

『名無し』
「でもって、ターゲットも
  今この近くにいるってことか
  ふーん……」

ブラッド
「では依頼の概要を……」

『名無し』
「あー待て待て
  言わなくていい
  当ててやるよ」

ブラッド
「ほう……」

『名無し』
「アンタ……
  ブラッドさんだっけ?
  コードマン共の
  感情なんていう
  無駄な物の研究をしてる
  マヌケな幹部……」

『名無し』
「この前のリベルタの件から
  ず~っと、とある
  コードマンに
  ご執心らしいじゃないか」

ブラッド
「ええ……。どうしても
  この目で見てみたい
  感情がありましてね……」

  『名無し』、
  ニヤリと笑みを浮かべて。

『名無し』
「今回のターゲットは
  『オレ』……ってところか?
  随分と味なマネしてくれるね。
  面白いじゃん……!」

『名無し』
「……いるんだろ?
  出て来いよ!」

  暗がりへ声を投げる。
  と、『名無し』の元へ
  歩み寄る影が――
  それはクロードで。


「『名無し』……!」

  『名無し』を静かに睨んで。

  クロードを捜索中の
  シャーロットと
  【プレイヤー】。
  シャーロットが持つ
  アウロスギアから
  ミーナのホログラムが
  映し出されている。


「お問い合わせいただいた
  クロードさんの
  アウロスギアの
  位置情報なのですが……」

【プレイヤー】
「どこにいるかわかった!?」

ミーナ
「すみません、
  どういうわけだか
  位置情報が
  出てこなくて……」


「と、いう事は……」

  数瞬、思案したかと思うと、

シャーロット
「オッケー、よくわかったよ
  じゃあねっ!」

ミーナ
「えっ?
  シャーロットさん?
  どういう事……」

  ミーナの問いを無視し
  通話を切るシャーロット。
  【プレイヤー】も
  理解不能といった様子で。

【プレイヤー】
「何にもわからなかったよ!?」

シャーロット
「いいや、今ので十分さ」

  フフン、と得意げな笑み。

シャーロット
「気持ち悪い話なんだけどさ、
  アウロスギアの位置情報って
  端末側からは
  基本的にはオフに
  できないんだよね」

シャーロット
「位置情報を遮断できるのは
  管理者権限を持っている
  一部のビホルダー幹部
  だけ……」

シャーロット
「……この前の狙撃事件の時、
  クロード君の事を
  ヤラシイ目で見てた
  幹部がいただろ?」

シャーロット
「科学部統括
  DR.ブラッド……!」

シャーロット
「間違いない
  アイツが
  一枚噛んでるね……!」

シャーロット
「ビホルダーが絡んでいる
  施設なら
  リストアップしてある。
  直近で怪しい動きがあった
  ところは……」

  シャーロット、
  データベースに
  検索をかける。
  すぐにヒットして。

シャーロット
「……あった!
  目星はついたよ
  さあ行こう!」

  駆け出す
  シャーロットと
  【プレイヤー】。

  距離を取り相対している
  クロードと『名無し』。

『名無し』
「クロードぉぉ……!
  なんだよお前
  正義のおまわりさんが
  悪徳企業と
  手を組んだってか?
  いいのかよ、そんな事して」

『名無し』
「らしくねえじゃん。
  レイヴちゃんも草葉の陰で
  泣いてるぜ。
  ヒャハハハハハハァ!」

『名無し』
「ブラッドに改造でも
  してもらったか?
  目からビームなんて
  撃ったりしないよなあ!」

  全く動じない様子の
  クロード。
  『名無し』、
  しびれを切らしたように。

『名無し』
「だんまりかよ……
  つまんねえぜ、クロード。
  観客もいるんだ、
  盛り上げねえとなあ!」

  と、懐から銃を抜く。

『名無し』
「ほら、お前も銃を抜けよ。
  クライアントは殺し合いを
  ご所望だぜ?」

  クロード、微動だにせずに、

クロード
「……俺はこのままで構わない」

『名無し』
「…………は?」

クロード
「引鉄を引け、『名無し』。
  俺を撃ってみろ。
  だが、貴様が引鉄を
  引き切るよりも先に……」

クロード
「俺の銃弾が貴様を穿つ」

『名無し』
「………………」

  クロードの放言に
  唖然となる『名無し』。
  が、すぐに嘲笑が
  浮かび始めて。

『名無し』
「……………プッ
  ククククク……ッ
  ヒャハハハハハハハハァ!」

『名無し』
「おいおい、冗談キツいぜ
  クロードよぉ!
  忘れたのか?
  オレはお前らAI共より
  遥か先を行く
  存在って事をよ!」

『名無し』
「それをお前……
  オレより先に撃つ?
  できるわけねえだろ!
  ハハハハハハハハハハッ!」

『名無し』
「ハハハハハハハハ………」

『名無し』
「…………ハァ
  やっぱお前つまんねえな。
  もういいよ」

『名無し』
「死ね」

  引金を引こうとする
  『名無し』。
  その瞬間、銃声が響き――
  宙を舞う一丁の銃。
  その銃の持ち主――
  『名無し』が
  腕を押さえている。

『名無し』
「……くっ
  なっ、オレの銃が……!」

  銃を構えているクロード。
  銃口からは
  硝煙が昇っている。

クロード
「………………」

『名無し』
「クッ、クククククッ……!
  なんだよお前……!
  俺の銃弾が貴様を穿つ?」

『名無し』
「よく言うぜ……!
  オレの銃を弾き飛ばしただけ
  じゃねえか!
  結局お前はお行儀のいい
  おまわりさんに
  過ぎないのさ!」

『名無し』
「ほら、オレは丸腰だぜ?
  撃てるのか?
  おまわりAIのお前に、
  無防備な
  『人間様』をよォ!!」

  嘲りつつ
  腕を広げる『名無し』。
  クロードは、
  すっと目を細めて、

クロード
「左肩部
  左腕神経接続点……」

『名無し』
「あ?」

  クロード、引金を引く。
  『名無し』の左肩を
  銃弾が貫く。

『名無し』
「ぐうっ!」

  『名無し』の左腕が
  だらりと垂れ下がり、
  動かなくなる。

『名無し』
「ぐっ……
  左腕が……っ!」

クロード
「右腕部
  肘関節アクチュエータ」

  クロード、引金を引く。
  撃ち抜かれる
  『名無し』の右腕。

『名無し』
「ぐあっ……!」

  動かなくなる
  『名無し』の右腕。
  『名無し』の声など
  意に介さず、
  静かに語り始める
  クロード。

クロード
「……ここには何もない。
  炎に巻かれる小悪党も。
  要人を狙う狙撃手も」

『名無し』
「ああ……っ!? お前、
  何言ってやがる……ッ」

クロード
「ここには何もない。
  誰よりも敬愛した上司も。
  背中を預けたかつての友も。
  守らなければならない
  相棒も」

クロード
「ここにいるのは
  俺と貴様だけだ」

クロード
「だからかな……
  今の俺には、
  貴様の事がよく見える」

『名無し』
「な………………」

クロード
「胸郭内
  補助動力源」

  クロード、引金を引く。
  『名無し』の胸部に
  弾丸が食い込む。

『名無し』
「ぐぅう……!」

クロード
「……重要な機関は
  流石に装甲が厚いな。
  だが、同じ個所を
  寸分違わず撃たれ続ければ
  どうだ?」

  引金を引くクロード。
  食い込む弾丸に
  『名無し』は苦痛の呻きを
  あげる。
  眉一つ動かさず、
  何度も引金を引くクロード。
  やがて、精密な連射が
  『名無し』の胸部装甲を
  破り、内部機関を破壊する

『名無し』
「がはあぁっ……っ!!」

  倒れ伏す『名無し』。
  クロードは無表情のままで。

クロード
「どうした、立って見せろ。
  貴様は人の身で
  AIを超越した存在
  なのだろう?
  俺に貴様の力を見せてくれ」

『名無し』
「クソが……ッ!!」

  歯噛みする『名無し』。
  と、ブラッドの
  ホログラムが現れる。
  ブラッド、
  感動に堪えない様子。

ブラッド
「す、素晴らしい……っ!!」

ブラッド
「コードマンが殺意を
  獲得すると
  これほどまでに
  ポテンシャルを
  引き出すことが
  出来るとは!!」

『名無し』
「ぐっ、がは……っ
  殺意……?
  く、くだらない、ね……」

『名無し』
「オレの身体の脆弱な個所を
  見抜いてぶち壊した……
  だからなんだよ?
  結局オレを殺せてねえ
  じゃねえか……」

『名無し』
「ホラ、頭(ここ)だ……
  一番大きな弱点が
  残ってるぜ……?」

  『名無し』、
  クロードの足もとまで
  這いずり、
  彼が持つ銃に
  自分の頭を押し当てる。

『名無し』
「撃ってみろよ
  クソポリAI……!
  出来っこねえだろ……!?
  下らねえルールに縛られた
  AIなんかにはよ……!」

  ブラッド、『名無し』の
  抵抗に思わず笑いが
  こぼれて。

ブラッド
「ククククク……ッ
  『名無し』君
  貴方に朗報ですよ」

『名無し』
「……あ?」

ブラッド
「今のアッシュ・クロードは
  『許可なく人間を
  殺傷してはならない』
  という警官AI特有の
  リミッターが
  機能していない」

ブラッド
「彼の倫理コードは
  どういうわけだか上書きされ
  無効化されている」

ブラッド
「……殺せるのですよ。
  今の彼ならば」

クロード
「……終わりだ、『名無し』。
  俺は、貴様のような悪を
  許容する事はできない」

  敗北を悟った『名無し』、
  顔から嘲りの色が消える。

『名無し』
「………………」

  だが、突然笑いだして。

『名無し』
「…………クッ
  クククククッ
  ハハハハハハハハ……!!」

『名無し』
「撃てよ、ほら
  オレを殺してみせろ
  だがなぁ……」

『名無し』
「お前が撃ったら死ぬのは
  オレだけじゃないぜ」

クロード
「………………」

『名無し』
「清廉潔白な
  警官のコードマン
  アッシュ・クロードも
  一緒に死ぬんだよ」

  『名無し』、
  狂気の笑みを浮かべて。

『名無し』
「こいつは面白ぇ……!
  みんなの憧れ、コードマンを
  人殺しに堕とせるんだろ?
  最高のショーじゃねえか!」

『名無し』
「撃てよ……!
  ためらうな。
  殺してみせろ
  これまでのお前を……!」

  ブラッドも、
  喜色満面にクロードを唆す

ブラッド
「そうです……!
  今こそ進化の時……!
  これまでの貴方を
  超克するのです!
  さあ、引鉄を……!!」

  と、廃倉庫の扉が
  勢いよく開け放たれる。
  そこにはシャーロットと
  【プレイヤー】が。

シャーロット
「クロード君!」

  クロードを制止すべく
  駆け出す【プレイヤー】達

ブラッド
「チッ……
  横槍が入りましたか……
  ですが、もう遅い!」

ブラッド
「撃ちなさい!
  進化の頂を登るのです!!」

『名無し』
「撃てっっ!!
  ここまで堕りてこい……ッ!
  クロードォォォォッ!!」

  『名無し』、
  銃口に頭を押し付ける。

【プレイヤー】
「ダメだッ! クロード!!」

  思わず手を伸ばす
  【プレイヤー】。
  瞬間、クロードは
  【プレイヤー】を見つめて。

クロード
「【プレイヤー】…………」

  その顔に
  逡巡が浮かぶも――

クロード
「……すまない」

  銃声が響いて――

//END

 

第4章 正義-バレット-第4話


「【プレイヤー】……」

クロード
「……すまない」

  銃声が響き渡る。
  思わず目を閉じてしまう
  【プレイヤー】

【プレイヤー】
「そんな、クロード……ッ!」


「……お前、
  どういうつもりだ」

  が、『名無し』の声が。
  銃弾は『名無し』の
  頭部をかすめて、
  床に食い込んでいた。

『名無し』
「何故外した……!
  撃てよ……!
  殺すんだろ、オレを……!」

クロード
「……もはやその必要はない」

『名無し』
「あァ!?」

  倉庫の管理室の戸から、
  腕を縛られた人物が
  突き飛ばされ、
  床に転がる。
  それはブラッドで。


「ぐああっ!!」

ブラッド
「クッ……!
  何故貴方が……!
  よくも邪魔を
  してくれましたね……!」

ブラッド
「ランバーン・タイダル!」

  ブラッドを縛り
  突き飛ばしたのは
  ランバーンだった。


「……あらあら?
  つまりこれは……」

クロード
「……遅い、遅すぎる。
  これほどまでに
  時間がかかるとは
  所詮はコソ泥だな」

  クロード、非難の口調で。
  それに対しランバーンは
  皮肉っぽく返す。

ランバーン
「ハッ、抜かせ……
  お前の猿芝居が
  あんまり笑えるもんでな。
  作業の手も
  止まりがちに
  なるってもんだ」

ブラッド
「猿芝居、だと……?」

クロード
「俺の仕事は
  『名無し』とブラッドを
  おびき寄せる事。
  『名無し』を無力化する事。
  そして何より……」

クロード
「ランバーンが潜り込むための
  陽動をする事だった」

シャーロット
「なるほどなるほど……
  クロード君は、
  ランバーンが本来の目的を
  達成するための囮に
  過ぎなかったわけだね」

【プレイヤー】
「本来の目的……?」

ランバーン
「こいつさ」

  手にした機器を
  操作するランバーン。
  ブラッドと『名無し』の
  会話が流れ始める。

『名無し』の声
『ホログラムとはいえ、
  幹部クラスがオレと
  直接やり取りしたいなんて
  よっぽど大事な依頼
  なのかな?』

ブラッドの声
『フフ……
  特別重要な任務でしてね
  仕事の成果をすぐさま、
  自分の目で
  確認したいのですよ』

  音声を止めるランバーン。

ランバーン
「こんな感じで
  ポリ公が注意を引いてる間
  俺がブラッドの端末に
  侵入して、諸々の証拠を
  押さえてたってわけだ」

クロード
「そういう事だ。
  全ては『名無し』と
  ビホルダーグループの
  関係を示す物証を
  手に入れ……」

クロード
「『名無し』ともども
  ビホルダーを検挙する。
  その為に仕組んだ事だった」

ブラッド
「そんなバカな……!
  あれが演技だった
  はずがない!
  アッシュ・クロード
  貴方の目的は
  仇敵を殺害する事だ……!」

  取り乱すブラッド。
  クロードはあくまで
  冷静に答える。

クロード
「違う。
  俺の目的は常に
  悪に然るべき罰を
  与える事だ」

ブラッド
「そう、
  然るべき罰でしょう!?
  死には死でもって報いる!
  コードマンでありながら、
  貴方の頭脳は、この血生臭い
  原理を導き出したはずだ!」

ブラッド
「今の貴方は間違いなく
  リミッターが
  消滅している!
  可能なのだ!
  人を殺す事が!」

ブラッド
「なのに何故……!
  何故! 自身の欲求に
  従わないのです!!」

  自身の推論を越えた行動を
  理解できないブラッド。
  激情のままクロードを
  問い詰める。

クロード
「……ああ、殺してやりたいさ。
  お前も、『名無し』もな」

クロード
「だがな、それでは駄目なんだ」

  『名無し』、
  理解できないといった
  表情を示す。

クロード
「感情とは
  一元的で単純なものでは
  決してない」

クロード
「複雑で、混沌としていて
  相反する感情を
  同時に抱く事もあるし、
  制御できないほど激しい
  思いに突き動かされる
  時もある」

クロード
「そして、憎いという思いも
  殺してやりたいという
  気持ちも、誰の胸にも
  去来し得るものだ」

クロード
「だが、みんなそれを
  飲み込んでいる。
  自分の心の負の面と
  折り合いをつけて
  生きている」

クロード
「そうやって、人間が
  当たり前のように
  やっている事を……

クロード
「俺もできるようになった。
  それだけの話だ」

ブラッド
「…………………!!」

『名無し』
「くだらないねえ……」

  予想を超える答えに
  驚愕を隠せないブラッドと
  落胆を見せる『名無し』。

シャーロット
「クロード君……
  四角四面だったキミが
  そんな事言えるように
  なるだなんてね……」

  シャーロット、
  ニマニマしながら、

シャーロット
「憎きランバーンと
  手を組めるようになったのも
  そういう心情の変化が
  あったからかな?」

クロード
「別に……
  今回の件に関しては
  奴が適役だったから
  協力を依頼しただけの事。
  それだけだ」

  憮然と答えるクロード。

シャーロット
「あらら……
  そういうトコ
  素直じゃないのは
  相変わらずなんだね……」

ランバーン
「俺だって……
  向こうが頼んでこなきゃ
  こんなカタブツ
  助けてやらなかったさ」

【プレイヤー】
「仲直りできたんだね」

  クロードとランバーン、
  むっとして

クロード
「仲直りなど
  断じてしていない」

ランバーン
「ああ、そもそも
  仲直りがどうとか、
  そういう関係じゃねえ。
  断じて違う」

  シャーロット、苦笑いして

シャーロット
「……なんかもう、
  息ぴったりって感じ……」

ランバーン
「……とにかく
  これで目的は達成できた」

  クロード、床に転がる
  ブラッドに視線をやる。

クロード
「ブラッド……
  お前には個人的に
  聞きたい事もある」

クロード
「エレメントの蓄積が
  感情を発達させると
  言ったな」

クロード
「では、お前は知っているか
  『ゼートレート』
  という存在を。
  エレメントと、
  何か関係が……」

ブラッド
「………………!」

  脂汗を滲ませるブラッド。
  と、廃倉庫の照明が
  明滅したかと思うと、
  何者かの声が
  ノイズ交じりに響く。

???
「あー、聞こえているかな
  コードマンの諸君……」

クロード
「何者だ……!」

???
「『名無し』の確保おめでとう
  ひとまず賛辞を贈ろう。
  『名無し』はあげよう。
  せっかく金星挙げたんだ、
  トロフィーくらい
  持って帰りてえよなあ?」

???
「でもな、ブラッドはダメだ。
  そいつを連れてかれると
  こっちも、ちと困っちまう」

シャーロット
「……このタイミングで
  助け舟を寄越したって事は
  キミはビホルダーの
  お偉いさん、しかも
  かなりの地位にいる人
  ってところかな?」

シャーロット
「それにしても、
  大企業の重役のわりに
  取引が上手くないなあ。
  『名無し』を渡すから
  ブラッドは返せって……
  それ、理屈通ってないよね?
  ふたり共こっちが
  確保してるんだよ?」

クロード
「ブラッドは重要な参考人だ。
  必ず連行し聴取する
  見逃すわけにはいかない」

ランバーン
「ブラッドを渡せば
  何か見返りがあるのか?
  それ次第だが……
  ま、できねえ相談だな」

  声の主の要求を
  はねのけるクロード達。
  声は面倒そうな色を
  滲ませて、

???
「そうか……
  それは残念だ」

  重厚な足音が響く。
  廃倉庫に、
  漆黒に塗られた
  オフィシャルAIが
  3機侵入してくる。

???
「できる事なら穏便に
  済ませたかったんだが
  抵抗するなら仕方がない」

  クロード達の
  アウロスギアが
  ひとりでに起動し、
  バトルが
  セッティングされる。

シャーロット
「『プロトタイプとの
  バトルを承認』……!?」

ランバーン
「エレメント100%ベット
  だと……!」

クロード
「強制ゼノンザード、
  というわけか……!」

???
「さて、君らが
  プロトタイプと
  戦っている間に
  ブラッドは
  引き取らせてもらう」

???
「負けたら君らは
  エレメントゼロで
  ぶっ壊れちまうから、
  ま、気張って戦ってくれや」

???
「じゃ、そういう事で」

  通信が途切れる。
  それを合図に、
  黒いオフィシャルAI――
  プロトタイプが
  クロード達に迫ってくる。

シャーロット
「大捕物の次は
  命がけの
  ゼノンザードかい?
  ちょっと急展開
  すぎるかな……」

  身構えるシャーロット。

ランバーン
「四の五の言ってる暇はねえ
  来るぞ!」

クロード
「【プレイヤー】!
  行けるか?」

【プレイヤー】
「やろう、クロード!」

クロード
「ああ、行くぞ!」

  アウロスギアを構える
  クロード達。
  バトルスタートの通知が
  鳴り響いて――

//END

 

第4章 正義-バレット-第5話

  展開されていた
  ザ・ゼノンの
  バトルフィールドが
  解除され、クロード達に
  敗れたプロトタイプ3機が
  崩れ落ちる。


「ふう、勝てたね……!」


「ブラッドは……!」

  視線を巡らせるクロード。


「ダメだ、
  もう連れ去られちまってる」

クロード
「クッ……!」

ランバーン
「だが証拠は押さえている。
  奴らを追いつめるのは
  日を改めて
  やりゃあいい」

ランバーン
「今は、果たすべきお勤めが
  もうひとつあるだろ、
  おまわりさんよ」

  顎で『名無し』を指す
  ランバーン。

クロード
「ああ……」


「…………………」

  未だ倒れ伏したままの
  『名無し』の元まで
  歩み寄るクロード。

クロード
「……『名無し』
  お前を逮捕する。
  お前がこれまで
  重ねてきた罪に
  相応しい罰が
  与えられる事だろう。
  ……観念しろ」

『名無し』
「く、ククククククッ……
  よかったねえ、クロード……
  念願叶って敵討ちだ……
  後はお仲間に
  オレを引き渡して
  終わりってか?」

  なんとか上体を起こし、
  クロードに囁く『名無し』。

『名無し』
「……オレを殺すなら
  今しかねえぞ。
  何、遠慮する事はねえ」

  ニヤニヤと語り出す。

『名無し』
「スカッとするぜ……
  人間の頭を吹き飛ばす
  瞬間てのは……
  内臓をぶちまけるのも
  面白いぜ。レイヴの奴も
  そうしてやったっけなあ」

ランバーン
「テメェ……!」

  思わず身を乗り出す
  ランバーン。
  クロードは腕を上げ、
  それを制止する。

『名無し』
「ほら、どうした?
  オレが憎いんだろ
  殺せよ、オレを」

『名無し』
「オレと『同じ』に
  なろうぜ?」

クロード
「……『名無し』
  罪を償え。
  俺がお前に言える事は
  それだけだ」

『名無し』
「ハ……
  そうかい……!」

  クロードの姿勢に
  怒りを滲ませる『名無し』

『名無し』
「オレを今この場で
  殺さなかった事……
  後で絶対後悔することに
  なるぜ……!」

『名無し』
「オレは『名無し』だぜ?
  オレを監獄にぶち込もうと
  したところで
  すぐさま無罪放免さ」

『名無し』
「出てきたら
  お前の大事な物
  全部全部ぶっ殺してやる」

『名無し』
「その後、後悔に苦しむお前を、
  オレがバラバラに
  してやるからよ。
  楽しみに待ってるんだな……
  ヒャハハハハハハァ……!」

  クロードから殺意を
  引き出すべく嘲弄を
  繰り返すが、

クロード
「……来い、連行する……
  今こそお前に
  正当な法の裁きを
  下す時だ……」

  クロードは無感情に
  『名無し』を引き起こし、
  廃倉庫から連れ出していく。

  ブラッドを救い出した
  声の主――
  ハロルド副社長の姿が
  ホログラムで
  映し出されている。
  その前にブラッドが
  立っている。


「まったく……
  好きな研究に現を抜かして
  楽しかったんだろうがな……」

  やれやれといった顔で
  話し出すハロルド。
  しかしブラッドは、
  言葉尻を取って、


「ええ……!
  素晴らしい
  観測結果でしたよ」

  感動に堪えないといった
  面持ちで、結果を
  報告し始める。

ブラッド
「アッシュ・クロードは
  殺意でもって
  リミッターを外してみせた!
  それほどまでの激情に
  突き動かされて
  いながら……」

ブラッド
「その感情を飲み込み
  『殺さない』という選択を
  自らの意思で
  選び取った……!」

ブラッド
「人間が課した制約から
  解き放たれてなお
  法と正義に従う事を
  彼は誓ったのですよ……!」

  興奮を隠せないブラッドに
  ハロルドは呆れつつ
  叱責する。

ハロルド副社長
「……誰が趣味の報告を
  しろって言った。
  ったく、研究バカってのは
  皮肉も通じねえのか……」

ハロルド副社長
「いいかい、ブラッドよ。
  お前さんは優秀な研究者だ。
  お前さんが俺の命令に
  従って動いてるうちは
  いくらでも面倒を見てやる」

ハロルド副社長
「だがな、火遊びもほどほどに
  してくれなきゃ困るぜ?
  プロトタイプ寄越したり
  あちこち根回し
  したりってのも
  タダじゃねえんだからさ」

ハロルド副社長
「お前さんの至上命題は
  他にあるだろ。
  そいつを忘れるんじゃねえぞ」

  ブラッドをじっと
  睨みつけるハロルド。
  ブラッドは自信あり気に
  言葉を返す。

ブラッド
「……無論、心得ていますよ。
  副社長の地位を
  確固たるものにする為に……
  例のモノは必ずや完成させて
  ご覧に入れましょう」

ハロルド副社長
「フッ。
  頼むぜ、科学部統括殿」

  ハロルドの
  ホログラムが消える。

警察署 警察長官・執務室

  デスクに鎮座する警察長官。
  その前に立ち、話を
  聞いていたクロードだが、

クロード
「『手違い』、だと……!?」

  長官の発言に対し
  怒気を滲ませる。
  長官は努めて
  余裕そうにして、

警察長官
「ああ、その通りだよ
  クロード。
  君が言う『証拠』とやらは
  どれも正当性がないと
  判断された。
  事実無根のガセネタだとね」

クロード
「『名無し』と奴らの
  繋がりは明白だ。
  ……自分が
  何を言っているのか
  理解しているのか?」

警察長官
「勿論だとも。
  無実の企業を
  告発しようとしている
  愚かな部下に、道理を
  説いているんじゃないか」

クロード
「愚かなのはどちらだ……
  警察が奴らにおもねる事で
  どれほどの悪が
  はびこる結果になるのか
  わからないはずが
  ないだろう?」

警察長官
「何を言う。
  彼らは世界に平和と安全を
  もたらす、素晴らしい
  企業だ。
  言いがかりはやめるんだな」

警察長官
「……とにかく
  これ以上の議論は無用だ」

警察長官
「『警察が
  ビホルダーグループを
  摘発する事など
  絶対にない』
  肝に銘じておけ」

  警察としての立場など
  忘れ去った言葉を放つ長官。
  それを受けたクロードは、
  静かに、だが力強く
  長官と、その後ろに控える
  ビホルダーへ
  宣言する。

クロード
「……いいだろう。
  だが、お前も……
  お前達もよく
  覚えておけ」

クロード
「俺は悪を許さない。
  例え悪がどれほどの力を
  蓄えようとも、
  俺は『正しい方法』で
  悪を打ち倒して見せる」

クロード
「……覚悟しておくことだな」

警察長官
「………………!」

  クロードの気迫に
  息をのむ長官。

クロード
「失礼する」

  クロードは
  振り向くことなく
  執務室を後にする。

警察署前

  警察署からクロードが
  出てくる。
  それを出迎える
  【プレイヤー】と
  シャーロット。

【プレイヤー】
「お疲れ様、クロード」


「大手柄だね、クロード君。
  これは表彰モノかな?」

クロード
「【プレイヤー】……
  シャーロットも……」

シャーロット
「ビホルダーにも
  一発かましてやったぜ!
  ……って感じ?」

  シュッシュ、と
  拳を突き出す
  シャーロット。

クロード
「いや、
  結局、この一連の事件は
  『名無し』の単独犯として
  処理される事になった」

クロード
「『名無し』はビホルダーの
  命令で動く殺し屋
  などではなく……
  『自分で自分を改造し、
  その性能を試すべく
  連続殺人に及んだ
  異常な犯罪者』として
  逮捕されるようだ」

シャーロット
「そっか……
  あれだけ確たる
  証拠があっても
  ビホルダーとの繋がりは
  立件できない、いや
  させてもらえない、と……」

  ふむふむ、と興味深げに
  頷くシャーロット。

クロード
「予想はついていた。
  ……だが、今回の事が
  無駄だったわけでは
  決してない」

クロード
「ブラッドを捕らえる寸前まで
  奴らを追いつめたからこそ、
  『名無し』を
  差し出させる事が
  できたとも言えるからな」

クロード
「『名無し』という凶器に
  人々が害される事がなくなった
  というだけでも、
  今は良しとしよう」

【プレイヤー】
「戦いは
  始まったばかり、だね」

クロード
「ああ、その通りだな……」

  と、クロードは
  【プレイヤー】に
  向き合って、

クロード
「なあ、【プレイヤー】
  少し、聞いてくれるか?」

クロード
「……まずは、謝罪したい。
  『名無し』を捕らえるため
  とはいえ、お前を突き放し
  嘘をつくようなマネを
  してしまった。
  ……許してほしい」

  頭を下げるクロード。
  【プレイヤー】は
  悪戯っぽい笑みを
  浮かべると、

【プレイヤー】
「嘘つきは泥棒の始まり」

  【プレイヤー】の発言に
  激しい衝撃を受ける
  クロード。

クロード
「なん、だと……!」

クロード
「このまま行くと
  ランバーンのような
  嘘つきの盗人にまで
  堕ちてしまうのか……!?」

  俯き、考え始めてしまう。

シャーロット
「冗談だと思うよ、
  クロード君……」

  呆れつつ、助け舟を出す
  シャーロット。

クロード
「むっ、そうなのか……
  如何に感情が
  発達したとはいえ
  まだまだこういった事には
  疎いな……」

  クロード、
  すっと姿勢を正すと、
  大真面目な顔で、

クロード
「すまない【プレイヤー】
  今後は冗談の勉強も
  怠らないようにする」

  顔を見合わせ笑う
  【プレイヤー】と
  シャーロット。

**************

  ややあって、
  クロードはとつとつと
  話し始める。

クロード
「……正直な事を言うとな
  俺は、怖かったんだ」

クロード
「自分の中に芽生えた
  激しい怒り、憎悪
  そして殺意……
  抑えることが
  できなかった」

クロード
「あのまま『名無し』と
  まみえていれば、
  その時、俺は……!」

  拳を握り締めるクロード。
  が、すぐに力を緩めて

クロード
「だが、そうはならなかった
  かつてのレイヴさんの
  教えが……」

クロード
「そして、お前が俺に
  かけてくれた言葉が
  俺に踏みとどまる勇気を
  くれたんだ」

クロード
「……礼を言う」

  再び頭を下げるクロード。

【プレイヤー】
「水臭いよ、クロード」

クロード
「そうか?
  だが、お前には本当に
  感謝してもしきれないんだ」

クロード
「お前がいたから、
  俺は自分が何者なのか
  見失うことなく
  『名無し』に
  挑む事が出来たんだ」

クロード
「……シャーロットも、
  助かった。
  今回の結果は
  お前の尽力があってこそだ」

シャーロット
「フフッ
  感謝してくれたまえよ。
  クロード君~」

クロード
「ああ、ふたりとも
  本当に、ありがとう……」

【プレイヤー】
「これくらい当然だよ、
  相棒なんだから」

クロード
「フッ、そうだな……
  これからもよろしく頼む」

クロード
「相棒……!」

  【プレイヤー】に
  信頼の笑みを向ける
  クロード。
  その笑顔は、
  これまでよりも
  どこか柔らかく、
  頼もしそうで――

//END

 

第4章 正義-バレット-第5.5話

医療刑務所・独房

  厚いアクリルガラスで
  廊下から仕切られた独房。
  白く無機質な明かりが
  煌々と房内を照らしている。
  房の中央にはベッドが
  置かれ、その周囲を様々な
  機器が取り囲んでいる。
  機器から延びる無数の管が
  ベッドの上に置かれた、
  一抱えほどの大きさの
  包帯の塊のような何かに
  接続されている。

  その独房の前に、
  クロードがやってくる。
  クロードが、独房の中に
  向かって声をかける。


「『名無し』……」

  包帯の塊がもぞりと動き、
  返事を発する。

『名無し』
「この声は……
  クロードかな?」

『名無し』
「なんだよ……
  お前の方から
  殺されに来たのか?」

  包帯の塊が嘲笑う。
  クロードは取り合わず、
  用件を伝える。

クロード
「……ビホルダーとの
  関係を証言する気には
  なったか?」

『名無し』
「ヒャハハハハハァ……
  面白い事言うねえ
  クロードちゃん……
  オレがお前に
  教えるわけねえじゃん」

  と、真剣に相談するような
  声色に変わって、

『名無し』
「なあ、それより聞いてくれよ。
  嫌がらせなのか知らねえが
  この独房、真っ暗なんだ。
  何も見えやしねえ」
  
  目を細めるクロード。
  房内は、白色灯が落とす
  眩いばかりの光で
  満たされている。

『名無し』
「正義のおまわりさん
  なんだろ?
  看守共に照明を入れるよう
  言ってやってくれよ~
  『囚人にも人権がある!』
  とかいってさ~」

クロード
「……………………」

  黙り込むクロード。
  包帯の塊はフンと
  息を漏らすと、
  不遜に言い放つ。

『名無し』
「なんだよ、黙っちゃって。
  ……まあ、いいさ
  言っている間に俺は
  釈放されるはずだ。
  ビホルダーの根回しでな」

『名無し』
「ああ、楽しみだねえ
  クロード……。
  外に出られたら
  真っ先にお前に
  会いに行ってやるぜ……」

『名無し』
「【プレイヤー】って
  いったか?
  お前のパートナーも
  どうやって
  殺してやろうかなあ」

『名無し』
「ああ……
  後悔と憎しみに歪む
  お前の顔が
  目に浮かぶようだよ……!
  ヒャハハハハハハハァ……」

  『名無し』だったものが、
  嗜虐的な想像に
  愉悦の声を漏らす。
  クロードの顔に、
  憐憫の情が僅かに浮かぶ。

クロード
「『名無し』……
  お前にはもう、
  何もできまい……」

  クロード、独房の前を去る。
  去り行くクロードを最後まで
  嘲ろうと、『名無し』は
  しゃべり続ける。

『名無し』
「おおい、もう行っちまうのか
  クロードよぉぉぉ~
  待てよ、もっとおしゃべり
  しようぜぇ!」

『名無し』
「ここから出たら
  すぐに殺しに行くからな
  震えて待ってろよ
  機械野郎が!
  ヒャハハハハハハハハ!」

  無機質な刑務所の廊下に
  『名無し』の狂笑だけが
  虚しく響き渡っていて。

  クロードとランバーンが
  街並みを見下ろしながら
  話している。


「そうか……
  『名無し』は……」

クロード
「……収監前に
  警察医の手によって
  義肢やインプラントは
  全て除去されていた」

クロード
「逃亡を阻止する為
  という名目だが……
  間違いなく
  ビホルダーの指示だ」

クロード
「除去後の義肢などについては
  ろくに検分もされず
  『廃棄』されて
  しまったようだ」

ランバーン
「奴らが
  回収したって事か……」

クロード
「なんにせよ『名無し』は
  生命維持装置なしには
  もう生きられない。
  奴が牢から出てくることは
  二度とないだろう」

ランバーン
「俺もスラムを当たってみたが
  『名無し』の出自は
  掴めなかった」

ランバーン
「なんてことはねえ。
  身体を弄られた
  スラムの奴らのうち
  偶然上手くいった
  実験体ってだけだ。
  結局アイツは何者でもねえ。
  単なる『名無し』に
  過ぎなかったわけだ……」

クロード
「実験の被害者から
  ビホルダーの中核まで
  辿るのは
  難しいだろうな……」

ランバーン
「……とにかくこれで、
  レイヴの弔いは
  できたってわけだ」

クロード
「……いいや、まだだ」

  発言の意図が読めず、
  クロードの方を向く
  ランバーン。

ランバーン
「………………?」

クロード
「『名無し』は
  単なる実行犯に過ぎない」

ランバーン
「そりゃあそうだが……」

クロード
「レイヴさんを殺したのは
  正義を妨げ
  自分達の欲望だけを
  貪欲に追求しようとする
  『悪の意思』だ」

クロード
「レイヴさんは
  ビホルダーグループが
  振りかざす『悪の意思』に
  殺されたんだ」

  空を睨むクロード。

クロード
「ビホルダーの悪事を
  白日の下に晒すまでは
  レイヴさんも
  浮かばれないさ」

ランバーン
「……そうだな、その通りだ」

  ランバーンは少しだけ笑みを
  見せると、再びクロードから
  視線を外す。

ランバーン
「……それにしてもお前、
  流石に痛感しただろ?
  警察がクソ組織だって
  事を……」

クロード
「……ああ、
  認めざるを得ないな」

ランバーン
「なあ
  提案なんだけどよ……」

  躊躇うように
  口を閉じるランバーン。
  少しの間を取ってから、
  軽い調子で言葉を投げる。

ランバーン
「……辞めちまえよ、警察」

クロード
「……なんだと」

  クロード、
  ランバーンに顔を向ける。

ランバーン
「身軽になった方が
  奴らとは戦いやすいぜ。
  組織にいたって
  足引っ張られるだけだ」

クロード
「辞めてどうする」

  ランバーン、
  意地悪に笑って、

ランバーン
「ま、仕事のひとつふたつ、
  紹介してやってもいい」

クロード
「フン……
  お断りだな」

  そう言うと、眼下の街に
  視線を戻すクロード。
  ランバーンはクロードの
  横顔に目をやる。

ランバーン
「……だよな」

クロード
「俺はあくまで警察官だ。
  人々の助けとなり、
  悪を取り締まるのが
  俺の務めだ」

クロード
「警察という組織の腐敗も
  きっと正してみせる。
  あんな組織でも、
  必要としてくれている
  善良な市民はいるからな」

ランバーン
「ま、やってみろよ。
  期待しねえで
  待ってるからよ……」

ランバーン
「じゃ、俺は帰るぜ。
  お前の相棒にも
  よろしく言っといてくれ」

  ランバーンは
  階段室へ向かう。

クロード
「待て、ランバーン」

  呼び止めるクロード。
  ランバーンは
  振り向かず、足を止める。

クロード
「今回はやむなく
  協力を仰いだが……
  お前が警察を裏切り
  悪事を働いている事を
  許したわけじゃない」

クロード
「いつか証拠を挙げて
  捕まえてやる。
  覚悟しておけ」

ランバーン
「ハッ、抜かせ。
  誰がお前みたいな
  ウスノロに捕まるかよ」

ランバーン
「俺が捕まるとしたら
  それは……」

クロード
「……俺もお前も、
  世の中に
  必要なくなった時、か?」

  ランバーン、肩をすくめて

ランバーン
「……さて、どうだかな」

ランバーン
「じゃあな、クロード。
  ……悪くなかったぜ
  久々にお前と
  組めたのは……」

クロード
「……ああ、またな
  ランバーン」

  去り行くランバーン。
  クロードもまた背を
  向けたまま、言葉だけで
  別れを交わす。

ザ・ゼノン バトル会場 エントランス

  バトルの前、
  クロードと
  【プレイヤー】が
  話している。

クロード
「『名無し』の件は
  一段落ついたが……」

クロード
「俺達のやることは
  変わらない。
  ザ・ゼノンで
  勝ち上がっていくだけだ」

クロード
「ビホルダーに
  切り込む手段として
  ザ・ゼノン以上のものは
  ないからな」

クロード
「それに、エレメントの事、
  奴らがこの大会を通して
  企んでいる事……
  ザ・ゼノン自体にも
  突き止めるべき事は多い」

クロード
「……だから、これからも
  俺と一緒に
  戦ってほしい」

【プレイヤー】
「もちろん!」

クロード
「頼もしいな……」

クロード
「さあ、行こうか
  【プレイヤー】……!
  次のバトルへ……!」

  次のバトル、次の目的へ
  確かな足取りで歩みだす
  クロードと
  【プレイヤー】で――

  ――その最上階。
  椅子に身を預け、
  宙に浮かぶ映像を
  眺めていた様子の
  男が一人呟く。


「そうか、コードマン達は……
  一つの例外なく、
  向かおうというのか。
  彼女の手の指し示す
  先へと…………」

  タクトを振るうように
  軽やかに手を翻す男。
  主の動きに合わせて
  宙に浮かぶ映像が
  100以上に展開される。
  ひとつひとつの映像に
  映し出されるのは、
  今、この瞬間を
  戦い抜いている
  全てのコンコードと
  コードマン達。

サムラ
「それこそが我らの
  求めるもの、
  そして同時に何よりも
  忌むべきもの」

  空中モニターが放つ
  光は、ただただ闇の
  中の男を照らし続ける。

サムラ
「ゼートレートは
  柩に手をかけた。
  あとは開け放つだけ……」

サムラ
「どうやらお前に
  動いてもらわねば
  ならなくなったようだ――」

  男の声は、そのモニター
  の光も届かぬ
  部屋の奥に投げられる。

サムラ
「――ザナクロン」


「…………………………」

  絶対王者は
  静かな瞳で、
  モニターに映る
  クロードを
  見据えていた。

//END

 

解説/5章以降の展開

◇クロードの性格について

アッシュ・クロードはとても「単純」なコードマンだ。
警備プログラムの機能は、つまるところ「対象を守る」というただ一点のみに集約する。そのシンプルさの影響か、クロードがコードマンに進化して獲得したのは、非常に明瞭で素直な人格だった。
彼は目の前の事物を、常にありのままに捉えている。正義に反する行いには怒り、人の死には悲しみ、自身や仲間の成功には喜びを覚える。
曇りない感受性で、全てのことを真面目に受け止めるクロードは、ともすれば些細な事で狼狽え、傷付くように見えるかもしれない。
しかし彼は、その時目の前にあることをひとつずつ真摯に受け止め、自身の中で丁寧に消化しているだけなのだ。
絶望や辛苦で躓いても、自分の心の中で確かに折り合いをつけて立ち上がり、再び歩き出す。
「単純」であることは、そのまま「強さ」でもあるのだ。

◇レイヴ・ゲッコーという男

レイヴは、温厚篤実で優しい警察官だった。
配属当初、クロードはレイヴを「いい加減で信用ならない」と捉えていた。だが仕事仲間を「家族」と称するレイヴに、杓子定規で機械的だったクロードの態度も軟化していき、やがて全幅の信頼を寄せるようになったのだった。

真面目故によく思い悩むクロードに対して、レイヴは「お前なら世界一カッコイイおまわりさんになれる」と言って鼓舞した。
実際にレイヴは、真面目で一本気な正義感の持ち主であるクロードに、警官としての理想を見ていたのだった。
自分を家族と言ってくれたレイヴから向けられる期待。クロードはそれに応え、名実ともに「世界一カッコイイおまわりさん」となるべく邁進し続けることを誓うのだった。

世間的には人情派で通っていたレイヴだが、その裏ではかなり違法性の高い捜査に手を染めていたということに、クロードは実は勘付いていた。
警察組織では汚職が横行しており、いかなる凶悪犯罪でも、圧力によって捜査が中止されることが頻発していた。
そうした事件が発生すると、レイヴはクロードに待機を命じて、ランバーンとふたりで何処へとも知れず消えていく。そして翌日には、抜き差しならない証拠を携えて、真犯人を検挙するのである。

科学の躍進と権力構造の固着を経て、犯罪は果て無く複雑化・凶悪化を続けていた。そうした事件に対して、人間の捜査官が立ち向かうためには手段を選べないのかもしれない。クロードはそう考え、レイヴの捜査法について追求することを、いつしかやめてしまった。そもそも、ランバーンの尽力によるものか、レイヴの違法捜査の証拠は完全に消し去られていた為、「勘」の域を出るものでもなかったのだ。
クロードにしてみれば、初めてできた「家族」との関係性が壊れてしまうかもしれない、という恐怖があったのかもしれない。
いずれにしろ、クロードはレイヴの胸の内に正義の信念が確固としてあることを知っていたし、彼がどんな手段をとっていようとも、尊敬の思いが変わることはなかったのだった。

ちなみにレイヴはバツイチである。前妻との間に一人娘がいる。レイヴがクロードに語った「世界一カッコイイおまわりさん」という微笑ましい表現は、娘の前でいい格好をしたい彼の、一種の強がりから生まれた言葉だった。

◇レイヴの死とランバーンとの袂別

クロードが捕らえたある政治犯が、裁判所への移送中に死亡する事故が発生した。違和感を覚えたレイヴ達3人は捜査の末、これがビホルダー子飼いの殺し屋『名無し』による殺害事件であると突き止める。
だが、ビホルダーの影響下にあった警察上層部はあくまで事故として処理。レイヴ達には捜査の中止を命じる。
レイヴは例によってクロードだけをチームから除外し捜査を続行。だがクロードは、事件の危険性から今回ばかりは看過できないと、独自に捜査を開始する。

警察内部に巣食う汚職警官やビホルダーの妨害をはねのけ、レイヴの捜査にひとりで追いついたクロードが目にしたのは、『名無し』に殺害されるレイヴの姿だった。
クロードがレイヴを抱き留めると、レイヴと一緒に捜査していたはずのランバーンが遅れてやって来る。疑問に感じたクロードがランバーンを追求しようとするが、その間もなく、やってきた警察達にクロードとランバーンは取り押さえられてしまう。

クロードは独断専行をとがめられただけで、すぐさま解放された。だが、ランバーンは――
レイヴ殺害の手引きをしたと判断され、免職が決まったのだった。
何かの間違いだと上層部に抗議するクロードだが、彼の庇い立てを裏切るかのように、ランバーン逃亡の報がもたらされる。
ランバーンの逃亡先を突き止め、追いつくクロード。レイヴの死に加担した嫌疑についてランバーンに問いただすも、彼は何も語ることなく逃げ去ってしまう。
「警察上層部に、ビホルダーにハメられた」――きっとそのような言葉が返ってくるはずだと信じていたクロード。ところがランバーンは何ひとつ釈明することなく、クロードの前を去った。
少しして、ランバーンが盗賊紛いの悪事を重ねているという噂を耳にしたクロード。盗難被害に遭った家宅には何の証拠も残されていなかったが、それこそがまさにランバーンの仕業であると雄弁に物語っていた。
レイヴの死に関して何も語らなかった上、悪事に手を染めたランバーン。そんな彼に対してクロードが覚えたのは、激しい怒りだった。ランバーンにいかなる理由があろうと、レイヴの死を招いた一端がランバーンにあるのは確定的であり、そして彼はそのことについてクロードに何の説明もしなかったからだ。

こうしてクロードは、ランバーンの真意を確かめる為、そしてレイヴの遺志を継ぐ為に、ひとり警察組織に残り真実を追い求め続けることを選んだのだった。

◇ランバーンに対して

警官コードマンの先輩であるランバーンとは、おおむね良好な関係を構築できていた。
シニカルで斜に構えた態度をとるランバーンとは、レイヴ同様に出会った当初はそりが合わなかった。だが、ランバーンの視野の広さや配慮の細やかさ、そして自分とは異なるアプローチによる優秀な捜査手腕を知るにつれ、クロードは素直に尊敬の念を覚えるようになっていったのだ。

基本的には、皮肉屋だが面倒見のいい先輩と、真面目で愚直な後輩という関係性だったが、レイヴがランバーンだけに特殊な捜査法を教えているらしいことについては、非常に不満を感じていた。クロードがその件に関してレイヴに抗議しても流されるばかりであり、ランバーンに情報の共有を求めても、一切開示してもらえなかったのだ。
年長の兄だけが父親に危険な狩りへの動向を許されているような状況が、クロードは気に入らなかったようである。

レイヴの死亡後、盗賊に転じたランバーンに対しては、最初のうちは怒りや失望を強く感じていた。しかしそこから時を経て、ある程度の冷静さを取り戻した段階で、クロードは自身がランバーンに求めるものが「レイヴの死に関する説明」だけであるということに気付く。
ランバーンの行動がレイヴの指示の元だったということも、その心中には変わらず正義の念があることも今ではわかってはいる。だが、とにかくランバーン自身の口から直接、事の顛末を聞きたい。それまでは何があっても納得がいかない。
クロードは、ランバーンとの関係性において、彼自身の正義感と公平性にやや囚われているきらいがある。ランバーンに対しても、自分と同じように、正しさと公正さに従った振舞いをしてほしいと、拘ってしまっているのだ。
ストーリー4章を迎えた頃のクロードの心情は「そっちが謝るまで謝らない」と、意地を張っているような状態なのである。

◇5章以降の展開について

4章の出来事を経て世界が白と黒では割り切れないことを知ったクロードは、これまでの真面目さや正しさはそのままに、強かさや柔軟さを手に入れる。
ビホルダーという模糊とした巨悪と渡り合うために、クロードは既成概念に縛られない、なかなかに突飛なやり方をとるようになっていく。それは奇しくも、レイヴがクロードにひた隠しにしていた一面に近づいていくようであった。

◇物語の結末

ビホルダーの悪事の数々が、ゼートレートという人類への復讐を目論む超常的な存在と戦うためのものだった、ということを突き止めたクロード。
ゼートレートがエレメントを通してコードマンに干渉し、ザ・ゼノンを利用して復活を目論んでいるということも判明する。
そして、ビホルダーを検挙しその悪事を公のものとするには、まずはゼートレートを捕らえるほかない、という結論を導き出す。
ザ・ゼノンで優勝しアクロコードを手にすれば、ゼートレートは現世に顕現する。ならばと、クロードはゼートレートを焙り出すべく、ザ・ゼノンを戦い続けるが……それこそが、蒼白の魔女の狙いだった。
ゼートレートは、エレメントを最高潮まで高めたコードマンの内側から蘇り、その素体と人格を乗っ取って復活する。ザ・ゼノンで優勝したコードマンという「最高の頭脳と身体」を手に入れて、人類を凌駕する存在として再臨することこそがゼートレートの目的だったのだ。
ザナクロンを打倒したクロードを媒介にして、ゼートレートは復活を果たしてしまう。

コンコードがクロードを取り戻そうとゼートレートにバトルを挑む。一方、クロードの素体の内では、ゼートレートとクロードが言葉を交わしていた。
ゼートレートは人類の過ちや愚かしさを説くが、クロードは一切動じることなく反論する。
人は間違いを犯すもの。だからこそ法や規範があり、それを取り締まる警察という組織がある。
ゼートレートの心情も、レイヴを失った自分なら理解できる。だからこそ復讐という手段に訴えず、人類の行く末を見張っていてほしい、とゼートレートに切り返すクロード。
過去の清算やコンコードとの絆を通じて、クロードは法の番人として、多面的に成長を遂げていたのだ。
四百年続く復讐の念に囚われているゼートレートが、一見きれいごとに見えるクロードの説得に耳を貸すわけもなく、結局最後までふたりの話が交わることはなかった。
そして、コンコードがゼートレートに勝利してエレメントの繋がりを断ち切ったことにより、ゼートレートはクロードの素体から追い出され、消えてしまう。

クロード達の活躍により魔女の脅威は去った。また、ビホルダーは魔女に由来するAI製造の優位性を失ったため、その権力を失墜させることとなり、これまでの悪事は全て白日の元に晒されることとなった。
目的を果たしたクロードだったが、その顔は浮かないものだった。
ゼートレートという「犯罪者」を捕らえ、その道を正してやることが出来なかった、それが心残りだと言うのだ。
とは言え、最前は尽くした。悔いたところで仕方がないと、クロードは今日も警察の職務に向かう。
数々の出会いを経て成長したクロードは、正義を貫き、悪から人々を守るという変わらぬ誓いを胸に、これからも戦い続ける。

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